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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト78 重要ソロイベント#1

「なんだか、こうして勇者先輩と会うのは久しぶりだね。

 それこそ、二人でこうして歩くのは初めてなんじゃない?」


「そうかもしれませんね.....」


 放課後、天子は話しかけてきた幸と一緒に歩いていた。

 天子の目的は、敬に関する相談なのだが、幸が遊びに誘ってきたので当てもなくついてきてるのが今だ。

 もっと言えば、その当ては幸のみが知っていて、


「勇者先輩にこう聞くのも変ですけど、うちのお兄ちゃんが迷惑かけてません?」


「いえ、そんなことは......むしろ色々助けられてます!」


 そんなどこへ行くかもわからない道中、幸がそんなことを聞いてきた。

 その発言に対し、天子は咄嗟に頭を横に振り、その言葉を否定する。

 というか、これまで敬を迷惑に思ったことが一度でもあっただろうか。


 簡単に思い返しても、そんなことを思ったことは一度もない。

 確かに、敬のあまりにも自分を顧みない行動に怒ったことはある。


 それでもそれを上回るぐらい助けられたことばかりで、つい最近だってそうで。

 だからこそ、今の微妙に距離感を感じるようなやり取りがもどかしい。

 そんな天子の言葉に対し、幸は「なるほどね」と返事すると、


「そっかそっか、なら良かったよ。

 うちの兄ちゃんって案外冷徹な所があるからね~。

 特に、自分に対することに関してはシビアになりがちだから。

 それが巡り巡って周りに迷惑かけてたら嫌だなぁって思ってたんだよ」


「敬さんって冷徹なんですか?」


 幸から聞かされる寝耳に水の発言に、天子はキョトンとした顔をした。

 これまでの敬を振り返っても冷徹に思えることは全くな......い、こともないのかも?

 時折、自分を見る目が酷く冷たい時があったような。


 なんというか、決して現れない表情のように瞳から感情を押し殺してるというか。

 自分に向けてくる割にあまり不快に感じなかったからそこまで気にしてなかった。


 しかし指摘されれば、確かにどうしてあんな視線を送るのかわからない。

 あの視線の意味は一体どういう意味なのか? そして、幸は何が言いたいのか?

 聞いた後にそんな思いを巡らせていると、幸は「当然」と言い切り、


「お兄ちゃんは冷たいよ。ま、誰かというより自分自身って感じかな。

 自分の存在を一番下に見てるから、自分の幸福を求めない。

 だからこそ、自分による他者の被害というのを酷く拒んでいる」


「自分による他者の被害.....でも、それって人と関わる時点で生まれるものでは?

 仮に、それを拒んでいるなら、そもそも他者との接触すら避けるはず」


「そう、まさにそうなんだよ!

 でも、お兄ちゃんは『人間、一人じゃ生きられない』と変に割り切ってる。

 けどさ、それって他者を拒む姿勢と矛盾してるじゃん?

 だからさ、お兄ちゃんは本当は誰かとの深い繋がりを求めてるんじゃないかなって」


「な、なるほど......?」


 自分から聞いてみたものの、思った以上に会話についていけない天子。

 幸が敬のことに関して話してるのはわかるのだが、それが何を指してるかわからない。

 それに、そもそも敬が人を拒んでいるという所からして解釈が追い付かない。


 だって、敬がそうであるならば、そもそも敬の周りには友達は一人もいないはず。

 あまりにも現実の敬と幸の知っている敬が乖離し過ぎている。

 そして、最終的にそれを話して幸が伝えたいことがわからない。


「だから、そういう意味では勇者先輩には期待してるんだよ。

 伊達に、わたしが期待して『勇者』って言ってるわけじゃないんだよ?」


「えーっと、私が敬さんに何かすることを期待してるってことですか?」


「そうそう。ま、それが一番お兄ちゃんを真っ当に戻せる可能性があるから。

 それこそ、これまでずっとそばで見続けた私が言うんだから」


 結局、幸が言いたいことがほとんど伝わらずにこの会話は終わる。

 深く聞いてみることも出来たが、なぜか上手くはぐらかされる気がした。


 なぜなら、明らかにこれまでの含みある会話が、自分で気づけと言っているようなものだったからだ。

 となれば、その会話の疑問は自分が解決しなければいけないのだろう。


「あ、ここ最近出来たアイス屋なんですけど、わたし行ってみたいと思ってたんです。

 ほら、早く行きましょう! これでもだいぶ食欲を押さえてたんですから!」


「え、あ、あ~~~~!?」


 突然、幸が一方向を指さすと、女性客が出入りしている喫茶店があった。

 その店の看板に見惚れていると、急に幸が天子の手を掴み店に向かって走り出す。

 そして、流されるままに天子は連れて行かれ、その店に入店した。


 運よくテーブル席が空いていたのか、そこに案内されて幸と向かい合って座る。

 こういう喫茶店に来ることは初めてではないが、かといって慣れたわけではない。

 それも幸という会話も数えるほどしかない相手だ。


(微妙に落ち着かない......)


 京華達と違って仲の良い友達特有の空気感というのもない。

 加えて、周りを見てみれば、若い女性客で溢れている。

 なんだか自分が明らかに場違いな場所にいるような気がしてならない。


 そんな天子の一方で、幸は構わずメニュー表一覧を眺める。

 それから、そのメニューで「これ美味しそうじゃないですか?」と情報を共有してきた。


 提示されたメニュー表を見てみれば、指さされたメニューは明らかに大盛のパフェだ。

 写真で見る限りでもかなりの量があるように感じて、まさかこれを一人で食べる気なのか。


「こ、これを食べるんですか? 夕食大丈夫なんですか?」


 今は学校が終わり寄り道の最中、時間としても16時は余裕で回っている。

 それこそ、自分のような小さな体では、それを食べただけで夕食はいらなくなりそうだ。

 そんな疑問に対して、幸は一言でバッサリと、


「別腹でしょ」


 と言ったのだ。その言葉に、さしも天子も唖然。

 さすがに別腹とはいかないだろう。

 隣の席をチラッと見ても、明らかに1.5人前はありそうなパフェの大きさだ。

 とてもじゃないが、自分のような小さな胃袋では夕食まで入る余裕はない。


「私は遠慮しておきます。せめて、こちらのレモンチーズケーキ辺りで......」


「そう? なら、わたしもせっかくだしケーキにしよっかな。

 あんまりここでガッツいても、お兄ちゃんになんて言われるかわからないし」


 そんなこんなありつつ、天子と幸はメニュー表からそれぞれデザートを注文。

 それが届くまで軽い雑談をしていると、注文の品が運ばれてきた。

 皿に綺麗に盛り付けされたケーキを見て、天子は瞳をキラキラと輝かせる。


「わぁ、凄い美味しそうですね。なんだか食べるのが勿体なく感じてしまいます」


「だよね~。たまにコラボカフェとかに行くと余計にそう感じるよ。

 でもまぁ、その楽しさを十二分に味わうってならやっぱり食べなきゃだけど」


「ですよね。では、いただきます」


 一度手を合わせ、丁寧に食事の挨拶を済ませると、フォークで三角形の端を切り取る。

 自分の口のサイズに合わせた一口を口に運ぶ――瞬間、甘味と酸味が口いっぱいに広がった。


 チーズケーキによる甘味と、レモンによる酸味。

 特に、酸味が甘味を引き出すような優しい刺激をしており、口内から唾液が溢れ、それが次々にその甘美な供物を捧げよと要求してくる。


 前に敬が自分の手料理をがっついて食べてくれたことがあったが、その時もこんな気持ちだったのか。

 もはや抗いがたい食欲に襲われ、天子は食事に集中してパクパクと食べ進める。


 そして気が付けば、その皿は綺麗に何も無くなっていた。

 それに気づいたのは最後の一口を食べ終え、フォークが切り取る対象を見失った時。

 当たり前のように次を求め空を切るった時は、そこはかとない悲しさを感じた。


 しかし、さすがに時間が時間だ。

 夕食のことを考えるとおかわりはさすがに出来ない。

 本当はしたいけど、我慢。我慢するしかない。


(ただ次も来よう!)


 とはいえ、胸の内ではそう決心し、頭の中ではすかさず次のスケジュールを組み立てていく。

 そんなことをしていると、未だにパフェも美味しそうに食べている幸が口を開き、


「そういえば、勇者先輩が悩んでることってお兄ちゃんのことだけなんですか?」


「......と言いますと?」


「風の噂で聞いたんですけどね。先輩に近づく三年生の先輩がいるって話じゃないですか。

 私は当事者じゃないので二人の間にどうこう口を挟むつもりはありませんが、まぁ気になりはしますよね」


「日坂先輩のことですか......」


 一体どういう噂が流れているのかは知らないが、どうして噂になっているのか。

 現状から振り返っても日坂先輩との間にこれといって何かあったわけじゃない。

 ただの雑談というだけなのに......皆、そんなに何を警戒してるのか。


「その先輩がどうかしたんですか?」


「......いんや、その反応からして特にも何もないようで安心したよ。

 ほら、先輩って今年が初めて友達出来たって話でしょ?

 ちょっと心配してたんだよ。騙されやすそうだし」


「騙されやすそうですか?」


「そ。同人誌で言えば、弱みに付け込まれて『彼氏のために自分が我慢しなくちゃ~!』みたいな感じでNTRされるタイプ」


「そ、それはさすがに悪口なんじゃ......」


「お、その手の話通じるのか」


「一応、最近幅広く読書を進めていますので......」


 とはいえ、天子も実際に同人誌を読んだというわけではない。

 所謂、全年齢向けに改変されたネタ描写で知っているというだけだ。


 それでも内容が内容だけに大体想像がつくというだけの話であって。

 仮にその手の話題に触れるとすれば、少なくとも官能小説を十冊読んでからと決めている。

 ともあれ――、


「私は別にそこまでチョロいとは思っていませんよ?

 これまでは友人関係の距離感がわからなかったから振り回されてた感じはありましたが、今はそこまで感じは......いえ、敬さんに限ってはここ最近距離感が分かりかねています」


「まぁ、お兄ちゃんは意図的に振り回してるところがあるし。

 そこを変に気にしすぎるとドツボにハマると思うよ。

 それこそ、お兄ちゃんの思う壺というか。

 お兄ちゃんに対抗したいなら考えすぎないでカウンターを食らわせることだね」


「カウンターですか......?」


「お兄ちゃんは口が達者でね。口で勝とうとしてもそう簡単にはいかない」


「その割には幸さんに対してはだいぶ甘いような感じがしましたが......」


「私に対して甘いのは家族という距離感であり、私が上手く妹ポジションを利用してるからであり、そして負い目から強く出られないってだけの話だよ」


「負い目.....」


 時折、幸の口から出る天子の脳内にいる「敬」と乖離した敬の話。

 それがなんだか狐に化かされてるような、そんな気分にさせられ心が戸惑う。


 まるで自分が知らない敬がいるような、目の前の敬が別人のような気がしてならないのだ。

 幸の言葉を疑うこともできるが、長年周りを観察し続けた自分の感覚が幸の言葉を嘘だと認識しない。


 つまり、直観が嘘ではないと思っている以上、幸の言葉は肯定される。

 逆に言えば、これまで自分の脳裏にいる敬が否定されることになり、ひいては――


(敬さんはずっと自分に対して嘘をついていた......?)


 今まで見てきた敬が、関わってきた敬が、知り得た敬が、今の自分の脳内にいる敬だ。

 しかし、幸の言葉が本当なのだとすれば、その全てが偽りであったと言われているようなもの。


 ということは、敬はまさか自分と出会ったあの時からずっと偽りの姿を見せていた?

 いやいや、そうであれば少なくとも自分の嘘発見能力で気づくことができるはず。

 それこそ、人間不信が強かった初期の頃なんて特に。


 それを感じなかったからこそ、自分は意を決して敬に話しかけたのだ。

 だとすれば、最初の頃は嘘をついてなくて、それじゃいつから嘘をついて?

 ダメだ、考えれば考えるほど敬という人物がぼやけていく。


 これまであった人物像の輪郭が崩れ、霞みのように消えていってしまう。

 一体、自分はこれまで何を見せられていたというのか。

 では、本物の敬とは一体どこにいるのか?

 わからない――何もかもがわからなくなってくる。


「勇者先輩」


「――っ」


 混沌が生み出される思考の中、一筋の光のように幸の言葉が届く。

 その言葉にそっと顔を開けると、幸はそっと優しい笑みを浮かべ、


「お兄ちゃんについて鬱陶しく考えるぐらいなら、いっそ考えるのを止めましょう。

 一旦全力で気にしないぐらいが案外自分の真実に気づくと思いますよ」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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