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アヤカシの末裔3~人喰い羅刹~  作者: 遠野まみみ


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23/27

23・裏切者

大江の塾はこれから起こるであろう事件の予感で空気が重かった。


「とりあえず、今日のところは解散だ」

多嘉良が仕切って、全員が帰路についた。


「あー、わたしはこの子たちに言っておくことがある」

藤子が両手をひらひらさせて多嘉良に告げると

「じゃあ先に帰ってる」と

多嘉良は先に戻って行った。



「あ、比十ひとの皆さんも一緒に話しを聞いてください。

大江先生すみませんが、このままここを少し貸してくださいな」

「ああ、構わないよ。好きなだけ使いなさい」」


村にいる比十は多嘉良と藤子を入れて5人。

主に治癒の役割をしているが、もちろん霊とも話せる。


「率直に言います。羅刹と繋がっている者がいる」

「はぁ?」  「えええ?」

藤子の言葉に全員が声を出した。


「霊体の羅刹と話せるのは比十のみ。わたしと美和のことを知っているのは

村の住人のみ。わたしの能力が欲しくても、わたしに取って代わるのは

無理と判断して美和を狙ったと思われます。

大和が転校してきた時、どんなだった?」


「そう言えば俺、羅刹が動いている時の事ってわりと覚えているんだけど

当然のようにあの学校を選んでた」

「偶然じゃなかったんだ」沙織が呟く。

「最初からわたしがそこにいるって知ってた?」

「かな?羅刹は俺が休んでいる時に村の人とコンタクト取ったのか?」


「もしくは、呼ばれた。鬼の霧島さんを呼んだように、羅刹を呼んだ。

さて、そんな事ができるのは誰でしょう?」

美和たちの会話をまとめて、藤子が言う。


「一体誰が…?」比十の一人、村はずれに住む80歳──人間でいえば

400年ほど生きている御堂みどうが不安そうに言った。

あとは末裔で60代半ばの美佐と70代の健太がそこにいた。


「一番怪しまれないのは…永介──宝永でしょう」

「…!!」

みんなショックが隠せなくて声も出なかった。


「まさか、多嘉良さんが?だって、あの人は母親みたいに世話焼きで

面倒見が良くて料理がうまくてごはん食べさせてくれる…」

「大和は永介のこと好きだからね。でも怪しいのよ。

皆さんも用心して付き合って少しでも怪しい事があったら、教えてください。

それでは解散です」


「え…ええ。気にしておきます。びっくりよね。まさか多嘉良さんがね…」

御堂が美佐に話しかけている中、健太は首から下げた双眼鏡をなでながら

無言で帰って行った。


               *


「本当に多嘉良さんが?」

美和はかなり落ち込んでいる。

「何のために?わたしやお母さんの事が嫌いなの?何で?」

「ま…まだ決まってないよ!?まだ疑惑の段階で証拠があったわけじゃない。

そうでしょう?藤子さん」


大江の塾からの帰り道、沙織が美和を気遣って

何とか元気づけようとしている。


「どうかしらね?長い付き合いでも気持ちの変化まではわからない。

途中で何かあったのか…心当たりが多くてわからない」

「ええー!?」  「多いのかっ」


「…なんてね。実は疑っている者は他にいるから安心して。

皆に聞いてもらうようにしたのは、驚いてもらって

羅刹と通じている者に自分は疑われていないと思わせたかったの。

そうすれば油断してシッポを出しやすくなるから」


「なんだー。安心した。安心したら腹減りました」

「大和は食べ盛りね。いい事だわ」

「藤子さんに褒められた―」   「褒めてないよ」


「でさ、羅刹は今、どこにいるんだろ?」

「千里眼で視えないの?」

大和の問いに沙織が逆に質問した。

「姿、形が分からないからな。黒い煙がたくさん視えちゃう」

「そっかー。…わかったらぶっとばしてやりたい」


「でも、この村の事は知ってるはずだから、来ようと思えば来るよな?

それと多嘉良さんは呼べないのかな?」 

「呼べるのは相手が了承した場合なのよ。羅刹は拒否したって」

「すでにやったのか」

藤子と大和の会話を聞きながら、美和は黙って歩き続けた。     


               *


「ちょっと寄って行かないか?」

戸隠とがくし愛鷹あしたかに声をかけて、二人で家の屋根に上った。


「どう思う?」

「何とかしよう。と言い切った手前、何とかしたいが…。

羅刹を取り込んだ時に、側にいてやる事くらいしかできないな」

戸隠の問いに愛鷹が答えたが、無力さに脱力したようだった。


「ため息しか出ないが、美和を信じるしかない。

わたしにできる事といったら、場所を提供するくらいだ」

「狭くて逃げ場がないような場所か?」

「うちの蔵がいいだろう」   「そうだな」


               *


「梓ちゃん、美和が羅刹になったらどうしよう?」

「そんな事ないよ。だって、不二さんの直系だよ?あの不二さんの!

美和ちんが負けるわけないけど…お守り作ろうか?

わたしたち、水難とか災難除けのお守り作れるし」 「うん。それがいい」

梓の提案で、早瀬と二人でお守りを作ることにした。


               *


「穂高さん、何を作っているんですか?」手伝いの村人に聞かれて

勝守かちまもり。勝負に勝つのさ。美和が負けるわけがないけどね」と、答えた。

穂高も工房で、ひたすら勝ちを祈ってお守りを作っていた。


               *


「大江先生、我々に何かできる事はないでしょうか?」

「早池峰よ、残念だが何もない。祈ってやるしかないな…」


それぞれが、美和を想って動いていた。


               *


「お帰り。ちょっと遅くなったけどお昼、食べられるよ」

神社に着くと先に帰った多嘉良が昼食の支度をしておいてくれた。

「いただきまーす」

「多嘉良さん、ごめん。わたしあんまり食欲ないや」

「おにぎり作っておくから、お腹すいたら食べるといいよ」

「うん、ありがと」

               *


「…美和、大丈夫?さっきから元気ない」

部屋に戻って、縁側に座り込む美和に沙織が声をかけた。


「うん、子供の頃の事とかいろいろ考えちゃって…。

この村へ来ると、楽しかったことしかなかった。

多嘉良さんが毎日美味しいご飯を作ってくれて、

愛鷹がわたしを抱えて飛んでくれて、遊園地より面白かった。

戸隠さんは美味しい飲み物をくれて、穂高さんの作ったおもちゃで遊んで

大江先生が宿題を見てくれて、早瀬さんや梓ちゃんが泳ぎを教えてくれて、

でも泳げなかったりして、…楽しかった」


「これからも、だよ。そこにわたしと大和が混ざるんだからね」

「うん。わたしは羅刹になんてならない。閉じ込めて、消す。

…愛鷹と戸隠さんに、もしわたしが羅刹になったら殺してなんて

言っちゃったんだけど、二人を人殺しにしたくない」


「よしっ。美和なら大丈夫だ。わたしと友達になってくれた美和なら」

「あはは。それはわたしのセリフ。沙織がいてくれてよかった。

ありがとう」

ふたりで抱き合って、少し泣いた。


部屋の外で話を聞いていた藤子は

「そうだ。こうなったらやるしかないのだ。こっちが拒絶しても羅刹が来るのなら

受けて立つしかない。我が子を信じろ」

そう自分に言い聞かせた。


そして、何の目的で羅刹を呼んだのか、問い詰めなくては。



読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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