第43話 ダンジョンと竜
門の向こう側へオレたちを乗せた蜘蛛が突き進んで突き抜けた。
「おわ!」
「これはすごいな」
廊下一面の黄金が灯りに照らされて輝いているじゃないか。これは罠なのか。それにしても、数も量なんか、絶対に桁違いでおかしいんじゃないですか。
「金銀財宝ってのはこういうのをいうのかもしれないな」
ジョイが感慨深く言葉を吐いたことに、オレも黄金に心を奪われて言葉を失っていた。そんなオレの肩を叩いてくれたことで、はっと意識が戻る。
「クボヤ鍵師、戻って来いよ」
見惚けてしまったことが恥ずかしい。
オレはバン! と両手で頬を弾き叩いて顔を左右に振った。
「行きましょう!」
「へぇい」
にこやかにジョイは前を向き直って蜘蛛を走らせる。その路には沢山の財宝と呼べる障害物があって、蜘蛛の足が踏み上がる度にオレたちの身体も浮き上がった。
障害物でしかない財宝は見たことのない程に山済み状態。一体、誰がこんな真似をしているのかと不思議でしかない。しかし、ここでジョイが「嫌な予感がするな」と小さな口調で言葉を吐いた。
「モンスターが、集めたものだったりしますか。まさかの」
「あり得る。ただ、その集めた犯人が、私の想像通りなら――厄介な相手だぞ」
「財宝を集めるのが趣味のモンスターっているんですか?」
オレが知る限り。光物を集めるのが好きなのは鳥としかイメージはない。
それに似たモンスターが異世界のここにはいるということか。それにしても、これほどに膨大な量は、決して小さいモンスターではないだろう。個体ではなくて、集団でここまで収集したはずだ。
たとえ小さいにしても膨大過ぎる。その当時いたと思われる番人に駆逐はされていると思いたい。
あれからかなり経っている以上、つまり、数も多くなっている恐れもある。何事もなく金庫を開けられる環境はジョイがいるから仕事もやりやすくなって有難い。
どこにいるか分からない以上、現場的には堪ったものじゃない。
「ああ。あまり考えたくはないが――竜だな」
オレは絶句してしまう。もしも、万が一にもそうだったとするなら、ここは竜の巣ということになるじゃないか。出入口もどこかに大きく口を開けていたとしても、どこかは検討もつかない。
「竜ですか」
「光物が大好きで収集癖あるのは、あいつらぐらいだからな」
確信に迷いのない言葉を言う彼に、オレの喉が鳴ってしまう。竜なんか噂でも耳にしたことなんかない。それこそ、もう古代で滅んだ種族ってオレも思っていたよ。
だというのに、まさか違う国にはちゃっかり生息して生きてましたとか、後出しにもほどがあるんじゃないのか。安直過ぎるんじゃないのか。異世界だからってとってつけたような設定はどうかって話しですよ。
「国が違うというだけで、滅んだといわれる竜が生きているだなんてことはあり得るんでしょうか」
「さぁな。もしかしたら国家機密ってやつかもしれないだろうが」
「竜を繁殖させて、何かに使う気だったりとかですか」
あり得なくない想像を口からジョイに告げる度、オレの心臓が大きく高鳴ってしまう。いまさらながら、本当にオレは異世界で生活していたのかという実感が湧いたからだ。
いままで子どもと仕事中心の生活で、活動エリアも狭くしていたこともあって、他国とかにも出たことがなかったことを後悔をした。
子どもたちが成人して選択した世界は正解だったと、父親のオレは恥ずかしい気持ちに苛まれてしまう。
エルフの森へ一緒に行ったときも思ったが、もっと、子どもたちと一緒に外へ出るべきだったんだ。後悔が次から次に沸き起こる。
「ああ。竜はあらゆる万物の頂点に立つ神獣であり、魔獣でもある。どんなことにも余すことなく使うことが可能でもあるし」
「そうですよね」
「政治的にも、軍事や貿易と利益にしようと企てる国はあるだろうし、売り買いともなれば引く手数多だろうさ」
もっともな見解を口にするジョイへ問い掛けるように「ですが。非人道的ではありませんか」とオレも自分が思うくらいに低い口調で問い掛けた。
「所詮は人間風情が浅ましく、厭らしく考えることだ。尻も拭けない連中がまともなことをするなんて期待なんかは捨てることだな」
前を見据えたままジョイが答えてくれたことに、オレも言い返した。
「竜じゃないことを祈りますよ」
「貴様はピュアで可愛いな。この世界でよくきれいなまま、生き残れたか知りたいね」
「神からの祝福のおかげでしょうか」
本当にオレは異世界で生きていくためにいい能力を貰っていたんだな。
悪態ばかりついていたことを反省しなきゃいけない。この歳で、このやりとりでやっと思い知らされるなんて、オレはなんて鈍感野郎だったんだろうか。
「…………(彼女は神様だ。謝らなきゃいけないな)」
次に会うのは旭川へ帰るときに謝罪をするとしよう。
今は目の前の問題を片付けることに集中だ。
【間もなく、第三の金庫配置場所です】
人工的な女性ガイダンスが告げる言葉から、オレも緊張して身体が強張ってしまった。
そのことにジョイも気づいたのか「柔軟体操でもしておけよ」と命令口調で言われる始末だ。




