12・救出
「おっきいなぁここって、空き家だったよね?」
沙織がぽかんと見上げるくらい、霧島の家はお屋敷だった。
「うん。中学の時はお化け屋敷って呼ばれてたよね」
門が開いてインターホンから「いらっしゃ」と霧島の声がした。
美和は背中のゾワゾワを不快に感じながら、玄関に向かった。
*
『視えるスイッチ』を入れっぱなしだったので、玄関で若い男が二人視えた。
…どこかで見たような?
そうか、キャンプの時に襲ってきた男だ。
「キャンプの時にいた男の人がいる。二人ともいる」
「わたしには見えないよ。ってことは霊?」
「だね」
男は美和に気が付いて、手を伸ばしてきた。
「あ…あ…。助け…」
「悪いけど、成仏させる方法をわたしは知らないの。
ここへ来た女の子を知らない?教えてくれたら、何とかしてあげる」
「何とかできるの?」
「多嘉良さんに聞いてみるよ」
男たちは階段を指さして、「突き当り」と言った。
階段を上がると廊下になっていて、左が窓で右側に部屋がいくつかあった。
突き当りのドアを開けるとそこに──
長テーブルを前に、椅子に座る虚ろな目の嵯峨野がいた。
*
「嵯峨野さん!」…側にいるおばあちゃんが「気を付けて」と言った。
「沙織下がって、気を付けて」
「いいカンしてるな。さっきも下で何かと話してたよね?何か視えてる?
もしかして比十の末裔?」
霧島の声がして、隣の部屋から霧島が現れた。右腕を吊って痛そうだ。
霧島はなぜか二重に視える。 霧島が二人?
一人は薄くて顔が苦痛に歪んでいる。 薄い方が本物?
「穂積美和さん、母さまは君が欲しいんだって。
君が残るなら嵯峨野さんは返すよ。どうする?」
「…うちに来たのはあなた?」
話しをしながら、美和は手を後ろに回して沙織に合図を送る。
指で長方形を作って、『テーブルをひっくり返して』
二本指を交互に動かして『逃げよう』
「行ったよ。それでこの通り。君のお母さん、凶悪だよね?
『癒しの手』って、優秀だと治すだけじゃなくて壊すこともできるんだって?
もしかしてそれか?」
「知らないけど、凶悪なのは…母譲りかも」
合図を送ると沙織が片手でテーブルの端を掴んで持ち上げて、
霧島めがけて投げた。
霧島がテーブルを避ける隙に沙織は嵯峨野を担いで逃げて行く。
追いかけようとする霧島の左腕を掴んで回して転ばせた。
習った合気道が生きている。
「ごめん」と言って、はずれた右肩に蹴りを入れると
「うあああああ」と悲鳴をあげて、霧島は動けなくなった。
*
「はあ、はあ、はあ。これからどうしよう」
「とりあえず、嵯峨野さんに起きてもらわなきゃ」
「嵯峨野さん、しっかり」
ベンチに座らせて、頬を叩くと嵯峨野は目を開けた。
「あ…」
「大丈夫?何があったか覚えてる?」
美和の顔を見ると、嵯峨野は「おばあちゃん…夢で見た」と言った。
「夢の中で怒られた。美和さんに謝りなさいって。
霧島くんに関わってはいけないよ。って…なんで?」
「それがおばあちゃんの気持ちなんじゃない?
夢でなら死んだ人の言いたい事が伝わるって、聞いた事がある。
気を付けて帰って。 それじゃ」
「わたし、嵯峨野さんと方向が同じだから送るよ。じゃあね、美和」
「うん。沙織、ありがとう」
嵯峨野の後ろに、頭を下げる祖母の姿が視えた。
そして「癒しの手は治すけれど、壊すこともできる」という
霧島の言葉が気になった。
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