23・裏切者
大江の塾はこれから起こるであろう事件の予感で空気が重かった。
「とりあえず、今日のところは解散だ」
多嘉良が仕切って、全員が帰路についた。
「あー、わたしはこの子たちに言っておくことがある」
藤子が両手をひらひらさせて多嘉良に告げると
「じゃあ先に帰ってる」と
多嘉良は先に戻って行った。
「あ、比十の皆さんも一緒に話しを聞いてください。
大江先生すみませんが、このままここを少し貸してくださいな」
「ああ、構わないよ。好きなだけ使いなさい」」
村にいる比十は多嘉良と藤子を入れて5人。
主に治癒の役割をしているが、もちろん霊とも話せる。
「率直に言います。羅刹と繋がっている者がいる」
「はぁ?」 「えええ?」
藤子の言葉に全員が声を出した。
「霊体の羅刹と話せるのは比十のみ。わたしと美和のことを知っているのは
村の住人のみ。わたしの能力が欲しくても、わたしに取って代わるのは
無理と判断して美和を狙ったと思われます。
大和が転校してきた時、どんなだった?」
「そう言えば俺、羅刹が動いている時の事ってわりと覚えているんだけど
当然のようにあの学校を選んでた」
「偶然じゃなかったんだ」沙織が呟く。
「最初からわたしがそこにいるって知ってた?」
「かな?羅刹は俺が休んでいる時に村の人とコンタクト取ったのか?」
「もしくは、呼ばれた。鬼の霧島さんを呼んだように、羅刹を呼んだ。
さて、そんな事ができるのは誰でしょう?」
美和たちの会話をまとめて、藤子が言う。
「一体誰が…?」比十の一人、村はずれに住む80歳──人間でいえば
400年ほど生きている御堂が不安そうに言った。
あとは末裔で60代半ばの美佐と70代の健太がそこにいた。
「一番怪しまれないのは…永介──宝永でしょう」
「…!!」
みんなショックが隠せなくて声も出なかった。
「まさか、多嘉良さんが?だって、あの人は母親みたいに世話焼きで
面倒見が良くて料理がうまくてごはん食べさせてくれる…」
「大和は永介のこと好きだからね。でも怪しいのよ。
皆さんも用心して付き合って少しでも怪しい事があったら、教えてください。
それでは解散です」
「え…ええ。気にしておきます。びっくりよね。まさか多嘉良さんがね…」
御堂が美佐に話しかけている中、健太は首から下げた双眼鏡をなでながら
無言で帰って行った。
*
「本当に多嘉良さんが?」
美和はかなり落ち込んでいる。
「何のために?わたしやお母さんの事が嫌いなの?何で?」
「ま…まだ決まってないよ!?まだ疑惑の段階で証拠があったわけじゃない。
そうでしょう?藤子さん」
大江の塾からの帰り道、沙織が美和を気遣って
何とか元気づけようとしている。
「どうかしらね?長い付き合いでも気持ちの変化まではわからない。
途中で何かあったのか…心当たりが多くてわからない」
「ええー!?」 「多いのかっ」
「…なんてね。実は疑っている者は他にいるから安心して。
皆に聞いてもらうようにしたのは、驚いてもらって
羅刹と通じている者に自分は疑われていないと思わせたかったの。
そうすれば油断してシッポを出しやすくなるから」
「なんだー。安心した。安心したら腹減りました」
「大和は食べ盛りね。いい事だわ」
「藤子さんに褒められた―」 「褒めてないよ」
「でさ、羅刹は今、どこにいるんだろ?」
「千里眼で視えないの?」
大和の問いに沙織が逆に質問した。
「姿、形が分からないからな。黒い煙がたくさん視えちゃう」
「そっかー。…わかったらぶっとばしてやりたい」
「でも、この村の事は知ってるはずだから、来ようと思えば来るよな?
それと多嘉良さんは呼べないのかな?」
「呼べるのは相手が了承した場合なのよ。羅刹は拒否したって」
「すでにやったのか」
藤子と大和の会話を聞きながら、美和は黙って歩き続けた。
*
「ちょっと寄って行かないか?」
戸隠が愛鷹に声をかけて、二人で家の屋根に上った。
「どう思う?」
「何とかしよう。と言い切った手前、何とかしたいが…。
羅刹を取り込んだ時に、側にいてやる事くらいしかできないな」
戸隠の問いに愛鷹が答えたが、無力さに脱力したようだった。
「ため息しか出ないが、美和を信じるしかない。
わたしにできる事といったら、場所を提供するくらいだ」
「狭くて逃げ場がないような場所か?」
「うちの蔵がいいだろう」 「そうだな」
*
「梓ちゃん、美和が羅刹になったらどうしよう?」
「そんな事ないよ。だって、不二さんの直系だよ?あの不二さんの!
美和ちんが負けるわけないけど…お守り作ろうか?
わたしたち、水難とか災難除けのお守り作れるし」 「うん。それがいい」
梓の提案で、早瀬と二人でお守りを作ることにした。
*
「穂高さん、何を作っているんですか?」手伝いの村人に聞かれて
「勝守り。勝負に勝つのさ。美和が負けるわけがないけどね」と、答えた。
穂高も工房で、ひたすら勝ちを祈ってお守りを作っていた。
*
「大江先生、我々に何かできる事はないでしょうか?」
「早池峰よ、残念だが何もない。祈ってやるしかないな…」
それぞれが、美和を想って動いていた。
*
「お帰り。ちょっと遅くなったけどお昼、食べられるよ」
神社に着くと先に帰った多嘉良が昼食の支度をしておいてくれた。
「いただきまーす」
「多嘉良さん、ごめん。わたしあんまり食欲ないや」
「おにぎり作っておくから、お腹すいたら食べるといいよ」
「うん、ありがと」
*
「…美和、大丈夫?さっきから元気ない」
部屋に戻って、縁側に座り込む美和に沙織が声をかけた。
「うん、子供の頃の事とかいろいろ考えちゃって…。
この村へ来ると、楽しかったことしかなかった。
多嘉良さんが毎日美味しいご飯を作ってくれて、
愛鷹がわたしを抱えて飛んでくれて、遊園地より面白かった。
戸隠さんは美味しい飲み物をくれて、穂高さんの作ったおもちゃで遊んで
大江先生が宿題を見てくれて、早瀬さんや梓ちゃんが泳ぎを教えてくれて、
でも泳げなかったりして、…楽しかった」
「これからも、だよ。そこにわたしと大和が混ざるんだからね」
「うん。わたしは羅刹になんてならない。閉じ込めて、消す。
…愛鷹と戸隠さんに、もしわたしが羅刹になったら殺してなんて
言っちゃったんだけど、二人を人殺しにしたくない」
「よしっ。美和なら大丈夫だ。わたしと友達になってくれた美和なら」
「あはは。それはわたしのセリフ。沙織がいてくれてよかった。
ありがとう」
ふたりで抱き合って、少し泣いた。
部屋の外で話を聞いていた藤子は
「そうだ。こうなったらやるしかないのだ。こっちが拒絶しても羅刹が来るのなら
受けて立つしかない。我が子を信じろ」
そう自分に言い聞かせた。
そして、何の目的で羅刹を呼んだのか、問い詰めなくては。
読んでくださってありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。




