六話目 夏と海と子⑥
本日連続投稿一話目になります。
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。
※(サラッとですが)今回ちび竜ちゃんのトラウマに少しだけ触れています。蛇と蛆に嫌悪感ある方はご注意ください。
翌日の天気は薄曇り。昨日は暑いくらいの日差しがあったけど、今日の天気なら熱中症の心配はいらなさそうね~。
昨日はアト村のおばちゃま方力作の豪勢な漁師めしでもてなして頂きました~。新鮮なお魚に生臭さなんて微塵もなし。私の一押しは黒布草を使ったエビ汁。これがもう絶品で速攻で質問しまくりながらほおばってました。誰か、私に胃袋貸して~。そのお料理味見したいの~。なのにお腹がいっぱいで食べらんない~。って嘆いたらまた作ってあげるよ~って、おばちゃま方ニッコニコしながらレシピを教えくれるので、夢中でメモ。
昼間にはしゃぎまくったのもあって、疲れた身体に満腹はモーレツな眠気が襲ってくるのよ。それでもメモしたくて必至こいて頑張ったのに、気が付いたらうちの子に埋もれて一緒に寝てました。メモも半分半難解な文字化けを起こしているので、翻訳作業が必要な暗号に。とほほ。
さ、気合い入れて朝御飯作るぞ~! っと夜明け前から活動開始。基本この時間はまだ寝ているんだけど、目が覚めちゃったし、お茶でもいいんだけど、多分わくわくが止まんないと思うのよね。うちの子の活躍が間近で見られるのって、おばちゃん、年甲斐もなくドキドキしてるんだわ~。うへへ。
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「んで、とろろ汁かけ麦飯に、お漬物と厚焼き卵、開き焼き魚を一人で用意してって、頑張りすぎじゃない?」
「麦飯が食べやすいからお残しは無かったし。旨いから食べない人もいなかったから、おかげで朝から皆げんきじゃん」
「一人で全部用意して「お残し許しまへんで~っ」ってそのまんまころっと寝ちゃう位、楽しみにしてたんだよ。なんだかんだ言って、ちびも楽しみにしてたんだな~」
「ちゃんとルムック達も食べれるメニューってところがらしいわね」
「ルムック達も羊達も、誰かしらああして側にいるあたり面倒見いいよね」
うや? この声、ミーナおねえちゃんとジュールちゃんとメルカちゃん?
〖あ、おきた〗
「おはよ?」
「おはよ。ちびちゃんご飯食べたの?」
〖ごはんちゃんとあるよ~、らい、もう食べたよ~〗
あや~、雷ちゃんに抱っこされてました。昨日から興奮してテンションが上がりっぱなしで、体力が追いつかず寝落ちしたところ、中途半端に起きたので、再び寝落ちしたようです。おばちゃん、どんだけテンション高かったんだろう。
〖おふろする? ごはんする?〗
「ごはん~、時間があったらお風呂する~」
「みんなはもうとっくに食べ終わって、観戦準備してるよ」
「国軍の人達やら見学者も結構大勢来てるみたいよ。」
「やだ、もうそんな時間?」
「昼までまだ時間あるよ、いまはお茶の時間」
「お昼は村営商会が特製お弁当を手配してるから、ちびちゃんは休むこと」
「いつの間にそんな手配したの」
「夕べ。ニオブの兄ちゃんとステアの兄ちゃんがルムック達と羊達の青草も含めてやってたぞ」
「うや~なんて気配り上手。なのになんで二人共まだ独身なのかしらね?」
〖どくしん?〗
クロムンブ討伐参加者は午後からが本番で、それまでは基本自由時間。見学希望者も自由なんだけど、普段が山の上で畑仕事を中心とした生活を営んでいるタングステン村の人々は、見るもの殆どが初めての環境が珍しくてたまらないようです。
アト村の皆様も観光客に慣れているのか、飛んでくる質問にも丁寧に答えてくれてるの。畑の作物の違いはやっぱりとっても大きいみたいで、あらら。センセーまでなんか握りしめて質問してるわー。なにか見つけたみたいね~。そして羊娘達。めっちゃ目の色変えて飛び回っているわ~。後できいてみよ~っと。
昨日通ってきた村の入り口付近が騒がしくなって。あら~、随分ぞろぞろって来たわね~。まさかあれ全部討伐の見学者かしら。
ブランチになった朝御飯の麦飯もっきゅもっきゅ食べながら、開けた建屋の中から見る限りなんだけど、村から来た見学希望者数の10倍以上かしら? あんな人数、どこで見学するつもりなんでしょう。
〖ちびちゃん起きた~?〗
「うや、おはよ~」
〖ご飯食べた? 食べ終わったらのぞみが呼んで来いって伝言~〗
「わかった。どこにいるの?」
〖いま海の上~、船で移動してる~。あとあと、面白そうなのい~っぱい見つけたから、まだまだ見つけてくるから、行ってくるわ~〗
めちゃくちゃ早口で言いたいことを言って、飛び出していった羊娘。頭にカメラををくっつけてテンションが高いわ~。暫くは此処の話で盛り上がるんじゃないかしらね。
「張り切ってるわね」
「チビ、これ冒険者協会のねーちゃんから」
「うや?」
昨日の朝言っていた簡易物理防御の術式を組み込んだ魔道具ですって。人間用は輪っかに紐を通したペンダントタイプだったんだけど、魔獣用は幅広に編み込んだ革紐を使って飾り首輪のように見せる仕様。身体にフィットするようにそれぞれに合わせてあるから邪魔にならなくていいわ。チャラチャラしてると飛ぶときに邪魔になりかねないからね。身につけて、上から軽く叩くと発動する簡単仕様。止めるときは身から外せばいいそうです。
「準備まだかかるみたいね」
「何の準備?」
「俺ら以外の見学希望者の」
〖あっちでさわいでるよ〗
タングステン村の見学場所はこの建屋近辺なんだけど、それ以外の希望者が()・場所取りにうるさいらしいの。今回魔術師も支援するので海から50M位は討伐参加者以外の立ち入り禁止。見学者は海から120M以上離れるのが大前提にしてます。これはのぞみやひかりたちが提唱してきたの。一番の懸念はルムック達が興奮して我を忘れて能力の開放をしたら、局地的な嵐になってもおかしくない。ラクレコム達も暴走しやすいから、少し距離を空けておけって。
確かにギリギリまで興奮した見学者が詰めよれば、討伐もしにくいですよねって、メッシュさんが納得してくれて、マミちゃんも討伐参加者が怪我で離脱した時の逃げ場は必要ですしね、って参加見学者規約に盛り込んでくれたの。
討伐組の補佐に入ってくれた軍人さん達も居るから、動くスペースは確保しておくに越したことはないわ。もしかして海からクロムンブが突っ込んで来ないとも限らないもの。
何らかのアクシデントでパニックになった見学者が出たら、避難するにしてもこれは有効だし、それを見越してか見学者の場所も数か所に分けてある。てか、それ程広い場所ってほとんどないから別れざるをえなかったってのが本当の理由なんだけど。
「ちびちゃん、今回の討伐って『お試し企画』なんだよね?」
「そうよ」
「何のお試しなの?」
「冒険者協会は、こういった初心者向けの指導が有効かどうか。
魔術師は設置型の魔術の実地訓練と理論上の展開が実際にできるかどうかの実証実験。
アト村人は場所提供する前提で、問題になっているクロムンブの駆除が可能かどうか。
商業団体は簡易型魔術門の期間限定設置を使った商業権利の行使と、実際の利益の確認。
それらを纏めてイベントにしてみたのが今回のお試し。
おまけでタングステン村の皆が海を体験できればおいしいかな~っていうところかしら」
「損してるところってどこ?」
「ある意味お祭りだから、討伐されるクロムンブとこの入り江の生き物たちかしら。あと、こういう催物には人が多く集まるでしょ。そうすることで発生するゴミ回収とかトイレ全般関係で、一時的な設置場所や処理業務を請け負ってくれる所が今は良くても長期的な視点での業務にならない事が損かしらね」
出来れば定期的なお仕事になる方が、安定した業務としていいんじゃないかと思うのよ。こちらの簡易トイレは一方通行の移動門を用いたものなので、業者の指定した場所に全部集められるタンクレス。匂いもないから村の皆様も家に一個置かせてもらってます。但し一定の使用量を事前入金しておかないといきなり使えなくなるので注意が必要。羊のおトイレは別の専門業者と定期契約で使ってるから、村中がその匂いに悩まされる事はないの。羊のンコは殆どが草なので、業者さんはこれを発酵させて運搬しやすい固形燃料にして砂漠の多いブリネル共和国とかに販売してるんで、逆に材料費として頂くこともあるんですって。
こちらで汲み取り業務の内容なんてあんまり語られないから詳しくは知らないんだけどね。
個人的に、今回の討伐はアト村の地域活性化に貢献出来てるかしら。村の皆様の希望に沿っていればいいんだけど、全員が賛同しているとは思えないのよね。
結果がいい方に出てくれればいいんだけど、こればっかりは試してみないと何とも言えないからね。
「あと支援側に回ってくれた主婦の会や今回お世話になるアト村の皆にも、利益が出ればいいよね。これで冒険者協会を通じてここを観光しに人がたくさんくれば、それだけでも村が元気になるからね」
「あ、そしたらさ、国軍の軍事訓練場兼保養地として活用すればいいじゃん。俺、親方達や自警団も今度連れてきたい。んで、昨日の旗取りゲームで勝負を挑む!」
「のぞみに負けたものね」
「う、しょうがねぇよ。あんな怖えと思わなかったからよ、んでも次は負けねぇ!」
おおぅ、昨日のビーチフラッグは面白かったみたいね。砂浜を使った遊びなんて、受け入れてもらえるか正直自信なかったけど、うまくいけばアト村の名物になるかもしれないわ。ウィンドサーフィンとかも進めてみようかしら。若い人がハマってくれたら、村の活性化に繋がると思うのよ。
上手く大会開催とか出来たら、海の家をタングステン村名義で出店してみようかしら。焼うどんとかお好み焼きとか焼き鳥とか。ああ、磯焼の貝類もいいかも。
「次の前に、クロムンブ討伐が待ってるよ。ぶっ叩くならジュール君は得意でしょ?」
「おうよ、大槌使ってんだ。これで討伐出来なきゃ、親方にぶっ叩かれるぜ」
「ミーナちゃんは始まったら思うままに動いていいけど、叶わないと思ったら必ず引くこと。危ないときは助けを呼んで、無茶を絶対にしちゃだめだよ。ジュール君も」
「うん」
「おう」
普段は羊達のお世話に動いているメルカちゃんだけど、この二人にちゃんと言い聞かせが出来るあたり、指導系の職業もいけるんじゃないかしら。こういうところを女性にちゃんと見せてくれれば、お嫁さんが来そうな気がするんだけど。誰かいい人いないかしら。
「あ、ジュールちゃん」
「んあ?」
「私にもさっきの脅かし用の道具、ちょっと分けてくれる?」
「おお、ほい」
*******
全ての準備が終わったのは、討伐開始の直前。予想外に多くなった見学者は、数箇所ばらけて固まっている。なにが彼らをそんな場所に行かせたんだろう、ってか。見学席として最初にとってある場所なら、三機の定点カメラからの映像も二台の羊カメラの映像もばっちし見られるのにね。
見学席だって満席ってわけじゃなくて、全員座って見られるくらい余裕あるのよ。
今回の定点カメラを担当するのはお馴染みとなった魔術絡繰り愛好家の皆さん。戦闘を映す為のメインのカメラを担当します。羊達は二頭一組のチームで、実況中継しながらの撮影をこなすそう。
そして予備のカメラ二台の内、一台は私に来ました。
「我々では撮れない上空からの映像が欲しいんです」
出来れば討伐対象達に近づいて欲しいとか、討伐対象側からの視点映像とか、あったら絶対面白い絵になると思うんです。って言われても、却下したいのが本音。
なんせ討伐対象のクロムンブは、平均体長1.2M近い両手に刀を持った鰹さま。鰹は海の中の小魚やイカとかを食べるって聞いた事あるし、クロムンブも同じだとすれば巨大肉食魚。即ち捕食されることは確実。
絵面的に浮かぶのは肉片に群がる大型サメの群れ、ぶるぶるぶるぶる。
昔、テレビで腰からお肉を引き摺ってコモドオオトカゲと駆けっこで勝負した某女性の雄姿が浮かんだけど、今回の状況はそれに近いわ!
おまけに間違っているかもしれないけど、鰹の最大速度は時速60~80Km/h。400Mトラックの最長距離を単純計算しても200Mはある。最大速度で追っかけてきた場合、200Mを10秒ちょいで泳ぐ速さを持っているのよ。100Mなら5秒ちょい。
しかも一対一どころじゃなく一対多数なんて何の罰ゲームよ。そんなデッカイ魚雷が群れ成して迫ってくるなんて、嫌いな恐怖映画の世界じゃない~! 絶対に夢に出てくるわよぅ。
「簡易物理防御の魔道具を所持してるんですから、ケガはしませんよ」
「でも怖いわよ! 上空でただ浮かんでいるだけなら協力しても、肉食魔獣の鼻先を逃げ回れなんて絶対に嫌! 夢にまで出てきたらどうするのよ!」
「生で食べれる魔獣なんですから、噛みついてみればどうでしょう」
「一対多数で襲われる恐怖を知らないから言えるのよ。一度、大量の虫とか蛇が屯する所に落とされたらいいのよ。蛇の繁殖期なら尚おぞましさがわかるから!」
もしくは閉鎖空間に入れられたミミズとか毛虫でもいい。前世に屋外に設置した生ゴミタンクに湧いた大量の蛆虫を近距離で見て以来虫がものすごっく苦手になったの。あのうぞうぞした動きがもうダメ。蛇の繁殖期はテレビで見て以来もうダメ。
同時に腐敗独特の匂いも苦手。発酵は独特の甘さっていうか柔らかさがあるんだけど、腐敗の臭気はダイレクトに胃が反応、一定以上の強さの臭気は反射的に戻すの。まさか転生してまでダメになるとか思わなかったけど、今更トラウマ体験を繰り返す気はありません。
「そんなに上空からの映像欲しかったら、カメラに翼でもつけて直接操ったらいいじゃない。どうせそういう絡繰り作ってるんでしょ?」
「うむぅ、まだ開発中なのだ。安定した空中操作と望遠機能がうまくいかんでな」
因みに未達が持っているカメラは望遠機能はなし。明るさの自動調整機能付きの映像と音声を記録するだけなんですって。未達のとは別にメインに使われているカメラ三台は望遠機能が付いた代物だけど、ちょっと重いのでテーブルとかに固定して使わないと手ぶれして映像がブレるそうな。映像補正機能の追加は現在開発中。個人的に三脚を提唱したい。
交渉の末、海面1.5M以下までは近づかない、危険箇所は自己判断で回避という処で手を打ち、代わりに危険手当として通信機能の付いた魔道具を一式作ってもらうことになりました。
欲しいのはズバリ無線通信機器。通信圏内にしたい村内は広いので中継器の設置を考えてるって言ったら食いついてきました。のぞみ達にもたせてもいいし、国軍の人に持たせてもいいと思うの。冬の橇大会の時に、迷子とか盗難やら揉め事の情報をいち早く通達させるのに通信機器がホント欲しかったのよ。あと、タングステン村とアト村の専用回線もあると嬉しいわ~。通信機器用の電源確保、これは今後の課題かもしんないけど。
そんな訳で急遽決まったカメラ係。カメラ自体は野球のボールを半分に切った大きさのツルペタな銀色の金属の玉のど真ん中にちっちゃなガラス玉が嵌った形は、監視カメラそのもの。これをお腹に抱えて撮影に挑むわけですが、持つと結構重量有ります。落としたら弁償になりかねないので、身に付けた簡易物理防御の魔道具の止め具と紐を使って何とか固定。腕もカメラ固定に使ってるので防御は魔道具と自身の翼のみという頼りなさ。絶対に落っこちないようにしないと。
ちょっと軽ーく会場を見渡して、皆様の頭上を時計回りに大きく旋回。戻ったところでルムックちゃん達を映しながらそのまま上空へ移動。さあ、準備オッケーよ。動きがあり次第行動開始、やるからには全開でうちの子のカッコイイ所を撮るからね~!




