第三話 姫、値踏みされる。
襲撃から救い出した功労者である私だったが、
アリス殿下とその護衛リレイには、危ないことはしないように!
と厳命を受けてしまった。
いや、王女殿下の危機なのだから、
臣下たる者、駆け付けるのは当然の事と私は言い募った。
だが、護衛騎士リレイから、
「貴女は我が国の防衛の要たる辺境伯家の長子です。
貴女が傷を負えば、永らく帝国との戦争で活躍された
祖国の英雄と王家の関係に亀裂が入ってしまいます。」
しかし、それでは!
と反論するも、
「アリス王女殿下とて、そんなことはご理解しています。
そして、今は本国との連絡も取れない急を要する事態なのです。
今、前線の要たる辺境伯との連携は不可欠。
貴女の軽率な判断が王国を危険に晒すかもしれないのです。
どうか、余計なことはせず、寮へとお帰り下さい。」
朽ちたドワーフ王
”何か酷い言われようだのぉ”
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”この者、どうやら王国とやらの臣下のようだが、
普通、王族の窮地に駆けつけて説教喰らうとはな。”
討ち果たされし竜
”まあ良い。こんな奴らの相手をしていても埒が明かん。”
何か頭の中で、相談する声がするが、
私は力なく項垂れたままだった。
アリス殿下が、「そこまで言わなくても」と、
取りなしてくれているが、騎士リレイの判断は正しい。
学園での私の成績はそれほどに芳しくないのだ。
王族の窮地に援軍として駆けつけても邪魔だと言われるくらいには。
剣術も魔術も、才能は皆無と教師の評価は手厳しい。
今回の場合、この勇者の剣があったから何とかなったが、
本来なら殿下を守れず、自分の命も無かっただろう。
もしそうなったら、出来ない子ほど可愛いとばかりに、
ひいき目に見ても家族の中で可愛がられて育った私の死を悼み、
王家と我が家との軋轢になったかもしれない。
「だが、今回は貴女のお蔭で助かったのは事実だ。
感謝する。
だが、次があったら迷わず逃げてほしい。
足手まといだ。」
と護衛騎士リレイの叱責なのか感謝なのか分からない言葉を、
聞くことになった。
朽ちたドワーフ王
”ううむ、どうも本気で言っているようじゃな。”
”儂も長年、王をやっておったが駆け付けた部下に、
ここまで言うたことはないぞ”
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”はあ、娘、もういい!
我らも忙しいのだ。”
頭の中で指示してくる謎の声。
殿下たちはこれから公国の城へと呼ばれているそうで、
騒ぎにより駆け付けた衛兵たちにこの場を任せ立ち去ってしまう。
取り残された私は、手をぎゅっと握り、
悔しいやら悲しいやら、心を揺さぶる感情を堪えていた。
そんな私を練兵場へと誘ったのは、
やはり頭の中に響く謎の声だった。
討ち果たされし竜
”娘、あの程度の言葉に項垂れるな!
そもそも人間共の実力など、ほぼ変わらぬ。
剣や魔術を少し上手く使えようが、
我の前では震えて泣き叫ぶだけだ。
今力無いと嘆くなら、明日強くなるため鍛えよ!
過去、皆より弱かった?
だから何だ!
貴様らは我より遥かに弱い。
しかし、少なくとも先程は、あの高慢な娘たちを救っただろう!
そして、明日は世界をも救えるかもしれぬ。
いいか、娘!
嘆く前に誇り高く胸を張れ!
少なくとも我はそうしてきた。”
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”ふふ、そうだな、娘よ。
張り合うのは結構だが、自身を過剰に卑下するのはまだまだ早い。
たかが、十数年生きてきただけだろう?
その程度で人生を嘆くなど小賢しいわ!”
朽ちたドワーフ王
”ああ、もういい。
儂たちが少し実力を見てやる。
どこか良い場所はないか?”
そんな言葉に、学園に併設された練兵場に向かう私。
ーーーーー
藁に粗末な使い古しの鎧が着せられた所謂案山子に、
謎の声が指示した通りに剣を打ちこむ私。
上段、水平、斬り返しなどの基本動作を繰り返す。
その後、魔術の訓練に使う結界付きの案山子に術を撃ちこむ。
「炎の礫よ、舞い上がり、打ち払え!」
ゆっくりと身体から魔力が集まり始め、空中に炎が浮かび上がる。
”ファイアボルト”
炎の礫が案山子に向かって飛び出しぶつかった。
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”ふうむ、ではファイアボールを撃って見よ。”
「ええっと、それは中級魔術ですよね。
私には使えません。」
と答えるが、
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”はあ、いいから今から言う通り、呪文を唱えてみよ!”
”炎よ、集え!”
「炎よ、集え!」
”荒れ狂う嵐となりて、我が敵を討ち果たせ!"
「荒れ狂う嵐となりて、我が敵を討ち果たせ!」
”ファイアーボール!”
「ファイアーボール!」
すると、身体から魔力が抜けていくのを感じ、
火の欠片が、空中に集まり炎の塊となる。
火球はその後、標的である案山子へと飛んでいき爆発。
その様子を見た私はちょっとびっくりした。
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”なるほど”
ーーーーー
体力と魔力を大量消費した私は、練兵場の隅で休んでいた。
なおも頭の中の会話は続いているが、
賊との戦闘に続いての行動だ。
さすがに疲れて、会話の内容など気にしていられなかった。
討ち果たされし竜
”で、どうなのだ!
我には人間の実力など分からぬぞ”
朽ちたドワーフ王
”うむ、剣筋はあの娘っ子たちが言うほど悪くない。
しっかり剣を振るえている。
ただ先程の戦闘では、上手くその動きが出来ていなかった。
あと、恐らくだが、
この娘は搦め手などに騙されやすいのではないか?
そういう者は一定数いるからな。
実戦経験を積めば、そこは矯正できるはずじゃ。”
滅ぼされた魔法帝国のエルフ
”次は魔術のほうだな
短い詠唱の低レベル魔術だが、発動が遅い。
これでは、いざ戦闘になった時、魔術が間に合わぬ。
魔術師にとって、低レベル帯の術は牽制にも使われる。
才云々は恐らくこの発動の遅さにあるのだろう。
戦いでは敵も動き回っている。
狙いを着けるにも発動の遅さは致命的だからな。”
”しかし、この娘、術や魔力の使い方がとても丁寧だ。
発動自体は遅いが、その分、制御は精密と言える。
今の世では強力な魔術などないのかもしれんが、
こういうタイプは大魔術を使うには長けている。
大きい魔術はとにかく制御が難しいからな。
娘の丁寧な制御は、それに向いている。”
討ち果たされし竜
”ふむ、ということは、あの忌まわしき剣を抜くだけの素質は、
あるというわけか。”
朽ちたドワーフ王
”そうじゃな、しかしこの娘はあまり戦闘向きとは言えない、
性格のようじゃぞ”
”あの娘っ子らに言われて、俯くほどの気弱さじゃ。
とても鬼神のような勇者の後継とは言えぬな”
討ち果たされし竜
”まあ良い、鍛えてみよう。
娘も望むところだろう。”




