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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト80 重要ソロイベント#3

 様々な魚やクラゲを見て回った午前中から時間が経過し、現在11時半。

 お昼の時間としては少し早いが、午後にイルカショーを見るために少し早めの昼食となった。

 そんな天子と翔が水族館にある飲食スペースに来ると、そこには既に多くの人が集まっていた。


「思ったより混んでますね.....」


「そうだね。もしかしたら、ここにいるほとんどの人が自分達と一緒でイルカショーのために集まった人達なのかもしれないね。

 どこかに座れるスペースあるかな......あった」


 天子がぼーっと人々の流れを見ていると、翔が一つの席を見つけ足早に移動する。

 その席は四人席用のテーブルであり、マーキングするように翔がそこに荷物を置いた。

 それから天子を手招きし、それに気づいた天子が移動し始めた時にふと気づく、


(あ......)


 天子の視線が捉えたのは、丁度翔の近くにいる男女の子供を連れた夫婦だ。

 その夫婦は席が貴重な四人席を取られてしまった様子にガッカリしつつ、その席に向かおうとする子供達を仕方なさそうに制止していたのだ。


 そんな光景を見て、四人席を二人で使うことになる自分に僅かな罪悪感が湧く天子。

 ただでさえ家族連れが多い場所で、家族団らんで過ごせる場所を自分達が奪ってしまったのだ。


 自分達二人であれば、別に外で食べることも可能と言えば可能。

 譲る可能性も考えたが、そこまでの勇気は出ず、結局その席から家族も移動してしまった。


 仕方ないと言えば仕方ない状況だ。

 こういった多くの人が集まる場所の飲食スペースはどうしたって早い者勝ちになる。

 そんなことはわかっている......だけど、それは無理やり気持ちを納得させてるだけでしかない。


「どうしたの?」


「いえ、なんでもありません。

 強いて言うなら、あまりこういう人が多い場所に来ないので人込みに酔った感じでしょうか」


「あー、なるほどね。なら、丁度休憩出来てラッキーだ」


 翔が心配そうに尋ねた言葉に、天子は薄っぺらい嘘で返答していく。

 なんだかこういった嘘ばかりが上手くなっている気がする。

 どこぞの誰かが、いつもいつも軽薄な態度を取るからだろうか。

 それともこの人だから嘘をついてしまうのか。


(ここに敬さんと来たならどういう気分だったんでしょうか......)


 加えて脳裏に過るのは、この場に居ない誰かとの妄想ばかり。

 案外周りを見ている敬のことなら、もしかしたらこの結果は違ったかもしれない。

 もちろん、勝手にそう思ってるだけだ。理想を妄想に押し付けているだけ。


 しかし、誰よりもその人を見てきた自分からすれば、その行動が容易に思い浮かぶ。

 そしてそんな妄想の自分は、もっときっと笑っている。


 相変わらず訳が分からないことを言う敬の横で、慣れたようなツッコミを入れながら、それでもそんな空気が好きで自然と笑顔になっている。


「この人込みだと荷物を置いて席を離れるのも危険だし、俺はここで席を見ておくよ。

 さきに買ってきていいよ。ここで待ってるから」


 翔が天子を気遣って優しさを見せてくれる。

 こういった小さな気遣いというのは、女性にとってエスコートされれるようで嬉しいだろう。

 しかし、天子はなんとなく思うのだ――これじゃないと。


 いや、きっと敬がここに来たとしても同じことを言うだろう。

 実際、それが正解だと思うし、行っていることもやっていることも間違っていない。

 しかし、違う......自分が感じる印象も、空気も、感情も。自分はわがままなのだろうか。


「はい、わかりました。では、先に行かせてもらいます」


「うん、気を付けて」


 そう一声かけ、天子はその席から離れ、厨房の方へ移動した。

 その場所には既に多くの人が並んでおり、特に人気なのが定食だ。

 どうやら現在コラボフェアが実施中のようで、それが関係して列が出来ているらしい。


 そういう列を見ると、天子は心理的に避けがちになる。

 全く並ぶ意思がわかないわけではないが、単純に人が多いことが苦手なのもある。

 しかし、それ以上にそこまで我慢して食べたくないというのが正直な所だ。

 というわけで、その基準で満たしつつ、あまり翔を待たせないラインで選ぶとすれば――、


「うどんにしよっかな。あまり食欲も湧いてないけど、これぐらいだったら入るかも」


 食欲が湧いてないのは、朝からずっと変わらない。

 こういう移動した場合には、少なからずお腹が減ってもいい所なのに。

 若干気分が上がり切っていないの原因としてあるのかもしれない。

 もっとも、その原因が先程からずっとわからないのだが。


 それから天子は冷たい天ぷらうどんを選び、席に戻った。

 翔はどんぶりものにしたようで、トレイに乗せたまま戻ってくると一緒に食べ始める。

 すると、そんな食事中に翔が話しかけてきた。


「うどんも美味しそうだね。好きなの? うどん」


「そうですね、食べやすいですし、案外お腹の持ちがいいですから。

 そちらのどんぶりも美味しそうですね。親子丼ですか?」


「そうだね。もっともご飯の上に乗ってるのは、鶏の親子じゃなくて鮭の親子だけど。

 あ、良かったら鮭の切り身食べてみる? こっちの方も美味しいからさ」


「え」


「遠慮しなくていいよ」


 そう言うと翔は自分の端でどんぶりの上に乗っていた鮭の切り身を摘まんだ。

 そして、それを天子の口元まで運んでくる。

 あまりに急な展開に天子は困惑し、表情が強張った。


 単純に聞かれたからそれに倣って聞き返しただけなのに、一体どうしてこうなったのか。

 というか、別にそこまでして食べたいとは思ってないし、その箸はすでに口のついたもの。

 いや、自分は間接キスとか意識するタイプではないが――、


「......わかりました」


 強制的に「あ~ん」させられたような状況に、天子の心が若干もやつく。

 こういうのはもっとイチャイチャした雰囲気の時にやるものではなかろうか。

 その空気が自分でもよくわかっていないが、それでも今ではないことは確か。


 それに、自分としてはどちらかというと「される」より「したい」方だ。

 普段自分がしないようなことをして相手を驚かせ、その反応を見たいというか。

 .......この考え自体、もはや一人のことを指しているのではなかろうか。


(......そっか、私は敬さんにしてあげたいんですね)


 翔から「あ~ん」をされてそれで思い浮かべるのがこの場に居ない人というのは、なんとも不埒な考えかもしれない。


 しかし、それが正直な気持ちなのだから仕方ない。

 というか、デートに来てからというもの、この場に居ない敬のことばかり考えすぎではなかろうか。


 いや、このデートを通して敬のことをどう思うかという幸が提案したコンセプト自体は満たしているか。

 なんだか色々と複雑な気分だ。あまりに言葉にしがたい。

 

―――数十分後


「本日のショーをご覧いただき、まことにありがとうございました。

 それでは本日の主役であるキョンちゃんに盛大な拍手を!」


 大きなプールの一角、そこに立つ水族館スタッフがマイクで告げる。

 直後、観客席からは盛大な拍手が飛び交い、その拍手に合わせてシャチが最後に大きくジャンプ。

 そんな芸でイルカショーは幕を閉じ、それを見ていた天子は高揚感につつまれていた。


 イルカショーなど家族とも見に来たことがあるかのレベルだ。

 それこそ、記憶がハッキリした状態で見たのは今が初めてかもしれない。


 芸達者なアザラシやセイウチ、機敏な動きを見せるイルカに、迫力あるジャンプを見せるシャチ。

 今回のイルカショーにおける天子の心を魅了してくれた役者達の存在だ。

 そんな彼らに、天子は心からの惜しみない拍手を送る。


「凄かったね」


「そうですね!」


「――っ!」


 隣にいる翔からかけられた言葉に、隣に敬がいるかのように返答する天子。

 そしてすぐに今目の前にいる人物に気付き、ハッと我に返って顔を赤くする。

 そんな天子の様子が珍しかったのか、翔は目を丸くすると、


「そこまで喜んでるのは初めて見るよ」


「そ、そうでしょうか......」


「うん、今までも楽しんでる感じはあったけど、イマイチテンションが上がり切ってない感じがしたし。

 でも、イルカショーでここまでテンションがあがるなんて......相当好きなんだね。可愛かった」


「あ、ありがとうございます」


 ストレートに言われた褒め言葉に、天子は恥ずかしそうにしながらもそっと笑った。

 どうやら相当子供っぽいところを見せてしまったようだ。

 年甲斐もなくはしゃいでいた姿を見られてしまったのは恥ずかしい。


「......他の皆さんもだいぶ移動されたみたいですし、私達も行きましょうか」


「そうだね」


 そう言って天子と翔は立ち上がると、席の合間の通路を縫って進んでいく。

 先を歩く翔の大きな背中を見ながら、脳裏では先程のショーで見た記憶をリプレイし、その度にこの喜び本当に共有したかった相手がいなくてショックを受ける。


 なんという身勝手な心だろうか。

 すぐ近くにこの場で今の状況を一番楽しませてくれる相手がいるのに。

 しかし、それでも考えてしまう。どうしても.....この気持ちからずっと逃げれない。


 いや、別に逃げようとも思っていないが、答えが見つからない。

 どうして自分はそこまで敬という人物に固執するのか。

 一番最初に助けてくれた相手であることは理解している。


 そんな相手がずっと近くで支えてくれたのだ。好意も抱きやすい。

 しかし、友愛だけでここまで敬のことを考えるだろうか。

 友愛であれば京華、夕妃、那智、宗次、一応悠馬にも抱いている感情である。

 なら、平等に感じていいはずのものを、どうして一人に限定しているのか。


「もう少しで答えが出そうなんですけど......」


 なんとなく喉まで出かかっているような感覚はある。

 たぶん、自分はその言葉を知っていて、それでいてその言葉を忘れているだけ。

 まだその感情を受け止める器の名前を知らないだけ――そんな感じがする。


「まだ時間あるけど......どうせなら行ってない場所に行ってみよっか」


「といいますと?」


「この先のちょっと移動した場所に触れ合い広場があるらしいんだ。

 ウニとかヒトデとかウミウシとか、そこら辺と触れるらしいよ」


「それは面白そうですね」


 というわけで、天子達はその場所まで移動。

 目的地にたどり着くと、そこには蓋の空いた大きく長い水槽に砂が敷き詰められており、そこにヒトデやウニなどが水槽の中でじっとしていた。

 そんな生き物達を、家族に連れられた子供達が興味深そうに触れている。


 なので、天子もその子供達に倣って右手でヒトデを掴んで感触を確かめた。

 このヒトデは思ったよりも固く、それでいて若干表面がぬるぬるしているのがわかる。

 ウミウシはもっとぬるっとした感じで、ウニはもはや予想通りであった。


「面白い感触だね」


「そうですね。なかなか触れる機会がないので新鮮です」


「触れる機会がない、か。それは俺も同じかな。

 だからこそ、これからは積極的に増やしたいと思ってる」


 その言葉に、天子が「そんなに水族館来たいのかな?」と思っていると、翔は何かを決意した表情で、


「天子ちゃん、この後少しだけ時間を貰えないかな」


 そんな力強い言葉に、何もわからない天子は「あ、いいですよ」と端的に答えた。

 それから翔に連れられ場所を移動、そこは水族館から少し移動した海辺であった。

 そして、ビーチに降り立つと、なんとなく太陽に煌めく海を天使が眺めていれば、


「今日さ、俺すっごく楽しかったんだ」


 という言葉を皮切りに、翔が今日の感想を述べ始める。


「俺さ、今日天子ちゃんと一緒に来ることすっごく楽しみにしててさ。

 水族館に誘うこと自体、めちゃくちゃ勇気がいったし、楽しめるように何度もシミュレーションした。

 そんでさ、最初こそ緊張してた天子ちゃんが段々と緊張が和らいでくれるのがわかったんだ」


「.......」


「でさ、本当はこんなこと言うつもりはなかったんだけどさ。

 でも、イルカショーが終わった後の笑顔......あれを見たらさすがに無理だと思った。

 本当はもっと回数を重ねてからだと思ったけど、それでもこの気持ちは早く言っておいた方が良いと思ったから言わせてもらう」


 そう言って横並びの姿勢から、天子の方へ向き直る翔。

 何かを決意したような滾る瞳が天子の瞳を貫く。

 その視線に固定されたまま天子は見つめると、


「俺は天子ちゃんのことが好きなんだと思う」


「―――っ!?」


「天子ちゃんに『恋』をしてしまったんだ」


「――!?」


 その言葉に、天子の心にズキュンと衝撃が走る。

 それは矢のような形ではなく、どちらかというとパズルピースのような形で。

 それが天子のずっと空白で、形のない器にピタッと名前を与える。


 それによって形成された器が、これまで垂れ流しにしてきた感情を一気に蓄え始めた。

 その勢いは蛇口をを大きく捻った後のような水量で、時間経過でどんどん器の中で水位をあげる。


「答えはすぐじゃなくていい。ただ、これだけは伝えておきたかったんだ」


「......」


「だけど、できれば答えは早めであると嬉しい」


 翔のかける言葉が、遠くに聞こえる。

 それほどまで今の天子の意識は一つの名前に縛られていた。


 ずっと気付いていたのに、気付かないフリをしていた。

 ずっと知っていたのに、知らないフリをしていた。

 ずっと触れたかったのに、触れないようにしていた。


 それでももうこの感情から逃れられない――自分は「恋」を知ってしまったからには。

 感情に与えられた名前に、嬉しさと恥ずかしさが同時に込み上げてくる。


 しかし、不思議と悪く無いというのがきっとこの感情の悪い所だろう。

 これがきっと惚れた弱み......もう自分はこの感情から逃げられない。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


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