20・霧島山
「修学旅行の班分けはどうしよう。三人で組む?それとも
もう少し誰か入ってもらう?」沙織が相談に来た。
「嵯峨野さん…とか?」美和が恐る恐る聞いた。
「ううん。彼女は友達と、他に男子数人でグループ作ってた」
「三人でいいじゃないか。他は面倒だ。計画通りに霧島山へ行くなら
三人がいい」
「霧島山のどの辺だろう?村人に祀られていたなら、
神社とか祠とかあるかも」
「あった。この辺かな?祠の跡ってある」美和と大和が話している中、
沙織がスマホの地図を見せる。
「ダメ元で行ってみよう」
「計画書には『登山』って書いておくよ。天孫降臨の研究とかなんとか」
大和を中心に三泊四日の修学旅行のうちの、二日目の自由行動の計画が
組まれていった。
*
「霧島山へ行くんだ?」夕飯の支度をしながら、母は美和に話しかけた。
「うん。昔、霧島っていう鬼が戦ったなら、羅刹の手がかりが
あるかもって思って」
「そっか」
「…お母さん、私が人喰い鬼になっちゃったら、どうする?」
「ならないわよ。させないから」
「うん…」母の自信はどこからくるのかわからないけれど、
屋敷での能力を思い出すと、少しだけそうかもと思えるのだが
不安は消えない。
「せっかくの旅行なんだから、楽しんできなさいよ」
「うん」
*
「行ってきまーす」
修学旅行の朝は空港に集合なので、沙織と大和と待ち合わせて
駅から空港へ向かった。
「ひ…飛行機。俺、初めて」 「わたしも」 「わたしだって」
ドキドキしているのは美和たち3人だけではなかった。
クラスのほとんどが初体験で、
「国際線も乗った事ある」と言う生徒は「セレブめー」とつつかれていた。
宮崎空港に到着したのは午後だった。青島神社に亜熱帯植物園を
見学してホテルに入った。
*
翌日の朝、自由行動のために生徒たちはそれぞれ目的の場所へ
出かけていく。
美和たちは山に向かった。
登山道がはっきりしていなくて、美和が地図とコンパスで方向を見て進んだ。
「すごい、コンパスだけで目的地へ行けるんだ」沙織が感動して
地図を覗き込んだ。
「両親が登山が趣味で、それで知り合って結婚したんだって。
だからわたしも小さい頃から山関係のことはいろいろ
教えてもらっているの」
*
しばらく登ると祠のような跡があった。
「天城山でやったように呼び掛けてみるね」
美和が集中して話しかける。
ユラ…リ
空気が変わって、白い髪。角。着物姿の老人が現れた。
白い鬼の老人は静かに佇んでいて、とても落ち着いた雰囲気が
悪いモノではないと感じさせた。 母からもらったお守りも反応しない。
「こんにちは。お邪魔させていただいています」
「これは驚いた。そなたがわたしを呼んだのか?比十か?」
「はい。末裔です」
「末裔…にしては血がずいぶん濃いようだが、だが嬉しいな。
話しができる者と会ったのはいつぶりだろう」
「あなたは?霧島さんでいらっしゃいますか?
「そうだ。ここに祀られ、守っていた」
「鬼の霧島…さん」
「俺?」と、大和が美和に声をかける。
「今、目の前に鬼の老人がいるんだけど、霧島さんだって」
「そこの若者は?」
「彼は霧島大和と申します。おそらくあなたの関係ではないかと」
「わたしの名を継ぐ者か。なんという。これほど嬉しい事があるとは」
「子孫の大和に会えて喜んでる」と説明する。
「あの。羅刹をご存じですか?人食いの鬼です」
「よく知っている。わたしと万三郎殿と人間と協力して討ち取った」
「それが霊となって復活しています」
「何ということだ…」
「羅刹は俺たちが討ちます」大和の言葉に美和も沙織も驚いて、彼を見た。
「羅刹は美和を──彼女を狙っている。そうはさせない。俺が討ちます」
視えないが、白い鬼に向かって約束するように言った。
大和にそう言われて、ちょっと嬉しい美和だった。
「うむ。助言をしたいところだが、残念な事に何もない。
だが霊体ならば封印という手もあるやも知れぬ」
「封印…。そうか、討伐できなければ閉じ込める手もある。
でもどうやって?」
「比十がいるだろう。封印も彼らの手のうちだ」
「そんな事もできるんですか?」
「他に比十がいるのなら聞いてみるといい。…特にそなたは…。
うん。何かありそうな娘さんだ。
それと祠の跡を掘ってごらん。 壺が出てくる。
中にわたしの妻が書いていたものがあるから
何か手がかりがあるかも知れん」と、ほほ笑んで消えた。
*
「わたしに何かあるの?」美和がつぶやくと、
沙織が「何を話していたの?」と顔を覗き込んだ。
あった事を全て話すと
「掘るなら任せて。何メートルもいけるよ」と、沙織が軍手をはめて
バサバサ掘っていく。
「鬼の腕力は筋力だけじゃないんだって。はやちゃんが教えてくれた。
重さを調整する能力なんだって。重いモノでも軽くする能力。
だから筋肉隆々でなくても力が出る」
「そういえば、鬼でもマッチョって見ないよね。大江先生くらい?
早池峰さんも細マッチョって感じだし」沙織の説明に納得の美和だった。
3メートルほど掘ると壺が出てきて、中に巻物があった。
「うわわ。また読めないものが。また村へ持って行くか」
「え?村へ行くなら、はやちゃんにお土産渡すからわたしも行く。」と
沙織が早池峰に会いに行くと言う。
「じゃあ、わたしも多嘉良さんたちにお土産買ったから一緒に行く」と、
結局みんなで行くことになって、巻物は美和が預かった。
「お…俺も愛鷹師匠たちにお土産買わなきゃ…」
「あとは、封印かぁ。でも美和に何があるっていうんだろうな?」
謎は残ったが『封印』というキーワードと巻物をもらったので
それでよしとした。
*
修学旅行で美和は沙織と大和と行動してそれなりに楽しんだ。
「うちの班が行ったとこ、心霊スポットだったー」
「うちの班、予定変更ばっかりだった」
「うちの班、みんなナンパされて逃げ回って迷子になっちゃった。大笑いした」
「うちの班、なぜかスイーツの食べ歩きになってしまったー」
クラスの皆もそれなりに楽しんでいたようだ。
読んでくださってありがとうございました。
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