六話目 夏と海と子③
たまたま珍しく、早い更新が出来ました。
※2018年12月20日 一部内容修正。
「おねぃさん、現場ってどんな地形なの?」
「おや、ちび竜ちゃん。何か思いつきました?」
「う~ん、一応確認したいわ。実現可能か相談させて~」
嫌な顔をせずにおねぃさんは湾内の情報を開示してくれたので、予め断りを入れてからマミちゃんに頼んで地図に描き起こしてもらいました。村に近い場所は砂地の人工浅瀬。そこから先は岩場の多い深みになっているとのこと。湾の大きさはやや歪んだ扇形で湾自体の広さは以外と狭くておよそ400Mトラックがすっぽり入る位かしら。深さはおうちがとぽんと埋没するほど。
「思ったよりは広くないのね」
「ですが足場のない穴みたいなものですよ、動き回る彼らに武器を当てるだけでも難しいんです」
「なら相手が動きにくい状態にしちゃえばいいのよ」
「はい?」
「ちび竜ちゃん、何を思いついたんです?」
「マミちゃん、橇大会で大規模な結界魔法を使ったの覚えてる?」
「ええ。その後の何回かの改良を重ねた代物ですよね。私も面白くて改良に口出しさせてもらったんですよ」
「その結界をね、壁として水の中に張ることができないかしら。形はこ~んな感じで、こことこことここはこのくらいの網にしてね」
「…ほう」
私が考えているのは湾全体に大きなジャングルジムを海面1M以下に組み込むという単純な代物。但し壁面とか網とかを仕込んだ一方通行な3D迷路。大型のクロムンブにとっては邪魔でしかないけど、他の小型魚には邪魔にもならない仕様。こまめに体を捻ってスピードが出せない水中をくぐり抜けるか、海面近くの敢えて障害を少なくしてある場所を危険を承知で通る二択をさせる方法。
ジャングルジムを抜けた先は村近くの人工浅瀬。そこなら風ちゃん雷ちゃん、こだまだって直接狩りできる。血生臭い戦いになるだろうから、私は近寄れません。これくらいのお膳立ては初心者が楽しむハンデとしていいと思うの。
「んで、ここの浅瀬に誘い込んで~、ここで迎え打つのはどうでしょう。障害物になる結界は足の着く深さまで張って、障害物上の結界にこんな感じで足場を作れば、そんなに困んないと思うのよ。んでんで、おっきな音を立てる魔法をね、予め仕込んでおいて、順番にここから発動してどんどんどーんといけば一気に追い込めると思うのよ」
「結界を足場ですか? そんなことが可能なんですか?」
「楯としての術式を一部展開すれば出来ますよ。結構大掛かりなので、術者達の協力と綿密な打ち合わせが必要です。音の魔法は物理的な衝撃とか付けるんですか?」
「術式の威力にもよるけど、威力は抑え目でほしいかな~。脅かすのが目的だもの」
浅瀬に獲物を追い込んだら、予め大きな網目で作った地引き網で囲い込み。結界で作った障害を消してから、参加者全員で網を引き揚げて獲物を回収したらどうでしょう。
「じびきあみ、ですか」
「あら、もしかして知らないかしら。かなり大きくて丈夫な網を使って、浜から皆で引き上げるのよ。人手がいるから村人も一緒に参加できるし、暴れるクロムンブはマミちゃんや上級冒険者さん達にお任せしようかしらって思ってたんだけど」
「これ、討伐ですよね?」
「山暮らしの村人が初めての海を体験するのよ。冒険者や軍人さんたちのお仕事を見学できるだけじゃなく、海ならではの愉しさとか、滅多に出来ない体験をさせて、子供たちの将来の選択肢を増やしてあげたいじゃない。大人だって一緒に体験しとけば、子供の選択に対しての理解だって増えると思うの」
社会見学の私の目的は「ルムック達のクロムンブ狩り(体験)」。討伐とか駆除とかはアト村の皆様の都合次第。勿論怪我も事故もなく楽しめれば目的達成よ。
「他には何を考えているんですか」
「うや~、せっかくの海体験だけど、アト村の皆さんの漁場を荒らすわけにはいかないから、これ以上はやらないわ。精々釣竿を使った一本釣りとか、砂地遊びとか、参加者が皆で楽しめる物がいいわよね。夕飯は海の幸でバーベキューしましょ!」
アト村の皆様とも交流出来れば尚良し。地元の美味しいものを教えてもらえたら私的にはホクホクなんだけど。あ、砂のお城つくりとスイカ割りはしたいな~。
「(話にはきいていたけど、火吹き竜ってとんでもない考えをもってるのね~)」
「(一応言っておきますが、ここまで突拍子もないのはちび竜ちゃんのみです。火吹き竜自体はさほど食にこだわってませんよ。どこからこんな考えが浮かぶのか私も不思議です)」
あ、折角だしボールつくって、ビーチバレーもしよう。砂浜なら広さも十分だし、転がっても痛くないもの。雨除けの布、まだあったかしら?
競争なら、ビーチフラッグもいいわよね~。ハンデ付ければ子供でも参加可能かしら。私の場合は飛行禁止だと、どの位のハンデもらえるかしら。
マミちゃんとおねぃさんはその後何やら打合わせをして手配やら、なにかしてましたけど。私も準備しなきゃよね~、中止にならなきゃやりたいことはたくさんあるもの。あ、お土産、何にしたらいいかしらね。
*******
「クロムンブって、すご~くおっきくて、すご~くはやいんだって」
「羊達みたいに群れになっているんだよね~」
「そうそう、船上から捕まえるのはすっごく大変だって言ってたよ」
当日の朝、中止になったという報告はとうとう来ませんでした。
「足場が殆ど無いから討伐自体は魔術師を主体とした編成になるんだよな~」
「アト村のクロムンブの討伐は小型船を使った投擲武器による手法でな、正直効率の悪さに頭が痛いよ。だが、人手が無さすぎる現状ではあれが一番まともな方法なんだと分かった時のやるせなさといったらなぁ」
「そりゃ無茶にも程があるぞ」
村の広場には社会見学参加者が続々集合。大八車に食材と調味料、調理器具と洗浄器具一式(現地で使う燃料込み)、念の為の薬草などを積み込んであります。
今回お世話になるアト村の皆様のご厚意で、寝床は既に用意済みだそうです。
現地カメラマン担当の二頭+取材担当の二頭の計四頭がラクレコム種の羊娘達。
その引率にベルガコム種ののぞみ。
今回クロムンブ狩りの体験希望者はルムックの風と雷、一部村人。
その引率にマミちゃんと私。
その様子を見学する子供達と村人の引率はメルカちゃん。
総勢26名+8匹が魔術門を向いて引率者はまだかまだかと夜明け頃から待っております。
「むこうさん、いつ頃くるんだろうねぇ」
今回は通行証を持った冒険者組合の方がお迎えに来てくれる手筈になってまして、簡単な日程内容は一日目の午前中に現地入りして、諸注意を受けた後に夕刻までの自由時間。夕食を取って就寝。
二日目の日中は、クロムンブ狩りの体験会。日暮れ後は昨日とおんなじ。
三日目は、上級冒険者さんから昨日の総評及び注意を頂いて帰宅。
とまあ、こんな感じです。お着替えや自分で使う道具は基本的に自分で用意、羊たちとルムックちゃんの身体を拭く為のタオル類も用意済み。万が一羊たちのご飯がなかったら大変なので、一応三日分の草を手配しました。私もいつもの小刀を風呂敷に巻いて首に巻き付け、以前にもらった通行証をしっかり身に着けております。
「そ~ね~、ご飯たべて~、それから?」
「うわ、のんびりね~」
そういいながらお茶飲んでのほほんしてるのは、お仕事を頑張って終わらせたセンセーとミーナおねえちゃん。二人はクロムンブ狩り参加希望者。村長から剣を持たせたら速やかに離れるよう厳命されてます。ええ、参加者全員です。
朝早いと困ると思って、簡単な軽食を一応用意してきてます。羊たちには青草をふんわり編んだ草冠。ルムックちゃん達にはクロムンブふりかけをたあっぷり入れた玉子焼きと野菜たあっぷり挟んだの蒸しパン。私とマミちゃんもおんなじメニューです。出汁をたっぷり使ったお煮しめはお昼用だからあとでね~。
「悪い、遅くなった」
「うや、ニオブさん? おはよ~ございます」
魔術門からって、昨日は家に帰ってないのかしら。あら、ステアさんも。
「ああ、もうこちらは準備できてるんだな」
「ええ。最終確認が済んだら出立しますよ」
マミちゃんがさっさと対応に行っちゃった。ニオブさんの後ろから来たこの前会った冒険者協会のおねぇさんがひょっこり顔を出してます。
「おねぇさん、おはよ~ございます。もう出発できるんですか?」
「おはようございます、ちび竜さん。タングステン村の皆様はもう準備できてるんですか?」
「ええ、ちょっとだけ早く集まったんで、軽く朝ごはんしてます。良かったら召し上がりません?」
「お気持ちだけ頂きます。あとこちらに協会推薦の上位者が到着すれば、アト村へ出発となります。それまで、今少しお待ちください」
「まだかかるの~?」
「ええ、お仕事が手間取ったみたいで、いま急ぎ向かってるそうです」
今回の討伐の指導に当たってくれる上級冒険者さんはハルト国でも名の通る方だそうで、クロムンブ狩りの体験もあるとのこと。私の出した案を事前に彼らに提示した処「面白そうだし、是非参加させてほしい」と、乗り気なのだそう。また、関係各所に事前計画書の提出もあって、今回の社会見学は、今回の討伐を見学する方々がいらっしゃると聞いていたけど、あまりの多さにライブカメラによる実況生中継となったそうだ。
「なので、クロムンブ討伐の映像をなるだけ近距離で押さえろと、無茶を言ってきたんです。戦闘中の冒険者になるべく近づいた映像なんて危険すぎると言ったのですが、今朝方上層部からの指令書と軽量化されたカメラを四機、届けられまして。すみません、私共では断ることが出来ませんでした」
「おねぇさん、お疲れ様です」
「冒険者協会も無茶いいますねぇ。今回の主役は冒険者ではなく我々素人集団なんですが」
「おまけに冒険者経験のない子供たちが主役です」
「ええ。その辺もしつこいくらい言ったんですが、上役たちの耳には届かなかったようです。申し訳ございませんでした。なので今回討伐に参加なさる皆様にはこちらをご用意しました」
そう言って取り出したのは綺麗なオレンジの小花をはめ込んだ丸い輪っか。
「使い捨てですが、簡易物理防御の術式を組み込んだ魔道具です。一度使えばほぼ半日ならもたせられますこれを、討伐予定の明日、参加予定の皆様にお配りします」
わからないことはマミちゃんに聞きます。マミちゃん曰く、薄い結界を二重に張り巡らせ、結界同士の間を防御魔法で包んだ魔道具なんですって。魔術の媒体になるのもによって強度や持続時間が変動するので、あのくらいならそう高価なものではないとのこと。
「大変勝手なお願いとは存じますが、クロムンブ討伐にご参加の皆様は安全のため必ずこちらを着けられるよう、重ねてお願い申し上げます。現地にて治癒術者も勿論待機しておりますが、危険を冒す必要はございませんので、クロムンブ討伐参加は各自の判断で自衛手段をお願いいたします」
『危険なだから、危ないと思ったらいつでも避難してねってことかしら』
『それって私達もかしらかしら?』
『あらん、あれ人間用じゃなぁい』
『てことは、あて等には何もないんか?』
うや~、羊たち鋭い。
「うや~、それって人間用なの?」
「はい、ちび竜さん達魔獣の皆様用は現在取付具の変更に取り掛かっており、明日のお渡しには絶対間に合わせて見せますので、少々お待ちください。皆様もどうぞ安全を取って、無理はなさらないで下さい」
『あらまぁ、こン人できるわ~』
『うんうん、こういう人なら信じてもいいわよね~』
『気遣い出来る人間は、私達融通利かせてもいいわよ~』
『そうね、ちょ~っと本気出してもいいわよぅ』
うや~、未娘達に気に入られちゃったわ。おねぇさん、魔獣だからって全然態度変わらないの。のぞみまで味方につけたら、今回の撮影部隊はすごいことになりそう。
「おねぇさん」
「はい、何でしょうか」
「今回参加する魔獣はこちらのベルガコムののぞみ、ラクレコムの娘達、ルムックの風ちゃん雷ちゃん、火吹き竜の私の八匹です。改めて宜しくお願い致します」
「冒険者協会、アト村担当のメッシュといいます。初めての事ばかりなので至らない点もあると思いますが、気になった事はお気軽に聞いて下さい。こちらこそよろしくお願いします」
「んじゃ、早速。注意事項なのですが」
「はい、何かありましたか?」
「村人のミーナ=ボライトちゃんは、武器を持たせると人格が変わります」
「はい?」
「明日の討伐参加予定なので、獲物を持たせる予定です。持たせたら可及的速やかに離れて下さい」
「…、聞いてませんが?」
「村では常識でしたので、伝え忘れていました。明日の討伐時のみの厳重注意です。よろしくお願いします」
「わかりました」
「あとルムック達ですが、諸事情あって人に触られるのを嫌がります。用事があるときは声を掛けて下さい」
「わかりました。他にはありますか?」
「あと今回同行予定の魔獣は全員、人の言葉は完全理解してます。討伐当日はベルガコムとルムックに言語理解の魔道具を持たせる予定なので、頼みたいことがあったらコッソリお願いして見て下さい」
おねぇさん、へ?ってなったまま硬直。それを見てにッ、と笑う羊と竜が改めて
「こっそりですよ?」
と、念を押す。大事だもの、ここ。
*******
あの後遅れてきた上級冒険者さんと無事に合流したので、漸く出発となりました。と言っても、魔術門を経由して行くだけなので、大して歩くわけでもなく通過地点となった王都バルトとハルト国の城下町で、じろじろ~っと見られたくらい。ルムック達は小さくなるあの魔法をかけてもらって、私と一緒に荷物の乗った大八車に乗っかっての移動です。
上級冒険者さんは、男性三人で8年もパーティーを組んでいるベテラン冒険者だそうで、そろそろ引退してご家庭を持ちたいとお考えなんだとか。斧使いの前衛をしているニッチさんはこの体験イベントを引退最後の仕事として勤め上げた後はなんと鍛冶職人として既に弟子入りをしているんですって。
「いや~、それにしてもこんな所でルムックを見れるとは思わなかったな~」
人嫌いで有名なルムックは、成獣ですら滅多に見ることのない魔獣。その外観からも相まって、冒険者の間では”見れたら幸運が訪れる”という、根も葉もない噂があるんだそうで。
「しかもちっこいのが二匹もだよ」
「ほんとだよ。こりゃ全力で取り組まなきゃなんないでしょ」
噂の是非はともかく、眼福だと冒険者さんたちは終始ご機嫌でした。諸事情でお触り厳禁の諸注意も冒険者協会のメッシュさんから伝えてもらってます。私が珍獣なのは今更ですが、のぞみ達も珍しい部類に入るとメッシュさんからきかされて、へ~、って心境です。
『へ~、そうなの』
『ねね、冒険者ってことはあちこち出かけてるわよね?』
『そ~よね、じゃあ王都以外の最近の流行に多少の覚えがないかしら』
『あらぁ、あの人の外套に使われている襟飾り。どっかで見た気がするわ~』
『あれは最近の王都情報誌に乗っていた食べ歩き制覇の副賞品「挑戦者の称号」よ』
『なにそれ~、私知らないんだけど』
『橇大会の頃に王都で開かれた、一週間以内にタングステン村発祥の料理を出すお店を制覇して、そのお店の配るチケットを規定数集めると、先着順でもらえるっていう幻のアイテムよ。確か冬季限定のイベントで制覇したのは20人もいなかったらしいわよ』
『やだ、あの人制覇したんだ。何食べたんだろ~?』
羊娘達、ホント何処からそんな話を調達してくるんだろうねぇ。
「ハルト国の王城門を抜けたら間もなくアト村に到着します。村につきましたらそのまま本日の宿泊先にご案内します。そこに荷物を置いて一休みした後、村長宅にご案内します。焦らずに移動願います」
「「「「『『は~い』』」」」」
よい子の返事はホントに可愛い。ええ。親ばかの気持ちがよ~くわかります。
『もうすぐ海なのね~、ああ。早く見たいわ~』
『あら、なんか匂いしない?』
『気持ち風が強くて、でも草の臭いがしないわ』
『これが海の匂いかしら? なんか生臭くて、ちびちゃんが苦手そうな感じねぇ』
我が道を相も変わらず突っ走る羊娘達、これくらいの磯臭さは何とか大丈夫よ。ええ。
『うわ~』
「きゃ~」
「すげ~」
最後の門をくぐり抜けると、かっと熱射が身体を包み、磯臭さの混じる風を感じる。視界に晴れた青空となみなみと光を湛えた波がざざ~んと寄せて、きらめきを残して引いてゆく。うん、海だ。異世界でも海の色は変わらないね~、懐かし~。
「荷物を置いて挨拶を済ませたら、お昼まで自由時間を設けます。それまでお待ちくださいね」
「「「「「「「「『『は~い』』」」」」」」」」
ホントによい子の返事は可愛い。村の大人も良いお返事で、ええおばちゃん、ちょっとだけおっちゃんらをかわいいって思っちゃったわ。
ここ一ヶ月の災害がもたらした甚大な被害が大きすぎて、実感があまりありません。
テレビやラジオ、ネットにさらっと流れる情報は規模も内容も大きすぎて、想像が追い付かないのです。
私は分かったつもりにはなれても、きっと本当には理解出来ないです。いつか自分の身に起こったとき、初めて少しは理解出来るかもしれないと思います。
この夏、そんな大変な思いをなされた全ての皆様の平穏な日常生活が一日でも早く戻りますように。
そしてこの災害で得られた経験と知識が、今後の多くの人の命と心を守るチカラに生かされますように。
コンビニの募金箱の前より心から祈らせていただきます。




