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アヤカシの末裔3~人喰い羅刹~  作者: 遠野まみみ


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21/27

21・藤子と永介

「あら、このお茶美味しい。きれいなグリーン」

お土産の知覧茶を飲みながら、帰宅した美和が母と話している。

「鬼の霧島さんにギリ会えた。おじいちゃんだったけど、

とっても優しそうな鬼だった。でね、巻物を渡してくれて、これなんだ…」


「鎌倉時代くらいのものだね。これを書いた人、比十ひとの末裔だったみたい

人間で…って書いてある」

「お母さん、読めるの?」  

「ちょっとだけね。 永介のとこにも戸隠とがくしくんのとこにも参考なるような

文献がなかったから助かるね」


「それ、霧島さんの奥さんが書いたって言ってた」 

「あら、いつの時代もアヤカシと人間の恋愛はあるのね」

「沙織と早池峰はやちねさんみたいに?」  「そうだね」


「それと霧島さんがわたしの事、末裔にしては血が濃いって言ってた。

何の事だろう」

「あらま」

「羅刹は封印する手もあるって。で、特にわたしが…って。

わたしが封印できるの?」


「ふううん…。まいったな」母が頭をポリポリ掻いた。

「何?」

意味ありげな母の言葉と態度が気になってしかたない。


「…とにかく、今は解読しましょう。うん」

「何かごまかした?」   「いえ、何も。お風呂入っちゃいなさい」

「むー?」   「いいからほれ。村へはわたしも行くから」


納得はいかなかったが、お風呂も入りたかったので

その疑問は心にしまった。


               *


金曜の夕方、藤子は美和と一緒に放課後に沙織と大和を拾い、

村を目指して車を走らせた。三連休になるので、月曜まで休みだ。


「車、助かります。ありがとう、藤子さん」大和が遠足気分で

ウキウキしている。

「どういたしまして~」

4人で乗る車は賑やかで、普通にドライブになった。


「羅刹のせいでいろんな事があったね。みんな、その後は何ともない?」

「わたしは特にはないです」 

「俺も。何だかんだ言っても、愛鷹あしたか師匠も戸隠とがくしさんも優しいし、多嘉良さんの

ご飯はうまいし」

「そうだね。永介、料理が得意なのよ」


「でもまだ終わってないよね…」美和が呟く。

「美和はたまーに、こうなるのよ。乗っ取られて羅刹になったらどうしようって

心配らしいの」

「あー、俺は一度経験したから、わかるかも。でもさ…。

うん。その時は何とかしようぜ。俺はそれまでに強くなる。…多分…」

「多分?」  「きっと…だといいな」


「何ですかそれは。あははは」と美和が大笑いした。


「大和はね、鍛えれば美和に勝てるのよ。

美和はどんなに鍛えても愛鷹や戸隠くんに勝てないでしょ?」

「うん」

「男女では身体の造りも筋肉の付きかたも違うからね。

だから大和が鍛えればもしかしたら二人に勝てなくても

対等くらいにはなれる…かもしれない」

「それ、凄くない?俺、頑張っちゃおう」


「そう言えば以前、愛鷹にわたしは力が劣るけれど

素早く動けるって言われた」

「美和の有利なところはそこね」


そんな話しをしながら。バス停のある山小屋に着いたのは夜中近くだった。

ここからさらに2時間歩く。


               *


「こんばんはー」やたら元気な大和の声で、多嘉良がねぼけた顔で出てきた。

「晩ごはんは?」   「いただきたいっす」  「簡単におにぎりな」


「夜遊びして帰宅した息子と親父の会話?いや、母親?」

「やかましい」

藤子の言葉に多嘉良が答えたが、まんざらでもないようだ。


その夜はおにぎりの夜食を食べて、そのまま眠った。


               *


「藤子さんが一緒とは珍しいな」

翌日の朝食後、みんなで社務所の奥の部屋で

修学旅行のお土産やお茶菓子を囲んでまったりしているところへ

多嘉良が話しかけた。


「まあ、いろいろあって美和に話そうと思うの」

「は?」   

「何?お母さん、何かあるの?この前も何かごまかしてた。

あとね、ずっと思っていたんだけど、戸隠山に愛鷹山に早池峰山に

梓川に早瀬川…。アヤカシが住む山や川はいろいろあるけど

日本一と謳われる富士山にアヤカシはいないの?」


「…えーっと…。何のためにわたしは内緒にしてたんだっけ? 

最早それすら忘れた」

「人間と一緒になりたいって言って、村のみんなを巻き込んだんだろ!?」

「あ、そうだった。美和が大人になって、独り立ちするまで

内緒にするつもりだったけど、そこまで疑問に思うなら教える」

少し間があって、藤子が口を開いた。



「霊峰富士山のアヤカシ…不二はわたしよ」



「……」何を聞いたのか理解できなくて美和も沙織も、もちろん大和も

固まった。


「……えーっと…。多嘉良さん、今夜は山女魚釣ってこようか…?」

「美和、現実逃避しないの」  「ううう…」


「…つまり、お母さんは生粋のアヤカシ…?末裔ではない?」

「です」ニコニコ笑って頷く母を見て、美和も笑うしかなかった。


「多嘉良さんは…?」

「たから=宝。永介の永は宝永の永。昔からの相方よ。

わたしの事情に付き合ってもらったの」

「宝永山…?」

「そう。先代の時代に噴火して、その時に彼の名前を付けたの」


「村の皆は知っているの?」

「うん。協力してもらってた。それにしても美和がこんな話しを聞いても

わりと冷静なのが助かるわ」

「屋敷の柱を壊したときや大和を助けた時、人間離れしていて

ただ者じゃないって思ったもん」

もう半笑いで納得するしかない美和だった。


「あ、でも待って。生粋のアヤカシは都会で暮らせないんじゃなかった?」

「うち、植物がたくさんあったでしょ?空気清浄機も。

それで空気を綺麗にしてたの。それでも具合が悪くなった時は

自分で治してた。」


「あと、免許とか結婚するのに戸籍とかは…まさか」

「図画工作です!」

母と多嘉良から答えが飛んできた。

「やっぱり」

「その辺の事は深く考えちゃダメよ」


「それとお父さんは…?人間?」

「うん。村の近くの山を登っていて滑落したのをわたしが助けたの。

ビビッてきたから結婚した。今は事情を知っている」

「でも変わらずに家族でいるんだよね?」

「そうよ。カッコいいでしょ」


「わー、いい。それいい。わたしもはやちゃんとそうなるぅ」

「うん。応援するわよ~」 


「…俺はこの話題についていかなくもいいよな?」

大和はひとり取り残されて、多嘉良──宝永が作った団子を頬張って

多嘉良に慰められるように頭をポンポンされていた。


「でもさ、こういう話しって、もっとこう…ドラマチックにしないか?

何しれっと言ってんだか」

「しれっと言うしかないじゃない。しれっときてしまったんだし」

大和の疑問にしれっと答える藤子…いや不二だった。


「霧島さんが言ってた、血が濃いってこのことだったんだ」


「すまんな。騙したみたいだからな。でもな、美和が産まれた時は

村中が大喜びで一週間くらい祭り状態だったぞ」

「うん」

村の人たちがいつも優しくしてくれたのは確かだった。


「多嘉良さんの呼び方は、今まで通りでいい?」

「あ、俺も」 「わたしもそう呼びたい」

「もちろんだよ」

大和も沙織も今まで通りにいこうと決めたらしい。


「巻物を大江先生に渡してくる。ついでにお土産配ってくるね」

「あー、俺らは後で行くよ。なっ」と大和が気をきかせて沙織と残った。


               *


美和が村を回って土産を渡しながら母の事を知ったと言った時、

戸隠はほほ笑んで、愛鷹は頭をなでて、梓と早瀬とはハイタッチして

大江先生や早池峰や他の村の住民たちは──留守だった者は除いて

みんな頷いて、何も変わらないのだと知って安心した。


               *


神社に戻った美和は素朴な疑問を口にした。

「もしかして、霊峰のアヤカシって…お母さんって偉いの?」

「さあ?でも皆に丁重に扱っていただいてるわね」と、笑う藤子。

「アヤカシの頂点…に近いかな」

美和の疑問に多嘉良がストレートに答える。

「そうか、わたしはそういう霊峰不二の娘。きっと羅刹と戦える」と

自信を持った。


そして、もうひとつの覚悟も──。



読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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