16.記憶
「霧島くん!」 信じられないという風に美和が叫び
霧島がゆっくり倒れていく。
同時に、霧島の首の後ろあたりから黒い影が飛び出して、
天井の穴から外へ飛んで行ってしまった。
駆け寄った美和の目に入ったのは、霧島の瞳から光が失われていく姿だった。
「動かなさないで」
藤子は太刀を掴むと、血が噴き出さないように血管をつなぎ
細胞を動かして傷をふさぎながらゆっくり引き抜いた。
「…ふ…は…」霧島が息をしはじめた。
「出血は大した事ないから大丈夫。 君はうちに殴り込みに来た子?
それとも助けようとした子? 青い目がそのままだとわからないな」
「霧島…大和です。羅刹はもういません」
「よし」
「飛んでったのが羅刹か? 実体がないのか。やっかいだな。
大昔倒されて、能力を持ったまま霊になって他の者に宿って
やがて乗っ取って蘇る…ってとこかな。うまく融合できる人間がいないと
復活できないだろうけどな」
多嘉良が可能性を話す。
「わたしが合うの? そういう意味で、合うって言ってたの?
皮じゃなくて、全部を手に入れて、わたしが羅刹になる…?
まさか…ねぇ?」
美和は呆然として、多嘉良がため息をついた。
しばらく沈黙が続いた。 じゃあこれからも、もしかしたら…。
続きは考えたくなかった。
*
「奥の部屋に、羅刹だった者がいます」
霧島の言葉に部屋に入ると、白骨化した遺体があった。
「これの中と霧島くんの中を行ったり来たりしてたのか。
霧島くんの中に仮住まいして同化する人間を探すつもりだったのか…?」
「霧島くんはアヤカシの末裔?その青い目は生まれつき?」
「目は生まれつきだと思います。 小学校のときから言われてましたから。
末裔のことはよくわかりません。
小さな時から母とふたりで生活していて、そういう話は聞いた事が
ないので。…でもその母も偽物だったかも」
藤子の質問に答えるが、思い出すと頭痛がするらしくて
霧島はこめかみを押さえた。
「さすがに過去の記憶を探る能力はないなぁ。で、君の家は?家族は?」
「家も家族もわかりません」
「永介、関係者の霊を呼んで聞いてみよう。 やって」
「はいはい。じゃあとりあえず藤子さんの家へ」
「…たくさん、犠牲者を出してしまいました。羅刹の餌に…」
「だな。ここ、霊がたくさんいた。喰われた人たちなんだろう。
だがもう全部あの世に送ったから、成仏できたよ」
「…まさか、俺が喰った…?」霧島がショックで青くなる。
「いや、霊体だからね。生気を喰ったんだと思う。
だから遺体はミイラみたいになってるよ。…家のどこにあるかは知らんが
そのうち見つかって事件になるだろうな」
かなり落ち込んだ様子の霧島を連れて、帰ることになった。
世の中の行方不明者の中には、羅刹の餌になってしまった者が
いるのかも知れない。
美和が門を出て振り返ると、家に禍々しさは無くなって
ただの空き家になっていた。
「俺はさーちゃんを送ってくる」そう言う早池峰に
「了解。ごゆっくり」と、藤子がウィンクした。
*
家が解体されて遺体が出て、騒ぎになるのは数年後のことである。
*
美和の家の居間で、交信が始まった。
「霧島大和くんの関係の者がいらっしゃったら、おいでいただけますか?」
多嘉良の降霊で両親らしき人が現れた。
霧島には視えないが、そこは信用してもらうしかなかった。
「大和が3つの時に事故にあったんです」
父親が話し始めた。
「家族で旅行に行った帰り、大雨でタイヤがスリップして
崖下に落ちてしまって、大和だけが生き残ったのですが
その後、妻も生きていたようです。
先祖が何をしていたかは知りません。山の中で暮らしていたという話は
聞いた事があります」
「大和くんの青い目は産まれた時から?」
「そうです。右側だけやや青みがかった瞳でした。先祖に外国の人でも
いたんだろうと思っていました」
「ありがとう。息子さんのことは心配なさらず。我々が何とかします」
「大和に、ごめんね。元気で…幸せになって。と伝えてください」
そう言って両親は消えていった。
*
「美和さんのお母さんが言った通りですね。『命を懸けてでも』なんて
言わない」
多嘉良から話しを聞いた霧島の目に光るものが浮かんだ。
「でも部屋にあった白骨は、母…ですね」
「そうね。でも正確には、お母さんの亡骸を利用した羅刹よ」と
藤子は子供にそうするように、頭を撫でた。
「事故の時に、羅刹は死んでいた母親に乗り移ったんだろうな。
そのまま生きているフリをして今日まできたが、肉体に限界にきて
崩れるのを止められなくなったか…。
それに霧島くんの千里眼に目を付けていたのかもしれない。
大昔の因縁から、チャンスを狙っていた可能性もあるな」
「因縁?」
「霧島という鬼に、羅刹は倒されたんだよ。紙切れの文字から考えると
当たらずとも遠からず」
「あの、俺の目が千里眼っていうのは?」
「うん、かつて千里眼を持ってた烏天狗がいるから、村へ来るといい
一緒に行こうか」
「村…いつか蜘蛛が襲った村ですか?」
「あっ」と、全員が声に出た。
「…優しくしてねって言っておくね」美和が苦笑いした。
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