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アヤカシの末裔3~人喰い羅刹~  作者: 遠野まみみ


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2/8

2・珠世

翌朝、教室で黒部珠世が珍しく一人でいた。

「おはよう」と美和に声をかけてくる。

「おはよう…」と、とりあえず返事はした。


「あのね、穂積さんにお願いがあるの。沙織と話してほしいの。

わたしはもう、ダメだから」

そう言い残して教室を出て行ったきり、黒部は欠席になった。

「何?一体何だったんだろう?」

ぽかんとする美和だった。


その日は放課後になっても、橘は絡んでこなかった。

親友の黒部珠世がいないと、とても大人しいみたいだ。


『沙織と話して。わたしはもう、ダメだから』という黒部の言葉が気になって

思い切って話しかけてみた。

「あの、黒部さんはどうしたの?今朝、ちょっと変だったよ?」


ビクッ。

美和が声をかけると橘の身体が飛び跳ねたように動いた。


ゆら…り…。


橘の向こうに、黒部珠世が現れた。

教室に入って来たのではなく、何もない空間から現れたのだ。

彼女はこの世の人ではないと、すぐにわかった。


「黒部さん…、亡くなったの?」

「わかるの?」

「変だと思われているついでだから言うけど、そこにいる」

橘の後ろを指さすが、橘には視えない。


「本当は視えるスイッチと切り替えるんだけど、しなくても視えるってことは

それだけ相手の想いが強いってこと」

と、珠世から二股に分かれた尻尾が生えているのが美和には視えた。

「猫又?」 つい言葉に出てしまった。


「なんでわかるの?本当に視えているの?死者と話せるの?」

「うん」と、この際だからはっきりと答えた。

「珠世が言ってた。穂積さんの話をちゃんと聞いて、

わからないことは穂積さんに聞きなさいって。

…珠ちゃんは珠ちゃんじゃなくて、もうずっと前に亡くなってたの」


ぽつりぽつりと橘が話し始めた。


               *

               *

               *


キキキキーッ    ウニャアア…。


「珠ちゃん大変、猫さんがはねられた」

小学校3年生。学校の帰りにバイクのタイヤに猫が挟まれて

苦しそうにしているを見つけた。

「助けよう」


白い猫は血まみれで、橘は母親に頼んで病院へ連れていき、

そのまま飼い猫にした。


「沙織ちゃん、猫さん見に行っていい?」

「いいよー。来て、来て。 名前はシロにしたんだよ。すごくかわいくて

とっても頭がいいの」

「あのね、沙織ちゃん。実はうち引っ越すんだって。

富山県っている遠い所へ行くんだって。お手紙書くね」

「珠ちゃんがいなくなるの、つまんないな。たくさんお手紙書くね」

そんな会話をシロはじっと聞いていて、悲しむ橘にすり寄って慰めた。


               *


珠世が引っ越した時から、シロの姿が見えなくなった。

どこを探しても見つからない。

珠世への手紙にも書いたが、珠世からの返事はなかなか来なかった。


「珠ちゃんもどうしたんだろう…」 寂しくて、悲しくて

楽しくない日が続いたある日、やっと珠世から返事がきた。


『ごめんね。ちょっと怪我をして入院していたの。でももう大丈夫。

元気になったよ。シロは残念だね。でもきっと誰かに可愛がられているよ。

だってとってもいい子だもの』とあった。


珠ちゃんが元気でよかった。

けれど寂しさは消えなくて、毎日珠世とシロに会いたいと思っていた。

クラスでは友達ができなくて、大人しくて目立たない子になっていた。


               *

               *

               *


「4年生になった時からの話しは穂積さんも知っての通り。

みんなに囲まれて話しがウケて、嬉しくてエスカレートしてしまった。

…ごめんなさい」


まさか謝罪があると思わなかったので、美和はまじまじと橘を見つめた。


「穂積さんはいつも一人で平気でいて、本を読んだり、外をぼんやり見たり。

一人なのに寂しそうな感じがしなくて、とても不思議だった。

不思議で、穂積さんに興味があって、でも見ていると何かイライラして

自分が分からなくなった」


「6年の終わり頃に珠ちゃんが帰ってきて、また仲良くなって

穂積さんとも高校で再会して同じクラスになって、現在に至ってる」


珠世はうんうんと、頷いている。


「いつだったか、珠ちゃんと寄り道した時に言われた事がある」


               *


「沙織はさ、穂積さんと友達になりたいんじゃない?」

クレープを食べに行った時、珠世は橘にそう言った。

「え…。まさか、違うよ」

「でもね、もし機会があるなら、穂積さんと話をしたらいいよ。

多分、沙織のためになる」

「え?そうなの?なんで?」


「彼女は死者と話せる比十ひとというアヤカシの血を引いている」

「は?何それ?珠ちゃんヘンだよ?」

「わたしからのお願い。」 珠世は寂しそうに笑った。


それから珠世は学校を休みがちになった。

お見舞いに家へ行ってもとても具合が悪そうで、一気に年をとったように

怠そうにしていた。


読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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