3・アヤカシの血
「お別れなんだ」
ある日お見舞いに行った時、珠世が言った。
「バイクに轢かれたわたしを助けてくれてありがとう。
都会へ出て、空気の悪さから具合が悪くなって
ふらふらしていたら轢かれてしまった。
珠世が引っ越すとき、荷物に紛れて一緒に地方へ行って、
やっと調子が良くなったと思ったら
今度は珠世が事故にあって死んでしまった」
「は?一体何の話を?」混乱する橘だが、珠世はかまわず話し続ける。
「沙織の悲しむ顔が想像できた。だから、珠世に入って生き返らせて
一緒に成長した。
もう少しあなたが大人になるまで、一緒にいたかったから」
珠世の部屋で座り込んで、意味が分からないというふうに
首を振る沙織に珠世はさらに続けた。
「わたしはアヤカシ・猫又。何百年か生きているがもう寿命だ。
この子はとっくに亡くなっていたのに無理をさせてしまった」
猫又は珠世の両肩を抱きしめた。
「さよなら。 穂積美和さんに話を聞いて。
あなたもアヤカシの血を引いているかもしれないから」
「え?」
「覚えてない?バイクから助けてくれた時、タイヤの下にはさまった
尾を取るのに、沙織はバイクを持ち上げた。
あの力は人間のものじゃない」
そう言われて記憶が蘇った。
夢中でバイクを持ち上げた…誰かがやってくれたと思っていたけれど
自分だった。
そう…だった? 小さな頃からわたしは他の人と違ってた?
*
小さかった頃。意地悪な子がいた。
ブランコの順番を譲ってくれなくてみんなが困っていたら、
鎖が切れてその子が落ちた。
…わたしが千切った。
小学校1年生の時、お母さんと買い物に行って、
詰まれたジュースの箱が重くて動かせなかったのを
持ち上げてカートに入れた。
思い出すとそんな事が何度もあった。
人と違う。だから穂積さんが気になってた?
それからすぐに珠世だった猫又は亡くなった。
学校への連絡はしたけれど、珠世の、猫又の遺言で橘だけ葬儀に出て
ひっそりと全てが終わった。
*
「ごめんなさい。本当に。バカな事を言って、していたと思う」
橘の謝罪に
「まあ…うん」と返事をした。
「…力なら、鬼の系列?」
「その辺はよく知らない。だから穂積さんに聞いてって言ったんだと思う」
「あとはお願い」
黒部珠世だったモノがそう言って消えた。
「黒部さん、消えた。あとはお願いって言われた。
たいてい満足したり、納得するといなくなるの。成仏したのかも」
「そっか…つまんないな。珠ちゃんは人間でも猫又でも、大事な友達だった」と
橘はうなだれた。
「そうだね。ちょっと寂しいね」
大切な友人がいなくなった寂しさは、とてもよくわかる。
「うん。そんなわけで、よろしく。美和!」顔を上げてにっこり笑う橘は
切り替えが早い。
「ちょ…。そんないきなり呼び捨てっ」
「わたしの事は沙織って呼んで。ねっ。さ・お・りだよ」
「えええ。…『ぬりかべ』の責任は取ってくれるの?」
「うん、わかってる。美和はわたしが守る!」
「いや、そこまでしなくても…」
元気になった橘は嬉しそうに
一緒に帰ると言って途中まで付いてきた。
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