第39話 第二の金庫に至る前の蜘蛛
矢印が差す方向にオレたちはジョイからの「体力温存しよう」という提案もあって、空飛ぶ絨毯の魔具で進んでいた。
妖怪の一反木綿。その形状に似た太く短い二人乗り用っぽい絨毯の上、前がジョイ、後ろでオレがお腹に腕を回して抱き着く格好でいる。
上に高く飛ぼうとすることは出来たが、そうはしないで真ん中を飛ぶ。理由は「罠とかあったら大変だろうが」ということでしたね。
「じょ、ジョイさん。この絨毯って安定感がない、ですよね。重心が」
「そうか? 慣れだよ、慣れ! ちゃんと掴まってろよっ」
ジョイの強い言葉に絨毯も勢いよく突っ切って行く。
前から来る風がジョイの髪や服をなびかせる。オレにとってはいい風よけだ。
「…………(前が見えないから、どうなっているのか見たいんだよなぁ)」
ひょい、と顔をジョイから出して見た。高速道路を時速百キロオーバー越え並みの速度だということが分かって、慌てて顔をジョイの後ろに戻した。
心臓がバクバク鳴って、身体も身震いが起こってしまう。
「おいおい。危ないことしてんじゃねぇよ、クボヤ鍵師ぃ」
「っす、すいません」
ジョイの背中にオレも謝った。
「まぁ。これからがお愉しみだ。クボヤ鍵師ぃイ!」
「はい?」
ゆっくりと絨毯の上にジョイが立ち上がったことで、お腹に巻いていた腕も解けてしまう。オレの命綱だというのに!
「ジョイさん?」
「歓迎部隊が来たぜ!」
前に立ち上がったジョイの隙間から歓迎部隊を確認することが出来た。
(巨大な蜘蛛たちと百足の御一行じゃないですか)
ふむと考えようとしたときジョイにまた「何もしなくたっていい」と言われた。
体力の温存が理由なのは分かりますが、言い方がなんだかなぁ。
「鍵師の手は、こういうときに使うもんじゃないかんなっ」
詠唱もなしでジョイの周りに黒い球が浮かび出ると左腕を前に伸ばして「行け」と短く命じた。言葉に反して黒い球は勢いよくモンスターたちに飛んで行くじゃないか。
また、さっきみたいな爆風が来るのかと目を瞑って身構えたが「あれ?」と思ったものが来なかったから目を開けて攻撃した先を見る。
黒い球が巨大な蜘蛛、さらには百足を飲み込んで消えていくという状況が起こっていた。
「え?」
「一緒にいる相手のことを考えろと言われたから実行してやったぞ。爆風や爆音もないだろう? どうだよ、クボヤ鍵師」
ドヤ顔するのが見える声だ。お願いしたことをきちんとしたことは感服するよ。
ここは素直に「すごいですね。ありがとうございます」と伝えると、どかりと前に座った。
「私は三兄弟のお兄ちゃんなんでね、カッコ悪いところは見せられないのさ」
「頼もしいですね」
「もっと褒めてくれちゃってもいいんだぜ? クボヤ鍵師」
調子つき始めた彼にオレは「早く、第二の金庫に行きましょう」とだけ言った。
◆
【まもなく第二の金庫です】
矢印の人工的女性ガイダンスの声、その先に門が在った。蜘蛛の巣が無数と、上には卵もある。まだ孵化もしていない状態だが、いつ孵るか分かったものじゃない。
「あの巣の蜘蛛が主だったのかもな」
「ここから、どうやってオレたちが来ていることを分かったんだろうなぁ」
「蜘蛛の巣の糸にでも触れたのかもしれないな」
キレイに見えるダンジョン、この内部に張り巡らされた蜘蛛の糸があっても、不思議なんかじゃない。むしろ納得の状況だよ。ないことが有り得ないってもんだよ。
門の向こうに第二の金庫があるのか。いや、待て。さっきは天井にあったじゃないか。なら、他の金庫も正当に置かれているってのは――あり得ないんじゃないのか?
「…………(こう思わせることが目的の罠だったのか?)」
押し黙ったオレに「無駄に考え込むなよ。頭も使うんじゃない」と苦笑交じりにジョイが言う。
「じゃあ、金庫は普通に門の向こうにあるって思うんですか?」
「生憎と私は絶対とは言えるほど感知能力は低い方だ。貴様が期待する言葉は言えないな」
オレたちは門の向こうを見据えて、まずは蜘蛛の巣を壊さなきゃならない。
第二の金庫は、それからと思った矢先で――目の前にきれいな糸が見えたかと思えば、オレの視界が真っ暗に覆われてしまった。




