↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
PR
47/53

七話目 田舎の夏、都会の夏⑤

ネタバレ注意勧告:前半のちび竜、ほぼ落ち込みモードです。

「んなちび竜ちゃんは見たくない」って方は、読み飛ばすことをお勧めします。

「べつに~」という、広いお心をお持ちの読者様はどうぞそのまま読み進めて下さい。

※『』内は魔獣のセリフです。





 おはようございます。

結局の処、まんじりともせず迎えた朝は珍しく静かで。我が家がこんなに静かで広いって感じたのは初めてです。


 昨夜は寝床が落ち着かなくて、仕舞い込んでいた縫いぐるみと特大座布団を、態々納戸から引っ張り出して挑んだものの、見事な惨敗。


 敗因はぬいぐるみの埃っぽい臭いと、妙な静寂感かと思います。むう。

センセーの特製の消臭剤を満遍なく掛けて、しっかりとお日様に当て、ブラシをかけて、今夜の再戦に挑もうと思います。気分の落ち着く効果のある薬草って何があったかしら。


 憂鬱気分のまま、顔を洗って愛しの家庭菜園に向かいます、が。どこかぽっかりした頭だったせいで、お日様が顔を出して、じりじりと気温が上昇するまでボーっとしていたようです。


「あや~、いけないけない」


 気を取り直して水巻きだけは何とか終わらせました。雑草取りは午後にしましょ、思ったよりも落ち込んでるわ~。はぁ。

 

 ご飯も簡単に済ませて、作業小屋に籠れば、それなりに企画書とか遣り掛けの作業とかごちゃごちゃあるんだけど、今日は流石になにもしたくないわ~。


 裏庭の薬草たちもそろそろ収穫して、センセーの処に持って行かなきゃとか、魔獣さん達の処に顔出さなきゃとか、ああ。思いつくのはあるんだけど、なぁんか身体が重いのよね。


 そういえばアト村のおばちゃん達が村の醤油とセンセーの洗粉を欲しいって話、センセーにしたら試作品込みで色々送って商品開発してるの。エルルーの香りって青いレモンって感じでハーブの香りと合わせていい感じに仕上がってるの。皮だけじゃなくて葉っぱにもいい香り成分が入っているそうで、ほんの少しだけ足して使うのが良かったみたい。


 センセーの診療所にあった鉢植えのエルルーが丸裸にならなきゃいいんだけど。


 アト村とのお手紙のやり取りは続いていてね、今は主にワイフちゃんが引き受けてくれているんだけど、結構面白い話も聞くのよ。


 アト村で行われた例の冒険初心者向け講習会で、村が気に入って常駐を申し出たパーティーがあったらしいの。

 過疎化が進んでる村としては大歓迎な話なんだけど、理由が漁村ではなくて鰹節の大量生産を行う加工場として開拓したいっていう話らしくて、土地はあるし、材料も現地調達可能で、王都に通じる魔術門が近くにあるんだから、それを使わない手は無いって言うんだって。


 村人からしたら生まれ育った故郷の姿が無くなるかもって話でしょ、だから同意はしかねるって言ったら、権力を出してきたそうよ。馬鹿貴族の典型よね。


 そんな彼等に指導員たちが逆にブチ切れて説教かましたっていう微笑ましいエピソードが書いてあって笑ったわ。地元産業に興味を持ってくれるのはとてもいい事よね。ただ、出来ればそこに住んでいる人たちの心情をも慮れる様な冒険者になってくれるともっと嬉しいわよね。配慮が出来る人はホント素敵。


 地元産業に着目してる後継者不足はうちの村も他人事じゃありません。若い人よりも元気な年寄りが多い村だものね。


 ミッツさんたちも講習会が終わったら、ニッチさんが独立して冒険者をやめるそうだし、シーフさんとソロで仕事するのかしら。なんでも出来る上にあの強さでしょ、選択肢はかなりあるんじゃないかしら。おばちゃんと違って数字にも強そうだし。村で畑やりませんか~って勧誘したらだめ、かなぁ。


「う~や~あ~、だめだめ~、へこへこ~だめだめ~」


 ゴロンゴロンと床をのたうち叫んでも、誰も居ないからとっても静か。

はた、とした瞬間の視界がワントーン色がくすむような錯覚すらする沈黙。

自分のいる場所から音が飲み込まれてゆくような怖さが、足元から噴き出す。


 独りがこんなに怖いって、変じゃないかしら。


「よし。こんな日は単純作業に没頭よ。雑草取りしよ雑草取り」


 そうそう。なあんにも考えないで体を動かせばいいのよ~、そしたら少しはスッキリするもの。そう思って庭の手入れを始めたんだけど、普段から風ちゃんが気が付いたらちゃちゃっと鎌鼬飛ばして刈りまくるもんで手入れなんて殆ど要らなかったの。

 うう、無駄に有能過ぎないかしら。


 なので家庭菜園の草取りに向かったの。


 時折、ぼーっとしながらも夕暮れまでには何とか終わらせて、日が暮れながらも水まきを終わらせて、お家に帰ってお風呂沸かして、ぬぼーっと入って、残りご飯で夕飯も済ませて、居間でぼけーっとしながら夜空を見上げています。



 田舎の夜空ってホントに綺麗。小さいくせに数多い星は暗い夜空をこんなにも煌びやかに飾り立てて、気が遠くなるほど遠くにある癖に手を伸ばせば届きそうな顔して、その癖届かないことがまるで私のせいだといわんばかりに誘いかけてくるなんて、綺麗な顔してちょーっとだけ意地悪じゃないかしら。


「なんか腹立ちそう、うう」


 作業小屋で乾燥粘土の粉砕作業でもしよう。なんかやっていないと凹みそう。「産地別に粒子を細かくすれば使える」と思って取り寄せた粘土は、岩石かって思うほどカッチカッチ。運搬用に徹底的な乾燥を施した結果なんだそうだけど、これを戻すだけで絶対ひと月はかかる。なので大まかに砕いて水につけ擂り潰して、水に溶かして石臼で粒子を更に砕いて、沈殿物を時間をかけて分別しながら粘土のブレンドを施してゆく。


 今年の新作に使った粘土は手触りにかなり拘ったので、釉をうっすらとしか使わなかったの。質感がちょっとだけ面白い仕上がりになったと思ってるわ。


 大会参加記念用の素焼きタイル、今年はどんくらい用意が必要かしらね~。


「夜の暗がりの中、明かり一つ灯した部屋で、ごーりごーり石臼を挽くおばちゃんって、ちょっとした怪談よね。ひっひっひとか、クククとか、笑いながらやっていたら山姥に間違えられたりして」


 夜中に奇声をあげて笑うなんて、まともな人には見えないわよね。まぁかなり危ない人には違いないけど、私の場合は夜中に虫とか遭遇して悲鳴を上げるってのはあるからねぇ。なまんだぶなまんだぶ。


 でも無心に作業するお陰で、気が付いたら石臼に寄りかかって寝てました。うや、お日様も結構高くなってるからそこそこ寝ていたみたい。砕いた粘土の量からしてそんなに起きていなかったみたいね。


「う~、こんな自堕落な生活してたら怒られちゃうわ。いつもの私に戻んなきゃ」


 顔をペチペチ叩いて、気合を入れて。


「取り敢えずご飯作ってしっかり食べるの。ちゃんと食べて寝なきゃ、野望達成なんて無理だもの」


 食べたらお掃除して、村まで行ってみましょ。羊達に愚痴ったら少しはマシかもしれないし。




       *******



『うぇぇ、やだ。ちび竜ちゃんヤツレテル~』

『うわわ~、食欲の権化がこんなになるなんて~』

『だれか~、カメラ取ってきて~』


 訪ねた先でこの騒ぎです。未娘(マスコミ)達、そんなに大したニュースになるの?


「ちび? どした、その顔は」

「うや、オーレ爺ちゃん。そんなに変な顔してる?」

「いつもよりも滅茶苦茶疲れた顔してるし、ふらふらじゃねぇか。大丈夫か?」

「うや~、ちょっとだけルムックちゃん達の不在が堪えてるの。今夜羊達と寝てもいい?」

「おう、東の部屋以外ならどこで寝ても構わんぞ」

「ありがと~」

『ルムックちゃんが恋しいの?』

『何なら一緒にお昼寝しようよ』

『川べりのところが涼しいから行こ~』

「うや~、羽持っちゃダメよ~」


 仔羊達に連れられて強制お昼寝タイムに突入、ルムックちゃん達とはまた違ったもこもこと羊たちの気配は、私の眠気を誘うのに有効だったみたいで。


『ちび竜ちゃん、もう寝てる~』

『おつかれだ~』


 川べりに付く前に速攻、夢も何も見ずに眠りの世界に行ってました。いびきとかよだれとか心配してたけど、特には何にもなかったって。


 ただ、カメラにしっかり撮られていたのは不可抗力。ぶっさいくな寝顔を敢えて撮影したのは誰! ちょ、何この寝相。やだ~!




       *******



(ちび竜、お昼寝中)


『どうやら独り寝が出来なかったようだのぅ』

『みたいね~、すっごくけだるそうな顔してたわよ』

『しょうがないよ~、ず~っとルムックちゃん達が身体でだぁ~いじに守っていたんだもん。もふもふは癒しって引っ付いていたんだもの~』

『そやな。この様子だと碌に飯も食わんかったやろし』

『じゅ~しょ~ね』

『ね~』

『羊娘、魔術師にちびの飯、頼んでや』

『ん~、しょうがないね~』


 羊たちのちび竜へのフォローは自発的なものが殆ど。基本的に魔獣は自分より強いものと認めた相手には従うが、圧倒的に弱いものは歯牙にもかけない。ラクレコムは今でこそ家畜として扱っているが、これでも魔獣。本来ならば歯牙にもかけない筈。なのだが、ちび竜自体が最弱と認識されていながらも身内あつかいされている。


 火吹き竜自体が本能で他の種族であろうと子供を保護する性質らしく、他の種族からも襲われることが少ない。無論現在その数を絶滅寸前まで減らされたせいで、詳しい生態自体がほぼほぼ不明っていうのが推測の理由だが。


 まあ、ちび竜が魔獣だろうと人だろうと構わずお節介を焼くのが理由だと思われる。魔獣側も手助けする気にはなっても、襲いかかる気にはなれないのは、観て居る方がよっぽど面白いというのが主な理由。


『魔獣に差し入れするなんて考え、どっからでてくんのかねぇ』

『そうそう。しかも匂いの強い内臓とかだよ~』

『それを受け入れる方もどうかしとるがのぅ』

『だって、ちび竜ちゃんだし~』

『そうそう。おのこしゆるしまへん~だよ~』


 魔獣被害のない区域では、彼等の食事は足りているが、被害のある地域はそういった食物連鎖的なバランスが偏っているともいえる現状なのだ。山奥にいる魔獣達は肉食性のソージュ(←ハイエナとかジャッカルみたいな生き物)やら、無形のパウラー(←スライム。無色無臭のからいろいろあるので呼び名は結構あるらしい。)やら、人の身にはそこそこ危険なのも多い。深入りさえしなければ危険は然程ないが、安全は保障しない。


 ちび竜は食材探しと称しては、山菜やら茸類やら採取して来る。中には明らかな毒もあるが、何故か確実に毒を取り除く方法を見つけてくる。しかも手法はどれも簡単なものばかり。因みに茸類の多い地には無色のパウラーも多いらしい。


 この辺りが魔獣達の生息地ながら人の住む地として成り立っているのは、一概に食物連鎖的なバランスが整っているだけではなく、火吹き竜という潤滑油が一因ではないだろうか。


『全く、目が離せんわ』

『のぞみもいってくる~』 


 ま、ちび竜に何かあったらそっちのほうが大問題になりそうだがな。




       *******



「え、やだちび竜ちゃんってばそんな事になってたの?」

「大変! ちょっとご飯作ってくるわ」

「羊達に添い寝させるのは大賛成だけど、お家に帰らせるのはちょっと心配ねぇ」

「マミちゃん、あんた暫くあの子に付いててやれないのかい?」

「私はかまいませんけど、ちび竜ちゃんが気を使いますからねぇ」

「保護者なんだから頼むよ」


 羊娘の伝言を受け取った現場に居合わせた村のおばちゃん方によって、マミちゃんだけでなく村中に私のへたり具合は広まってしまい、翌朝には噂を聞きつけた国軍の伝手で王城まで伝わったって、なんでよう。


 私、なぁんにもしてないもん。


 おやつの時間位に起こされて、お茶受けと称してポー豆のずんだあんお団子をうまうま頂いて、畑の水やりに行って、流石にまた独り寝ちょっと厳しいと思って、お風呂だけおうちで済ませて、羊たちの所に戻るなり強制的夕飯時間に。


 普段の食事量が大体子供の半分以下なのに、大人三人前はあろうかというボリュームの夕飯は頂けませんってば。


 しかもつけ麺とはいえお饂飩と蒸しパンは炭水化物でしょー、お野菜とかお魚とかならわかるけど、焼肉に唐揚げって、肉三昧(にくざんまい)過ぎません、体育会系部活所属の高校男子じゃないんだから、肉と野菜と魚と炭水化物はバランス良く頂かなきゃ。せめて葉物野菜でお肉を一緒に食べて~! と普段ならきっと口にするんだろうけど、今は何だか億劫で。


「ごちそうさま」

「あら、だめよ。いつもはもっと食べるじゃないの」

「あんまり動いてないからお腹空かないの」


 嘘じゃないもの。今日は殆どお昼寝してたし、お団子たべたばっかだからあんまり空いてない。


「お散歩いってくるね~」

「一人でだいじょうぶ?」

「へーきよぅ、いってきま~す」


 腹ごなしにぬるい風がやんわりと吹く中、ぽてぽて歩いてお散歩に。目的は腹ごなしで眠気を誘う為の運動だから、飛ぶよりもこっちのほうがいいかと思ったんだけど、幼児並みの歩幅で超鈍足のぽてぽて歩きって、かえって心配されるものだと実感。


「ちびさん」って後ろから掛けられた声に振り向けば、トーンちゃんが側に立っていて、暗いから僕も行くよと掛けられた声で心配かけてるなぁって実感。


 同伴されて歩くのはそう珍しいことじゃないけど、歩みと称するもおこがましい速度は散歩と言い難い気が~。でも今の私にはこれくらいがちょうどいいんだもの、私には散歩でも、トーンちゃんにはまさに駄々っ子のお守り。


 暗いといっても村の道には外灯があるから、かなり歩きやすいの。昼間にちょこっと昼寝したおかげで、頭も身体もかなりラクになったし。これで外灯に(たか)る大量の羽虫達さえ居なきゃ、ホントにいいんだけど。うひょっ。


「外灯に魔獣除けだけじゃなくて、虫除け機能もあったらいいのにね」

「虫除け香があるから大丈夫よ、ありがとね」

「今夜は寝れそう?」

「添い寝してくれるもこもこ様がいっぱい居るから大丈夫と思う。お昼寝したから眠気はあると思うの」


 ぽてぽて、歩きながらはじき出す勝率は五割くらい。何とも微妙なのはお昼寝がどの位響くのかわからないから。


「だといいんだけど」


 トーンちゃんを引き連れて、時間を掛けて村をぐる~っと一周して、羊たちの添い寝でいざ、おやすみなさい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。