七話目 田舎の夏、都会の夏⑨
王宮に来てから12日が経ちました。うえ~い。
流石にこれだけ長く村から離れるのは初めての体験なので、かなり不安があります。ルムックちゃん達の様子はもちろんの事。家庭菜園とかお家のお掃除とか羊達のお喋り相手とか、魔獣の皆さんのお顔も見たいし、マミちゃんや村の皆の顔も見たい。そして美味しそうにご飯をほおばってくれる顔が見た~い!
いえ、王宮の皆さんもそりゃあいい笑顔で召し上がってらっしゃるんですよ、とりわけ新国王陛下ことセス君ご一家の皆様の笑顔と言ったら、周囲の方々の微笑みを引き出せるほどの威力。それ+朝からお上品なお食事のセット攻撃は庶民にはホントにキツイ。うっ、ちゃぶ台でワイワイ囲んで食べる我が家が懐かひい。ちっちゃな子の眩い笑顔が、うちの子のきらきらお目目が、恋しいのよぅ~。
現状をぶっちゃけて言えば、体調はそのものはまあいい方。なにせ朝から晩まで誰かしらとご一緒状態。うちの子恋しや~なんて言ってる暇がないくらい色々させてもらってるわ。
部屋付きのメイドさんにお部屋に飾る花の活け方を教えてもらったり、お掃除のコツなんかも目から鱗の裏技―――ハーブ蒸留水を洗った薄手のカーテンに使って部屋に香りを充満させるとか―――を教えてもらったり。貰ったりしてるばかりで申し訳ないので、田舎の家庭料理レベルで申し訳ないけど、お手製のおやつやら軽食やらを十時と三時の休息時に作って出してます。もちもち団子とかプルプル羊乳寒天とか。お米を使ってなんちゃっておはぎも作ったし、個人的には水羊羹が会心の出来だったわ。
田舎の家庭料理レベルなのに、なぜか毎食王室の方々+数人知らない方々も来られるのよね。王様(セス君)ってそんなにお暇じゃない筈なんだけど?
それ以外では、ゼプスさんの執務室にて橇大会の基準要項の原案のまとめに駆り出されている事が増えました。ので、お風呂入ってご飯食べたら完全に疲れてお布団に突っ伏してます。お陰で朝まできっちし寝れるっていうのが少しだけ複雑。なので精神的な癒しと言いますか、村では当たり前にあった極上のもふもふに飢えたといいますか、ルムックちゃん達に逢いたいといいますか。二人も収穫祭までは戻らないだろうし、いい加減子離れしろって事なのかしらねぇ。はふ。
私が主にしているのは三大女傑達の取り決めに一応触れない範囲での、大会の参加資格と安全面での規約程度。簡易ヘルメットとゴーグルの着用を義務付けて来ました。あと結界魔法による防護網の展開も。実働させて安全性を確認出来たら完成です。ふう。
今大会から参加資格の最低年齢と最高年齢を設け、大体の年齢と性別で部門を分けて行うことにしました。事前に予選を設ける事でより大会をスムーズに、かつ観客側からも見応えある内容を楽しめる進行になると思うの。
日中とはいえ、屋外で長時間ジッとしているのは結構キツイのよ。動いてる大会関係者や選手は良いけど、殆ど動かない観客はきついわ~。
序に午後と午前でコースのコンディションは違うのだから、その辺の微調整をコース整備担当とよく話し合って進めないとダメだよ~とか。危険行為と思われる走行をした際の判断基準の下し方、及び審査における加点失点の判断基準の設定と、それらを参加者たちへの事前説明の必要性、及び安全対策の徹底認知。及び公式橇の改造禁止の理由についても事前に公布した上での参加者受付にすべきと説明をしてきましたとも。
ただ、参加者たちにヘルメットの着用を義務化したいんだけど、見た目のダサさで却下されそうなのよね。お貴族様って妙に美意識レベルがあるから。
序に公式キャラクターを着ぐるみを着た人に代わってもらえるよう提案してきました。ルムックちゃん達もちっちゃくなってまで、あの寒い場所で延々人目に晒し続けるなんて虐待だわ。変態さんにこれ以上寄って来られたら私と三姉妹が「変態撲滅!」の宣言の下鉄鎚を下しちゃるわー!
「ベルガコムの一撃、威力ありますな」
「特に鼻息荒く、顔を赤らめ異様な興奮に満ちた目線を寄越す方々が増えてる気がしなくもないんですよね。ゼプスさん、どうしたらいいですかね」
「ほう。私に意見を求める、と?」
「私が知る変態の中で、最も危険度が高いのがゼプスさんですし。どうしましょうか」
「「ぶっ」」(←周囲が吹いた。)
「観察力が人より抜きんでているだけですな、珍しい魔獣を見たら興奮するのはよくある事です」
「それを隠さないので、周囲はドン引きです。第三者から見たら変態そのものですよ。せめて人前では隠してください」
「むぅ、これでもかなり抑えているんですが」
「お仕事中の顔くらいの無表情して下さい、まだマシです」
「「「「っぶふぉ!」」」」(←周囲が吹いた。)
因みにゼプスさんの中で私はどの位の珍魔獣かと聞いてみたら、他に類を見ない珍魔獣の中の珍魔獣過ぎて、判断が付かないそうです。
「普通の魔獣は村人なんてしません」って発言は、ぜ~ったい言葉が通じないからだと思うの。うちの村のおばちゃん方は羊娘達と通訳機械ごしに井戸端会議してるもの。羊娘達の情報網はインターネット並みの凄さでビックリしてたけどね。ホントどこからその情報仕入れてくるんだろ?
「取り敢えず変態反応をする方々から直接何らかの被害が出ない限りは、こちらも処罰の使用がありません。が、複数人からの苦情が出る場合は注意勧告程度というのが一般的です」
国軍の方々も一応は同じなの。ただし、時と場合と状況によっては物理的教育指導も入ります。ええ。
昔、いい年したおっさん連中が赤ら顔で鼻息吐息も荒々しく、目の前の泣きそうな幼子を、今にも射殺しそうな視線で取り囲んでいた現場で理的教育指導をぶちかます国軍の方々を見た事があります。聞けば冒険者さんが迷子を案内していただけなんだけど、ビジュアル的にも犯罪臭がもわもわでした。
「私やルムックちゃん達は大会開催中は必ず羊達か村人と一緒に行動しなきゃならないんです。幾ら緊急警報用の笛を持っていても、ひと月の間一人行動禁止って結構堪えるんですよ。関係者以外立入禁止の区域だって、好奇心とかつい出来心でなんて軽い気持ちでズカズカ入って来る人も多いし。人混みに紛れた変態なんて最悪ですよ」
「笛が無くてもちび竜殿の悲鳴は凄まじい威力がありませんか?」
「人混みだと私の悲鳴って、あんまり威力無いですよ」
「「「ぅえ?!」」」
意外かもしれないけど検証済み。ただし、私の近距離には一応有効だったと言えるかな。人混みって意外に煩いし、騒ぐ人も少なからず居るの。騒音とは言い難いレベルだけど、普段静かな村としては騒音だったかしらね。
「老若男女問わない密集地なら、迷わず上空に逃げる方が正直言って楽です。大会公式キャラクターの私の悲鳴で驚いて転んで、それでケガ人とか出す方が問題になりますよ」
「ああ、そうですね」
一応大会主催者側だもの、その辺の配慮はしないとルムックちゃん達に顔向け出来なくなりますもの。ええ、私が保護者なんですもの。マミちゃん? 怒りませんね、寧ろ変態を追いかけて追撃を下します。実際にやったし。
「公式キャラクターを着ぐるみに切り替えた方が大会運営には利点が多いですよ。突発的な催しにも対応可能ですし、当人の体調不良などで参加出来なくても簡単に代理人が立てられます。販売促進の為の宣伝にだって使えますし、着ぐるみに入って貰う御仁を騎士様とか冒険者とかにしてもらえばそのまま護衛もこなせます。何より公式キャラクター導入は公式商品の幅だって広げられますよ。例えば着ぐるみパジャマとか?」
「ん?」
そう、公式商品のラインナップに「公式キャラクター商品」という項目を増やす事だって出来るわけで。私よりもあざとかわいい着ぐるみを幾らでも作ればいいのよ。置き物でも小物でも文房具でも衣料品でも着ぐるみグッズ作って売れば製作サイドも幅広く多角的な販売戦略が狙えるじゃないですか。
目標はこの世界でのご当地ゆるキャラ第一号。但しこのキャラが「ちびりゅうちゃん」と呼ばれるのはかな~り抵抗あるので、名前も公式に募集して、応募された中から役員たちが審査して決めたらいいと思うの。私のことは置いておいて。
んで、そのキャラクターが参加する大会から正式な橇大会としてカウント。会場もタングステン村から下った所の、開けた場所に設置した方がいいと思うの。ここなら下の村からの通うことも出来る交通の便あるし、広さもあるからコースの設置も、たくさんの観客席だって設けることが出来るはず。ただ山間部は一定の時間から冷え込むからね~。時間厳守、てきぱきと行動をしてもらわないと、地元の魔獣さん達がお仕置きしにいらっしゃるわよ~。日が暮れたら彼らが出歩くものね。うふふふ。
タングステン村までは臨時の橇馬車でも出してピストン輸送してもらうしかないかな。ロープウェイでもあればいいんだけど、途中途中の柱とか動力とか考えるだけでも頭痛いし、強風やら中で暴れられでもしたら簡単に止まりそう。いちいち説明だけでも面倒なのに、高所苦手な人とかは向かないじゃない。あ。
雪肌を小型の橇をロープで引っ張るロープウェイにすればいいのかしら?
橇自体を荷重軽量化機能を着けた結界魔法で包んで、重量を軽減。会場から村の乗り場までを円環状のロープで繋いで一定方向に回転。停車中は必ずロープから外して、一定時間内に乗り降り出来ればぶつからないよう出来るわよね。
「うぅむ~。動力や仕組みもそうだけど、これ乗り心地にも問題ありそう」
思わず手元の紙に書き込むけど、橇じゃなくてでっかい浮き輪の方がいいかしら? 丈夫で表面つるつる、加工が簡単で入手し易い材料って何かあったっけ?
会場を移すっていうのは村の皆が出した一案の一つ。村の生活圏を守りながら、観光客のニーズにも応える方法と考え出されたもの。観光客が来るのはうれしいけど、薬草畑も生活も荒らされるのは困るよねぇって。
見回り当番してくれた羊娘達は「色んな噂話が聞けた上に、リアルな不倫騒動現場も見れたので面白かった~」と、独自の利益があった様なので、見回り当番は多分嬉々として引き受けるものと思われます。魔術絡繰り愛好会の皆様、映像回してあげて下さい。もしかしたらお嬢達の一部も参加するかもしれませんよ。
「販売戦略ですか。ふむ」
「開催地をなにもタングステン村だけにしなくたっていいんですよ。確かに始めたのはタングステン村ですけど、利用者の安全性と交通の便、環境への配慮が出来ているなら、降雪地帯なんて結構他にもありますからね~」
「魔獣が出る場所も多いですよ」
「なんにしても事前調査から必要ですね」
いっそ、冒険者協会に「橇大会の会場と成りそうな場所の詳細情報の取得」という依頼でも出した方が早いんじゃないかしら。ねぇ?
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そんなこんなで王宮に滞在すること約18日、その間にカーバイト国からレン君や国軍の皆様方が「私の容態を視察する」という大義名分をかざしてご飯を食べに来たり、タングステン村からもおばちゃん達が「お見舞い」と称して、村の銘菓「チーズせんべい」の献上したり。その悉くが私の書いたメモイラストを見ては「ああ、どこに行ってもやること変わんないな」って顔して帰って行くのよ。畑の調子とか収穫量とか色々報告もらっているけど、お医者さんの「もう少し様子見しましょう」って言葉にどんだけじれったさを感じたことか。ああ、畑仕事がしたい。土いじりしたい。粘土をこねたい。ご飯は作っているからいいけど、我が家に帰ってとにかく家事がしたい!
じれじれ悶々としながらゼプスさんの橇大会安全規約改訂に口出させてもらったり、大会公式グッズの内容に口出させて頂いたり、そうそう。大会公式キャラクター、無事に私から着ぐるみに変更と相成りました。パチパチパチパチ!
着ぐるみは公式に応募された中から選ぶキャラクターを採用するそうです。来年の大会開催迄に告知して急ピッチでの製作となるので、秋頃迄に参加選手の公募と同時並行で行うって大丈夫かしらね。同時並行で愛称も公募。但し、考案者としての私の名前は正式に残るそうです。シンボルマークもそのままで。かっくし。
イラついているのが分かるんでしょうか、私に帰宅許可が出されたのはそれから二日後の20日目の朝でした。ほぼほぼ一か月。これ程長く村を離れるのは初めて。そういえばマミちゃんともこんなに長く離れた事も初めてだわ。
20日の滞在期間とはいえ、結構やらかした感がありますとも。こちらで作った料理に至っては全てレシピを書き留めてくれたので、有難く写しを頂いております。多分村に戻ったら片っ端から作らされるんだろーなー。書き留めたアイデアメモも写しを取られました。一々解説迄させられて、別紙にメモっていたからちょっとげっそり。翻訳が必要なほど文字が汚いって言われたのがグッサリだわ~。
ハイハイ赤ちゃん用のクッション入り着ぐるみもサンプル品が完成。実際にはオムツを付けて着る為、思ったよりもお尻がモコモコになっちゃう。暑がって不機嫌にならないといいな~、という感想。モデルが居ないので着心地は分かりません。
因みに、42歳独身の魔獣マニアなおっさんの「着用する高揚感が堪らない」という感想は参考になるのかと製作を引き受けてくれたお針子さん達に聞いたところ。
「あの宰相様からその評価を頂くなら問題はないと思われます」
と、判断されました。ええ。あれでかなりの高評価だったようです。部屋着として着ぐるみパジャマを着用し、うきうきする42歳独身の魔獣マニアなおっさん。うん、誰かに迷惑かけているんじゃないし、趣味は人其々だもんね。
安心して遊べる遊具はまだ色々と改良したいとかで、絡繰り愛好会の皆様方が頑張って下さっている模様。出来れば雪が降る前にブランコ欲しーなー、ルムックちゃんも乗れそうなしっかりしたの欲しーなー。
そんなこんなで、大会公式規約改訂版と大量の落書き、レシピに食材。サンプル品と称して公式グッズも幾つかお土産に頂きました。これだけで手押し車に山の如く乗っかっております。更に
「ホント~にお世話になりましたぁぁ」
「いやいやいや。こちらも勉強になったし、何より新しいレシピまでいただいたからね。新しい料理なんてホントに久しぶりだよ」
「村まで定期的に届けるからね~」
「あぅぅ~、もうあたまあがんないぃぃ」
そう。昨日の朝、私の野望念願のお米。ジャポニカ米にとっても近いらしき植物の「いの草」が入手出来たって連絡が入って、現物をってお城にまでわざわざ持ってきてくれたの。シーフさん、ミッツさんに本気で感謝! 日焼けした肌はちゃんと手入れしなきゃダメよ、年を取ってからシミしわが出てくるからね!
持ってきてくれた現物の量自体は三キロもなかったけど、生産している人と話が付いているので、今度の秋から定量購入可能なんですって。嘘じゃないわよね、誰かちょっと頭を叩いてくれないかしら。
少しひんやりする袋の中を恐る恐るのぞき込んでみれば、もみ殻のままの粒々がぎっしり。もみ殻のまま冷温保存するってことは結構お米の事を知っている人から頂いたってことよね。これは期待してもいいかもしれないわ。
慎重にもみ殻を剥いて色と大きさを確認。表面を爪でガリガリ削って確認。甞めてみて、うん。少し小粒だけど確かにお米、ジャポニカ米と確認しました!
もう全てを投げ捨てて、魔術師さんに全面協力の下天日乾燥と同じように水分を飛ばしてもらって、擂鉢使って脱穀、慎重に殻を飛ばしてから表面のぬかを取るために約六時間かけてゴリゴリゴリゴリしまくり。勿論そのぬかだって漬物に使うために大事にとってあります。そして現れた白い粒々に私の心はガッチリGETされまくり~!
手早く研いで、30分冷水に浸して。片時も目を離さずに焚き上げる事45分、口腔内の涎を誑さないように我慢に我慢を重ねて蒸らして、お塩と鰹節と醤油と砂糖を用意。いざ、蓋を開けたときのあのふんわりとする湯気に混ざる独特の香り、はぁ~ん。もうたまんない~!
焚き上げたお米を素早く濡らした木へらで切るように返して少し冷ます。手を水で濡らして、いざ。ご飯を手に、熱い! けど我慢! おかかを乗せてごはんで包んで、軽く整えて、一旦片手を水につけてから軽くお塩。握り込むというよりも包むという方が近い感じで成型。同じ要領で炊きあがったご飯を「おにぎり」に仕上げると、使った道具を先ず洗浄して片付ける。
噎せ込んだら困るので麦茶を用意。お味噌汁が最上だけど、今回は試食。
俵型のおにぎり、まんまおにぎり。少しだけぼそぼそした食感だけど、このほんわりした旨味とほのかな香ばさを含んだ甘味。なによりこの粒々しい食感、噛締めるほどに柔らかく、そして増してゆく旨甘味。ええ、ええ。表面の塩があってこその味、この一口を至高の味と言わずして何というの!
「(かんむりょう~!)」
手にしたおにぎりを時間を掛けてちまちまと味わって完食。周囲の人も実食したみたいですが、脳内にて喜びの声を上げ、全神経をおにぎりを味わう事のみに向けてた私には全く気が付かない状況でした。なので私がおにぎり一個を完食する間に五合位で作ったおにぎりは完食され、食材としての評価、分析などが周囲で開かれているという状態。一応評価としては悪くなさそうです。
そして今回の橇大会のアイディア料として、このジャポニカ米こと「いの草」の流通を村まで通してくださるとの事。いいのホントに?
※いの草=昔の日本のお米そのまんま。等級が低く小粒で旨味も低い。




