↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2091年
37/42

宴の始まり~ウタゲノハジマリ~

 西暦2091年6月12日10:47――。


 大統領機が墜落した付近にある、とあるアマゾン先住部族の村に、アメリカ大陸合衆国の特殊部隊——アメリカ陸軍特殊作戦コマンド麾下の部隊がやってきていた。

 元々は、大統領救出任務のために現地入りしていた彼らだったが、大統領に同行していた超能力者でもあるSPらしき人物が、ある先住部族に大怪我をした状態で保護された……という噂を聞いたのである。

 その村へ急行したその部隊は、酷い怪我を負って意識が戻らない男性SPを見つけて保護し、その先住部族の者たちから情報を得ようとしていた。


「……巨大な鋼鉄の蜘蛛?!」

「ああ……、アレこそは邪霊の使い……! 強固な甲殻で鎧われ、一本角を持ち、四対八脚の異様な姿でこちらを威嚇してきたのだ!!」

「……それで、貴方がたは大丈夫だったので?」

「うむ! 我らが神霊に祈りを捧げて……追い返したのだ!!」


 ——特殊部隊隊員は情報を整理する。


(巨大な鋼鉄の蜘蛛……、それも頭部に一本角ならば、戦車砲を有した多脚戦車か……。詳しく聞いたが……、どうも機体後部に巨大なユニットを持つ機体らしいな……。おそらくは、そのユニットが蜘蛛の腹部にみえたのだろう……)


 その機体は、その現地部族が負傷したSPを保護している可能性を知りながらも、あえて何もせずに後退した様子だった。

 それならば、アメリカ南大陸を活動拠点とする反政府テロ組織【オルデン・ディヴィナ】あたりの仕業の可能性が高い。この組織はアメリカ南大陸の社会に根ざした組織であり、政府関係者はともかく、現地人には無用な暴力を振るわないのが特徴であった。


(……ただ、嫌な話も聞いた……)


 その蜘蛛には巨(・)大(・)な(・)人(・)型(・)の(・)邪(・)霊(・)もついていたのだという。そして、その一機が彼らに手にした銃らしきものを向けて、それを他の一機に止められていた……らしい。


(相手側は少々統制が取れていないらしいな……。これらの話は……、大統領機が撃墜されたらしき時間から約20時間ほど後の事……。何らかの理由で超能力を封じられたのか……、本来超能力で緊急脱出しているところを、大統領閣下とSP方は徒歩で逃走を図り……、そして男性SPのみがこの部族に保護された……と)


 そこまで考えた特殊部隊員たちは、現地へと向かい状況を再確認する。

 村の外縁に残る不自然に踏み潰された泥——。

 樹木の幹に残る金属片のような擦過痕——。

 老人の語る「邪霊」は迷信などではなく、少なくとも八脚の多脚戦車がこの村のすぐそばまで来ていたようだった。


 そして、彼らが蜘(・)蛛(・)を追い返した方法も——、

 多数の証言からして——、実際には、村の奥に負傷者を隠し、女と子供を森へ逃がし、長老だけが蜘(・)蛛(・)の前に立って交渉したものと思われた。

 

 そこまで理解した特殊部隊員たちは、さらに奥地へと向かう決意をする。

 実は、大統領には、その所在を見つけるためのビーコンをつけられている。これはいわゆるパッシブ式であり専用探査システムで見つけるものである。

 探査システムには観測範囲があり、彼らのような特殊部隊が所持できるサイズのものは、大きな街一つぶんカバーするくらいの領域であった。



 そして——、西暦2091年6月12日12:32――。


「……これは……マズイな……」

「……」


 救出部隊の指揮車両内で司令官が幕僚と話し合いを行っている。

 特殊部隊の別働隊が——、ビーコンの反応を確認した直後に行方不明(ロスト)した。どうも敵側は、高度な索敵機能を持った観測機器搭載装甲車両を複数保有しているらしい。

 ——ならば……、


「航空爆撃は論外……、大部隊は遅い、特殊部隊だけでは敵の観測網を抜けられない、——なら、観測網そのものを短時間で壊せる部隊が要る……」

「特殊任務工兵——、TRAによる空挺強襲で現地車両を破壊——、あるいは撹乱した上で、範囲外で待機させておいた特殊部隊を前進させて救出……か?」

「爆撃のような広範囲の面制圧ではなく……、直接対装甲車両戦闘部隊を投入しての制圧……ですね? TRAに専(・)用(・)の(・)観(・)測(・)装(・)置(・)をもたせればビーコンの精密観測も可能でしょうな……」

「……ならば、投入されるTRA部隊には、現地で救出が完了するまで状況の保持を行ってもらう話になります……」

「テロリストの別働隊が動く可能性も考慮したほうがいいかと……」


 ——と、こうしてアンヘリタらが所属する【Task Force 211】に白羽の矢が立った。

 大規模な作戦行動だと相手側に感づかれる可能性がある。ならば——、TRA小隊による特殊作戦によって素早い制圧作戦を実施すべき、とされたのである。

 そして……、現在、日本のあの【藤原 桃華】が居たことが彼らを指名する決定打となった。


「あの藤原桃華がいるならば……、それだけで作戦成功率は跳ね上がる……」


 それこそが【Task Force 211】を選んだ理由だったが……、そんな彼らに作戦開始直前で驚愕の報告が舞い込んで来る。


 そう——、桃華が出撃できなくなった……、と。



 ◆◇◆



 アメリカ軍大型戦術強襲輸送機【TAC-80ブラックストーク】が闇夜を高速で飛翔する。

 その速度は通常の輸送機など足元に及ばないほど素早く、そして即座に高度を下げていった。

 その輸送機内のレーダー画面に無数の光点が生まれる。それは、一部は夜間において空を睨む輸送機を撃墜するための対空リニアキャノン陣地であった。

 さらには、それとは別に動く光点もあり、それこそ今回の目標である、高度な索敵機能を持った観測機器搭載装甲車両だと思われた。


 ドンドン!!


 対空砲撃が来る。しかし——


「お! これって!!」


 ジョフィエがTRAの機体内部で楽しそうに声を上げる。何事かとジュリエットが声をかける。


「何?」

「え、ああ……、これ見て! この機体——」

「何? これが虎の子の最新鋭輸送機って話?」

「力学式指向性防御膜張ってる!」


 その言葉にジュリエットが息を呑む。

 航空機へのボーテック機関の搭載、そしてそれを利用した防御システム構築。それはたしか、日本との共同研究で進められていたものである。


(なるほど……、ここに来てこの手札を切りましたか……)


 エマは静かにTRA内で思う。

 航空機の新たな防御システムの誕生は、おそらく武装に対しても大きな革命を引き起こすであろう。


【目標上空到着——、お嬢さん方……ダンスの準備はOK? パートナーが地上で待っているらしいぜ……】


 そういう輸送機パイロットの言葉に、歯を見せて笑いながらアンヘリタは答えた。


「OKなもんか……、脚踏んづけてすっ転ばせちまうだろ(笑)」

【そりゃ……、相手も災難だな(笑) God bless you!】

「はは……(笑)」


 かくして輸送機下部ハッチが展開して四機のTRAが姿を現す。それぞれ、背に空挺降下用の使い捨てユニットを背負っている。

 ——アンヘリタが叫ぶ。


「GO! GO! GO! GO!」


 そして、闇に覆われる森林へ向かってTRAは降下していった。



 ◆◇◆



 それをレーダー越しに見る者がいる。無論、アルベルトとジョゼである。

 ジョゼはアルベルトに向かって不満を漏らす。


「こちらの地対空装備を使わなくてよかったのか?」

「……撃墜してどうする。アメリカ様(笑)のご優秀なTRA部隊を叩き潰して、パイロットを人質に加えねばダメだろ……(笑)」

「……」


 そのアルベルトの笑いとも憎しみとも見える表情に、ジョゼは目を細めて黙り込む。彼は嫌な方向に進みつつある、とジョゼは今更ながら感じていた。

 そうとは知らずにアルベルトは内心思う。


(急がねばならん……、俺はこのままでは終われない……)

 

 ——そうだ……、俺(・)の(・)息(・)子(・)た(・)ち(・)の(・)た(・)め(・)に(・)……、示せる何かを……正義を今(・)の(・)う(・)ち(・)に(・)示さねば……。


 その心には——ある理由から来る明確な焦りが存在していた。



 ◆◇◆



 ドンドン!!


 前衛となって森を走り抜けるアンヘリタのTRA。それを狙いながらも照準を外される敵戦闘車両。

 そこに側面からジョフィエが弾丸を叩き込んで沈黙させ。そして、後方はるかから追撃弾が静かに援護車両を沈黙させてゆく。

 狙撃を行うジュリエットと共に後方に控えて援護射撃するエマは、思っていたよりスムーズに動けることに驚いていた。


(連携が……出来てる、いや……当たり前ではあるけど……。あの桃華との対戦で……毎回負けて……)


 それが悔しくて、皆互いに文句がありながらも黙って連携するようになった。

 今から考えると、以前の自分たちは戦場に我を持ち込みすぎていた。


 隣で狙撃するジュリエットも、本人はどうも演習データを再確認せずにいる適当さがあって、それで自覚に至っていない様子だが……。


(この視界の悪さで……、もちろんTRAの補助ありではあるけど……)


 ——ほ(・)ぼ(・)ハ(・)ズ(・)レ(・)な(・)し(・)の(・)狙(・)撃(・)って……。


 どうも、自分が持っていたジュリエットに関するデータを大幅に更新すべきだとエマは考えていた。


「エマ……、ビーコン探査ユニットの射撃準備OK!」

「OK……、ジュリエット……。索敵の網を確認……、ポイントしたわ……目標地点狙撃お願い……」

「了解!!」


 ジュリエットが、その狙撃銃の弾倉を切り替えて探査ユニット弾に変更する。

 そして狙撃銃が火を吹き——、森の向こうに弾頭は光となって消えた。

 

「……」 

「どう?」

「目標変更……。方向を変えてもう一度……」

「OK……」


 そうして三回ほど狙撃した後……。


「ビンゴ!! 反応確認……、反応付近の邪魔者の掃討にかかってください!!」


 その言葉にジュリエットが、TRAの腰に設置された発光弾投射筒を手にする。そして空に向かって放った。

 その発光に反応して前進していたアンヘリタとジョフィエが後退する。そして——、


「全員いいな! ここからが本番だ!! 目標に至るための【救出部隊】が進むための道を作る……!!」

「敵にはまだ姿を見せていない車両兵器……そしてTRAがあります。警戒を……」


 アンヘリタが発破をかけて、そしてエマが静かに語る。

 ——激戦が始まろうとしていた。



 ◆◇◆



 TRAを静かに操りながらアルベルトは笑う。


「ジョゼ……、我らが神(・)獣(・)の目覚めはどうだ?」

「……アレならすでに控えさせている。いつでも投入できるさ……」

「ならばいい……。一応、大統領どもを確保している者たちに、大(・)統(・)領(・)た(・)ち(・)に(・)は(・)手(・)を(・)出(・)す(・)な(・)、ともう一度言い含めろ……。これは我らの危機ではなく神(・)が(・)与(・)え(・)給(・)う(・)た(・)試(・)練(・)であり、そして祝(・)福(・)の(・)宴(・)なのだと……」

「TRAパイロットの確保……、そして人質化が、……か?」


 その言葉に不気味に笑うアルベルト。


「彼(・)女(・)ら(・)は実際……、ア(・)メ(・)リ(・)カ(・)様(・)(笑)の政府筋にとって大切な存在ではあるのだ……。だからこそ……日本といろいろ繋がっているとも聞く……」

「そうか……」


 何処からそのような情報を得たのかはジョゼには分からなかった。

 しかし——、


(私は……、組織がダメにならぬように備えるだけだ……)


 ジョゼのその静かな視線はアルベルトの歪んだ笑いを見つめていた。



 ◆◇◆



 それはいきなりだった。


 ドン!


 凄まじい轟音が森に響き、超速の速射弾が後方で狙撃するジュリエットを襲った。


「ぐう!!」

「ジュリエット!!」


 前進していたアンヘリタが叫んで後退し。離れた場所のエマが黙って援護に向かう。


「ち……、敵TRA……、迷彩外套で回り込んでいたのか……」


 アンヘリタはそう予測した。

 TRAは脚で歩く。車両兵器のエンジンのような音(昔より比較的静かになっているとはいえ)は響かせない。

 ——そして、その余裕があれば匍匐前進であろうが、ただの忍び足であろうが密かに回り込めるのだ。

 無論、エマの機体のレーダーによる監視網はある。だが、戦場にある破壊車両の今もなお燃える痕跡やら、戦場の喧騒やらがレーダーに穴を開ける役割を担っていた。


「ようこそ……【Task Force 211】の諸君……」


 現れた敵TRAからスピーカー音が響く。

 それをエマは呆然とした様子で聞く。


(相手は……、戦場で何を? ……!)


 そしてエマは即座に理解する。そして皆に向かって通信を放った。


「敵は……こちらの動揺を狙っています!!」


 まさしくそのとおりである。

 敵TRAの言葉は——、自分たちの所属からバレている事を示しているからだ。

 エマはともかく、ジョフィエもジュリエットも呆然として少し表情がこわばっている。

 アンヘリタは静かにジュリエットを敵から隠すように機体を前進させた。


「私は……【オルデン・ディヴィナ】のアルベルト……だ。君たちを歓迎するよ……」


 その言葉にアンヘリタはその表情を深い怒りに変える。同時に、それを聞いたエマもその表情をこわばらせた。

 エマはその名前に聞き覚えがあった。


(【オルデン・ディヴィナ】のアルベルト!! この状況で?! マズイ!!)


 エマは機体を動かしてアンヘリタ機に近づく。その手を出して——、その手は触れることなくアンヘリタ機を掠めた。


「……お前が……【オルデン・ディヴィナ】のアルベルト……か」

「く……」


 エマは最悪な状況を予測した。このままではおそらく——。


(アンヘリタが……暴(・)走(・)する……!!)


 エマがそう考えるのは当然である。

 彼女はアンヘリタの問題行動を知って、それの対策として彼女に関する資料の内容を把握していた。

 その中に【オルデン・ディヴィナ】もア(・)ル(・)ベ(・)ル(・)ト(・)という名もあった。


 かつてアンヘリタが問題児とされていた理由。その暴走の原因である過去に深く関わる人物。

 【オルデン・ディヴィナ】のアルベルト——、それは、

 ——アンヘリタが……その家族全員を失ったテロリズムの直接の実行者であった。


 そう、アンヘリタにとって——、

 ——何よりの望みである復(・)讐(・)の対象であったのだ。

 

 アンヘリタの瞳は燃えて——、

 ——アルベルトの嘲笑が闇を示す。


 果たして——その先にあるものは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。