第41話 ダンジョン外部からの覗き見サイド
王国地下ダンジョンから王宮に戻った宰相ミューズは、机の上に置かれた大きな水晶玉よって立体的に周りに浮かび上がる映像から、二人の動向を魅入っていた。
彼がいるのは新王デレデールの自室。
大きなソファー椅子に座って足を組んで目を輝かせる。
「おお」
「この者たちが、僕の戴冠式で使う神器を、ダンジョンの金庫から出してくれるのかい?」
当然、主も一緒に水晶からの映像を興味深そうに釘付けになっている。
愛人の子どもであったデレデールが新王になった経緯は複雑だが明確で、王の血筋が彼しかいなかったから、なのだ。
本来、王になるとは思いもせずに生きて来た彼は、自由気ままと機転の利く鼻と頭脳があった。非常に眼もよく、他者を見抜く能力に長けて、上手く大人たちを手玉に取り、今に至っている。
容姿端麗だが、二十一歳と若いデレデールには悪癖もあった。
「この二人にもお化粧とかしたら可愛くなるだろうなぁ」
「……顔はいいですからね」
「ドレスも、どんなのが似合うかなぁ」
うふふ、と笑う。デレデールは長い金髪を三つ編みに花の髪留めで縛り、真珠のピンを髪に飾っていた。長いまつ毛もラメで煌めき、厚みのある唇にもピンクのグロスが塗られている。
太くきちんと整えられた眉毛に、輪郭も細い顔の中、切れ長で細い藍色の目が細められた。
細身である自身の身体に、布面積が少ない女性ものを男性用に仕立て直したドレスを纏わせていた。
幼少期。産みの母親から外部にバレないよう女の子として育てられていたこともあって、落ち着くのだと普段着となっていた。
「僕の戴冠式にも功績者として、招くのはいいんだよね? ミューズさん」
「まぁ、金庫からすべての神器を取り出されて戴冠式にあればいいですね。あとは、彼らがご存命であったのなら――許可しましょう」
ミューズの言葉に、デレデールが勢いよく立ち上がって両腕を上に大きく伸ばした。突然の動きに「新王様、はしたないですよ」と短く注意をする。
彼の視線は、水晶から映し出される映像を見据えたままだ。
「おや。クボヤ鍵師が門へと行きましたね。あれ、何か一緒にいるようだ」
「第二の金庫は、あの門の向こうにあるのか?」
デレデールがミューズに聞くが、どうだったかと彼が首を傾げた。あてにならない宰相から目を反らして、水晶から溢れる映像に視線を戻し、指先の背を噛んで魅入る。
行動するショータの動きに「え」と噛んでいた唇も大きく開いた。
見開いた瞳には――門の奥から這い出て来た蜘蛛の集団にショータが手を向け、バタバタと地べたに崩れ落ちて行くのが見えた。
さらには巨大な蜘蛛が姿を現して来るのが見えた。さすがにもう成す術もないだろうとデレデールも両手で顔を覆い隠してしまう。
「鍵師の彼は本物ですよ」
「そんなこといっても! モンスターを鍵師が倒せるはずなんかないじゃないか!」
真っ暗な視野のなかでデレデールがミューズに言い返した。ショータのこともみられないとばかりに目をぎゅっとつぶっている。
「しかし、他国の人間が見たことを聞く限り――彼には神の祝福を得た者。決して傷を負うようなこともないでしょうね」
強い口調のミューズの言葉に両手で覆われた瞳が映像を見た。
「あの巨大な蜘蛛をっ」
「一緒にいるのはダ・カポネ三兄弟。闇術師ジョイが足止めをして、そこを仕留めていましたよ」
巨大な蜘蛛の前で二人が立ち竦んでいた。何かを言い合っていたが水晶の映像からは聞こえない。だが、倒した事実だけは分かる。
デレデールの表情が、ぱぁ! と頬も朱に染め明るくなった。
「これはもう! 神器を集められるんじゃないか? ああ! 早く会いたいなぁ~~」
立ち上がって長いスカート丈を手にして興奮してデレデールが躍り出した。手が負えない新王にミューズも眉間にしわを寄せたが、もう何も言うことはしない。
ただ、会いたいという言葉に「私はもう会いましたよ」とドヤ顔で言い返した。
彼がこれから、自身の国の脅威にならないかという一抹の不安は残る。
「とりあえず、第二の金庫はあったようです」
今は神器を金庫から取り出せる人材は彼らしかいない。時間も僅かしかない現状に、するべき決断は二の次である。
「あとは、……玉座の第三金庫だ」
一刻も早く神器を戴冠式に揃えろ。と願うばかりだった。




