六話目 夏と海と子④
調子こいてこうし~ん。
※2018年12月20日 一部内容修正。
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。わかりずらい表現で申し訳ありません。
到着したアト村は、こじんまりとした内湾の先端が海に繋がっている地形。住宅が密集して建てられているのは、嵐などで海が荒れた際に一番やり過ごし易い場所に住まいを求めた結果で、場所も海から少し離れた小高い人工的な丘の上だった。
村の入り口では村長さんとモールスご夫妻が出迎えて下さって、熱烈歓迎頂きました。うや~、お久しぶりです~。
今回の宿泊先は、海に近い砂浜の外れに建てられた建屋。中は囲炉裏を囲んだ板張りの高床があって、雰囲気は広めの海の家って感じで村共有の漁師小屋兼、集会所なんだそうで、簡易的だけど窯もあるの。掃除も行き届いて寝具もちゃんと用意されてました。生活用水は村の湧水を引っ張ってきてるんですって。
驚くべきはお風呂がある事。正確には違うかもしれないけど、身体を洗うための場所で、冬場は沸かした湯を大きな桶に入れて、その中に入って身体を洗うんですって。見せてもらったら、木製の盥に近かったわ。昔は甕だったけど、水を捨てるのに重くて不評だったので、木製の盥に切り替えたんだそう。
海から上がったら、身体を洗ってから休んだ方がいいとアドバイスを頂いたので、早速使わせてもらいますね~。今夜は広いお風呂だ~♪
勿論景色は特等席のオーシャンビュー。建屋の前の広場はいい感じに開けているので、多分ここが魔獣組に与えられた寝床になるんだろうな~。
「いい場所ね~」
「あちらの小屋には漁の道具が入ってますので、使うときは許可を取ってくださいとのことです」
「あらまぁ、使ってもいいの?」
「必要ならば構いません。但し破損などされた場合は速やかに申告ください。村の道具ですから」
「有難い。俺らは海の事なんてとんと分からないからなぁ、大事な道具を仕舞わせて悪いが、子供達がいるから道具はなるだけ目につかない方が何かと助かるよ」
「そうそう、何せ好奇心はみーんな旺盛だからなぁ」
ホントに何から何まで至れり尽くせりで頭が下がります。お夕飯は是非とも交流会も兼ねて、村の皆様もご一緒に如何ですか。私、本腰入れてご用意させていただきますわよ?
「あら~。用意なんて大変だったでしょ、こっちで色々用意するのに」
「新鮮な海鮮類だからこそ、試したい食べ方が沢山あるの。おばちゃん、お魚、生で食べるわよね?」
「ええ、種類によるけど」
「勿論クロムンブも?」
「ええ、粉にしたカラミナと塩を入れた果汁に付けて食べるとおいしいのよ」
カラミナは真っ白な唐辛子。味を確認したことは一回しかないけど、そんなに高い食材ではないの。村では隊商さんにお任せの品なので知ってる人はそんなに居ないわ。
「おばちゃん、村から差し入れにお野菜いっぱい持ってきたの。是非ともいろいろ試させて~」
「あらあら、前にいただいたお野菜、と~っても美味しかったのよ。村の皆でぜ~んぶいただいちゃったわ~」
「嬉しいねぇ、野菜がうまいなんて褒められると、照れちまうねぇ」
うや。丹精込めたお野菜を褒められて、嬉しくならない村人は居ないわ。消費者からの直接の声をじかに聞く機会なんて、そうそうないもの。美味しいなんて最上の誉め言葉よ。
「そういや、頂いたクロムンブ、あれすごかったですよ。ちび竜ちゃんが」
「そうそう、生で食べて、焼いて、揚げて、捏ねて焼いて、二日は村中でお祭り騒ぎしましたよ」
「クロムンブの頭の丸焼きなんて作ったんでっせ」
「ハンバーグもおいしかった」
「あら~、一匹を二日で? どんな料理だったの?」
「おばちゃん、レシピならミーナおねーちゃんが全部持ってるから後で渡すわ。今回特に好評だった料理も作るから、クロムンブを少し分けて~」
と、私たちが話に花を咲かせている間に好奇心旺盛な魔獣たちと子供達は、海目掛けてまっしぐら。砂浜で歓声を上げて初めての海を堪能するタングステン村の親子一同。アト村の皆様が予め用意された麦わらの草履を片手に、きめ細やかな砂地へと裸足出てゆきます。素足で触れる細やかな砂の感触は、歓声が上がる程の新鮮さがあった様です。うや~、焼けた砂じゃなくてよかったわ~。
アト村の村長さんと上級冒険者の指導員さん、メッシュさんとマミちゃん、ニオブさんとステアさんは丁寧な挨拶をして、打ち合わせ中。冒険者協会が主催する一般人を対象としたはじめての催物ですので、国としても安全性を立証できる機会なんでしょうって、マミちゃんやせんせーが言ってたけど。
国軍の皆様も苦戦したクロムンブ討伐を、人海戦術ともいえる大量の仕掛人と多少の結界。少人数戦闘のベテラン冒険者の助言と支援を受けながら、魔獣三頭と年若い一般人でやろうとしてるんだもの。普通は無謀とか言われてもおかしくないのよねぇ。
ルムック達の我儘を極力叶えたいという私の願いを形にしたとは言え、アト村の皆様よく受け入れてくれたわよね~。改めて感謝!
「ほぉ、今夜は随分豪勢な夕食になりそうだね」
「うや~、槍の冒険者さん。お魚メインだけど食べれます?」
「っぶはっ、槍のってこれか?」
「あや~、斧の冒険者さんだ」
「ちょっと待って、自己紹介したよね。名前忘れちゃった?」
「うや?」
たぶん聞いてなかった。ごめんなさいって素直に謝ったら、槍の冒険者さんは後ろ向いて笑い、斧の冒険者さんは大げさに肩を落とした。んで、改めて聞くと、斧の人はニッチさん、槍の人はミッツさん、因みに熱心にマミちゃん達と打ち合わせしている人は自衛の為に短剣も使う魔術師でシーフさんというそうよ。今回の推薦は戦闘能力よりも緊急時の救助能力で選ばれたと言われたそうです。
「正直言って、俺らよりも戦闘能力上位のパーティーなんてゴロゴロいるよ。今回は討伐初心者の指導員だから、戦闘補助や緊急時の対応が出来る者を選んだんだと思う」
「あと、今回参加者が魔獣って聞いたから、意思疎通能力が高い人材が必要だと思われたんだろうな」
中級難易度を誇るクロムンブ単体討伐を、群単位の討伐。これだけでも難易度はかなり高くなるのに、討伐参加希望者が一般人と魔獣なんて、普通は特殊過ぎて企画自体を却下される。それを覆したのが討伐に参加する魔獣と大掛かりな仕掛けを用いた討伐計画。防御や隔離にしか使われなかった結界を用いた仕掛けは、海上や渓谷など足場を必要とされる場所によっては有用な使い方だと現役の上級冒険者達からも評価をもらったそうです。
高所作業現場の足場とか、港に停船している船舶への桟橋の代わりとか、災害時の緊急用の足場とか。そんなかんじかしらね。ただ、使い手によって持続時間とか規模とか変わってくるから一律の展開は難しそうなんだって。
冬の橇大会でコースのメンテナンスにつかわれそうね~。
「なので、結界魔法の全容についてはシーフに一任されているんだ。俺らはいざという時の参加者を安全に避難させるための要員なんだよ」
「うや~、んじゃあ実質的な主力戦闘員は当初の予定通りってことかしら?」
「まあね。んでちょっと聞いておきたいんだけど、ルムックはどの位強いの?」
どの位って、一年前は全力で人間五人と荷車を直線距離で約2㎞近くぶっ飛ばす位。その後のぞみ達にしごかれたから、ソコソコ強いと思うの。でも強さってどういえば伝わるかしら?
「う~ん、普通の一歳半のルムックってどんなくらい強いのか知らないのよね~」
「は?」
「二人共属性攻撃で牧草刈りとか、土いじりのお手伝いとかしてくれるの。二人が居たらすっごく助かるのよ。のぞみ達もそこそこ強いって言ってたし、こだまも居るから何とかなると思うわ」
「属性攻撃でおてつだい?」
「あらあら、お手伝いできるなんて賢いのねぇ」
「うや~、可愛くていい子な自慢の家族なの」
親ばかだって構わない。だって本心だもの~♪
「…、ちびちゃん」
「うや? ミーナおねーちゃん、どしたの?」
「ルムック達の魔法、解除して」
そう言って海の方を指さすミーナおねーちゃん。そこには打ち寄せる波と砂に転がされる風ちゃんが。雷ちゃん既に転がってたみたいで、びしょ濡れで海の中に。
「あらま~」
「あれじゃあクロムンブ討伐は無理。海は初めてでしょ、慣らさないと尚更困難」
「うや、マミちゃんにお願いしてくるわ~」
その間も波に翻弄されながらも懸命に海に立ち向かう二匹の小さなルムックに、打合せしていた面々も気が付いたみたいでほほえましそうに見ていました。
「マミちゃぁん、風ちゃんと雷ちゃんの魔法解いて~。あれじゃあ波にさらわれちゃうわ~」
「分かりました」
風ちゃんと雷ちゃんに掛かっている魔法はあんまり世間に知られていないの。姿変えの魔法は悪用されるととっても質悪いという事で、実は国の認可が必要な魔法なのよ。
「村のルムックちゃん達限定」って条件で許可証を発行してくれたおーさまに感謝だけど、せめてそこは「村の魔獣たち」ってして欲しかったわ。そしたら私も掛けてもらえたのに~。大人の私ってどんななのかしらね~。
二人共元の大きさに戻った途端に驚いた声が上がるのはどういう意味かしらね。そしてニオブさんとステアさん、引率者なのに早々に子供達に手を引かれて海に連れ去られるのはどうかと思うわ。既に着ている私服はびっしょり~。私じゃ間違いなく体力不足でばてちゃうわ~。
のぞみ達は村長さんにご挨拶を済ませて、メッシュさんを引っ張って早々に入り江の周囲を見に行ったわ。会話の魔道具を身に着けているから会話には困んないわよね。
上級冒険者さん達は、私の側で浜で遊ぶ村人たちが無茶しないよう監視員しながら浜辺の下見しているわ。入り江での戦闘自体はアト村が初めてなんだそう。後程防具と武器を着けて実際に軽く戦闘してみようとか、見学者たちはどこなら安全に見学できるかとか。当初の予定と多少の変更が発生してないか、確認も指導員としての立派なお仕事だものね。
今回は村よりも気温が高めで、踏ん張りの聞きにくい砂浜が一応の戦闘領域。足の着く浅瀬とは言え、油断したら大怪我しかねない討伐体験ですもの。安全策はいくらでも用意して置くに限ります。
私も飲み物にはミネラル補給を兼ねて麦茶や簡易的な経口補水液も準備済み。水分多めの果物も色々用意してますとも。取り敢えず今いる皆さんで持ってきた荷物を建屋内に運び込み、私はそのままお昼の用意を始めますとも。あ、建屋に風入れて、お風呂の準備もしましょうね~。
本日のお昼はたぁぷり作った根菜のお煮しめ、鳥から揚げ、薄焼きクレープのサラダ巻き。あと、いつものお漬物&甘味を作ってきましたとも。果物もあるし、飲み物もあるからどうかしらね?
「どこに行っても相変わらずのちび竜ちゃんで、頼もしいですね」
「ご飯は人生最大の楽しみだもの。マミちゃんは海であそばないの?」
「今回は村全体の引率者、安全確認が私の役目ですからね。ちび竜ちゃんこそ遊ばなくていいんですか?」
「お昼の準備と飲み物の用意をして、お風呂の準備も出来て一休みしてからね~、マミちゃんこそ海は初めてじゃないの?」
「何年か前に体験済みです。それにしても皆さん楽しそうですね」
「うや~、海が初めての人ばかりだからね~。毎日頑張ってるんだもの、偶にはこういうのもいいでしょ」
「そうですね、おや。今回は随分沢山ありますが、これ全部ちび竜ちゃんのお手製ですか?」
「うや。いつもの倍は用意してきたわ~、村長さんにアト村の皆様もご一緒に如何ですかってお誘いしてあるの。勿論冒険者さんやメッシュさん、のぞみ達の分も準備済みよ」
のぞみ達には今が旬の青葉をふんだんに使った「ふんわりリース」を40用意してあるの。この辺りの草が口に合わなかったら旅行中困るでしょ。うちの子達は多分お魚食べれると思うから、夕飯はアト村の新鮮なお魚を使ったご飯で決まり。ウフフフフ~♪
「甘味まで。って、手が込んでますねぇ」
「だって、楽しいもん~」
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塩水でびしょびしょの親子たちとルムック達をお風呂に入れて、風ちゃんの風でさっぱりと乾かして、さあお昼ですよ~。アト村の皆様も混じって賑やかに頂きます。
タングステン村のお昼は大皿から食べれるものを食べたい分だけ取るセルフスタイル。私の役目は簡単な説明と掛け声位が主なものですが、今回はルムック達の為に給仕を行なってます。
建屋の外に設けた簡易的テーブルにはお煮しめ、鳥から揚げ、薄焼きクレープのサラダ巻き、磯エビの姿焼き、ぶち貝の長粒米パエリアもどき、お漬物などなど。どこの立ち食いホームパーティーだと突っ込んでいただいても構わなくてよ!
鳥から揚げがすっごい勢いでなくなっていきます、磯エビとパエリアも。このままでは並べられたご飯はきれいさっぱりなくなりそうで、作り手としては嬉しい限りです。
皆さんお腹空いてたのね~、なんて見てたら。冒険者さんがルムック達にふりかけを分けてもらうという場面が…。ふぉぉぉぉぉぉぉっ!
冒険者さんも、これ旨いな~とか風ちゃんに話しかけてます。ふ、風ちゃん。村の人以外とコミュニケーションを、とってる~!!!ふぅぅぅぅぅっちゃあーーーーん、すごいわすごいわすごいわ~~っ!!
〖…旨いもんはみんなで食うんだろ。だから、だよ〗
「風ちゃんいいこ!」
〖らいもいいこだもん〗
「雷ちゃんもいいこ!」
んもぅんもぅ。こーんなツンデレをかます可愛い子達に萌えずして何を萌えよというのよ。私に全力で愛でさせて~!!
「俺、ルムックが”見れたら幸運が訪れる”っていうの、何か分かった気がするわ」
「ああ」
「あの火吹き竜も一緒だと、さらにすげぇって思うわ」
「私、魔獣の概念が変わりそうです」
〖あれ、村での状態やで〗
「あれが普通なんですか」
〖せや。ルムックな、チビこい時に密猟されて余計人嫌いに磨き掛かったんが、ようやっとここまでになったんよ〗
「密猟って。よく助かりましたね~」
「ルムックを捕まえるって、かなり難しくないか?」
「ああ。以前に魔獣の繁殖期に目ぼしい雌に追跡魔術を掛けて、子供産んだ頃に討伐して子供を奪うなんて密漁が問題になったんだよ。幼体なら捕まえるにも苦労しないからって。余りにも非道過ぎるって成体以外の個体を捕えるのは大陸的保護指定で禁じられた筈なんだがな」
可愛い子にモエモエさせて頂いた私のテンションはアゲアゲよぉ~!
さあ、食後のデザート。いってみましょ~!
先日のチーズのお礼にって、モールスおいちゃんの息子嫁さんが天草から作った寒天を差し入れて下さったので、早速使わせて頂きました。蜜漬けの果物は予め甘味として用意してあったんだけど、寒天があるなら使った方が絶対にいいと思って、急遽羊乳とシュナを加えて一品に。
「本日の甘味は蜜漬けの果物をいれた羊乳寒天よ~」
「うお、凝ってんなー」
「ちび竜さん、甘味料理人に転職したら?」
「ミッツさん、こんな拙い腕で料理人を名乗ったら失礼よ。私は普通の家庭料理しか作っていません」
「いや、城下町でこの村の料理がどんだけ流行してるか知ってる?」
「茶色の田舎飯が天下の王都で流行る? 馬鹿言っちゃいけませんがな。そんなの一時的なものですよ」
「(王都でここ近年、流行りの有名な料理にカラアゲってあるんだけど。王都で売ってたのよりもこの鳥から揚げの方がうめぇんだけど)」
「(お前喰ったことあんのかよ、ヤケに詳しいな)」
「(先日食べに連れて行かれたばかりなもんでな)」
〖りゅー、俺も俺も〗
〖雷も雷も~〗
はいはい~い、いまもっていくからね~。
「ぷるぷる~」
「やらかーい」
「これうまっ」
タングステン村の人々は初めてな筈なのに、ほんとためらいもなく口にするわね~。ま、喜んでいるみたいで何よりだけど。
「へぇ、こうすっと結構食えるな」
「甘味になるとは驚きだ」
「これって、売り物にならないか?」
アト村の皆様、こういう食べ方は初めてみたいで結構食べてくれるわ~。うんうん、売り物にして、是非ともタングステン村にも来て欲しいわー。そしたら水ようかんとか作って見せるからね~。
「流石、食の探求者ね~」
「このレシピも書き留めるわね」
センセー、私はただの食いしん坊です。ミーナおねぇちゃん、多分この社会見学中は毎食レシピの更新があると思って下さい。
あ、寒天あるなら心太が作れるわね。酢醤油と黒蜜きな粉、どっちを作ろうかしら?
余談ですが、マミちゃんに魔法を解除してもらったルムックを見て冒険者組合関係者とアト村の人は当然驚くんですが、タングステン村人たちの平然とした態度に呆然とします。
のぞみの〖見た目だけで判断するのは人間の悪い処だ〗の発言に、少々反省させられる場面があったんですが、そこまで書くと討伐が⑦位までいかないと始まらないって気が付いて、今回触れることなくカットしました。




