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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト77 勇者と新たな人物#4

 狂犬・京華が駆けずり回っていた翌日。

 いつも通りの日常に影が差し込むように、廊下を歩く敬の近くに天子がやってきた。


 加えて、相談したいような、何か言いたげのような顔つきでもって。

 そんな天子に対し、敬はいつもの調子を心掛けて声をかけた。


「おや、天子じゃないか。どうしたん? そんな話したそ~な顔しちゃって」


「その、実は昨日、お話しした人がいるんですが――その人から『今度、遊びに行かないか?』って誘われちゃいました!」


「おぉ、僕達以外からの初めてのお誘いか! 良かったじゃん。

 で、それでどうしてそんな顔をしてるんだい?」


「いえ、それがその.......男の先輩からなんです」


 身長も相まってその上から目線には庇護欲を感じる。

 言うなれば、まるで飲み会に誘われた彼女が、彼氏にその飲み会へ「行かないで」と言って欲しいと感じるような。


 もちろん、それはあくまで敬の勝手な感想だが、小動物的な表情がそう感じさせるのだ。

 しかし感じるだけで、敬と天子は別に付き合ってる関係性ではない。

 そして、天子のセリフに気付きながらも、敬が取るべき行動は一つ。


「へぇ、意外な交友関係だね。いつの間に作ってたの?」


「それはたまたまでして......たまたま私がハンカチを落としてくれたのがその先輩で。

 それで、その先輩が最近また助けてくれて、それでそこで少しお話して、連絡先を交換して」


「わぁお、随分と早い展開だね。

 僕との間でもそんな疾風の速度で進まなかったのに」


 と、軽い感じで言いつつも、敬の心は酷く冷静だった。

 というのも、敬にとってはようやく今の天子との浮ついた関係に終止符が打てるかもしれないからだ。


 現状、天子とは友達以上の関係でも何でもない。

 しかし時折、天子から向けられる感情にそれ以上が含まれる気がしているのだ。

 それが自分を罪人だと自認している敬にとっては酷く辛い。


 自分と仲良くなりすぎれば、天子には不幸が訪れる。

 それがちょっとした怪我をする程度ならまだ良かったかもしれない。

 しかし、自分と関わった両親が、幸の父親が自分のせいで亡くなった。

 それに、過去には幸にも骨折ほどの大きな事故に見舞わせた。


 現状何も起きていないのは、ただの結果論にすぎない。

 だからこそ、敬にとってはその結果を防ぐことが何より重要なのだ。

 それこそ、天子と友達以上の関係などあってはならない。


「ま、まぁ、敬さんの時の私は今よりしゃべれてませんでしたから。

 あの時とはまた状況が違うと言いますか.......それで私はどうしたらいいのでしょうか?」


「......どうしたらって?」


 わざわざ聞き返す敬に対し、天子はどこか「わかってるくせに」と言った顔をする。

 その距離感の近さに、敬の心は少しだけあえて壁を作った。


 そうやって行為を寄せてくれることは嬉しいが、先言った通りに近づかれ過ぎるのは困るのだ。

 だから、ここはなんとしてでも距離を取る――天子に不幸が訪れる前に。


「だから、その......私はその言葉に乗った方がいいのでしょうか?

 敬さんとは何回か話してようやく遊びに出かけたって感じだったのに。

 なんだか結構展開が早いような気がして」


「それに関しては自分で言ってたじゃないか――『あの時とまた状況が違う』って。

 それに、それはあくまで僕のペースの進め方であって、その先輩は違う人間だろ?

 だとすれば、距離感の詰め方にだって違いが出ても何もおかしくない」


「それは、そうですが......」


「問題は天子が仲良くしたいかどうかということだ。

 そこに僕の意思を介入させてはならない。してもいけない。

 天子の選択の幅を狭めてしまうということだからね。

 だから、その誘いを受けるかどうかを決めるのは天子自身だ」


「......」


 敬の説得されるような言葉に、天子の顔がどんどん沈んでいく。

 言って欲しかった言葉と違い、しかしそれでも正論であるから反論できない。

 そんな複雑な感情が混在したような表情が、今の顔に如実に表れている。


 敬もわかっている。

 今の紡いだ言葉が、どれだけ天子に寄り添った言葉でないことぐらい。

 しかし、今の敬ですらその選択肢しかないのだ。

 だから、どれだけ天子に失望されようとも、死ぬよりはマシ――


「......天子、もし僕が一つだけ自分の意思を主張するなら――」


 敬が口を開いた瞬間、天子の表情がパァッと明るくなった。

 まるでこれから自分が言う言葉に希望を見出しているみたいに。

 しかし、悲しいかな。それでも、自分が紡ぐ言葉はたった一つである。


「交友関係を広げるチャンスだから、乗っておくべきかなと思うかな」


「......そうですか」


 その瞬間、敬を見つめる天子の瞳が明らかに暗くなった気がした。

 目の前の頼りにしていた光を失い、まるで母親を探して彷徨う子供のようになって。


 しかし、天子はわがままを言わない。

 もともと主張が強いタイプでもなければ、自分の言葉を正確に理解してるからだ。

 だからこそ、天子はその場から一歩後ずさると、そのまま敬の横を通り抜けた。


 ただでさえ小さい背中が、さらに小さくなるように丸まって移動する。

 そんな姿を見ながら、敬は内心でダメージを追っていた。

 それはそうだろう、天子のようなどこぞの馬の骨に遊びに行かせるなんて――っと、そうだ。


「天子、ちなみにその先輩の名前ってわかるか?」


「日坂翔先輩です」


 敬の質問に天子はヨロヨロとした姿勢を崩さず、端的に名前を答える。

 それから、そのままの状態で再び廊下を歩き、その体を小さくしていく。

 そんな天子の一方で、名前を聞いた敬は少しだけ眉を寄せた。

 普段働かない表情筋が、時折感情を見せる不快感だ。


「日坂翔......どこかで聞いたことがあるな?」


 教室に戻るために天子に背を向け、腕を組みながら思い返す。

 日坂翔、日坂翔......あ、そうか、情報源は確か真昼だったはずだ。

 加えて、その人物は「危険人物リスト」の一人だったはず。

 そんな人物が天子に近づいた......考えられることは一つ。


「もしかして、天子を狙っているのか?」


 天子の評判はあまり伝わっているとは言えないが、それでも少しずつ知名度が出てきた。

 それは京華達のグループにいるのもさることながら、天子自身の容姿も関係する。

 故に、いずれはそのような近づく人物がいることは想定していたが.......。


「少し調べてみる必要がありそうだな」


*****


 敬に思った言葉を伝えられなかった天子は、想像以上に落ち込んでいた。

 そりゃ相手が相手であるし、そもそも望む言葉などそうそう貰えるはずもない。

 その前提で動いていたはずなのに、思った以上に心に来ている。

 それに加え――、


「なんで私はあんなことを聞いたのでしょうか......」


 数分前にした敬への質問、「どうしたらよいか」なんて言葉は本体言うつもりもなければ、当然相手に尋ねるつもりもなかった。


 どうせ自分が欲しい言葉なんて貰えないだろうし、そこまで期待していない。

 にもかかわらず、自分の口は想像以上に自分の内情を曝け出していた。

 それでこうなっているのだから、自業自得の何物でもない。


 であれば、一体自分はどんな言葉を望んでいたのか?

 わからない――いや、嘘だ。本当は気づいているが、考えたくないだけ。

 本当は「止めて欲しかった」なんて一体どの口が言えるのか。


 そもそも今の敬との関係は、友達作りの延長線上だ。

 最初に友達になったのが敬というだけで、特にそれ以上でも以下でもない。

 それに、そんな関係をぐだぐだと続けてきたのだから、ああいう返答にもなるだろう。

 にもかかわらず――


(私は止めて欲しかったなんて.....)


 その言葉はあまりに傲慢が過ぎるというもの。

 ただの友達同士のはずなのに、本来の友達作りの流れのはずなのに、「止めて欲しい」は筋が違う。

 だからこそ、敬の反応は正しい......正しい、だけど――心が納得していない。


 敬の言葉が正しかったと理解する脳と、敬の言葉は正しくなかったという心がぐちゃぐちゃに絡み合う。


 一体どっちの考えが正しくて、どっちの考えが間違っているのか。

 自分にはこれまでにない問いであり、全然その問いに対する解決策が思い浮かばない。


「こういう時、誰に相談すればいいんでしょうか......」


 自分にわからないなら、誰かアドバイスを貰える人に尋ねる。

 これは敬と友達作りを通して学んだことだ。

 もっとも、その相手はもっぱら敬であったことは否定できないが。


 そんな敬が相談相手として仕えない今、自分が声をかけられる相手はいくらいるだろうか?

 まず、内容が敬関係だとして、京華に相談すると――間違いなく拗れる。

 それはもう火を見るよりも明らかで、容易に脳裏に想像できる。


 となれば、京華の周りにいる那智と夕妃はどうだろうか。

 少なくとも、京華よりはまともな会話になるだろう。

 しかし同時に、京華とも距離間が近いので、内容が漏れてしまう可能性もある。

 そうなれば、狂犬・京華の誕生だ。自分の言葉でも簡単には止まってくれない。


(他に聞ける相手とすれば......)


 敬の友達である宗次と悠馬か。

 正直、悠馬とは余り気軽に話す中ではないので、するとすれば宗次辺り。

 しかし、宗次は最近百合と付き合ったばかりなので、そこを邪魔するのもどうか。

 それを前提に考えれば、百合に相談することも難しい。


「となると、残りは――」


「なーにやってんですか、勇者先輩」


「ひゃっ!」


 その時、突然耳にこそばゆい吐息と声を感じ、天子の体ビクッと跳ねる。

 咄嗟に耳を押さえ背後を振り返れば、そこにはニヤニヤした顔つきの小悪魔がいた。

 いや、小悪魔じゃなかった。敬の妹の――


「幸、さん.......ですか?」


「そう、我が名は犬甘幸! 人呼んで『さっちゃん』だ!」


 名前を確かめれば、それに対して幸が決めポーズをしながら答えた。

 まるでどこかの月に代わってお仕置きする人になっている彼女に対し、天子の思考は停止。

 若干苦手意識がある相手の突飛な行動に、理解が上手く追いつかなかったのだ。


「おーい、固まってるけど大丈夫ですか~?」


「......ハッ」


 NowLoadingの時間も過ぎ去れば、天子の思考は一つの解を導き出した。

 それは――相談相手を幸にすればいいのではないか、ということだ。


 これから話すことは敬のこと、であれば身内ならより敬のことを知っているはずだ。

 そして、相手は良くも悪くも小悪魔であり、少なからず面白いことは口外しないはず......というのは、さすがに希望論が過ぎるか。


 ともあれ、相談する相手としては、現状限りなく優秀な相手であることは間違いない。

 ならば、後は自分が勇気をもって行動に移すのみ。


「あ、あの......実は相談があるんですが、お話を聞いてもらっていいですか?」


 意を決し、天子は自分の気持ちを白状した。

 それに対し、幸はニヤニヤとした笑みを浮かべると、


「へぇ~、そうだんねぇ。それって本当にわたしでいいの~。

 聞きはするけど、解決とかは内容次第になっちゃうけど」


「大丈夫です。幸さんなら何らかの答えを出すと思いますから。

 なぜなら、その相談内容が――敬さんに関するものですから」


 そう言った直後、幸の眉が明らかにピクッと反応した。

 それから、口元を邪悪に歪めると、ニマニマの表情を前面に表して、


「へぇ、それじゃ勇者先輩はあの愚兄をどうにかしたいと?」


「どうにかしたいってまでかはわかりませんが、少し距離感に困っておりまして」


「なるほどね.....なら、もしかしたらワンチャンあるかな」


「え、今、何か言いましたか?」


「いんや、とってもこっちのこと。

 それよりも、一体勇者先輩がお兄ちゃんに対して何を悩んでるのか気になるな~。

 さっちゃんはとっても気になるなぁ~」


 そんなことを言いながら、胸の前で両手を合わせてクネクネと動く幸。

 それから、「というわけで」と話の流れを自ら変えると、


「これから放課後デートとしゃれこもうじゃないですか。

 せっかくなら、先輩と一緒に遊びたいですし。

 その道中で聞かせてくださいよ――勇者先輩が抱える兄やんの悩み」


 そう言って幸は笑みをさっきよりも深める。

 そんな彼女を見て、天子は少しだけ「相談相手間違えたかな」と思わず考えてしまった。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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