第34話 宰相との駆け引きと鳥かごの中の顔馴染み
王国の地下にあると思われる石垣の壁。
さらに、目の前に置かれていた鳥かごの中の頭。
「胴体は、どうされたんですか?」
身体を前に屈めて鳥かごの中、彼である頭部に聞いた。
「この鳥かごに何か仕掛けがあるんですか?」
「ああ。鳥かごは私が創った魔具なんだよ。色々企業秘密だから教えられないけどさ。胴体はきちんとあるから安心なさいっての」
鳥かごを持って話そうとしたオレを他所に、鳥かごが浮かび上がる。
オレの身体が、つられるように上へと向き直っていく。
「私も忙しいからな、鍵師が貴様じゃなかったら受けなかったよ」
彼が緊急で入った無茶苦茶な仕事依頼を引き受けた経緯を、オレに言い放った。
お互いの見合う顔、瞳の中の彼がほくそ笑む。ブブルブ王並みにキレイな顔で見惚けてしまいそうにもなるな。
「どうして、オレなんかが」
「おっほん。それは僕が教えましょう」
メイニー王国の宰相ミューズ=アルヂレが、後ろに腕を組んでオレを見下ろして話し始めた。
「クボヤ鍵師。踊り子メアリー・アンの父親だそうだな」
満面の笑顔で娘の名前を口にする。
「彼女は仕事が終わった後。僕に、父親であるクボヤ鍵師の仕事アピールを受けたのを思い出しましたんです」
ずがん! 頭に叩かれた感覚が蘇ったかのように疼き出す。
タイラーじゃなくて、メアリー・アンも、そんな真似をしてくれていたのか。さすがは兄妹だよ。
「ブレないな」
思わず諦めと子どもの行動力に声が洩れた。それにミューズも「なんの話だ?」と首を傾げる。
聞かれた言葉に、漏れてしまった声にオレも手を軽く振った。
「いいえ。こちらの心の声が漏れ出てしまっただけです。お気になさらず」
「うむ。話しを戻させてもらう。金庫を開ける鍵師が来るからサポートを手助けして欲しいと闇家業ダ・カポネに依頼をしたのだ」
「私自身。今回の仕事依頼が飛び込みだったからな、こうして生首でサポートをする羽目になったということだ」
一人ではなく二人でダンジョン探索。
目的は【戴冠式】に使う神器を金庫から出すこと。
「ジョイさんがオレのサポートをしてくれるんですか」
「何? 不満なのかよ」
「いいや! とんでもないですっ、その、初めてなんです!」
この歳まで子どもだけを信じていた。たった一人で、神を従えて金庫と対話をして来て鍵師の生業を行って生計を立てて生きて来たんだ。
顔馴染みや知り合い、仲間なんかと一緒に仕事をしたことは一切ない。
「何が初めてだって?」
悪戯にジョイがオレに聞く。分かっているくせに何を言わせたいんだ。
くっそ、恥ずかしいんだぞ!
「仲間と一緒に、……仕事をすることがですよっ」
「よかったじゃないか。よろしくな、リーダー」
交えたいが手はない。ゆっくりとオレも立ち上がった。
聞きたいことが山ほどあるんだ。たとえば、今いる場所は一番、知りたいところなんですよね。
ミューズに聞くなら、今しかないじゃないの。
「それで、ここは一体どこなんですか」
「王国の地下ダンジョンだ」
ミューズの言葉に「地下ダンジョンですか」とオレも聞いた言葉を反芻する。
そりゃ、戴冠式で使う神器なら隠すに相応しい場所へ、金庫は置くってもんですよね。
「拉致もされましたから、仕事の依頼はお受けします。ですが――」
「何だ?」
「契約書のない仕事依頼はお受けしかねます」
頭を殴られて連れて来られた身の上だが、使用が明日と言うならオレが依頼を引き受けなければ、新王の即位もままならない。
新しい王国を背負う若い王様のために、オレも手を貸さなければ子どもたちに顔向けが出来ないじゃないか。
それに、オレのことを紹介してくれたメアリー・アンの行為にも、泥を塗ることになってしまう。
「つまり、契約書を交わせばいいのか?」
「そうですね」
「では、要望を聞くとしよう」
ミューズは「《聖霊よ、書き記せ》」と短く告げると周りに小さな光りが主張し始める。
「まぁずはぁ~メイニー王国での永久定住市民権、からの市民税の永久免除。ぅんでもって、王族直属の鍵師免許をあげてもらおうか」
「っちょ! ジョイさぁああアンんン?」
「それぐらい望んでもいい仕事事情だ。遠慮しなさんなっての」
ジョイの提案にミューズも周りの光りに話しかけている。時折、頷く様子だったが「以上でいいのか?」とオレに聞く。
いきなり、そんなことを言われたら。ああ、もう! 拉致されたときの頭が疼くじゃないですか。
「あと、二度と拉致とか手荒な真似はしないでもらいます!」
「ああ。それだけでいいのか?」
「ええ。それだけでいいです」
オレからの言葉を確認したかのように、光りがミューズの手元で紙に変わる。巻物のように長いものだ。
紙になったものの中身に目を通したミューズが「納得されたならサインを書いてくれ」とオレに手渡した。
受け取ったオレと鳥かごの中の彼が、一緒に確認する。言った通りのことが紙面に書かれていた。
「いいんじゃないのか? リーダー」
「まぁ。契約さえ交わしてくれさえいれば――オレは仕事をするだけだ」
「そりゃあ、そうだ。じゃあ、リーダー、サインをしなよ」
サインをしたら王国地下ダンジョンに入らなきゃいけない。
きっと、オレの異世界最後の仕事になるだろうな。
「ああ」
女神カップ=ヌゥダールの名において――オレは前を行く。




