第37話 第一の金庫の守護神と中身の王冠
「《カップ=ヌゥダールの名において命ずる!》」
天井に蝙蝠たちといた黒い金庫とオレは対峙をする。
「《初めまして。オレはクボヤ鍵師です》」
自己紹介をするオレの周りは真っ白く、前には巨大な頭部があった。
全体に巨大な眼球が沢山ついてて悍ましいったらないな。さらには無数の羽根が生えていて、その一枚づつの羽根にも瞳が均等に在る。
こりゃあ、ぶったまげだ。神話図鑑で見たことがあるような容姿じゃないか。神々しさと禍々しさが、なんとも言えないコントラストじゃないの。
「《鍵穴が腐食してしまっていまして、鍵師のお、私が開錠しに来たのです》」
『神に愛された御子が新たに国を統治するのだな』
「《ですので、神器である王冠を貸して頂きたいのです》」
ぎょろりと無数の瞳がオレを一点に見る。羽根もオレの頭上で瞬きをしていることに、何か居心地もよくない。
何か、気に障るようなことをしてしまっただろうかと、相手の出方を待ってオレも引き下がらずに見続けた。
「《明日。新しい王が貴方たちに――跪いて忠誠を使う僕になるでしょう》」
『貴様は?』
巨大な頭部の意図が分からない。だから、上擦った口調で言い返してしまった。
「《……え? お、私ですか?》」
『ああ。貴様は傅くのか』
「《私は異世界から来ていまして、無宗教と言いますか……》」
相手の機嫌を損なわないように、こちらの事情もきちんと伝えた。つもりだ。
ばさり、と羽根がオレの全体に乗っかった。巨大な瞳も乗っていたが重みは一切、なかった。
「《王冠を貸して下さい》」
オレは欲しいもの告げた。これ以上の話し合いは時間の無駄だと思ったからだ。
相手はどう思ったのか分からないが『カップ=ヌゥダール様も、悪趣味だ』と小さく苦笑で言葉を弾ませている。
『許可する』
「開っっっっ錠!」
ゆっくりと扉が開くと「おお」とジョイの表情が和らぎ目を輝かせていた。
金庫の中から見える王冠の姿にため息が漏らしてもいたが、すぐにオレに指示を出す。
「おい。王冠を取り出して見せてくれよ」
「はぁ、ちょっと待ってくださいよ」
「休むな、怠けてるんじゃねぇ!」
いやいや。少しは休ませて下さいよ。怠けている訳でもないのは分かっているじゃないですかっ。
ジョイさんは頭部だけで手足がない。今の状態では取り出すことも出来ないから、仕方ないのは分かりますけどね。
「分かりましたよ。出せばいいんですね!」
オレは金庫の前に跪いて扉を開いて、中の王冠を覗き込んで手を差し込んだ。
何も施されていないことに、どうしてこんなにも何かあるんじゃないかって思ってしまう。もう悪い癖みたいになってしまっているな。
「よっ……っと」
豪華絢爛。王冠の装飾も当時の技術が今以上に、職人に腕もセンスなんかもよかったのだと分かるもので――王冠の前ではため息しか吐けない。
王冠を触っている両手が重さのせいで小刻みに震えていた。赤ん坊だったとき、子どもたちを沐浴させたとき並みに緊張しているぞ。
「こりゃあ。時価金額もつけられないな、落とすなよ。クボヤ鍵師ぃ♡」
「それで王冠はどうするんですか?」
金庫の前から立ち上がったオレは、掌の中にある王冠を早くどうにかしたくて、堪らないんだ。
狼狽えるオレの傍にいたジョイがにこやかに告げる。
「私が預かる」
「どうしたらいいですか?」
「鳥かごの扉を開けな」
王冠を持っていて両手が塞がっていることもあって「開錠!」とオレは言葉で手っ取り早く扉を開けた。
「王冠を突っ込めばいい」
「突っ込むんですね? 分かりましたっ」
オレはジョイに言われるがまま、鳥かごの中に突っ込んだ。なんの抵抗もなくすんなりと入ったことに驚かされたよ。
王冠を持っていた手をオレは見た。掌に何か文字が写っていて「ぇえっと」と文字を読んでいた。
「時間がねぇんだろうが! とっとと行くぞ!」
荒げられる声にオレは手を握り締めた。
確かに、時間は惜しい。オレもそう思っていたはずだ、しっかりしなきゃな。
まだ、第二と第三、そして、第四の金庫がダンジョンの奥でモンスターと一緒に待ち侘びているんだからな。
「はい!」
写った文字にはこう書かれていた。
「…………(第二の金庫に進め、ですか)」
言われるまでもなく行きますよ!




