七話目 田舎の夏、都会の夏④
※『』内は魔獣のセリフ表記です。
「魔獣の冒険者登録はそれ自体がかなり珍しい事例だということは分かったね?」
マミちゃんの策の狙いは冒険者登録をした魔獣が居るという事実そのものが、冒険者達の興味を引かせ、対外的な牽制になると考えたそうなんだけど。うや~、なんで?
「タングステン村は現在国からの保護区認定がなされた場所になってはいますが、村外では然程有名ではありません。ですがちび竜ちゃんが大陸規模の保護獣であり、タングステン村の知的文化財産に欠かせない存在として、先のハルト国王夫妻の披露宴で諸外国知られています」
「うや~、それを言っちゃうんだ」
「ええ、ですのでちび竜ちゃんの知名度を使って、同じ村所属の魔獣が冒険者登録したという脅しを人間側に掛けます」
脅しって。大袈裟と思ったけど、よくよく考えたら確かに脅しになるのよね。私単体のご縁なら、自国のカーバイトの王城関係者ともあるし、お隣のハルト国の王城関係者にもあるわよね。商業組合とも色々ご縁出来ちゃったし、国軍の方々にはホント、タングステン村に来る前からお世話になっております。今回冒険者協会の方々ともご縁が出来ちゃったし、国内の魔獣さん方ともごく一部かもしれないけどお知り合いもいる訳で、あらいやだ。私、結婚式の立会人もしてるから、近隣の諸外国の上層部に顔も知られているじゃない。
「タングステン村の魔獣って肩書が今回私が仕掛ける策なんですよ。ルムック達がちび竜ちゃんの大事な家族って事は、冬の橇大会でも公式に知られていますからね」
ええ。あんな目立つところで私一人で観戦するなんてって、二人が憤って引っ付いてくれたのよ。お陰で楽しくおしゃべりしながら暖かくして観て居られたわ。次回は是非羊たちの解説と実況付きでかまくらの中からぬくぬくしながらの観戦が希望するわ。勿論村のみんなと一緒にね。
「それって下手に手を出すと国が出てくるよって事?」
「そもそもルムックが人前に滅多に現れない魔獣だから、見た事がない人の方が圧倒的に多いんです。そんな現状に冒険者協会の宣伝材料に出ている魔獣たちは一部でとても有名になってましてね」
「ええ。そうです。あの金と銀のルムックが強くてカッコイイと人気がありまして、絵姿の写しが流行っているんです」
はい?
「ベルガコムの跳躍した姿を彫刻した像も貴族たちに人気がありまして、商業組合でも流行りの商品になっているそうです」
はいぃ?
「そういえば城下では、服を着た火吹き竜の姿を模した置物が流行っているそうですよ。なんでも幸せを運んで来るそうです」
うぇぇ、服を着た火吹き竜って。
「大きさこそまちまちですが、濃色の花の色をした上着を着せたものが特に人気で、閃きの加護もあるって話です」
「なにそれ?」
「おや、火吹き竜は知竜として知られているのでは?」
「ええ。なんでもハルト国の結婚式に立会いした火吹き竜は幸せをもたらしたと王妃様が仰ったそうで、それを聞いた商人が幸運のお守りとして売り出してるとか。私も娘からもらいまして、これです」
「ほう、随分可愛らしい見た目ですね」
見せていただいたそのお守りは手のひらに乗るような大きさのデフォルメフィギュア。赤金色一色なので造形がハッキリわかる代物でした。ひらりとした上着を着せられ、どことなく笑っているような表情をしたソレは、私よりもはるかにカッコかわいい仕草をしており、明らかに私とは別物。ええ、私の方がぶちゃいくです。
「いろんな色のものがあるそうで、一番人気は淡い紅色の本体に、鮮やかな薄紅の上着だそうで現在品切れだそうですよ」
「ぶふぉ!」
私の皮膚の色、ほのかに赤みがかったピンクベージュに近いのね。爪とお目目は褐色がかった深い赤。因みに一般に知られている火吹き竜は緑がかった杢灰色っていうのかしら。あんまり水とかに入るって聞かないから、私みたいにしょっちゅうお風呂に入っていればまた違うかもしれないんだけど。
「ちび竜ちゃん、人気ですね~」
「私じゃない。こんなにスタイル良くないもの!」
「まだ幼いからでは? もう少し成長されたらこんな感じになると思いますよ」
にっこにこ笑ってとんでもない爆弾を出すわね、バゼスさん。そして何気に知っててこの話題を出したでしょ、マミちゃん。肖像権の侵害よ、誰がこんなの世に出したのよ。
「商業組合で売り出されているんですが、王妃様の発言で貴族から平民にまで幅広く売れているそうです」
「なので職人がこぞって作っているんですよ。景気の良さも相まって売れ行きは順調です」
「ちょ、本人の知らないところで有名になってるぅぅ~」
「王都バルトと王都リアでは今、一番有名なお土産ですよ」
「歴代の王位継承者の中で竜の立会いを得られたのは現王だけですからね」
「だって、セス君たちもおーさま達が立ち会えってうるさかったんだもん。友人代表枠だから」
「そもそも大陸間規模の保護獣から友人として直接祝われるって事が珍しいと思うんですけど」
オーマスさん。そうでした、ええ。普通「獣」は祝ったりなんてしないのよね。そう、普通の「獣」は村人なんてしないし、納税も農業も陶芸も企画もしないわよね。そもそも、私が「普通の定義」から外れているのよね。
「まあ、ちび竜ちゃんだからねぇ」
私が普通の定義に当てはまらないのはしょうがないと思うの。
外見が幾ら人外でも、中身は前世と思しき記憶持ちで、おばちゃん精神全開で、可愛いものにはメロメロで、美味しいものには目が無くて、生臭いのとか虫とか苦手な、只のおばちゃんなんだもの。どうやったってこれだけは替えらんないもの。
は、!
「って私の話じゃなくて、ルムックちゃん!」
「はい?」
「なんでルムックちゃん達に冒険者登録が必要なの?」
「簡単に言ってしまえば、彼らを害する人間に対しての脅しに使う為です。魔獣で冒険者協会の登録が出来るほどの個体はそうそう居ません。しかも現役冒険者の紹介状付きです。それに一部とはいえ王都でも彼等は知名度があります。そんな彼等に手を出すという事は世論的にもどうでしょう? 彼等の存在はカーバイト国とハルト国の王族関係者にも知られているんです。拙くは無いですか?」
「秘密裏に密漁されればわかんないわ。あんなにカッコ可愛くて強くて紳士でシャイで自慢しか出てこない二人が、意識不明状態で拉致監禁されてたら」
「素直にあの二人が素直に拉致監禁なんてされる訳無いでしょう。第一本気で抵抗したら周囲への被害は甚大ですよ。あのベルガコム達直々に扱かれてるんですよ」
あまい。拉致なんて幾らでもやり方あるわよ。二人が油断するような幼子に捕獲の式でも持たせて近づければわかんないわ。そんな状況下になるってことは、なんらかの策略が働いているか、最初から罠に嵌められてるって事だもの。
捕獲してしまえば、強制的に意識を失わせて洗脳しちゃうって事もやれるわよね。そうして愛玩用に従順になる矯正魔術を使うとか、いざという時の護衛として使い捨てられるような非道なのを仕込まれて、どこぞの金持ちやら好事家に高値で売られる可能性だって出てくるわよね。
あの二人を弱らせてその状況にさせるなら、紛争地帯にでも噂を流してそこに追い込んで肉体的にも精神的にも弱らせれば、手間はそこそこ減るでしょうけど。それを彼等の周囲の魔獣たちが簡単にさせる筈は無いわよね。
手間と暇を考えて、よっぽど長期的な視点で計画されていない限りはそう簡単には拉致って難しいのかしら? そうなるってことは多分多勢に攻め入られるような状況なんだと思うし、そうなると近隣では莫大な被害が発生するわよね。局地的な災害が発生した場合の保証を彼等からむしり取るにしても、証拠が残んないと取り締まれないのよね、多分。
「局地的な災害はそれで困りますね」
「っていうか瞬間的にこれだけの事柄が浮かぶって、火吹き竜を捕らえてアレコレ計画させた方がよっぽど効率よくないか?」
「ちび竜ちゃんを密漁した場合、国軍が知的財産保有者保護のために動きますが?」
う~ん、ルムックちゃん達だけじゃないから、よっぽどな事情が無い場合は問題ないと思うけど、おばちゃんはつい心配しちゃうのよね。スパダリ足り得るルムックちゃん達だけど、その前に大事な家族なんだもの。
「(すぱだり?)」
「普通、成獣のルムックを人が捕らえるのは難しいですからね。何せ属性攻撃がとにかく厄介ですし、そうじゃなくても戦闘能力自体が高い。自身の身を隠蔽する術はかなり高等な技術です。これを見破るのは相当骨が折れると聞きます」
「うや、そうなの?」
「そもそも、ルムックって滅多に人前に姿を現さない魔獣なんですけど?」
「ええ。見かけたらいいことがあると冒険者達の間では言われていますね」
「風ちゃんも雷ちゃんもスリスリしてくれるわよ?」
「「よっぽど信頼されてるんでしょうね」」
うちの子って、人嫌いだったっけ? あれ?
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私のささやかな暴走を置き去りに、村の魔獣ことのぞみ、こだま、ひかり、風ちゃん、雷ちゃんは「タングステン村所属」の冒険者登録無事に終わらせました。簡単な魔力検査と書類作成だけだったので拍子抜けともいえるけど。
マミちゃんの翻訳機はここで物凄い役立った事を一応報告。そして村の羊達が人間の言葉を正しく理解している事にとても驚いていました。
未娘達の情報収集能力にバゼスさんは是非とも王都に来て欲しいと熱烈に勧誘していました、が。
『え~、新鮮な美味しい草が無いの? じゃあいかな~い』
と、あっさり断られていました。そりゃあ三食食べ放題に昼寝付きは村じゃなきゃできないと思うの。況してや王都の人がうじゃうじゃいる都会は刺激はあれど、下手に昼寝してたらちょっかい出されそうよね。ちょろちょろと羊がうろついていたら別な意味でも目立つだろうし。冬の橇イベント中、子供たちから酔っ払いにまで絡まれた経験があるから余計に行きたくないのも分かるわ~。
『避暑に来た人間を観察する方がいいわ。魔術門が出来たから、王都から避暑地としてお客も来ないとも限らないでしょ。ま、観光案内出来るほどの名物なんてないけど、見晴らしのよさと心地いい風に吹かれる快感は自慢するけど』
『そうそう。王都のうわさなんてほっといても入ってくるしね~』
『あ、そうそう。ちび竜ちゃんの自宅周辺は立ち入ったらダメよ! ルムックちゃん達の縄張りなんだからね』
そうね、私の自宅のある山近辺は村の関係者以外を立ち入り禁止にしてもらわないいとね。なにせ私の自宅には薬草各種に家庭菜園が植えられてますから、踏み荒らされたらたぁ~いへんよぅ。村の近隣で採取可能な薬草は殆ど私の自宅裏で半放置で育ててますもん。中には例外があるけど、村で育ててる種類の半分は私の自宅から移植したもの。中には野生の方が効能が高い事が判明して、敢えて森に植え直したのもあるわ。植えた場所が場所なんで、結局私しか収穫出来ないってオチが付くんだけど。
「そういえばここは薬草の生産地でもあったんですよね」
「たしか、ここでしか育たない特殊な薬草だった筈です」
『そうそう。ちび竜ちゃんしか取りに行けないのよぅ』
『村人は無理無~理』
『私達でも無理無~理』
『『『ね~♪』』』
そして冒険者証の代わりに頂いたのは、透かし彫りの金属とも木材と付かない不思議な材質のバッチ? みたいなもの。よくよく彫りを見てみれば、桜の花と竜って。
「これ、橇大会の公式紋章?」
「そう。これが使えるのはタングステン村だけですし、ちび竜ちゃんが入っているからルムック達は納得するかと思ってね」
これ、来期大会用の関係者が身に付けるスカーフ止めの試作品なんだそうで、グレイちゃんがくれたそう。これに桜色のスカーフに使ったらどうだろうと提案してくれたんですって。
「村所属ならば新たに登録する方が手続きが早いのです。急ぎの案件だとお伺いしたものですから」
オーマスさん。便宜計るにしてもこーいう演出はやりすぎじゃない?
「この冒険者証に使われているのはドーンゴアの卵殻なんです」
「どーんごあ? どっかで聞いたような気がする」
「ええ、珍獣とされる鳥で丁度このくらいの大きさの鉱石と並ぶぐらい硬い卵から産まれます」
「へ~」
「綺麗に割れる事が少ないので、採取素材の中でも稀少価値を付けられるんですが、こんな風に卵殻を細工するのは難易度が高いんですよ」
「卵の殻細工かぁ、エッグアートって確かに根気と時間がかかるんだよねぇ。私じゃ無理ね」
今朝方玉子焼きを沢山作ったからグラの卵の殻ならあるけど、殻はお洗濯に使うのよ。布巾とか手拭いと一緒にストーブにかけてちょっと煮込んでから洗うと綺麗になるの。使った殻も細かくして鍋の焦げ付きを落とす研磨剤にしてるからね。
冒険者登録を無事済ませた風ちゃんと雷ちゃんは、卵焼きとふりかけの入った私の鞄と冒険者証を首から下げて、行ってきますと颯爽と行きました。
「うう、おばちゃんさみしい~」
「親は子供の成長と共に経験し、親として成長するもんだよ。そんな気持ちを持てるなんて、親として成長している証よ~」
「そうそう、帰ってくるって約束してくれたんだろ?」
『あの子らが約束した事を守らないなんてある訳ないだろ』
「信じてやんのも親の成長だよ、泣くんじゃないよ」
一緒に見送ってくれた村の皆も、ぼろ泣きする私を励ましてくれるんだけど、気持ちと感情が暴走状態で、理解してるんだけど泣き止んでくれない~。
※おまけ:マミちゃんと冒険者協会員の会話
「(火吹き竜って、価値観が人間と違うのか?)」
「(分かりません。この個体だけ独自の思考なのかもしれません)」
「(ちび竜ちゃん独自です、それは確認済みです)」
「(ドーンゴアも保護獣認定されている珍獣なんですけどね)」
※ドーンゴアは#3に出てきた三本足の鳥。珍しい体毛色を持っている為絶滅するほど乱獲された。現在では現在は何処かの国の保護区か、国からの許可を得た機関にしかいない。ので、その卵殻が如何に入手困難な素材かお分かりだろうか。
因みにグレイちゃんは昔、知り合いに貰った素材が出てきたので使っただけというオチが付く。「素材なんざ使ってナンボ」というノリで作ったらしい。(笑)




