六話目 夏と海と子②
※2018年12月20日 一部内容変更。
※『』内は魔獣のセリフ。〖〗内は翻訳道具を付けた魔獣のセリフです。
風のうわさが運んできたハルト国の新国王夫婦の仲睦ましいエピソードは、聞く人を笑顔にする力があるようです。真実を収めた映像をすでに何回も見ている村の人からすれば否定したい話も多いのに、このままどこまで尾ひれが大きくなるんだろうと楽しんでいる節があります。
『私思うんだけど、立会人の幼女はないと思わない?』
『そうね。微笑ましい幼女が立会人として参列したって、ちび竜ちゃんの事でしょ』
『確かに微笑ましいわよ、メイドに抱えられて台座に載せられるとことかね』
『王族の結婚式で庶民感覚の説教をする幼女なんて、史上初よ』
『それ以前に着飾った火吹き竜の幼生が参列する公式の結婚式自体が史上初よ』
『会場の至る所で警備に当たっている人が笑いを堪えている珍事だものね~』
『しかもこうしてその様子が映像と音声によって後世にまで残るのよ』
『きっと王族の歴史書とかに掲載されて後々まで語られるわよ』
確かに火吹き竜としては幼子だけど、心は既におばちゃんよ。おばちゃんからのお節介の一つや二つあったっていいじゃないですか。夫婦喧嘩なんて庶民も貴族も、大体同じような原因でおこるもの。ほんのちょっとの気遣いと思いやり次第で防げるならそれが一番よ。
『それより、風ちゃんと雷ちゃんの説得の方が頭痛いわ』
『あら、いいじゃない。自発的に言い出したんだからやらせてみればいいの』
『そうよ。それにこれで自信が付けばもっと強くなれるわよ』
『うぅ、自分で企画・提案したけど、こうなるなんておもわなかったのようぅ~』
ハルト国の噂が村に舞い込んできた頃、お兄ちゃん殿下に思いっきり熱弁してきた「夏季限定、冒険者体験ツアーinアト村」が正式に認可されて、冒険者組合から詳しい内容が届いたの。お兄ちゃん殿下は私の不出来な企画を通すために、アレコレと穴埋めに力を貸してくれたようです。ネックとなっていた領主様の説得も、アト村の皆様の了承もちゃんと取って、現地調査まできっかりなさったと分厚い企画書に記載されているのを見て、ちょっと冷や汗が止まんなかったわ。
既に指導に当たってくれる冒険者に声がけも始まっており、初心者向け依頼の募集も始まっているんですって。国軍による合同軍事戦闘訓練として明後日くらいには現地でのクロムンブ討伐が行われるらしいわ。
それを聞いた村の子供達も参加したいと言い出したのが問題で、その子供たちの中にうちの子も入っているというのが私の悩みなの。
風ちゃんと雷ちゃんがタングステン村に来てからもう一年。
あっという間に大きくなったけど、来た当初は人に怯える姿が痛々しかった。ラクレコム種達の対村人マニュアルを学び、ベルガコム種達による効率のいい体術の使い方と属性攻撃の使い方を学び、人との適切な距離を学びながら、今では村人が近づいても触らなければ大丈夫な位になったの。声を掛けるのがよかったみたいで、草刈りや荷運びなら私よりも上手にお手伝いしてくれます。
羊達も一緒に手伝う様はもう可愛すぎて私が悶えます。まだ村人以外とはかなり距離を取るけど、思春期の中学生位のお年頃なんですもの。仕方ないわよね~。
(↑とちび竜ちゃんは認識。実際はベルガコム種達による喧嘩───肉体言語使用の魔獣用各種挨拶+威圧など対人用Verも含む───の英才教育を受け、ラクレコム種達のマンツーマン指導による情報収集───というよりも隠密行動を主体とした───の諜報活動を叩き込まれてます。身体が出来上がっていないので属性攻撃を全開にしても半日と持ちませんがその威力自体は相当あります。)
出会った頃の幼さで突発的台風顔負けの出力が可能なスペックの持ち主達が、一年かけて成長させた技能は私の想像を超えてるでしょう。現状ですらかっこよくて可愛くて自慢の二人なのに、正直成長した姿が想像出来ません。これ以上すごくなったらどうなるのよぅ!
(↑現時点でのルムック達は体力不足の実力者、周辺のボスたちが目をかけている存在です。)
『今回は村人なんて全く居ない「見知らぬ土地」で「大勢の人」に囲まれた場所なのよ。初めてだらけの場所にいきなり無保護者な状態で連れてくなんて、私が怖くてできないわ!』
『…りゅーちゃんじゃだめなの?』
『私、一応幼生って呼ばれる部類でね、こんなにおばちゃんでもお子ちゃま扱いなの』
『…三姉妹も言ってたな』
『村の近隣ならともかく、村人と未娘達から、他所に行くときは保護者同伴が義務付けられているの』
『あぅ、らい達じゃだめ?』
『村人か三姉妹たちが必要ね。私だけじゃ却下されるわ』
『村人か、ボライドの娘ならどうだ?』
『ミーナおねーちゃんね。うん、あとは?』
『一人じゃだめなのかよ』
『ミーナおねーちゃんだけじゃ、二人の言葉がわからないわよ?』
『やー、らいいきたい~!』
『俺だって行きたいっ!!』
『知らない人がいっぱいうじゃうじゃしてるわよ、村じゃないんだから悪い人だってたぁっくさんいるのよ、序に魔獣怖いって思っている人だっているのよ、この前の宰相さんみたいな変態さん達だって。攻撃的な人だっているし、理不尽でも我慢しなきゃなんないこといっぱいっぱいあるのよ。お約束守れるの?』
『りゅーだっていかのおすし守れてねーじゃん』
『うぅ、痛いところを的確に突くわね』
『らい、いい子だもん。悪いことしないもん。がまんするもん』
ひっじょ~に珍しく、雷ちゃんがだだを捏ねてる理由は。
『いい子してるから、クロムンブ狩りたいよぉ~!』
『りゅー、俺らだって狩りできるぞ!』
先日頂いた生のかつ、もとい。生のクロムンブというカーバイト国では決して出会えないとっても美味しい魔獣の討伐がある事を未娘達から聞き、こうなったのよぅぅ。はぁ。
*******
「てなわけで、反対したら二人ともすねちゃって。二人の実力はのぞみ達からも聞いてるし、私も見る限りクロムンブ相手に油断さえしなければ大丈夫とは思うのよ」
お昼休みの差し入れがてら、子育ての先輩方に思わず相談という名の愚痴こぼしに付き合ってもらってます。
「あらまあ」
「確かに。あの二匹を倒すなら相当骨が折れるぞ。それ以前に属性魔獣を単体で相手にするなんざ、自殺行為だろうよ」
「それ以前にあの二匹がすねるなんて、初めてなんじゃね~の?」
そう、こんなにもハッキリと我儘言うのははじめてなのよ。しかも二人そろって。
「風ちゃんも雷ちゃんもこんな我儘、滅多にしてくれないから叶えてあげたいわよ。でもね」
「でも?」
「おばちゃんはか(・)わ(・)い(・)い(・)二人が心配なの、怪我なんてして欲しくないの。そりゃいつまでも村に居て~って訳にはいかないわよ」
「そうよね~」
「すくすく素直にこんなに格好良く育ってくれて、そりゃあうれしかったわよ。おまけに弱い者には優しく、困ってる相手には手を貸してくれる自慢の家族よ」
「ちび竜ちゃん、ホントべた褒めね」
「あら、のぞみ達からも評判良いのよ。将来大物になるって」
「あらまぁ、ベルガコムたちがほめるなんて相当なのねぇ」
「一年前の誘拐騒ぎで人間嫌いになったかと思ったけど、未娘達のおかげで人を見る目も養って、村の皆が温かく見守って大事にしてくれたおかげで、立派な青年になったわ」
「一年前は声かけただけでびくびくしたたのよね。ほんとよかったわよ~」
可愛い子には旅をさせよ。なんてことわざを思い出しちゃうけど、私が最も心配しているのは「ルムックという魔獣に対して、人間側が取ると考えられる行動が心配」なの。怖がって攻撃されたりとか、討伐対象として攻撃されたりとか、歪んだ愛玩対象として拘束されたりとか、研究対象として捕らわれたりして、人様にはとても話せない実験をされたりなんてしたら、私耐えらんないわ~!!!
「ちび竜ちゃん、妄想逞しすぎ」
「なら保護者同伴の社会見学という参加にしたら?」
「三姉妹たちか村人以外の保護者は、魔獣に関してのある程度の知識と騎士さんぐらいの戦闘能力保持者であること、そして社会的に責任が取れる人で風ちゃん雷ちゃんが嫌がらない人じゃなきゃ私が認めません! それに社会見学なら、村の子供達だって参加してもおかしくないじゃない」
「うわ、条件厳しい」
「私の大事な家族に実害もたらしたら、老若男女問わず体毛を燃やして、特製辛子を全身に塗り込んでやるんだから~! 心に傷なんて負わしたら、あらゆる伝手使って私が知る限りのトラウマになりそうな事象起こしてやるわ。全身全霊で呪ってやるからね~」
「おっかねぇ~事考えてんじゃねえよ。そんなに心配ならちび竜も行って来いや」
「や~ね~、私まで行ったら二人が気兼ねするじゃない。思春期の男の子なのよ」
「そういやぁ、そろそろちび竜も反抗期だよな?」
「おばちゃん、反抗期じゃなくて更年期だとおもうけど」
「人間の年齢換算で漸く半分成人ってところだろうが。更年期なんざどんだけ先だと思ってんだよ」
「火吹き竜って人間よりは長寿だものね~」
「でも中身は当の昔におばちゃんよ?」
「でも身体は子供で、中身はババぁ。思考回路はぶっ飛んでるもんなぁ」
「ちょっとー、もう少し言い方ってもんがあるでしょ!」
「そうよ。いくらホントの事でも、本人の前なんだからもう少し気遣えないの?」
「ちょー、否定する発言が一切ないんですけど?」
「ごめんなさい、否定する箇所が思いつかないわ」
「そうだぞ、よーく振り返ってみろ。今迄に何やってきたよ」
いままでって、ご飯作って、畑作って、羊たちとおしゃべりして、納税して、攫われかけて、道具作って、遊んで、お昼寝して、お家作ってもらって、お野菜と薬草育てて、うん。ごく普通に村人してるくらいよね?
「普通の村人ってのは、王都のみならぬ他国にまで知れ渡るような飯を生み出さねーよ。羊たちにも世間話もしねえーし、近隣の魔獣から慕われねーの。畑はまあいいよ、だけど新しい薬草を見つけて栽培して世に送り出すのなんてどこの研究者だよ。石臼や橇、挙句の果てに陶芸する竜なんざ何処にいるって話だよ」
「え? こんなのあったら便利かな~とか、あんなのあったらいいな~って妄想しまくって工夫して生活に潤いを求めた結果よ? 誰だってしてるじゃない」
「どんなうるおいだよ!」
「美味し~物を心底欲した結果とも言う!」
「食い意地に関しては納得!」
と、ちょっとした雑談交えて出た結果を村に駐在の国軍の皆様に相談。そしたらそのまま上に提案報告って形で何やら企画が発生したもようで。報告から、半月後にはタングステン村有志による社会見学ツアーが国王様の直筆サイン入りで決定したと通達が届きました。うや。
開催期日は一ヶ月後の一応夏が来る前の国軍の皆様による一時的な間引き作戦の後。冒険者協会推薦の上級冒険者チームによる立会いのもとで、一泊二日の臨海学校のノリで現地キャンプして帰ってくる社会見学。メインはルムックと子供達+希望者(羊も含む)。これにはすねちゃった中学生が喜んで、序に村人たちも何故か喜んでいました。引率にマミちゃんとメルカちゃん、ニオブさんとステアさんが付くの事に。そして
「なんで私とこだままで」
「ちびちゃんはルムック組の。こだまは羊達を引率してください」
〖ええよ、たまには気晴らしもええもんやしな〗
こだまの耳に付けられた言語理解の魔道具が、ちゃんとお仕事しているので人間との意思疎通も問題なし。マミちゃん、魔道具の開発ってそんなに簡単だったの?
〖これ、魔石に魔術師の術をかけた簡易品なんやと。魔力切れたらおわりなんよ〗
〖使い捨て?〗
〖せやな。やからお試しなんやて〗
おんなじ物が風ちゃんたちの耳にもあります。
〖これ、外しちゃだめ?〗
「なるだけ外さないで下さいね」
〖こんこそばいはしいやられへんわ〗
〖うう~、なんかこそばゆいよぅ〗
〖俺も~、耳は勘弁してくれよ〗
今回ばかりは二人もマミちゃんの接近を必要事項と分かっているから受け入れております。でも耳に付けられた魔道具がどうにもくすぐったいようで、頻りに首を振っています。
「じゃあ首に着けようか?」
〖そのほうがましだ〗
〖らいも、らいも!〗
〖あてにも頼むわ〗
羊娘達たちは人間の言葉はわかるのよ、ただ話せないだけ。羊娘たちがハルト国の魔術絡繰り愛好家が使っていたビデオカメラを所望。極力カメラを壊さない事と録画した映像の複製を提出するという事で許可を自力で勝ち取ってました。
今回、上級冒険者が付き添ってクロムンブ狩り体験するのはルムックとこだま。それを見学するのは村人達と羊達+私。ルムックの個体としての戦闘を見る機会として今回の見学会は決定されたそうで、別角度から別の団体さんがそれを見学するらしいわ。詳しくは聞かなかったケド。
なので今回参加する上級冒険者も、冒険者組合が推奨したチームが参加。当日に顔合わせするんですって。
うや、私は美味しいお出汁確保の手段としてなぁ~んいも考えないで提案しただけ、のつもりだったんだけどなぁ。クロムンブ討伐。
*******
村には貴重なイベントになった社会見学を、村人達は日を追う毎に高まる期待で浮足立っていた。を裏切るようなお知らせが国軍の皆様からもたらされたのは、社会見学を十二日後に控えたある日だったわ。
「ええっ、クロムンブ狩りは延期?!」
「なんで?」
その報告を持ってきたのは見知らぬおねぃさん。今回の社会見学担当の冒険者組合、アト村の担当役員さんだそう。
細かいことをぶった切って言うと、今年は例年にない程のクロムンブが国内にいるらしく、今回お邪魔させていただくアト村の内湾には二つの大きな群れがそれぞれ縄張り争いをしていて、かなり危険らしい。
軍隊による間引きは水上戦に慣れているハルト国の軍隊が主戦となり、カーバイト国は戦闘補助的な魔術攻撃を主体に挑んだが戦果は思わしくなく、群れの数は減らせたものの、強い個体は残ってしまい、個別撃破はかえって難しい状態になってしまったそう。
「なので今回の冒険者による体験会も中止を考えております」
「うや~。相当危険なの?」
「幸い死者は出ておりませんが、重傷者が三名、その他四十二名の負傷者が発生したとの報告が上がっております。そうでなくともクロムンブ討伐は一体に付きチーム戦を仕掛けるのが定石。群れなす彼等の領域ではこちらが圧倒的に不利です。船では確実に彼らに追いつけませんし、何よりその船を狙われたら、防戦を強いられます。攻撃に転ずるのは難しいでしょう」
確かに彼等の領域で直接対決は確かに難しいわね~。けどこれで諦めちゃったら、風ちゃん雷ちゃんの落ち込む顔が目に浮か…、いやいやいや。そんな顔をさせて私の良心が痛まない筈無いでしょ!
子供達だって村人だってあんなにも楽しみにしてるのよ、ここで無い知恵絞って解決策を出さなきゃ、後悔なんて、してもしきれないわ!
鰹は回遊魚。寝るときには速度を落とすけど、一生泳いでいるっていう脳筋みたいなお魚。止まっていられないなら泳ぎずらくしちゃえばどうよ、いっそのおっきな網とかで迷路みたいにあちこち障害を設けてやる。あ、橇大会の結界みたいの、海の中にできないかしら。
個人的には鰹と対決する手段として、船の上からの一本釣りっていうスタイルを想像しちゃうの。ぜ~ったいやりたがる人っている気がするのよ。リールと磯竿、命綱と仕掛けを用意出来れば私がやってもいいけど、間違いなく魚の引きに負けて海の中にドボンする姿しか思い浮かばない。
取り敢えず話すだけ話してみよう、参考意見をマミちゃんや魔術師さんに伺う必要はあるけど、その価値はあると思うの。




