26・告白
「さてと、御堂さん。羅刹がこちらの方向からきたのは偶然ですか?」
「多嘉良さん、あなたが羅刹と通じていたんでしょ?」
御堂の家で多嘉良が御堂を問い詰めるが、御堂は知らん顔で
逆に多嘉良を責めた。
「わたしが裏切ったと聞いて、疑われずに済むと思って安心しました?
不二はしたたかですよ。あのくらいの嘘は平気でつくし、娘のためなら
なんでもする。彼女が両手をひらひらさせたのは『あとで話しがある』という
合図です。だからわたしは先に帰った」
「俺、視たよ。藤子さんに頼まれて視てたんだ。
羅刹はこの家から出てきた。ここから美和ちゃんに向かっていった」
健太が双眼鏡を見せて証言する。
「覗きとか、いやらしい」
「俺、バードウォッチングが趣味だからいつも持ってるんだよ」
「ふうん。なんだよ。簡単にバレちまったか。そうだよ、あたしが羅刹と
約束したんだ」
「いったいどこで知り合ったんですか?」
「ここで。一人でたまにいろんな霊を呼び出して話しをしていたんだ。
村の連中はあたしのことなんて忘れたようにいつも無視してたからね。
そしたらある日、あいつが…羅刹がやってきて昔の話しをしてくれた。
楽しかったよ」と、御堂は多嘉良の問いに、あははと笑って答えた。
「無視なんてしてないですよ。だって御堂さんは挨拶しても知らん顔で
一人が好きなんだなって思ってました」
健太の言葉に、「え?」と、御堂は意外という顔をした。
「無視していないから、美和ちゃんは修学旅行のお土産を持って来たんです。
あの子は一軒ずつ回って人数分を配ってた。 俺も貰ったよ。
ティーパックひとつとマンゴーのクッキーをセットにしたやつ。
ほら、そこに落ちてる」
縁側の下にいつの間に落ちたのか、小さなラッピングビニールに入った
土産がそこにあった。
「お土産です。美和」とメモが貼ってあった。
「…し…知らなかった。こんなの、いつの間に…?」
「留守にしていたんじゃないですか?だから置いていったんです。
何かのきっかけで落ちたんでしょう。
無視なんてしていません。あなたが皆を拒否していたんです」
健太の言葉に御堂は動揺を隠せない。
「拒否なんて…」
「挨拶しても知らん顔されたら、付き合いたくないんだと
思われても仕方ないです」
御堂は声を掛けてくれているのに、顔を伏せて返事をしなかった事が
何度もあったのを思い出した。
*
住む山に人間が入り込み、勝手に道を作ってうるさくて住めなくなって
追われて20年近く前にこの村にたどり着いた。
知らない土地で知らない者たちと暮らすことが苦痛だった。
故郷の事ばかり考えていた。
だから、話しかけられてもどう返したらいいかわからなかった。
話しかけられた事さえ気が付かなかった。
村へ来て数年たった頃、ちいさな子供が訪ねて来た。
「おばあちゃんは、まちゅえい?それともアヤカシ?」
「あんたはどこの子?みかけない子だね」
「お母さんは穂積藤子で、お父さんは穂積貴志で
多嘉良のおじさんのところにいます。そうだ。はじめまちて。穂積美和です」
ペコリとお辞儀をするその子を、幸せそうでいいこと。と、思いながらも
いい子だとも思った。
「おばあちゃんはアヤカシで御堂っていうんだ。あっち行きな。帰りな」
そう言ってシッシと手を振ると、その子は再びペコリとやって帰っていった。
それから山で摘んだのか、たまに花が置かれていた。お菓子も。
*
「あの子が持ってきてくれてたのか?」
「あの頃、美和は村中を駆け回っていたからなぁ。
都会でしか買えないお菓子は藤子さんと美和ですよ」
懐かしそうに多嘉良が言う。
「うちにも何度か来てくれていましたよ。俺は鳥を見に出かけていて
いつも留守にしていましたけど」
「で、なぜ美和の事を羅刹に?」
「あたしが住んでいた場所を壊した人間を消してくれるって
羅刹が言ったからさ。
人間は滅ぼせなくても、数を減らして昔のようにアヤカシを敬って祀って、
そういう世界にしてくれるって言ったんだ。
霊峰の不二の話しをしたら興味を持った。娘がいると言ったら喜んでた。
利用できると思ったんだろ」
「故郷を壊されたお気持ちはお察しします」
いつの間に来たのか、戸隠がやってきていた。
「美和が羅刹を吸収しました。今、うちで休んでいます。
大和もボロボロですが無事で眠っています」
戸隠の報告にほっとする多嘉良と健太だが一瞬、御堂も同じように
反応したことに気が付いた。
「…お察ししてくれるって?村を作って皆に頭を下げられてるあんたがね?」
御堂は憎まれ口が止まらないらしい。
「わたしの故郷はここではありません。やはり住めなくなりました。
他の者も同じです。
人間が自然を保護するというアヤカシとの約束を破り、
これ以上の自然を壊すなら、わたしも人間の数を減らすお手伝をしますよ」と、
ニコリと笑った。
「あとは戸隠さんにお願いしてもいいですか?」
「はい。お任せください」
「それでは」と多嘉良と健太はその場を去っていった。
「戸隠さんは相変わらず、怖いっすね」
「『人間を減らす』は、聞かなかった事にしましょう。本当にやりかねない」
太陽が傾きかけた村のあぜ道を、戸隠の家に向かって歩いて行くのだった。
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