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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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七話目 田舎の夏、都会の夏①

同日更新のお話がありますのでご注意!

 タングステン村の夏は確かに暑いけど日本のように茹だる程ではなく、適度に風もあるのでかなり過ごしやすい気候なの。高原の田舎でうだる暑さから羊の群れと斜面に広がる草原、長閑な田舎景色、一年で一番虫が多いので時折響く私の悲鳴。


 時折、いえ。今日に至ってはとある事情のもと、大出血サービスで朝から喉が酷使されております。


「“都会の雑多な騒音も喧噪もない、穏やかな時間が流れる高原の田舎で、のんびり退屈しませんか。村唯一の宿屋にて田舎料理と羊の声を堪能できますよ。”なんて謳い(キャッチ)文句(コピー)を付けたら、王都の観光案内書に乗っけてもらえそうな景色じゃね~」

「あはは~、これ以上観光客が来て薬草踏み荒らされたらどうすんの」

「観光用のお散歩コースを整地するとか?」

「うえぇ、これ以上忙しくなんのは困るわ~」

「当面観光客が増えるのは雪の間だけで良いよ。羊達に余計なストレス増えたらチーズの味に影響する~」


 夜明けからオーレ牧場の人達にくっついてとあるお仕事のお手伝いに参加してますちび竜です。朝から六人位の集団で山の中をうろうろしてるのは、この時期にしか収穫できない食材確保の為。羊飼いたちの期間限定のお仕事なんだけど、私の野望も関わるので自発的にお手伝いに参加という訳。但し、


「あ、虫が」

「うぎゃぁーーーー!」


 夏の森なんて虫の宝庫なので、当然私の悲鳴も出ます。ヱンカウント率がもう半端ない、まだ昼前なのに私の体力尽き果てそう。


「虫、嫌いなくせによく付いてくる気になったね」

「ポー豆の株の位置を確かめるなら同行するのがいちばんじゃない、私独りで回っていたら虫と対面して即、気絶からの遭難覚悟なのよ。「いかのおすし」提案者がそれじゃあ、子供達に顔向け出来ないわ」

「それでわざわざ逃げ込むための箱まで用意するんだ」

「それが私にとって最大譲歩できる限界なんだもの~」


 背負い籠に細かい毛糸で作ったカバーで覆った蓋付きの避難所を態々作ったの。中にはしがみつき様のクッションが入っているので落ち着くまではこの中に入っている予定。同行のトーンちゃんが背負ってくれているので、ヱンカウントする度にここへと避難してます。


「ま、この悲鳴で俺らの場所も特定できるんだからある意味では便利だわな」

「森の魔獣たちもこれだけ騒いでるのに、一向に遭わないからねぇ」

「下手な獣除けよりも、効果あんじゃねーの?」

「たぶんな。でもこの村限定だろうけどなぁ、他所じゃ無理だろうなぁ」


 親交のある魔獣には今日の事は事前にお話してあります。夏の日中は村人が森をポー豆探してうろつくので、と差し入れ持って。内臓やら骨やら引き取って頂いて、ホントに助かります、ううっ。私の悲鳴で彼らも場所を把握してるんだろうなぁ、笑いながら。


「お、ポー豆、はっけーんーー!!!」

「うは~、これはデカいけど直には無理だわ」

「どこどこ~、見~た~い~」


 見上げた崖の途中に特大の株がででんと聳える枝豆ことポー豆、そう。今日は野生のポー豆の収穫にきているんです。こちらの枝豆ことポー豆は、一株の高さがマミちゃんの腰ぐらいまであり、当然はっぱなんてわっさわさ、豆の入っているさやに至っては一株で大体150から220近く付くの。根っこもすんごくしっかり張っているから、私一人では引っこ抜くのは無理。遠目だけど成人男性の腰ぐらいもあるこれを見れば畑で作るのが無理ってよくわかるわ~。


 今季最初の収穫なので食べ頃のポー豆を主体に収穫。葉っぱも軽く1/5程度毟っておきます。そうすると株全体が葉っぱを増やそうと活性化するので、豆の成長にもいいですって。

 ただし、定期的にやらないと成長しすぎて豆の粒が不揃いになる上、味まで変わることがあるので気をつけなきゃいけないんですって。

 以上、農家のイェライトちゃん情報でした。


 この葉っぱも羊たちの珍味として頂いてるので、無駄じゃないのよ。収穫時期が終わったら豆の実と葉っぱをもいで、鶴嘴で根っこを掘り返して株ごと収穫。葉っぱは羊達に、豆は食用に、茎や根っこは焚付けの材料にと余すことなく使います。灰だって村じゃ立派な資源だもの。


 ここでも状態維持の魔法は大活躍で、収穫した葉っぱと豆を魔法のかかった小袋に入れて村まで搬送してます。採れたてのポー豆は塩ゆでにして頂くのが一番の贅沢。余ったら小エビと一緒にかき揚げにして頂いたっていいわ~。さやもいい出汁が取れるからね~。うふふふふ。


「この高さじゃ崖に上って、上から採るしかないな」

「私が行きま~す。風呂敷ならもってるし、仕分けはお願いね」

「無理しなくていいぞ。あんな崖の上だし、今後あそこの収穫は難しそうだ」

「ロープが必要だね。あと、一人で来るのも危ないからやめたほうがいい。ちびさん、ここはお願いするね」

「トーンちゃん、そしたら魔獣さん達に差し入れついでに、この辺だけ私が回るわよ。他にもあるかもしれないし?」

「そうだね、村の皆には危険個所に指定して、近寄らないよう注意勧告するよ。ちびさんの知り合いにも知らせて置いてくれると助かるな~」


 うん、あとでマミちゃんに相談しよ。あんな所じゃ、雨が降って土砂崩れでもしたら大変だもの。

取り敢えず風呂敷を前掛けみたく腰に巻いて、一部を首に巻いて簡単な籠代わりに。株に近づいて、収穫開始。ある程度溜まったら下へ運んでを2回ほど繰り返して終了。


「去年はこの辺まで来なかったからな。もう少し回ってい見るか」

「需要があるからそれは賛成だ、ほう。実もしっかりしているじゃないか」

「ああ。これならいい値段で売れるな」


 葉っぱも大振りで色がとっても濃い緑。さやに入った豆もいい感じの大きさで、正に収穫時。大豆と違って葉やさやの表面に毛がほとんどない。香りも豆の青々しい感じだけだから、ちょっと不思議な感じ。


 ポー豆は繁殖力が強いけど、根こそぎもがれたら流石に取れなくなるので、少しだけ残すのは村の決まり事。これは薬草でも山菜でも変わらないルール、お貴族様や一部の冒険者さんたちはあるだけ毟っていくからホント困るのよ。


「今年はルムック達が草刈りの手伝いしてくれるのがホント助かったわ」

「わかる。しかも刈った草を纏めて山にしといてくれるだろ、かき集める手間が省けるし、作業が早く終わったんでやっと豆取りに来れたんだぜ。オーレ爺も一日中重い大鎌持たなくて済むからって喜んでたよ」

「大鎌かぁ、あれ使うと後から腰に来んだよー」


 昨年から村のお手伝いに参加している風ちゃんと雷ちゃんが、頼もしいとこんなに評価されるのはめっちゃ内心鼻高々。うちの子が褒められるのって、私自身を褒められるよりも何倍も嬉しいわ。胸の中が擽られるような照れくささも、わき腹から背中にかけてよじ登ってくるむずがゆい嬉しさも、足元からじんわじんわと満たされるような達成感も、ぜーんぶひっくるめてルムックちゃん達への評価からくる感情。世の親御さんたちが味わう子供が誇らしいって感情はきっとこんな感じなのね。ああ。うちの子、尊い!


「んで、そのルムック達は今日も草刈りかい?」

「いや、今日は「お(タルーク)」の所へお使いだとよ」

「あそこまでか、そりゃすげえなぁ。俺らが行ったら一日がかりだぜ」

「おまけにこっちの運搬は「三姉妹(ベルガコム)」がやってくれるんだからホントに助かるわ。こんな賢い働きもんの羊とルムック、人間にも滅多に居らんぞ」


 そんなべた褒めされたら私が悶え死ぬわ~。ああん、もっと言って!


「ちび、そろそろ昼の支度にいかなくていいのか?」

「うや~、今日はおばちゃん達がしてくれてるの」

「そうか。ちびは三姉妹が来たらそこの袋を一緒に持って村に戻んな。俺らもう少し奥まで行ってくるわ」

「まだ行くの?」

「ポー豆の需要が誰かさんのお陰で高まってるから、稼ぎ時なんよ~」

「冬の大会費用も稼がんとだしのう」

「ちょ、大会は国からの補助金出るんじゃないの? 確か出場者が参加費用を払うことでほぼ予算の目途は付いたって話だよね」

「うん、それはそれ。優勝賞品の資金にちょっとでも色を足そうかと思ってさ」


 冬の橇大会の盛り上がりはタングステン村始まって以来の賑わいだったこともあって、異様に次回開催を仄めかすのよね。村おこしの一環になんて思ったけど、なぁんか企んでない? じーっ。


「手持ちの袋以上は絶対に取らないから大丈夫」

「獣除けの鈴もしっかり身に着けてるから」

「絶対一人で行動しないから」

「じーっ」


 一応村のおばちゃん方からも油断は禁物と注意をキチンと受けているので、おいちゃん達も安全を第一にポー豆狩りをしているのよ。自警団にも入っている人が居るから、ぜぇったいヤバい処にはいかないとは思うけど、何かトラブルが発生すれば、他の人にも多大な迷惑がかかる事は皆分かってるはず。うーん。


「今日のお昼ご飯に、茹でたポー豆出すの。遅れたらなくなるからね」

「え、とっててくれないの?」

「育ち盛りの子供たちに腹空かせて待ってろと言わないわよね?」

「うぅ、はい。お昼までには戻ります」

「ちび、最近かーちゃん達に似てきたな」

「飯を盾に取られたら、そりゃかなわんなぁ」


 ふ。この時期だけの茹でたての枝豆と鶏唐揚げは村でも人気のあるメニューだもの。軽食に、お酒のおともに、おやつにと老若男女問わず好評戴いてるわ。最近変わり種天ぷらが王都で出回ってるって聞いたんだけど、まだ食べた事ないのよねぇ。どんなのかしら。


「時間厳守で気を付けてね。遅れたら三姉妹が蹴り付きで迎えに行くと思ってね」

「なにその鬼畜仕様なお迎え!」

「お昼抜きで私とおばちゃんからの説教とどっちがいいかしら?」

「どっちもヤな仕様だな。分かったよ気を付ける、それでいいだろ」

「飯ナシは勘弁だぜ」

 

 今朝からポー豆狩り隊に勤しんでいるのは私達だけじゃないの。別動隊にはなんと村のおばちゃん達と国軍の非番の方達が比較的足元のいい麓側で任務遂行中です、ええ。

 一応国内ではそれなりに見かける品種なので市場価格もお手頃価格。だけど畑で作れば繁殖力が強すぎて他の作物が育つ前に一面に繁殖するそうで、野生のものを狩る方が味も手間もいいので、敢えて作ろうと思う人は少ないそうよ。


 手慣れた様子で袋詰めした豆狩り隊は、5袋と避難所を残して森の奥へと進んでいきました。道を塞ぐ様に生えていた株を幾つかと、収穫した葉っぱと豆がそれぞれ分けて収納されてます。


 ちなみにポー豆はさやのまま袋に。初物の採れたてのポー豆をさやごと塩ゆでして、お昼の時にいただくのはこの時期限定のご褒美。ご当地ならではの食べ方よね。


 葉っぱは羊達がこぞって食べてくれるので、なるだけ持ち帰るようしてます。この時期だけの珍味みたいな扱いで、ベルガコムもラクレコムもタルークも食べるの。私も口にしたけど、苦みの混じった青汁にほんのり豆味。天ぷらとか煮浸しならいけるんじゃないかしらね。あれ。


『おまたせ~、あれ、チビ竜ちゃんだけ?』

『おかえり~、みんなはもう少し奥まで行ってくるって』

『そっか~。持ってくのこれで全部?』

『いっぱいだから私も持つよ?』


 収穫したものを村までの運搬してくれる役をのぞみ達が請け負ってくれるので助かったわ。この大袋持ってえっちらおっちら飛んでいたら、フラフラになりそうだもの。


 足場の悪い山道でベルガコムの足の速さは冗談じゃなく速い。更に言っちゃうとのぞみ達は独自のルートがあるので私よりも早かったりするの。今回は三頭全員が参加してくれるので運搬速度が半端ないの。


『チビ竜ちゃ~ん、のぞみ、持てるよ~?』

『一つくらい持たせてよ~、私何にもしてないんだもの~』

『虫が来たら逃げらんないよ、だいじょうぶ~?』

『うっ、そうね。ごめんのぞみ、私役立たずだわ』

『のぞみ~、力持ちだからだいじょ~ぶ! ちび竜ちゃんは落っこちないように支えててね~』


 のぞみ、ホントに優しいわ~。この気遣い、男だったら絶対イケメンよ。私、ホレちゃうぅぅっぅ!


 のぞみ達が持ちやすいよう持ち手を付けられた袋を身体の左右に吊り下げて、背中に避難所を載せて、ゆったりした足取りで村までトコトコ戻りながら、ちょっとだけ葉っぱも味見。一口なんだから味見よね~。のぞみは癖が無くてほんのりした苦みがおいし~って言ってたけど、青臭い苦みって結構癖だと思うわ。




       *******



 本日のお昼は私ではなくおばちゃん方のお料理で、大量の薄焼きパンと色んなお惣菜を各種用意。パンに好きなものを包んで食べてという手巻スタイル。お惣菜も細切りされて巻きやすいようになっています。一口サイズの串焼きお肉も添えて、立ち食いスタイルで和気あいあいと頂いております。


 勿論、採れたてのポー豆も大鍋でたぁっぷり茹で上がってますとも。お酒片手にいい顔してぷっちぷっち皆さん頂いております。


「これ、酒と合うわ~。んめ~」

「生のポー豆を茹でるとこんなに旨いなんて知らんかったわ~」 

「ただ茹でて塩を振っただけなんて信じられん」


 国軍の皆様方は生のポー豆は初めて食べたようで、口の中でさやから豆を出す食感が楽しいらしくて、子供のように召し上がってます。うんうん、初物だけの食べ方なんだよね。夏の盛りには皮が固くなるので、その頃から保存用の豆収穫となるの。


 豆乳におから、豆腐にお揚げ、厚揚げに湯葉、味噌に醤油、煮豆も煎り豆、きな粉も作るからお豆の需要は例年よりも高いわよぉ。


 風ちゃん雷ちゃんは先に食べて遊びに行ったからね~。子供達もそれに倣えとばかりに見事な早食い競争を繰り広げ、二人を追っかけて行きました。


 ポー豆狩り隊の参加者たちも無事に戻って来たので、お迎えの手配はしてません。ただ、取ってきたポー豆は殆ど食べ尽くされそう。初物だから皆で戴くのは良いことだし、豆の出来も確認出来たから良しとしましょ。


 お塩を鍋に直接投入しないのはズバリ環境の為。豆のゆで汁に食べ終わったさやを入れ、もう一度似出しながら柔らかくしてからそのまま擂り潰して、大まかなカスを取り除くの。残ったペーストにお塩をちょっと足して、天日干ししたものを羊たちの塩分食として時折配るの。この辺って岩塩少ないのよね。


 生き物に塩分は必要不可欠だもの。実は魔獣達にも偶に持っていってるのよ。なので余計なものを極力入れないようしてるわ。味の感想とか頂いて、年々改良も加えています。今のところお塩にこだわりはないけど、塩っけはもう少し多くとリクエスト頂いてるので、羊用と魔獣用と作り分けてみようかと考え中。


「ほい、豆のさやはこっちだっけ?」

「旨かったよ、さや付きの豆って初めて食べた~」

「これ、王都では食べらんないの?」

「さやごと仕入れるお店があれば食べられるとおもいますけど。ただね~」

「ただ?」

「この食べ方が出来るのってこの時期だけなんですよ。豆の皮が固くなるとどうしても食感が悪くなるの。それに豆だけで運ぶのと、さや付きで運ぶのでは値段にムラが出来るでしょ。利益を考えればさや付きを扱うのは考えちゃうわ」

「状態維持の魔法でもダメなの?」

「そもそも状態維持の魔法を使っても収穫量自体が増えるわけじゃないでしょ。それに栽培自体が不向きな食材だから野生の物をこうして採ってるんだもの。収穫に危険が全くないとも言い切れないし、こう見えて意外と出来高と採算費用が釣り合う作物じゃないのよ、コレ」


 センセーが畑で作れるように研究しようかって言ってくれたこともあるんだけど、この手の研究ってどうしてもお金が必要でしょ。村の誰かが言い出さない限りは趣味とか興味の範囲内にしておいてもらってるの。ポー豆の繁殖力なら不作の年でもきっと一定量の収穫が可能な作物になると思うけど、麦の生産を始めたばかりだし、畑をこれ以上広げると村人のみならず、羊達まで畑仕事しないと手が足りなくなりそうだしね。


「このさやもね、うちの村では羊たちの塩分食に加工するからね。他ではどうか知らないけど、村では立派な食材よ」

「無駄がないねぇ。こういう処、見習わないとだわ」

「お残しはゆるしまへんってか。なるほどなぁ」

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