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アヤカシの末裔3~人喰い羅刹~  作者: 遠野まみみ


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22/27

22・決意

「こんにちは。お邪魔していい?」

美和が夕方近く愛鷹あしたかの家へ行って、縁側の柱の陰から声をかけると

愛鷹は戸隠とがくしと新酒の味見をしていた。

晩秋旨酒ばんしゅううまざけというらしい。

「未成年にはノンアルの甘酒だな」

愛鷹がコップに入った甘酒を出すが、美和は口をつけずに縁側に置いた。


「何かあったのか?」

「あのね…。ちょうど戸隠さんもいるから、聞いて」

「うん?」


「もしも、わたしが羅刹に乗っ取られておかしくなったら、殺して」


げほほほほほ…。と、飲みかけの酒を吐き出して戸隠がむせた。

白銀の髪を乱して、咳が止まらない。


「美和を殺す前に戸隠がむせて窒息死する」

戸隠の背中を叩きながら愛鷹が不機嫌に言う。

「ご…ごめんなさい。いきなり」


「でも…、大和と沙織に頼もうと思ったけど、わたしの方が強いから。

わたしを殺せるのは愛鷹と戸隠さんだから」


「断る」    「…!どうして?」

「美和は乗っ取られるほど弱くない。俺たちは剣術と一緒に心構えも

教えた。つまり精神も鍛えた。だから、そう簡単にはやられない」

「もしもの話しだよ」

「仮の話しはいい。ヤツを倒すか、封印する事を考えろ。わかったか?」

「…わかんない」  「こら」と、笑って大きな手が美和の頭を包んだ。


「殺すくらいなら守る。心配しなくていい」 

愛鷹の言葉にたとえようもない感情が湧いてくる。

愛しいような。嬉しいような。胸の奥が熱くなって泣きそうになる。

 

「…じゃあ、よろしく。お兄ちゃん、頑張って」

「ああ、任せろ。っていうか、お前も頑張れ」   「あはは。うん」


「乗っ取られたら美和はいなくなるのか。それは御免だな。

村がつまらなくなる」

「治ったか」   「死ぬかと思ったよ」


「戸隠さん、ごめんなさい」

「美和はショックだよね。でもその時はみんなで何とかしよう。

美和が産まれる前から、何かあるたびにずっとそうしてきたんだよ。

できない事はない」

「…うん」


「…わたしも頭をなでていいかな?」

「う…うん。どうぞ」


「赤ちゃんだった美和がここまで大きくなって、まだまだ先の生がある。

むざむざ死なせない。村の次のお祝いは美和の成人式だ」

    

小さな子をなだめるように、ゆっくり優しくなでられて思わず笑ってしまった。

「何?」

「飼い猫になったような気分です。にゃーん」

「よしよしよし」猫にそうするように、美和の喉元を指でなでた。


「そうだ。わたしの成人式の前に、愛鷹と鞍馬ちゃんの結婚式があるかも」

「そうだったね」戸隠はにっこり笑って愛鷹を見る。  「おいおい」



「…さて、修行の時間だ」 

愛鷹の視線の先に、竹刀を持った大和が歩いてきていた。


               *


翌日、巻物を現代訳にしてくれた大江が、塾をしている自宅の広間に

村人たちを集めて説明をしてくれている。


「当時、羅刹は人の皮を被って人間に混ざって暮らしていたようだな。

たいてい少女の姿で、それで相手を油断させ喰っていた。

大蜘蛛を使い、人間を混乱させて楽しんでもいたようだ。

それと大事な事がある。喰った相手の能力を吸収する。とあった」

部屋の中がざわめいた。


「巻物を書いた者が癒しの能力を発揮した時に、欲しいと言って

喰おうとしたそうだ。

そして封じ方だが、残念ながらそこは書いていない」


「でも今は霊体だから直接喰うわけじゃなくて…。

喰うために肉体が欲しいのか?羅刹は霊体になって800年くらい?

そんなに長く何してるんだ? 執念深いなぁ」

剣の手合わせで、美和にボコられてアザを作った大和が呆れて言った。


「鬼の霧島さんが比十なら封印することができるだろうって。可能なの?」

「俺はやった事はないぞ」  「わたしだって。先代たちの記憶にもない」

大和の問いに多嘉良と藤子が顔を見合わせる。

「できる誰かの話しって聞いた事ある?」

全員が首を振った。


「テレビとかYouTubeやってる霊能者の中にいないかな?」と、大和。

「わたしもネットで観たことあるけど、どうなのかな?」

沙織が疑問を口にする。

「本物もいるし、インチキもいる。いろいろよ」

「やっぱりそうなんですね」

藤子の答えに少しがっかりする沙織だった。


「霧島さんをここに呼んでみるのは?永介、できる?」

「呼んでも拒否されたらダメだけど、やってみるか。山の方角はこっちだな」


               *


ユラ…リ…


30分ほど時間がかかったが霊が出現するときにある

独特な空気の揺らぎがあって目の前に山で出会った霧島の姿があった。


「さすが、多嘉良さん凄い」

「娘さん、また会ったね。 わたしを呼んだのはそなた…。アヤカシの比十ひとか」

「左様でございます」

「…隣にいるのは…名のある比十とお見受けする」

「霊峰の不二です。その節は娘がお世話になりました」

「あなたの娘さんであったか。どうりで」


「早速ですが、教えていただきたい事がありまして。

我ら一同、封印の比十を存じません。どうしたら良いのか、

お教えいただけないでしょうか」

多嘉良の言葉に、霧島は不思議そうな顔をする。


「はて?霊峰殿がいるのならば、わかるはずだが」

「不二さん?記憶にないなんて、すっとぼけたね?」

多嘉良が呆れて言う。


「ふふっ。霧島殿、他に方法はないですか?」

「残念だが、わたしにはわからない」

「お母さん?方法って何?」


「推奨できないけど、身体に取り込んで抑えるの」

「羅刹はわたしに入りたがってる。わたしが乗っ取られずに

抑えればいいの?」


「親としてお薦めできません。認めません。抑えられなければ乗っ取られる。

そうかと言ってわたしに入ろうとは思わないだろうし。

さんざんいじめちゃったからなぁ」


「話しが見えない。この辺で、かいつまんで教えてくれないか?」

大江の提案で、霊である霧島との会話がわからない者たちのために

多嘉良が簡単に説明をした。


「他の何かで代用できないの?例えば人形とか」

美和に負担をかけたくない大和がそう聞いた。


「その場合、羅刹の方が強ければ暴走して邪念が溢れて影響が出たり

経年劣化で壊れたり、その時にもっと大きな力を持っているって事もある。

つまり、一時しのぎに過ぎないの」

「はあー」藤子の説明にがっくりする大和だった。


「完全に消すには身体に取り込んで消えてもらうしかないんだね…。」

美和はすでに覚悟を決めたように、冷静に淡々と話す。

やがて口を開いた。


「わたしが取り込む」


「ふぅ…」愛鷹と戸隠がため息をついた。


「すまない。これ以上は役に立てそうにない。失礼していいだろうか?

わたしもそろそろ転生の準備をしたい」

「はい。ありがとうございました」

多嘉良の言葉に、霧島はふんわりと消えていった。


「転生…。生まれ変わるの?」

「そうだね。来世はアヤカシとは限らないけどね」

美和の疑問に多嘉良が答える。

「人間になって、奥さんとまた会えるといいね」

沙織が遠慮がちに早池峰を目を合わせた。


読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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