27・約束
日が落ちた頃、目が覚めた美和はここはどこだろうと周りを見渡して
戸隠の家の蔵にいたことから、彼の家だと理解した。
身体はどこも何ともないので、治してもらったのだとわかった。
汚れた巫女衣装の代わりに浴衣を着ていた。
「気が付いた?」
母の藤子が顔を覗き込む。
「お母さん、大和は?大和はどうしてる?」
「大丈夫。鼻の骨は折れていないからすぐ治ったし
噛み傷も簡単に治ったわ。もともと頑丈な子よね。
まだ寝ているけどそのうちお腹空かせて起きるでしょ」
ふと、左手が目に入った。火傷のような痕が消えていない。
「その痕ね、細胞は正常なの。でも元通りにならない。
原因がわからないのよ」
「羅刹がいた痕だよ。羅刹は消えたけど、消えていないのかな。
忘れてほしくないのかも。
うん、わたしはこれでもいいや。勝った印で勲章ってコトで」と
手を握って笑う美和に
「まったく、逞しくて嬉しいわ」と藤子が笑う。
「霊峰の子だもん」と、美和が答えた。
「着替え置いておいたから、起きれそうなら着替えて晩御飯」だよ
「うん」
*
普段着に着替えて部屋を出ると
愛鷹と戸隠に出会い頭にぶつかって転びそうになったのを
愛鷹が抱えるように支えた。
「おっと。立てるか?」 「あ…ありがと。大丈夫」
「起きれてよかった。何ともないかい?」
愛鷹も戸隠も安心したように、嬉しそうに顔をほころばせた。
「はい」
支えてくれた愛鷹の顔を見たら、改めて終わったのだと感じて
そのまま愛鷹の胸に頭を付けて
「わたし、負けなかった。愛鷹と戸隠さんを人殺しにしなくて良かった」
そう言ったら
「ああ。よく頑張った」と言って笑った。
「大和は向こうの部屋だよ。そろそろ起きるかな」
戸隠に教えられて
「様子を見てきます」
美和は大和の部屋へ向かった。
*
別室で「お…お腹空いた…」と目覚めた大和は傷が一切ないことに驚いた。
「比十の治療だ。凄いな」と感心した。
「起きてる?開けるよ?」と障子が開いて、「どう?」と美和が顔を覗かせた。
「うん。全然何ともない。美和は?どうよ?」
「わたしも何でもない。多嘉良さんがごはん作ってくれてるから
食べられそうなら着替えておいでって」
「食べる。腹ペコだ」
「その前にわたしはざっとでいいからお風呂入るー」
沙織を送って行った美佐と早池峰が戻り、キーを藤子に返すついでに
席について、愛鷹も「食べてけ」と多嘉良に言われて座り、
総勢15名ほどになった。
「どれだけ炊いたんだ?おかわりできるのか?」大江先生が心配したが
「問題ないですよ」と、料理好きの多嘉良が戸隠の家の働き手に
手伝ってもらって張り切っていた。
*
炊き込みご飯をどんぶり3杯と猪汁をお代わりして、
大和はやっと落ち着いた。
「お腹が膨れると眠くなるのは元気な証拠です…」と、自分で言って
大和は再びウトウトし始めた。
「大和たちは泊っていくといいですよ」
戸隠の好意に甘えさせてもらって、神社はそう遠くないけれど
泊めてもらうことにした。
大和は風呂も入らずに再び布団に入り、秒で夢の中へ。
美和は沙織に「やったよ。詳しくはまた」とメールした。
沙織は「やったね。クレープだね。疲れたでしょう?おやすみ」と、
返事をくれて
「うん。クレープ、絶対行こうね」と送って、スマホを持ったまま
美和も再び眠ってしまった。
*
「藤子さんと多嘉良さんはあちらで一献いかがですか?愛鷹も付き合え」と、
戸隠が巻き込んだ。
夕食の片付けが終わって解散になった後、
藤子、多嘉良、愛鷹、戸隠の4人で囲炉裏を囲む。
「御堂さんは村を出て行くそうです。こんな事をしてしまっては、いられないと。
なので、いつでも帰ってきてくださいと言っておきました。
…藤子さん、なぜ彼女が羅刹と繋がっていると思ったんです?」
「人付き合いがないのは特別おかしくはないけれど、彼女は無さすぎた。
なのに、あの時だけ自分から言葉を発した。
しかも永介が怪しいってわたしが言ったとき、彼女は嬉しそうに笑ったの。
さらに付き合いが全くない美佐さんに話しかけた。
普段の彼女からしたら、とても怪しい行動だわ。
疑われていないと安心して、自分は関係ないアピールをしたんだろうと
推測したの」
「故郷を壊された…か。わからなくもない」
愛鷹が遠くを見るように呟いた。
「生粋のアヤカシは滅びゆく運命よ。
でも黙ってそうなる事が納得できないなら、最後にやっちゃう?
現在の人間の武器には勝てないけれど、ビビらす事くらいはできる。
戸隠くん、一緒にどう?」
「また不二はそういう事を。若者を悪の道に誘わないっ」と、
多嘉良が止める。
「酔っ払いの戯言でーす」と、皆で大笑いした。
「それより愛鷹の祝言よ。鞍馬ちゃんのご両親に挨拶に行ったの?」
「いきなりその話題か?」
「どうなんだよ」と戸隠につつかれて「来週行ってくる」とぼそりと答えた。
「あの愛鷹坊やが結婚かぁ」嬉しそうな藤子に 「祭りだなっ」と、多嘉良。
「やめろっ」と戸惑う愛鷹に、「おめでとう。乾杯」と、戸隠。
*
満月が高く昇って村が眠りについた後
御堂は夜明け前にひっそりと村を出て行った。
*
「お世話になりました」 「ありがとうございました」
「美和ちん、またねー」 「冬休みなったらまたおいで」
美和たち3人が多嘉良たちに見送られて村を出た。
「結局、学校は今日1日休むだけですんだな」
「すっごく休んだような気がする」
「クレープ食べに行くんでしょ?」藤子に言われて、
よほど楽しみにしていたのか「行く!」と、二人同時に声が出た。
「…御堂のおばあちゃん、穏やかに暮らせるところが見つかるといいな」
そんな話しをしながら帰路に就いた。
*
翌日、放課後の教室で
「じゃーん。お母さんからクレープ代もらいました。食べに行こう」と、
財布を見せて沙織と大和を誘う美和。
「おおー」
「よかったら、わたしが帰ってからの事教えて」
「うん」
クレープ屋のカウンターで沙織を真ん中にして羅刹の話しをする美和に
「クレープ食べながら話す話題じゃねえ」と大和が笑う。
「おいしい?」と、呟く美和に
「何?誰に行ったの?」沙織が少し心配そうに聞く。
「あ…。羅刹はもういないのに、つい話しかけちゃった。
さんざん悪い事をしたけれど、人間だったら、もしかしたらこうやって
寄り道したり何か食べに行ったりしたのかなと思ったら…ね」
左手の痕を見ながら、美和はクレープを頬張った。
「…あ、ごめん。大和にしてみたらこんな考えは甘いよね…」
「うんや。まあ、そういう考えもありだしな」
「よし、来月は冬休みもクリスマスもあるから思いきり遊ぼう」と、沙織が誘う。
「村へ行って、スキーとか、温泉とかもいいね。
ちょっと山に登るけど、村に温泉あるんだよ」
「わー。いいね。行きたい」
「来年は大学進学と受験の準備あるし。」 「あああああ」
沙織と美和の遊びの計画に、大和が現実も突き付ける。
わいわい笑って、元の生活が戻ってきた。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回作もよろしくお願いいたします。




