六話目 夏と海と子⑨
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。
※一部表現に、ちび竜の思い込みが入ってます。(一般的な認識では「それ違う!」と突っ込まれます。)
否定はしないけど人外魔境は言い過ぎよ。村周辺の魔獣は滅多に争いすらしない穏やかな性格。村人だって魔獣のなわばりに用事があって入るときには、獣除けの鈴を身につけて、極力静かに速やかに用事を終わらして、収穫期後にお野菜とか料理とかお酒とかをお裾分けに行ってるんだから。
(↑「それはちび竜ちゃんが両者の間に入って説教した結果、鈴を付けて縄張りを荒らさない人間には手を出さないと約束させたんだよな?」自警団一同)
それに畑仕事の合間に伺う強面ワンコのおじちゃんと仲間たちは私と家族の大事なご近所さん、困ったらお互い様って笑ってくれる気のいい魔獣なんだから。あ、今回のクロムンブとか差し入れしたら嫌がらないかしら? ナクタの実が好きだから乳寒天の方がいいかしらね。
(↑一応、世間一般では討伐対象として認識される危険魔獣に該当。気性はソコソコ荒めで雑食。大体月一回の頻度でちび竜が嬉々として村で解体したお肉の内臓や骨付き肉などを臭いが漏れないようマミちゃんが特殊加工を施した蓋付き特大バケツ+自慢の家庭菜園のお野菜を持ち込んでは話をねだるので、徐々に情が湧いた模様。年若い個体も「何かあったら言えよ」と、すっかり妹分扱い。)
どっちかっていうと、村を荒らしに来る都会の人間たちの方がよっぽど質悪いわよ。ま、酒の席の雑談だし、水を差すのは控えてあげよう。ご飯は褒めてくれたみたいだし。
「そう云えばミーナおねえちゃん達はどうやって海の上を走れたんだろ?」
個人的にとっても気になるのはこの一件。簡易物理結界を付けている魔獣組はほぼ全身びっしょりだったのに、村人組は膝から下と両腕、頭と背中の一部位しか濡れてなかったの。あれだけ激しく狩り場を駆け巡っていた両者にこれだけはっきりとした違いが出るのはおかしいじゃない。
「ああ、それね」
と、からくりを教えてくれたのはシーフさん。討伐組が昨日の宴の時にシーフさんに簡易物理結界の弾く対象に「海の水」ってのを加えられないかと申し出たんですって。面白そうだからって簡単に条件に加えたまま、シーフさんは当日結界の発動担当に就いたもんだから、討伐だ終わってから映像や人伝に聞いて「こういう結果になったか」と納得したそうよ。
海に落っこちて、おぼれない様にって考えた手段=海面を走ればいいじゃん。序に機動力も増えていいじゃん!
という結論からこうなったなんて、ホント無茶ばっかりするわね~。メルカちゃんもシーフさんもいい大人なんだから面白そうだって同意しないで、ちゃんと危険性も説いてよ。ミーナおねえちゃんが暴走は正義なんて言い出したら誰が止められるのよ。脳筋思考主義にはまったらどうすんのよ。
「全くもう。思いつきだけで危険行動するんだから。村に帰ったら、ジュールちゃんは問答無用でお説教ね。メルカちゃんもシーフさんも付き合ってもらうわよ」
「うわ~、噂の説教か。ちょっと怖いな」
「怖いっていえば、今回の売上額の分配金は相当なものになりそうだぜ」
「そうそう、こんだけのクロムンブと予想外の獲物。臨時って事で会計監査も同時に済ませてるからね」
疲れた顔のニオブさんと、通常運転のステアさんがそこに居ました。一応今年度の村の臨時収入の税制分として既に計上したんだそう。かなりまとまった金額が見込めたので、来年度の橇大会資金として活用を考えているそうな。一体いくら稼いだのやら。
「お二人共もお疲れ様。ご飯はちゃんと食べたの?」
ステアさんは甘いものは好きではないけど、出されたご飯は残さず食べる。ニオブさんも残した事は無かったわね。
「一通りは食べた。相変わらず面白い料理作るな」
「うんうん、特にぶち貝の酒蒸し? あれいいね、酒が余計旨いよ」
「いい素材がそろってるからね。酒蒸しの煮汁におうどん入れて、粉にした黒布草を掛けても美味しいわよ」
「うわ、聞いてるだけで食べたくなる。作ってよ~」
「余分な小麦粉が無いから無理よ。今度機会があったらね」
「む、ないものは仕方ない」
「う~、ないと聞いたら余計食べたくなるなぁ」
ありゃま、よっぽど食べたかったのかしら。お土産にぶち貝持って帰ろうかしらね。酒蒸しにして殻を外して凍らせればひと月位持っちゃうし。お味噌汁でもおうどんでもそのまま使えるし。
ご飯があったら絶対炊き込みご飯。干してそのまま乾物でも美味しいし、貝殻もきれいに洗って消毒して、軟膏の試供品を配るときの入れ物にしてもいいし、真っ白になるまで焼いて砕いて畑の肥料にしてもいい。うんと細かく出来れば漆喰の材料にもなるかな、ああ。畑のそばの作業小屋の三和土を作るのに使おうかしら。
「はいはい、ぶち貝をお土産に買って帰るから、村に帰ったらうどん作ろうね」
「分かった」
「楽しみが増えるのはいいね。あと鎧海老も僕食べたい~」
「ぇえっ、あれ食べるの?」
「え? まさかお袋食べないの? あれ美味しいんだよ」
「ああ。二つに割って焼いて食べるんだ。結構うまいぞ」
「うん、私にあんな大きな海老を割る力はないからね。割れても匂いに耐えられるか疑問あるわね~」
「えぇ、意外。川のエビとか小海老は食べてたのに」
「あんなに大きい海老なんて初めて見たわよ。それに匂いが全然違うし、場合に因っては調理不可もあるからね」
村の近くを流れる川でとれる小さなカニとかエビは、採取しても暫くはお水を張った甕の中で四日程放置して、ざかざか洗って殻ごと使うの。お水がきれいなおかげであんまり匂いはないし、あったとしても無農薬の苔とか虫とか。お腹の中空っぽにしてくれたところを頂きます。
だけどこの鎧海老はめっちゃ磯臭い上にデカい。殻の外側に藻やらもついているので、生まれてから結構時間が経過している模様。力のない私にこぉんな大きな鎧海老を調理が出来るのかしら。それに海老料理って姿焼きとかエビフライ。茹で海老を刻んで何かの料理に入れる位しか思いつかないわ。あとはバター焼きとかすり身の団子を入れるお鍋とか? うう、甲殻類の料理って滅多にしないからなぁ。
「ああ、そうか。力不足で割れないってのは思いつかなかったな」
「匂いも、生臭いのはダメだったね。そっか~」
「へぇ、冒険者には向かないね。火吹き竜が竜として最弱なんじゃなくて、生き物の種としても弱い方なんだ」
「あ、ソレ多分ちび竜さんだけだよ」
「そうなの?」
「調べた限りだけど、70近い火吹き竜の個体は普通羊達よりも大きい。それに生息地は基本的に暖かい場所だ。間違っても雪深い地に好んで住んだりしないよ」
「ああ、確かに。じゃあこの竜ちゃんは違う種だってこと?」
「それはわからないけどカーバイト国の保護指定が出てるから、手を出すと国から手配されるよ」
「うわ、稀少種扱い?」
「いや、食文化継承者認定。んで、その食文化が王都バルトで大流行中」
「え、バルトでって。カラアゲとか?」
「そう。最近ハルト国でも流行り出したオカラボールもちび竜さんが作ったの切っ掛け」
オカラボールは餡子入りのまん丸ドーナッツの事よ。披露宴用の調理の際に出来た大量のおからにテイル芋の粉と卵を混ぜて、手際よく餡子玉を包ませて揚げたの。で、一番簡単な工程をとったら丸形になったんだけど。まさかハルト国で流行るとは思わなかったわ。
「竜ちゃんは冒険者じゃなくて料理人を目指すべきだね」
「肩ひじ張らない食事は、正直言ってありがたいからな」
「何よりうまいのはいいよ。野外で気軽に食える飯ってなると余計にね」
シーフさん、何か食事で嫌な事とかあったんでしょうか。ニオブさんとステアさんは家庭の味に飢えている独身サラリーマンみたいな生活してるからねぇ、落ち着いて食事する機会が冒険者も少ないのかもね。
あ、そうだ。お米について聞いてみよう。もっちりなお米、知りませんか?
「こめ? う~ん」
シーフさんは心当たりはないけど、知り合いに聞いて何かわかったら村あてに連絡をくれる約束をしました。冒険者生活が長いから知り合いは多いそうです。気長に待ちましょう、うん。
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勝利の宴という名の夕食は、討伐参加者に支援側に回ってもらった国軍や冒険者協会の人やら商人やら混ざって、至る所で宴会となっちゃった。ま、お子様も少なからず居るので無礼講とはいかなかったけれど、用意したご飯とお酒でソコソコ盛り上がって頂いた様子。
カーバイト国で鮮度のいい海鮮魚は滅多に口に出来ないものね。川魚と違う美味しさをしっかり堪能してください。そしてタングステン村まで流通が届くといいな~、今回はなかったけどイカとかホタテとかあったらいいな~、いずれは海苔も見つかると嬉しいな~。
お子ちゃまを始め、疲れて寝始めた人は周囲が建屋に向かわせて大人しく就寝を勧めます。羊達は昨日と同じ場所に既に陣取って寝こけてるルムックちゃん達に添い寝する模様。私の寝床はこっちだからね。寝る前にも一回お風呂に入らなきゃ皆が油臭くなりそう。
私も明日の朝ご飯の下準備が終わったら、お風呂に入って私も寝ましょ。朝は簡単に食べられるように大量の野菜と薄切りお肉を巻いた薄焼きもちもちパン。後は具だくさんの卵スープとか麦茶とか用意しておけばいいかしらね。あ、ふりかけも用意しなきゃ。風ちゃんと雷ちゃんがすねちゃうわ。
「ちびちゃん。明日の仕込み位あたしらがするからもう寝なさいよ」
「そうそう。今朝だって一人で頑張っちゃって、ほんと助かったんだから」
「寝る前にお風呂はいるでしょ、お湯沸かしてあるからもう行きな」
「うや~、でもやりかけの分だけでも」
「グダグダ言ってないでおばちゃんに丸投げして、とっととお風呂しといで!」
「うや~、せめてうちの子のふりかけの準備だけ~」
ふりかけに使う削り節は使う直前に削るので、味付け用の醤油と砂糖を合わせておくの。日本酒とみりんがあったらと本気でないものねだりしちゃうわ。
「この材料なら明日は卵スープと薄焼きパンの惣菜巻きね。まかしときな」
「こんだけじゃ食べたりないだろ。串焼き魚も用意する?」
「あら~いいわね。生魚じゃなければちびちゃんも食べられるわ」
「ちびちゃん、それ終わったらサッサとお風呂行っといで。洗い粉要るかい?」
「は~い、手持ちにあるわ、ありがと~」
ボディブラシと洗い粉にタオル。これに木桶の用意したお風呂セット。ボディブラシはひめちゃんにもらった私sizeの特製品。これだと羽の付け根までしっかり洗えるのよ、すごくありがたいわ~。
洗い粉は大陸内で自生する団栗から作られるので入手自体はとっても簡単。それと灰とお水があれば簡単ですが作れます。
ですが、これで作れるのは「ただ洗う」だけの石鹸。保湿効果とか香りとかは一切なしので、肌の弱い人は保湿の為の香油が欠かせない。でもこの香油が肌に合わない人もいたりするから、保湿に詳しいってだけで信用の度合いが格段に違う商人や薬師達もいる位よ。
どこでも女性の悩みは変わらないものだって、しみじみするわ。保湿効果の高くて香りと見た目のいい石鹸はめっちゃ高価だから、安価で作れる石鹸が今の所出来たらいいな~って目安ね。そういえば石鹸作りって何が必要だったかしら。う~ん。
「よし、準備おわり~」
「ならさっさと入っといで。のんびりしてるとあたしらも行くからね」
「うや~、一緒でもいいのに」
「何言ってんだい、広い湯船を一人で浸かれるなんて贅沢なんだろう?」
「はいっ、直ぐ行きます!」
ああ、そうよ。いつものじゃなくて、泳げるくらいのお湯に浸かれるんじゃない。しかも昨日は気がついたら寝落ちしていたし、朝は急いでいたからゆっくり堪能なんてできなかったもの。
「そうよ、広いお風呂なんだもの。堪能しなきゃもったいないわ!」
きゃっほう、旅先のお楽しみは美味しい料理とお風呂を堪能しなくてどうするのよ~ぅ。手早く荷物からお風呂の支度を済ませて、湯殿に一直線。命の洗濯、し~ましょ♡うふふのふ~♪
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「♪つきが~ ○た○~た~ つきがぁ~○た~ は、よいよいっとぉ」
大きいお風呂は気持ちいいわ~。さっきから気分良くてつい歌っちゃうのはいいんだけど、出てくるレパートリーが何故か盆踊りの定番ばっかりなのよね。上州八○節に炭○節。子供の頃によく踊ったのよね。今でも踊れるわよきっと。
「おや、ちびちゃんご機嫌だねぇ」
「おっきな声だから周りにも聞こえてるわよ」
「あたしらもお邪魔するわよ」
おばちゃんたち、はやっ!
「うや、おっきいお風呂は気持ちいいの~」
「あらまあ、いい香りだねぇ。これ洗粉のかい?」
「あらホント。何だかスッキリして爽やかな匂いだわ」
「センセーが造っている試作品なの。こういうのってどうかしら?」
以前にひめちゃんにもらったボディソープは、うちの家族には甘い匂いがちょっと強すぎたようで嫌がられました。せっかく頂いたので事情を話して村のおばちゃんにお裾分け。そしたらセンセーが試作しているハーブの精油の副産物を使った洗い粉をくれたの。
センセーのはフレッシュなハーブの芳香蒸留水とエルルーの皮から採れる精油を使っているので、癖がなくってスッキリとしたいい香り。家族もこれならって納得の試作品。
「へぇ、あたしもこういう匂いならいいと思うわ」
「確かに。偶になら甘ったるい匂いもいいけど、毎日使うならこっちの方がいいわ」
「これっていくらぐらいなんだい?」
「村の商会と相談してみて。需要があるなら生産を考えると思うわ」
アト村でこういう需要があるとは思わなんだ。もしかしたら冒険者協会とか国軍にも需要があるか聞いてみようかしら。
今年もアトわずかとなりました。
年内の更新は、残念ながらこれが精一杯となりそうです。
もう既にお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、「第六話」は一部表記が修正されております。
一番の違いはクロムンブを「鮪=× 鰹=⚪️」に直した事です。確かに鮪でかつお節は出来ませんね。はい。
他にも直したい箇所は有るんですが、年内は此処までとさせて頂きます。
今年一年、足をお運びいただきまして誠にありがとうございました。
一足早く御礼申し上げます。
Merry Christmas
どうぞ、良いお年を!




