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鍵師のおしごと  作者: ちさここはる
EP4:王族の地下迷路金庫開け依頼編
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第49話 鍵師は帰る路を選んだ

 メイニー王国の新王デレデールは、想像から画した人物だった。



「やぁ! 功績者たちよ!」



 男の声にしては高音で、男のはずが完璧な厚化粧顔。キラキラとした淡いピンクのドレスをふわりと揺らし、はみ出る足は細く大きい赤いハイヒールを履いている。

 

 表情は十代の少女だ。


 宰相ミューズが少し離れた場所で、腕を組んだ姿で後ろから、オレたちを無表情で見ている。どういう心境で、この場にいるのも伺い知れない無表情の顔だ。

 

 腹が読めない相手は、勘繰りたくなるが止そう。


 そんな真似なんかする必要なんか、もうオレにはない。



「僕の戴冠式で使うものを、地下ダンジョンの金庫から持ち出してくれたことを感謝しているよ」



 耳のイヤリングもシャンデリアの灯りに眩しい、煌めいていて見ていられない。目を細めてしまうぞ。


 若いからなのか、それとも王族の血筋か、きっと多くの市民や他の国の要人たちですら見惚けてしまう――次世代で頭一つ分、突き抜けた新王なのかもしれない。

 


「いいえ、私や鍵師も仕事をしたまでの話。報酬を頂け次第、解散をして帰ります。」


「新王様、報酬を頂けますか」



 オレは新王の前に立って、仕事の報酬を求めた。身長はオレよりもあって見上げる首も痛いってのに「ダメだ」と一言、低い口調で断られてしまう。



「え」

 

「おい! ミューズ! 仕事の報酬を寄越さねぇと、どうなるか分かっているんだよなぁ」

 

「ジョイさん。相手は――」



 宥めるオレにジョイの鋭く吊り上げた目で睨まれた。

 びく! オレの身体も大きくビクついてしまう。相手は次世代の新王となる若者だぞ。どうしてそんな怖い表情をオレを睨むんだ。


 オレたちが言い争っていると、デレデールはもう一人の功績者の元へと、身軽にも数メートルと跳ね飛んで行く。


 デレデールの身体能力と行動力に、ジラゴも全身を強張らせて無言で睨んでいた。身体にはジョイからの毛布を被さったままの出で立ちだ。



「あれぇ? 君は、どこの種族の方なのかな?」


(アタクシ)は竜族。ダンジョンの番人により命を受けた後継者のジラゴじゃ」



 尻尾を左右に大きく揺らして自己紹介をする彼女に「竜族だって!」とデレデールの目が大きくなって輝いた。明るくなった彼の表情に彼女もドン引きで、オレたちに顔を向けてジェスチャーを送っている。



「…………(助けて、と言われてもなぁ)」



 そんな真似をされたって、オレは何も出来やしませんよ。弱ったなと、思っているとジョイが「いいから、報酬をくれよ。新王様」と迫力のある表情を浮かべ、礼儀や警護もない口調でズカズカトデレデールへと近寄って告げた。

 

 拒否は許さないといった口調じゃないか、おいおい、大丈夫なのかぁ。



「報酬は戴冠式後でもいいじゃないのか。見ないで帰るのは、あまりにも僕に対して、失礼じゃないのか」



 ぷぅと頬を大きく脹らませる戴冠式の主役。オレはジョイの背中を引っ張った。


 新王が、望むのであれば叶えて、終わってから報酬を貰っても遅くはない。

 

 まだ、異世界にいる理由が出来るんだからな。



「はい、オ、……私たちは戴冠式を見て帰ります」


「はぁアア?」



 不服を言葉と顔、態度でダダ洩れなジョイに、オレも勘弁してくれと思うしかない。

 相手の機嫌をとることでしか報酬を貰えないのなら郷に従うべきだろう。


 オレの従うという言葉に「そうしなよ! 悪いようにはしないからな」と満面の笑顔からは神々しい光りさえ漏れ出ているように見える程に眩しいったらない。



「じゃあ! 僕の王宮に行って語り合おうじゃないか!」

 

「こほん。新王様、彼らはひと仕事終えたあとにございます。しばし、(いとま)を与え、戴冠式に赴いて頂いた方が宜しいかと存じます」

 

「あ。ああー! そうだね、ミューズの意見は真っ当で正しいよ! でもさ!」

 


 ()()()の言葉にオレは息を飲んだ。

 顔から笑みがなくなっているんだから、この場にいる全員が恐怖しただろう。

 

 怖がらない人物がいるとしたら、その手綱を持つのは宰相ミューズだろう。



「暇を」



 硬い口調に「わかったよー」と拗ねた口調で、ようやくオレたちは地上に生還をするのだった。

 

 白々しく夜の顔から朝に移り変わる空模様と温い風に目が醒めた。それでも、少しは眠らなきゃいけない。いや、オレの報酬は――……。



「ジョイさん」

 

「報酬は次に逢えた時に手渡す、それでいいかな?」

 

「次があればいいんですが。子どもたちに渡しても構いません、よろしくお願いします」

 


 ぎゅっとオレは鍵を握った。

 覚悟はもうとっくに出来ている。

 

 ほんの少しだけの後ろ髪を引かれる気持ちが生まれる前に、行かなきゃいけないんだ。旭川に!



「……お疲れちゃん」



「失礼します」



 彼に深々とお辞儀をして、オレは宙の扉を開けた。

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