第36話 第一の金庫と在り処
女性音声ガイダンスの言葉に案内されるまま、オレたちは矢印の差す方向の前に足を進ませて行く。
「中は薄暗いな」
「何? 少し明るくするか?」
「ええ、そうしましょう」
オレは「《光りの神よ》」と指先を宙で軽く回した。すると、三つの光がゆっくりと回って、頭上を照らしてくれる。
明るくなってより鮮明に、辺りを照らす光りを見上げて「明るくていいじゃないか」とジョイがオレに呆れた口調で吐き捨てた。
「だが。消させてもらうぜ」
「え」
ふっ、と元の薄暗い場所に戻されてしまう。
まだ、足元が見えるだけましなのか。前に進めるだけいいとするしかない。止まる訳にもいかないですからね。
しかし、ゆっくり歩いたままでも言わせてもらう。
「いきなり消すなんて、あんまりなんじゃないですか?」
「貴様は力の温存を優先させな、クボヤ鍵師」
強い言葉の後に、辺りが眩しい程に明るくなった。
「ジョイさん! っま、まぶしいですっ!」
「ああ、すまないな。加減が難しいったら」
ゆっくりと灯りが調整されていくのが分かる。ただ、一体、どうやっているのかオレには分からないな。
でも、仲間ってのは――本当にいいものだということは分かる。頼れる存在、仲間というのは本当に嬉しいもんだ。
「これくらいの灯りでいいかな?」
「はい」
「よし。では、第一の金庫まで一気に行くぞ」
オレは顔を大きく頷かせて足を走らせた。
◆
【第一の金庫に到着しました。中身は王冠です】
彼女が言い示した場所。そこにオレは立ち竦んでしまう。入口から少し経ってない上に踊り場のように広い訳でもない。
周りを見渡しても金庫らしいものの、姿や形なんかもないじゃないか。
「到着って言ったって、おいおい。どこにあるって言うんだ」
「……アレじゃないのか? 天井のやつ」
「天井、です――あ!」
鳥かごの中のジョイさんの言葉に、オレも顔を天井に見上げた。
確かに何かが天井に生えている。そこへ鳥かごも浮き上がっていった。オレも行こうとしたが「怒られそうだな」と下で待つこと、数分。
ジョイさんが天井にあった生えていた黒い金庫と一緒に降りて来た。
「天井に埋まってたな。こんな状態だっていうことを私は聞いてないぜ」
「地図を聞いたときに金庫状態なんかは」
「聞く訳ないだろぉう。金庫だぜ? 金庫!」
金庫は地面に置かれているという認識が、一個目の金庫の状態で呆気なくも崩れ去った。
宰相はついて着てはいないから聞き返すなら戻るか、神たちに協力を促して、伝達を頼むしかする術もない。
「ま。いいや、一個目はこうして手に――」
「っじょ、うしろ! 後ろだ!」
ジョイの言葉よりも、鳥かごの背後の影をオレは指を差した。
影の正体は天井から降りて来た蝙蝠の大群だ。一斉にジョイの周りを取り囲んでしまう。
オレは「っど、どうしたらいい?」と狼狽えてしまったが、することは決まっているじゃないか。
「《炎の神よ! 蝙蝠たちを一掃し――》」
「散れ!」
オレが炎の神に力を借りようと詠唱をしたと同時にジョイが攻撃を仕掛けた。
蝙蝠たちも一網打尽と逃れた蝙蝠は天井に逃げていく。
「モンスターの分際で人間様に攻撃しやがって! 大丈夫か、クボヤ鍵師っ」
「はい、大丈夫です! さっさと金庫を開けちゃいましょう!」
このまま惚けてしまっていて、また、いつ、天井の蝙蝠たちから襲われるか堪ったものじゃないですからね。
蒔かぬ種は生えぬってやつだ。いい結果のために小さいことからこつこつと、行動を始めていくべきだろう。
オレは大きく深呼吸をして金庫の前に立ち膝をついて、全体を息を止めて素早く確認をする。
幸いなことに、何か怪しい仕掛けや術は金庫に施されていなかった。




