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アヤカシの末裔3~人喰い羅刹~  作者: 遠野まみみ


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1/8

1・橘沙織

ザアアアアアア…。  

大雨の降る山道を一台の車が走って行く。


キイイイイイ… ガッシャ―ン。


両親と幼い息子が乗っていた車が雨でスリップして崖下に落ちた。

「うああああん…」子供の泣き声があたりに響く。

「あ…う…」即死だと思われた両親のうちの母親が目を開けて

息子を見ると「ママぁ…」と子供が手を伸ばしてきた。

母親はその小さな手を取った。


               *

               *

               *


洋風の屋敷の奥深く、暗闇で声がする。


「人間を…」 暗闇で声がする。 

「人間を連れてくるの。わたしに合う人間を。見ればわかるから早く。

命を懸けてもやり抜くの」

「はい。母さま。」

一人の若者が屋敷の座敷から立ち去って行った。


               *


「穂積美和さーん。ねえねえ、バイト代入った?ちょっと来て」

バイトの帰りに声をかけてきたのは同級生の嵯峨野あゆみと

その友人2人だった。


3人に手を取られて公園に連れていかれた。

「何?」

嵯峨野は美和のリュックに手を入れて、バイト代を取り出した。

「ちょ…やめてよ、返して」

「お小遣いゲットー。妖怪・ぬりかべにお金はいらないから

貰ってあげるねー」

「返してっ」 取り返そうとした美和は「ウザいよ」と蹴られてしまった。


もちろん鍛えている美和は蹴られたくらいではビクともしないが

「ごめんなさい」と嵯峨野の後ろにいた老人が

土下座して謝るのを視たら何も言えなくなってしまった。


美和はアヤカシ・比十ひと族の末裔。

比十は死者が視え、死者と話し、時には傷を癒すアヤカシ。

今でいう霊能者の祖にあたる。


他にも鬼、烏天狗、狐、狸、河童など、末裔の自覚はないが

スポーツや技術や芸術や頭脳で秀でた才能を発揮している者たちがいる。

同時に末裔ではないものの、影響を受けてそうなっている者もいる。


               *


「はあ…新しい登山靴を買いたかったのに。

あの老人は嵯峨野さんのおばあちゃんかな」

ため息をつく美和だが、去って行く嵯峨野の前に橘沙織が

両手を広げて立ちふさがるのが見えた。


「今盗ったのを穂積さんに返しなさいよ」

「はあ?何よあんた。あ、分けてほしいの?でも4人で分けるには少ないのよね」

「返せって言ってるの」

嵯峨野の手を握って、持っている封筒を取り上げた。

「いたたたたた…痛いぃぃぃ。わああああん」

「何なの?こいつ」と嵯峨野の友人が掴みかかってくるが、

橘は軽く投げ飛ばした。


「消えなよ」の橘の言葉に、嵯峨野たちは泣きながら帰って行く。


「はあ?」何がなにやら理解不能といった顔で橘を見ると、

「やられっぱなしとか、それでいいの?」と言われてしまった。


「なんでここに?橘さんが付けた『ぬりかべ』って

あだ名が原因でもあるんじゃないの?

すっかりバカにされてますけど。」

そう言われて、橘は恥ずかしそうに俯いてTシャツの裾を握った。

ふわふわのウェーブがかかった髪が揺れる。


「わたしも…バイトだったから。来たのは、たまたまだから…これ」

バイト代を取り返してくれた橘に「ありがとう。助かった」と

礼を言うと、橘は嬉しそうに笑った。


               *

               *


忘れもしない、小学校4年生の時だった。


「うあ、穂積さんってなんで壁に話してるの?」

橘の声が廊下に響く。


学校で、廊下の隅にいる霊に声をかけられて話していたのを

同級生の橘に見られてしまった。

「壁に話しかけていてキモい。穂積さんって変!」と

あっと言う間にクラスに広がった。


霊と話さないように気を付けていても、生者と死者の区別がつかなくて

壁に話している状態を数回見られて、さらに5年生の時の歴史の授業で

「日本の先住民族は縄文人とアヤカシです」と言って、

クラス中から笑われた。


中学で橘とは別の学校になってほっとしたものの、高校で再会してしまった。

おまけに2年生の今は同じクラスというダブルパンチをくらっている。

そして橘は少し前に、クラス中に『穂積さんのあだ名はぬりかべ』と広げた。


               *


「帰ろう」橘に言われたが「いや、一人で帰れます」と、先を行こうとしたら

「だって暗いじゃん」と言ってきた。

「?だから?」  「暗くて危ないから…」  「おかまいなく」

と、引きつった笑いを見せて逃げるように走って帰った。


どういう事?いきなり何だろう。危ないって?

送ってくれようとしたの?まさかね?


人が変わったような橘に、不気味さを感じてしまった。

でも橘に憑いているモノは視えなかった。

と、いう事は悪いコトは考えていないっていうこと?


あれ?いつも一緒にいた黒部さんは?さすがにバイトは一緒じゃないか。

そういえば、最近黒部さんは休みがちだなぁ。

…まあ、いいか。


読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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