六話目 夏と海と子⑦
本日連続投稿の二話目になります。
※2018年12月20日 一部内容変更。
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。
~外洋・入り江付近の待機組視点~
「ちび竜ちゃんが飛び立ちました!」
「威嚇用の爆発準備、爆破後3カウント後に仕掛けた結界の発動だ。間違えるなよ」
仕掛けを用意した魔術師が「結界は一時的にしか持たないが、強度と展開の速さは保証する」と言われた代物だ。八年もの実績のある冒険者協会推薦の人員なので、その言葉に嘘は無いだろう。今回はなるだけ速やかに彼らを確保することに専念すればいい。
前回の国軍による討伐では散々な結果だった、正直言って今回の討伐がそれほどうまくいくなどとは思っていない。魔獣討伐に置いて、国軍はある意味では専門家なのだ。専門家である国軍を差し置いて、素人が考えた手段に軍配が上がるなど良い気はしない。
「全く。結界をこんな形で使うなんて技術の無駄使いだと思わないか?」
「見かけだけで脅かすなら、然程強い魔力は要らないからね。寧ろこういった緻密な結界を大規模に展開する機会なんてそうそうないから、これはこれで楽しんでるよ」
仕掛けを用意した当人は、これはこれで楽しんでいるようだ。殺伐とした罠というよりも、揶揄う意味の囮としての意味合いで楽しんだらしい。実害がないとは言えない程度の爆発と、脅し程度の簡単な直線攻撃に幻覚の結界を追わせることで、目標を追い立てるのが、今回の俺達の任務だ。
「上手く行きますかね?」
「海の魔獣を脅かすなんて、ちび竜ちゃんの発想がなければ思いつきもしなかったんですからねぇ。上手くいったら儲けものくらいの気持ちでいいんですよ。失敗したってそれはそれ」
「なんだそりゃ」
「ちび竜ちゃん曰く、今回の最大の目的は海を知らない人が海遊びを体験する事だそうで、討伐はその一端だそうですよ。失敗も大事な経験なんだそうです」
「大事な経験?」
「成功しか知らない怖がりな大人ではなく、様々な沢山の経験を積んで、頼もしい大人になって欲しいそうです。どんな結果でもそれを実際に体験した人それぞれが、モノにすることが出来たならそれでいいのだそうですよ」
「なんつうか、考え方次第ってことか」
討伐者達と一緒に来た魔術師が話に割り込んできた。どうやら今回の討伐の成否よりも、経験という勉強会のようなものらしい。それも火吹き竜の入れ知恵の。
「失敗しても構わない、ねぇ」
「ええ。ただ、ルムック達とベルガコムは成功させる気でいますけどね」
「は、ぁぁぁあ!?」
陸の魔獣は本気だってか。それにルムックもだと?
「さ、参考までに聞きてぇんだが。そいつらが本気出したら俺らどうなる?」
―――さあ? ただ言えるのはあのベルガコムは村近隣の魔獣の中でも上位にいる位ですからねぇ。ルムック達もこの入り江ぐらいは滅茶苦茶にできる位の強さはある筈です。三頭が周囲を顧みず全力出すことはまずありえません。が、ちび竜ちゃんが巻き込まれれば私も含めて保証はしかねます。
「なら、うまくいくよう祈るしかねーな」
「ま。お手並み拝見ですよ」
会場をゆっくりと一周し、ほぼ上空中央へと向かう小さな火吹き竜。今回の討伐のカギはほぼコイツに掛かっているんじゃねぇのか?
「ちび竜ちゃんが会場上空で静止したら、作戦開始だ。準備はいいな」
「もちろんだ」
初動の爆破は魔術師が引き起こす手筈になっている。その後、どこよりも一番早く結界が展開されるのは我々のいるこの外海入り江だ。ここから結界の上に細かい網状の足場が展開される。展開後は速やかに急ごしらえの長細い網を投入して、両岸にいる国軍に合図を送るまでが俺らの仕事だ。
「海上での討伐と言ったら、大概が船上からの海中攻撃だったもんなぁ」
「小さな入り江とはいえ、討伐対象をこうして追い込んで駆除する手段なんて思いつきもしなかったよ」
「脅かし役に追い込み役、ちょっと大げさかもしれんが、場合によっちゃぁ他の討伐でも使えるかもしれんな」
「結界の有用性ですか?」
「いや、この網を使った追い込みってやつさ」
*******
~上空・ちび竜視点~
個人的脳内BGMはお家を匠に任せた某リフォーム番組のテーマ曲でお送りしております。
改めて簡単に現在の配置と状況から。
上空でカメラを構える私から見て、今回の主戦場となる浜辺から内海を挟んだ対角線上やや右側に外海へと出られる場所が今作戦のスタート地点。作戦がスタートと同時にここを一枚布の結界で完全に塞ぎ、そこを内海に向かって音と衝撃だの低殺傷力のド派手な爆破を合図に追い立て開始。
ジュールちゃん提供のかんしゃく玉は結界を展開する後半、より浜に近い箇所にて使われる予定なんだとか。予定していた衝撃よりもこっちのほうが簡単かつ威力が有りそうだと、ミッツさんが判断しての変更なんですって。そのまま脅し様に使う予定の術式にあれを組み込んで順次作動させる予定。作動と同時に檻のような結界も順次展開。音と衝撃と視覚からの追い立てなので、絶対効果あるわよ。
外海付近と浜辺以外の海から離れた場所には、今回の討伐見学者がおよそ260人ほど。程よい岩場側よりも足場の悪い岩場の側に結構人が多いわね。それにやたらと体格がよさそうなおっちゃんとか、品のいい服を着た人は程良い側に多くて、云っちゃあなんだけどギラついた目を向けているちょ~っとそばに行くのを遠慮したいような人が、足場の悪い岩場に居るという不思議な状況。海に落っこちても自己責任ですからね~。
国軍の方々は外界側に14名、砂浜側に36名を配置。観客側にも配されている模様。彼らは見学よりも今回の討伐の冒険者側サポート要員として配されているんだって。倒したクロムンブを邪魔にならないよう引き上げたり、見学者が暴走して邪魔したりしない様にとの配慮ですって。
どおーーん
入り江の外海側付近で鈍くて重い音と水柱が上がったと同時に、不自然に海面がふわっと上がる。
上がった波を追いかけるようにに黒っぽい何かが砂浜に向かって動き出し、爆破地点から海が白く濁る。どんどん広がる濁り、よく見れば海の中から白い光っぽい格子が浮かび上がり凄い速さで広がって行くわ。多分これが私が提唱した『障害物』。ならば、あの黒い何かが恐らくクロムンブね。
速度は決して早くはないけど、どんどん加速してない?
よし、落下しながら加速して、全力で黒っぽいものに近づきつつ追いかけるわよ!
海面近くで角度を変え、目標を捕捉。さすが時速70Km/hの鰹さま、200Mなんて10秒いらないんじゃないの!? 水中なのにこの速さって異常よ。海面から離れているのにこのザザザッて音がめっちゃ怖い、ぞわりっと何かが背中に走るわ!
うっすらと浮かぶ魚影は私よりも遥かに大きな影がいくつもある。ひえぇぇぇ。湾内を迷走するかと思われたシルエットは、沖から迫る『障害物』に追い立てられて、狙い通り浜に向かって行きます。お願いだから、ぜぇったいにジャンプしないでよ。そのまんま浜まで突っ込んでいってぇ!
迎え撃つ討伐組も、私の動きで討伐対象が予定通りに浜に向かってると判断。風ちゃんと雷ちゃんが体毛を鮮やかな黄色と白に其々染めながら力を溜めているのが見えます。こくんと頷いてからそのままルムックちゃんたちに向かって最速でダッシュ。発動直前の漏れた雷がピリピリと黄色の体毛を揺らしているのが分かります。
「うや…」
〖りゅー、そのままこっちこい!〗
〖やーっ!〗
浅瀬とも言える砂浜に彼等が差し掛かった途端に、風ちゃんの操る風が海上を無数の鞭で叩いたように暴れまくります。ただ、私の居る場所だけを避けて波を風が切り裂くなんて初めて見ました。
言葉に従って直進で進む私を真白な尻尾で受け止めた風ちゃん。うや、ご迷惑をおかけ、え?
雷ちゃんが海に向かって青白い雷を放電してるー! って、青白い雷ってめっちゃ高出力なんじゃ。
「結界による足場が出来た。直接打撃が可能だ」
「行くわ」
「俺らも行くぞ」
〖雷、風、奥側から行くぞ〗
〖おう〗
〖うん〗
「皆がんばれ~!」
海の中の結界が光ってるから、海面近い場所にいるクロムンブをはっきり捉える事が出来る。曇り空で海面反射が弱いから直視可能なのね。ルムック達の先制攻撃であの高速直進の勢いは抑えられたけど、決して油断はできない状況。私も気合い入れてカメラを持って再び上昇。
浜に追い立てられたクロムンブ達は、自身にとって有利な海中から水深の無い浅瀬に追い込またれた事で、呼吸と機動力を奪われいる状況。きっと精神的にもかなり焦りと混乱が入って、まともな状態とは言えないんじゃないかしらね。
自慢の俊足も混乱した仲間が密集していて出せない上に、逃げ場も殆ど無い環境。おまけに大量の人間が獲物を持って襲い掛かってくるなんて危機的状況なんだもの。更に彼らはまだ気が付いていないようだけど、沖側側から大きな地引網でこの海岸に向かって引っ張っているマミちゃんと国軍の皆様のフォローのおかげで彼等の活動領域は時間が経てば経つほど狭められていくことになる。追い詰められた彼等がどんな反撃をするのか分かんないから気を抜けないけど、時間制限の掛かった危機的状況を彼等が理解した時が一番気をつけなきゃね。
外海待機組の国軍の皆様方がこちらに向かって地引網らしきものをずりずり引っ張りながら移動しているのが見える。結界の足場のおかげで浅くなったとはいえ、単純計算で100Mの幅の地形を海岸に向かって200Mも引っ張る国軍の人たちの人海戦術は圧巻の一言。羊カメラはそれぞれ両サイドからその模様を映している様なので、後で見せてもらお~。浜に近づくと網引きはアト村の人達とどんどん交代しながら合流していく。最終的には見学者も参加して引き上げする予定。
うん、ある意味参加型のイベントになってるのね。私の当初のふれあいイベント発言は、こんな形での実現化をされるとは思わなかったな~。
「結界と網を使った大掛かりなこの作戦の肝は時間。水面下の足場だって規模こそ大きいけれど持続力は無しの短時間限定の仕様だ。なので如何に時間をかけず対象を浅瀬に集める最初の一手が最も重要。後は大きな網で対象を囲ってしまえばどうとでもなる」
って、昨夜シーフさんに作戦の本当の概要を言われた時は、めっちゃ話違うじゃん、もっと結界持つって話はどうなったのって突っ込んだ。
「現地の深さの換算が違っていたから、その分の誤差が時間短縮になった。体力的にも厳しいから短期決戦で頑張ってもらうしかない。まあ、今回の討伐は結界の試験的な実施も兼ねてるんだ。それで討伐が失敗しても気にしなくていいぞ」と、隠しもしないで言い切られた。
まあ、結果論から言えば確かにその通りだし、楽しく体験することが最大の目的なんだから文句はない。怪我とかしてほしくもないし、クロムンブを10尾ぐらい狩り上げれば参加者も満足するんじゃないかなあ。おばちゃん、そんな風に考えていたのよね。
冒険者教会も参加者全員、討伐未経験なので「こんな感じで、討伐します。」って簡単な実体験をさせるつもりで今回の討伐の企画をしたと聞いてるわ。討伐ってよりもクロムンブ漁ってのが正しいけど、そこは適度な緊張感を楽しんで欲しいという冒険者協会からの願いを込めて「討伐」なんだそうよ。
そしたらね、参加者一同が先ず出した条件は「流血は極力なし」での討伐。私が同行と決まった段階で前提に掲げられたんですって。んで安全確保のため、広い場所で昼間に実施したいって。よく見える昼間なら私が心配しないで見てられるからって。
確かにいくらカッコ可愛いルムックちゃん達の雄姿が間近で見られても、気絶してたら見れないもの。そこら辺はのぞみも村の人も「チビ竜ちゃんが参加するなら流血はご法度」を最初から通していたんですって。皆知ってたのよ、知らなかったのは私だけって、ずるくない?
だからジュールちゃんとメルカちゃんの武器が打撃主体のものだったし、ミーナおねえちゃんの剣も刃のつぶした練習用のものだったんですって。まったくもう、とんでもないサプライズだわ。
私は上空から彼らの作戦を映すことに専念し、カメラを向けながらクロムンブの姿を追い掛ける。上空から見れば、地引き網は既に半ば過ぎまで迫っている状態。網の中にもクロムンブが既にいるようで、結構な重さに網の進みが遅くなってるわ。
何人か浜から網に沿って海の中のに入って行って、直接網を掴んで引っ張る人も出て来た~。多分物理的防護が掛かってると信じたいけど、根性あるわ~。
浜では討伐組が伸したクロムンブを国軍がやたらと柄の長い大きな鎌みたいなので引き揚げていた。うわ、血が! 極力そっちは見ないようにしながら討伐組へカメラを向ける。
丁度、のぞみがクロムンブからクロムンブへの飛び移りを披露。うわ、なにその華麗なジャンプ。リアル「義経の八艘飛び」だわ。相手は両手に刃物を持ってるのに、全くの無傷で見事な一蹴で仕留めてる。うわー、相手一発KO!! ベルガコムの蹴りって凄いっ!
風ちゃんは真正面から一騎打ち。ひぇ~。相手がローリングをかけながら突っ込んできたのに、海水ごと風で叩き上げてから、後ろ回し蹴りで人の居ない砂浜に向かって蹴り飛ばす。風ちゃんの蹴りは昔から凄かったけど、磨きかかってるわね~。
雷ちゃんは2人が戦い易いように、敢えて雷で適度に海面を叩きながら、空間を維持してた。群れ成して来ようもんなら鞭のような雷で鼻面を叩いているの。何その技~!
てか、いつの間にそんな高度な使い方をマスターしたのよ。
補佐的な分野を補ってもらえば、三匹そろって冒険者とかできるんじゃないかしら。
あれ、ジュールちゃん達は? って、振り向いた私の視界が捉えたのは、苦戦という言葉から最も遠い軽業師のような三人組の活躍でした。
戦闘が繰り広げる場所は、濡れた岩場と砂浜のある地形。慣れない足場に気を配って戦闘を繰り広げるだけでも大変だろうに、場合によっては踏ん張ることすら阻害される場所。下手すりゃ瞬発力すらも削がれて自滅しかねない地形はやばいでしょ。って思ったのに、武器構えた初心者がぶれもせずに重心下げてなに水面を疾走してんのよ!
疾走しながら両手剣を水面に突き立てて突っこんでいくなんてホントに11歳の女の子なの!?
ジュールちゃんなんて走りながら大槌振り回し、リアルもぐら叩きしてます。さすが十代後半の若者というべきでしょうか。
地味ながら驚くのは討伐組の最年長のメルカちゃん。決してその動きに派手さはありませんが、足運びが半端ありません。水面を飛び跳ねて切りかかってくるクロムンブを僅かな動きで躱し、ひょいって感じで棍棒を動かして、あの刀のような胸鰭を叩き折ってるの。無駄な動きなんてしてないのに、ぺぺいっって左右に投げ飛ばしてんのよ。あ、尾びれも根元からめきょって折られてるわ。
「初心者ってきいてたけど、実は経験者の間違いじゃないか?」
「ああ。下手な新人よりも動きがいいな」
「今の年齢でこんだけ出来たら、一年くらいで上級冒険者も夢じゃないぞ」
「達人レベルになったらどんだけのことが出来んだろうな」
「てか、ホントにこれでただの村人って詐欺だよな」
ニッチさん、ミッツさん。私もそこは同感だけど、ホントにただの村人なのよ。山育ちだから、ちょっとだけ足腰が強いだけよ。多分。
ああ、地引網も随分浜に近づいてきたし、浜に引き上げられたクロムンブも結構な数になったわね~。って、どんだけ討伐したのコレ。
あれだけ期待させといてこんだけしか出てこない戦闘シーン、あまりの遅筆に羊達からもブーイングが上がるのは仕方ないかもしれません。そしてお願いだからベルガコムの姐御たち、わざわざ蹴りにこないらないでね~。作者的に派手な書き方は出来ないと漸く学習しました。(´;ω;`)




