六話目 夏と海と子⑤
季節外しまくりです。
作中の季節は初夏。五月の連休明け位とお考えください。
※2018年12月20日 一部内容変更。
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。わかりずらい表現で申し訳ありません。
昼食後に食休みをしっかりと取らせてから、討伐見学組と討伐参加組に別れてそれぞれ行動しております。
見学組はアト村の漁師の皆様のご厚意で、初めての船体験をしに比較的安全な内湾の浅瀬を40分前後掛けて遊覧しております。羊娘達はビデオカメラを一つ持って遊覧船体験にウキウキ出かけましたよ。羊娘達にも人と変わらない対応で船を出してくれた若いおっちゃん、ありがとうございます。
参加組は、波打ち際の浜辺で軽い戦闘指導と注意事項の連絡の真っ最中です。今回の討伐参加希望者はミーナおねえちゃん、風ちゃん、雷ちゃん、のぞみ、ジュールちゃん、メルカちゃんの混成チームにステアさんと国軍のおじさん達が戦闘の補佐でついてくれる予定。今更だけど、このメンツで討伐ってど~なんでしょ?
「さてさて、今回は軽い手合わせをして、君たちの戦い方にアドバイスを出来ればと思います」
「はーい」
〖おう〗
〖はーい〗
〖せやな〗
「おう」
「お願いしまーす」
センセーがビデオカメラを一つ持って、手合わせの様子を録画中。こちらはメッシュさんからのお願いで、今後の戦闘指導の参考資料映像として記録。こんな感じですよ~って、言葉だけじゃない雰囲気を伝える為につかわれるんですって。
そのメッシュさんはマミちゃんと一緒にシーフさんの指示書で湾内に仕掛けを設置中。シーフさんは今回の仕掛けの製作を主に担当。事前にある程度は製作、細かい調整は現場を見てからするとかで、建屋の中で調整作業の真っ最中。じろじろ見られると気が散るんだって。
私はルムックちゃんの戦闘自体見るのは初めて、以前は身を隠すのが精一杯で見るなんて余裕なかったもの。
「んじゃあ、今回の討伐作戦を簡単に説明するね。今回は入り江の大半を大きな障害物で沖側から囲い込みます。丁度ちび竜ちゃんが翼を閉じた大きさ以下の魚は簡単にすり抜けられる穴が開けられているけど、それ以上となるとほぼ無理な仕様です。
今回はそれと併用して大音響を立てる魔術を使います。事前に何回も試しているし、今回は水中での使用だから陸にいる限り被害はほぼありません。
海中の障害は加速しながら沖からいま我々が居るこの浜辺へと展開し、設定された水深まで到達する事で展開が止まり、障害の上部に足場の形成を行います。
と、ここまでの展開が準備段階。そして討伐実行部隊、すなわち君たちの出番となる」
砂地に簡単に絵書きながらサラッと言ってるけど、結構大掛かりな仕掛けなのよね~。以前橇大会の会場に使われていた雪除けの結界を作る魔道具は、実は軍で使われる特別製。今回は冒険者協会が用意した一般に使われているものを組み合わせて使うんだって。性能は劣るけど、今回は数時間維持できれば問題なし。
なるだけ海の中にゴミとか破壊箇所を作りたくないので、戦闘領域を浜辺付近にしてもらったの。戦闘もなるだけ昼間に設定したのも、後片付けしやすくする為。初心者向けの体験イベントなんだもの、なるだけ使った後は綺麗にするって大事なマナーよ。
興味本位でマミちゃんに『結界を使って、対象を包むのと建物を作るのはどのくらい違うのか』聞いてみたの。
「そうですね~、例えて言うとちび竜ちゃんを包むのに、大きな一枚布ですっぽり覆うのが一般の結界だとすると、布を切って縫って、糸の端がほつれないように処理して服の形に整えて、すっぽり着せる位の差ですね」って。
結界の強さは使う布の分厚さとか、織目の細かさとかで考えてもらえば分かりやすいかしら。布の分厚さは魔力の違い、織目の細かさが術者の技量ってらしいわ。
魔術師さんはこれが見える人感じ取れる人と様々なんだけど、他人の織目を見て即座に編み変えちゃうような破天荒な人は殆どいないんだそう。ただし、よっぽど簡単な網目、より縄みたいに簡単に差し込みが出来る状態だと、器用な人なら出来るかもね。って言われて、すごく納得したわ~。
因みに(タル-ク種の羊毛を使った)レース編みをマミちゃんにさせると、かなり緻密に編み込んだ作品を作ります。目が疲れるから滅多な事がない限り作ってくれませんが、かぎ針編みはかなりの腕前です。棒網は全くしません。なんでも魔術の構成と似てるんですって。
今度魔術師による編み物の選手権とか開催しないかしら。一年かけて製作した作品を展覧会みたいに展示して、表彰したらきっと緻密な作品が出回ると思うのよね。
私が思考が外れた方向に突き進んでいる間も説明は続いていて、討伐参加者はキチンと聞いていました。うう、見習わなきゃね。
「足場の形成が終わると全体に発光する仕様になってるよ。結界の持続時間は長くないから効率よく駆除に行かないとこちらが足場を奪われるから注意してね」
マミちゃんの見立てではおよそ三時間は大丈夫と言われたけど、討伐対象のクロムンブの総数も強さも分かんないので、短期決戦で勝負は決めたいわよね。
私、血の匂いに耐性ないので、討伐中は風上の離れたところに退避予定。昼間は海からの風だから、退避予定地は海上になる可能性があるのよね。今回カメラをもって上空からの撮影でもしようかしら。
「足場があるとはいえ、腰よりも深い場所には基本的に行かないこと。体勢を崩されれば戦闘以前に溺れる可能性もあるからね。単体行動は禁止。必ず2人以上で行動するように。これは万が一片方が負傷したら必ず海から離脱するためでもある。即座に助けに入れるとは限らないから、基本的にはお互いが助け合うつもりで行動すること。冒険者としては戦うことよりも、仲良くやっていける方が望ましいんだ。特に緊急で行動する事態になったときなんかは連携を取りやすくなるしね」
なんか保父さんと園児のお教室みたいなノリね~。これでは~いなんてお返事が来たら、講師のミッツさんには、アップリケの付いたエプロンを是非着用していただきたい。
初心者向けの講習なんだから安全に気を付けるのは当然のこと。ただ、村の初心者って只モンじゃないのがゴロゴロしてんのよね。
「は~い、しつも~ん」
「何かな~」
例えば
「武器でも届かない場所にいる場合は、スリング使ってもいい?」
「スリングって、投石の?」
「そうそう、村だと皆使ってんの。偶に飛んでる鳥とか、結構落としてるよ」
「う~ん、流石に水の中に投げるとかなり威力は落ちると思うよ」
「うん、それは想定内。だからこれを投げ込んでみようと思ってんだ」
ジュールちゃん、ドヤ顔で取り出したのは欠片みたい小さなもの。なになに~?
「何か、刻んであるね。これは?」
「村で作ってる脅し用の道具。刻んであるのは簡単な状態維持の文様、それが物理的に壊れたら発動するんだ。ちょっと前に作ってたヤツのなんだけど、新しいのは連射可能で小型化してるんで、そっちに切り替えるからって、在庫処分の名目でもらってきたんだ」
「へぇ、威力はどんな感じ?」
「試してみる?」
ↁ500円玉くらいのそれを、取り出したスリングにセットして指に絡めるように巻き付け、水面に向かってほぼ水平に投げる。ぼぼ水切りのような感じで、一回水面を跳ね、二回目に青白い閃光と爆発が水面に花を咲かせた。昼間でこの威力なら夜なんてどんだけ強烈よ。あ、ミッツさんちょっと引いてる。ニッチさんが興味持ったみたいでジュールちゃんに話しかけてた。
「うん、ちょ~っと外殻が硬かった」
「ちょっとまって、なにそれ」
「威嚇用小道具。これをこうして投げつけたり、特製の矢の先に付けて打ち込むんだ。ただこの大きさだろ、矢だと上手く狙えなくてさあ。今度の連発可能なやつはもっと小型ので、威力はおんなじくらい。作り直すにしても表面の文様を壊さずにって訳にはいかなくて処分に困ってたんだよ」
「その特製の矢は? それで打ち込んだらいいんじゃないの」
「ん、酒飲んで暴れた馬鹿に壊されたんだ。こっちは作業場にしまってたから無事でさぁ、分解すんのも危険だから、この討伐でで全部使ってもいい?」
「周辺への安全を確保したらな。どの位持ってきてんだ」
見れば革袋に半分ほど。30~50ぐらいって話で、いくつかニッチさんが参考にと分けてもらっていたわ。
「タングステン村って、こんな火薬武器を使うような魔獣が出るの?」
「いますよ。でもうちの村、ちび竜ちゃんと周辺の魔獣が仲良いんで滅多に襲われません。してもせいぜい口喧嘩なんです」
「はい?」
「喧嘩です。仮に殴り合いやらの暴力沙汰になったらちび竜ちゃんがすっ飛んで行って泣きながら「お説教」するんです。例外は事故に伴う怪我と発情期に伴う争い、巣立ちの為の争いですね。下手に流血しようもんなら説教しながらやたら沁みる薬で手当を完治するまでされます」
「冗談でしょ」
「残念ながらほんとです。村人も同じ扱いですよ、なので村内は基本的に戦闘禁止。それを知らない外部の人間が魔獣退治とか言ってやってくると、ちび竜ちゃんがわざわざ魔獣たちに知らせに行くほどです。なので威嚇用の小道具は、基本的に外部から来た知らない人用になるんです。話の通じる魔獣たちには必要ないですからね」
「村人も魔獣には基本手を出しませんが、山菜などの山の恵みを取りたいときは事前に話を付けてから入るので、襲われた事はここ暫くありませんよ。ただ、それを知らない外部の人間はよく襲われますけど」
あはは、タングステン村って、陸の孤島って言われる辺境だからね~。村周辺の魔獣はみんな優しいけど、知らない人には警戒するし。ふつ~よ、ふ・つ・う。村人相手にまともな武器を考えちゃいけません。基本装備は鉈、小刀、投石機、斧、大槌、包丁、擂粉木、鍬、鎌、鋸、投網な村人でっせ。剣やら槍やらはあるけど村の集会所に置かれた数本で、使われたところを見た事すらありませんて。
「さすがに包丁で討伐するのはおすすめできないかな~」
「鉈と鍬と斧は分かる。大槌は隙ができやすいからあんまりおすすめ出来ないし、単独撃破には向かないよ。チームでやるにも今回は対象の数が多いからね」
「え~。うちの村の主婦なら、お台所道具は立派な武器になるわよ。お鍋の蓋とかお皿は投擲、片手鉄鍋や麺棒なら打撃、あとは持ち前の運動能力を持って大概の冒険者ならほぼ仕留めるわ」
「それホントに主婦かい?」
失礼な。淑女の武装はドレスとお化粧と気高き気品だけど、か弱き庶民女性が合法的に持てる武器は、料理道具と愛する家族と己の矜持なのよ!
「辺境の村で何を求めるか知らないけど、村人の通常装備に何を期待してんのかしらね~」
「辺境で魔獣を狩って暮らしてるなんて思われていたりして」
「そんな血みどろの日常だったらちび竜ちゃんが逃げ出すわよ」
「そうそう、虫を見かけただけで逃げ出すもんなぁ」
「戦闘能力なら赤子よりもないが、旨いもんを探し出すのは国一番かもな」
「第一そんな村じゃルムックが居つくはずねぇよ」
「ベルガコムが居ついているってだけ分かりそうなもんなのになぁ」
見学者の皆様、素直に喜んでいいのかな。赤ちゃんよりも弱いって、そんなことないからね。多分、ないはず、よ?
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ジュールちゃんの投擲武器は、取り敢えず保留。ミーナおねえちゃんは村から持ってきた鉄の長剣で前衛、風ちゃんと雷ちゃんはそれぞれの属性攻撃でミーナおねえちゃんをサポートしながらの中盤で、のぞみはその殺人級の健脚で遊撃しつつかく乱し、ジュールちゃんは大鎚、メルカちゃんは鉄球の付いた棍棒を使っての打撃部隊となりました。
ニッチさん曰く。ミーナおねえちゃんとのぞみは、大まかな指示を出して独自の判断で行動させた方が良さそうとの事。で、二人のサポートとして残りの人員を配した方が、今回は良いだろうですって。
そりゃ、剣を握った途端に豹変する女の子は初めて見たけど、決して怖くはなかったわ。ただ運動性能だけなら只者じゃないわよ。キビっとした動作に驚いたけど、結局ミッツさんに受け流されてそれまで。一合目からすっごくいい音させてミッツさんと打ち合っていたからね、ミーナおねえちゃん。
メルカちゃんとジュールちゃんはニッチさんと手合わせして筋がいいと褒められてました。大鎚に振り回されず、ちゃんとつかえているように見えたけど、やっぱり本職の冒険者さんにから見れば隙だらけなんですって。
意外なのはメルカちゃん。普段は羊たちのお世話に駆けずり回っているから、武器を持つ姿なんて想像もつかなかった。最初取り出したのは長い鞭。サーカスの猛獣使いとか、カウボーイとかが持っているめっちゃ撓るあれです。でもこれだと水面下にダメージが与えにくいからって、ニッチさんが自身の道具袋から出したのが鉄球付きの棍棒。これを持たせて暫くあーだこーだとレクチャーを進めていくと、コツがつかめたのサマになってました。
魔獣組はかなり器用に能力を提示。風ちゃんは波を風で水切り。雷ちゃんは投げられた複数の石を雷で撃ち落とし。のぞみは武器を構えたミッツさんを武器ごと弾き飛ばす。さらにこぶし大の岩を器用に蹴り出しては風ちゃんに向かって投げつけ、風ちゃんはそれを風で雷ちゃんの方へトス、雷ちゃんが海に向かって高速で狙い撃ちする「遊び」を披露。
〖これくらいなら村でもやってる〗
〖遊びなんや、こないやろ〗
〖もっとやる?〗
「イエ、ダイジョウブデス」
そういえば村近くの街道、最近石材を使った整備がされたって聞いたけど、まさかこの三匹でこんな風にしてたりしてね~。
こんな感じで手合わせは終わり、一寸だけ簡単な作戦を立てて、あとは自由時間で遊びました。
ビーチフラッグとか、潮溜まり散策とか、元気がある人は海で泳いだりして。水筒にしている革袋を膨らませてドッチボールとか。
「なんでルムックちゃんは泳げるのに、ちび竜ちゃんが泳げないんでしょう?」
「ほんと。未たちも泳げたのにね~」
羽が邪魔して思うように泳げない私は、革袋にしがみついてゆーらゆらと波に揺られてました。平泳ぎも犬かきも出来ないの。ただ浮いているのが精一杯って、ちょっと凹むわ~。
日本全土で暑さ寒さの差が激しいですが、体調管理は十分に気をつけて下さい。
じゃないと婆ァのように、原因不明な胃の痛みに襲われたり、咳が出たりして、身内から「自己管理も出来ない」と、突っ込まれる羽目になりますよ。
『作者の場合は部屋の掃除を怠った為によるダニアレルギーだと思われます。早急に、布団の乾燥機掛けと、掃除機掛けを含めた大掃除を推奨。あとは規則正しい生活と適切な食事と睡眠を摂ることが必要かと思います(羊娘)』




