第45話 竜の反撃
オレの瞳に映し出されたドラゴンの尻尾は彼に届かなかった。
「私が誰なのかっ!」
大きな雄叫びに「ぅお」とオレも驚きを隠せない。こういう局面で相手に吠えるのは普通なのかとドン引きで、どう反応していいのかと彼の背中を見入ってしまう。
大きい背中が、大丈夫だと雄弁に語っているようだ。
「言ってみろぉオオ!」
彼が尻尾を宙にどうやって弾いたのかは分からないが、勢いそのままに飛ばされた。
一体、何が起こっているのかと、オレは困惑をするしかない。自分がどんな顔をして、この場にいるのかと心配になってしまう。
「おい。クボヤ鍵師!」
口調が荒い彼の言葉に「はいっ!」としか言える空気なんかじゃない。
オレなんかより経験値があって、どんな修羅場も潜り抜けて来た猛者だ。戦闘から培った自信が彼の度胸を太くして【ダ・カポネ】の名前を背負っているんだから。
「見惚けている場合じゃないぞっ!」
「どうしたらいいんでしょうかっ!」
蜘蛛が竜の方へ金銀財宝の山をジグザクと奔らせる。蜘蛛の身体も大きく揺らせて突き進んで行く中、オレも作戦を教えて欲しくて「教えてください!」と声を大きく弾ませながら聞いた。
「竜をどうしたらいいんですか!」
「倒すしかねぇじゃんかぁー」
何を言ってんだという顔がオレを見つめて、にっこりとほくそ笑む。彼の表情に、オレも安堵の息を少し吐いた。訳が分からない状況に強張ってしまった身体も、いい塩梅に解れたてよかったとは思うよ。
「だから、どうやるのかを教えてくださいよっ!」
「指示を待ちな! クボヤ鍵師ぃい!」
彼にも考えがあるんだろう。とは、思うところはあるにはあるんですけど、これ以上をとやかく聞いても、彼から繰り返しの言い合いにしかならない。
なら、もうオレも「はい」と頷いて指示を待つしかない。
状況を見届けていかなきゃいけない。見誤ってはいけない。
瞬きをしちゃいけない局面が――今なんだっ!
ジョイが行動を起こした。彼の動きを竜も追うように、顔を動かす様子が見える。
オレたちを攻撃対象として距離感や位置を確認している様子だということが明らかに分かる。モンスターだとしても、相手は知能が高い獣だ。
「…………(侮ってはいけない)」
オレは瞬きをしないで、ジョイと竜を強く見つめた。
新王の戴冠式に神器が間に合わなかったら、オレやジョイも処刑されてしまうかもしれない。一国の命運がオレたちの肩に乗っかっている以上は、失敗は許されないんだ。
「…………(ジョイさんからの指示を見落とさないようにするんだっ!)」
彼の身体の周りに黒い球が浮き上がった。さらに、何重もの魔法陣が回っている。圧倒される魔力に、オレも息を飲み込むことも忘れてしまう。
身体にもどうしてか大量の汗が浮かび上がる。状況に身構え始めていたオレを他所に、彼の腕が竜へと振り落とされた。
「『竜の身動きを封じろっ!』」
黒い球が竜へと飛んでいくと楔の形に変わって、あっという間に竜を拘束する。身動きを封じられた竜も大きく動くが楔は解ける様子もなく、じゃらじゃらと音を鳴らしている。
竜の巨体が山になっているものを飛び散らせて勢いで倒れ込んだ。大きな音や衝撃でダンジョン内部も激しく揺れる。竜の口から漏れる咆哮が鼓膜に響いて、きぃんと鳴る。
「っく!」
耳が痛くて押さえたかったが、彼の支持する言葉を聞き洩らしてはいけないと唇を噛んで耐えた。
おかげで瞬きもしないで見ることが出来る。たとえば、金庫の上に「っちょと、金庫のっ!」と竜の巨体が乗っかるように倒れた様子もだ。
「あらまぁ」
「ここまで計算してましたか?」
「んな訳ゃないだろう」
思いもしなかったとばかりにジョイの言葉が、どこまで本気なのかと疑う中で、オレたちを乗せた蜘蛛が、楔に拘束され身動きが出来なくなった竜の前に着いた。
「よっと」
ジョイが蜘蛛の上から浮いて降りて、竜の前で両腕を組んだ。オレも降りていいのかな、と彼と同じように浮いて横に並んで竜を見た。
「巻きついてる楔は解けな――」
「舐めるんじゃねぇや。誰がやったのか見ていなかったのか、クボヤ鍵師よぉ」
「はい、すいません」
オレは目で竜を確認するように見れば、身体に手足、羽根にも巻きついている。
いや、待てよ。一番大事な個所に楔がないじゃないか。横にいる彼の肩を強く掴んで、本能が危険だと名前を呼んだ。
「ジョイさんンん!」
「なんだよ? ……あ?」
竜の顔が前にいるオレたちの方に勢いよく向けられた。竜の喉元が急激に眩しく輝いて、一気に口腔内から閃光が溢れ出て――オレたちに直撃した。




