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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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六話目 夏と海と子①


※2018年12月20日 一部変更。



※鰹節=作中ではクロムンブを加工して作られた品を指します。呼び名は特になく、ただちび竜が勝手にそう呼んでいます。



 春が過ぎれば日も伸びる。これは前世と変わらなくて私的にはかなり嬉しい事だけど、同時に苦手な虫たちも活動が活発化するのよね。


 タングステン村は標高が高いのであまり大きな虫は滅多に居ないの。大体が羊達で追い払ったり駆除できるものばかりなので、虫よけ剤を忘れなければ過ごしやすい環境なのよ。家の中のお掃除は勿論、寝具や家の中のお掃除はやって当たり前。愛しの家庭菜園はしょうがないけど、私の生活環境に侵入なんてさせないんだから。


『りゅーちゃーん、お腹すいた〰️』

『りゅー、飯有るか?』

『おかえりーもうすぐ出来るわよ~』


 夕餉の支度をしていると、食べ盛りの中学生兄弟が嬉しそうに駆け込んでくる。今日も変わらぬ家族のこの声にあぁ、我が家に帰ってきたーって実感するわ。


『クロムンブ、まだあるか?』

『ライもほしい!』

『大丈夫よ、またまだ沢山有るから』


 風ちゃんと雷ちゃんは、お土産にと食べさせたクロムンブの鰹節がお気に入り。特にお出汁(だし)を取った出汁殻は毎日ないとすねるほど。出汁殻よりもうまみが凝縮されているカッチカチ状態の鰹節をそのまんま二人に差し出したけど、あまりの固さにギブアップ。奮闘した後の残る鰹節はボロボロで舐めるのが精一杯だったみたい。


 鰹節削りの(かんな)を用意して毎朝使う分だけ削ります。その方が匂いも風味も段違いにいいので我が家では朝一番に作るのはお出汁。当然食卓もお出汁を使った品が並びます。煮干し出汁の煮物もいいんだけど、おひたしにお味噌汁にはやっぱり鰹節が好きだから、どうしても偏っちゃうの。醬油に黒布草と鰹節を付け込んで『出汁醤油』モドキも作成済み。おかげで卵焼きとうどんの旨さがレベルアップ。天つゆなんてもう至高の味。揚げ出し豆腐に至ってはもう何処に出したって自慢しか出来ません。マミちゃんも絶賛する品になりました。


 高野豆腐みたいに顕著に味がわかるものはもう涙が出るほどよ。冬のお楽しみがまた増えたわ~。もうアト村に足向けて寝れないっっ。モールスご一家の皆様、ほんとにありがとう!


 村の皆もこのお出汁の旨さに驚きはあったみたいだけど、私が探してきたって知った途端納得するの。「あぁ、なるほどね~」って。んで出汁を多め、干し肉とか根菜とかを入れて、暖房の火鉢に乗せて弱火でコトコト煮とくの。半日位で簡単和風ポトフが完成。朝ご飯の後に多めに仕込んでおけば、お腹空いた子供達がおやつ代わりに食べるし、夕飯頃には具沢山のスープとして頂いてもいい。簡単に一品出来るので忙しい主婦にはありがたいレシピとなりました。


 お出汁で煮たうどんもいいけど、乾燥小エビを入れた野菜のかき揚げを乗せたらもっと美味しいわよ。出し殻の煮干しは甘辛く煮て村のみんなに配ったらこれも受けてね、酒のつまみにお茶請けにおやつにとかなり好評でした。干し貝と出汁醤油で作った焼うどんはこれまた好評で、冬の貯蔵食品として海産物購入を考えているみたい。


 おいちゃんから買った量の三割ずつを両国のお城にそれぞれ置いてきたし、作り方もざっくり説明してきたから、あっちもお出汁ブームが起こってたらいいな~。




       *******



 式から一月もしないうちにクロムンブと黒布草の国内流通提携が決定したと、村の商会を通じてお城から連絡が来ました。お出汁のブームはしっかり来ていたようです。うやっ!


 王城に置いていった食材は王宮料理人さんたちによって、あの説明から上質のお出汁を始め、色々なお料理を試作、試食した彼らから「王城(うち)でも仕入れたい」と希望されて、今回の運びになったそうな。

(試作でね、油で細かくした鰹節を炒めてから料理すると、旨さがかなり違うんですって。ソースにしたり削ってかけたりと工夫しているそう。流石王宮料理人は工夫してるわ。うや、突撃してレシピ聞きたい~。)


 ただし、現在鰹節を製作しているのはアト村のモールスご一家のみ。世に広めるにも圧倒的に生産が追いつかない状況なので、現在の品質を保ったまま増産が出来ないか検討をもちかけるそうな。なので、暫くは今回ぐらいの生産量を今回と同じ流通先で通すんだって。


 生産が追い付けば、おいおい王都でお出汁ブームを引き起こすことが出来るわね。冬のお鍋におでん、煮込み料理を広めるにはうってつけよ。アト村で美味しいお魚使って、練り物に力を入れれば名物になるわね。あらあら、ちくわにさつま揚げ、つみれ汁も夢じゃないわ。最終的には蒲鉾まで出来たら、お節料理も夢じゃないわ。


 わったしーのやぼー、じゅんちょーよー♪


 お出汁によるこの恩恵の感謝を伝えたいと、アト村のおいちゃん一家宛に皆で手紙と村の特産品のスポジュメンチーズとチーズ煎餅、私の畑で取れたもぎたて新鮮お野菜を沢山入れて送って貰ったのよ。お手紙はマミちゃんに代筆してもらってね。


 何故かその配送を国軍の人たちとステアさんが全て請け負ってくれたけど、理由を聞いてすっごく納得。今回の流通の為に、両国の王城を経由したとアト村近郊までの魔術門を設置したので実地テストと、アト村の現地調査を兼ねてして来たんだって。妙に仕事早くないかしら?


 ほくほく顔でいろいろ教えてくれた国軍の人の話によると、

・国越えを含めた長距離移動は通常、三週間から二月の時間がかかる。

・その主な理由は国境に設けられた検問所での確認作業が殆ど。

・荷物の精査までなされると一週間位の拘束もあり得る。

・勿論国によってその精査内容は違うし、手続きも異なる。

・カーバイト国は薬草の産地。環境破壊しうる動植物、道具の持ち込みはNG。

・例外は、研究の為の現物見本(サンプル)とか、災害時の人命救助の為など、緊急事態に関しては所定の手続き―――事後報告の提出もあるんですって。―――のもと一時的に認められる。

・今回の魔術門には簡易的な違法物の検知機能が付けられたので、確認作業の簡略化が出来た。

・これによって移動距離と時間の短縮、及び道中の安全性が上昇。

てなことがあったんですって。まあ「時は金なり」なんていう言葉があったものね。


 んで、この移動および時間って物流を商売にしている商人さんにしてみれば正に「時は金なり」なのよ。


 他国の食材を国を超えて運ぶって事は、当然時間がかかるの。そこがネックで隊商も足の速い食材を扱いたがらないのよ。分かり易く言っちゃうと、壊れた冷蔵庫を積んだ馬車で新鮮なお魚を運んできたとしたら、そのお魚、食べる気します? 「産地直送、三日前の早朝に水揚げされたばかりの鰯をそのまま積んできた」とか。


 時間止めの出来る魔道具はわりと高価。その上、容量の大きい物は殆ど特別注文品。魔道具を取り扱っているお店でも要相談が殆どで、商人や薬師、飲食業をしている人が許可を得て所持しているのが一般的。時間止めなら保存温度の異なるモノも構わず運べるから薬師の間ではこちらの方が扱い易いそうよ。


 時間の概念を発酵とか腐敗に例えるドワーフと、同じく時間の概念を草木の成長で例える(エルフ)の、ぐでんぐでんの論争があったとマミちゃんが教えてくれたのよね。出典はかの有名な「泰平の賢者」の手記で、書いた当人から聞いたんですって。マミちゃんって内緒が結構多いし、言わない事も多いけど、嘘を言わないのよね~。


 冒険者も劣化しやすい採取品の一時保管として冒険者協会から借りたりするそうで、協会も試作品とかを借り入れて、その使い勝手とかの評価を製作者に返すというやり方をしているんだそう。


 そもそも魔道具は国が持ち主に定期点検を推奨しているくらいある意味精密なもの。定期点検を施すことでその安全性を保持しているの。最も点検を推奨されるのは魔道具を商売や運送などに使う人が殆ど。品質の保証は信頼の証っていうのかしら、魔道具でよっぽど酷い目に遭った人がいたんでしょうね。


 私がマミちゃんに貰っている風呂敷も月一でマミちゃんの点検が入るわ。マミちゃん、そういうところは細かいのよね。


 ちなみに定期点検を施していない道具を所持していると取り締まりの対象とされるの。他の国ではどうなのかしらね。



「すごいっすよ。昼過ぎに向こうを立ったのに、夕方前にはもうここに着いてるんすから。これってものすごいっす。緊急連絡だって対応可能っす」


 正確な日数までは正直わかんないけど、通常タングステン村から王都バルト、ハルト国の王都ベルジングを経由してアト村まで、お手紙を届けて貰うと最速で一月くらいは掛かるんですって。荷物の輸送だって隊商さんにお願いして運んでもらうんだけど、それでも三か月は掛かるそう。


 それを半日足らずで出来れば、そりゃあもうこの軍人さんのようなテンションになっても仕方ないかしら。


「そうそう、ちび竜さんにお届けモノです」

「うや~、どなたから」

「え~と、カーバイト国の商業協会と、ハルト国の冒険者組合と、アト村のモールスご一家です」

「うや?」


 わからないことは聞いてしまえ、ってもう直に聞きました。そしたらにこやかな顔して取り出したのは小さな銅徽章(バッチ)。刻印は円の中に桜の花びらに小さな竜。うや~?


「これね、商業協会と冒険者組合が共同名義で国に申請して発行した通行証です。これを所持するものは名前と目的地を告げるだけで特定の検問所は通過出来ます」

「うや~、なんか見覚えある刻印ねぇ」

「因みにこの銅の通行証はちび竜さん専用になってます」

「専用?」

「今回は試運転を兼ねてますので、国が発行した委任状を使わせていただきましたが、本来はちび竜さんの発行する委任状がないと他人は使えません」

「通行証って私だけに発行されたものなの?」

「いえ、あとタングステン村・主婦の会とアト村のモールス家に通常の素材で発行されております」


 この通行証って簡単に言っちゃうと交通機関の定期券みたいなもので、区間内なら一定の期間だけ使いたい放題。期間を過ぎたら一定料金を支払ってねって品物。国に対して申請すれば誰でも発行してもらえるそうよ。但し、申請した国内に限るっていうものが一般的で、二国間の特定区間のみなんて話は聞いたこともないけれど。


「クロムンブと黒布草の為だけに発行かしら」

「いえ、ただ単にちび竜さんのご飯が食べたいとハルト新国王夫妻がこぼされましたので」

「あぁ、(新国王は)去年は殆ど入り浸りしてたもんなぁ」

「リチウム会計事務官よりもみかけたもんな」

「ステアも驚いてたよな」

「てことは、今年も飯時に顔出すつもりか?」

「…王族が抜き打ちで参加する昼食会…」

「う~ん、ご飯が食べたいって言われるのは正直うれしいけど、急に人数増えたら食材足りなくなるわね~。若しくは参加希望者はおかず持ち寄りにしようかしら」

「うえ、俺料理できねえよ」

「それされたら俺ら飯食えねぇよぉ」


 うや、国軍の皆様という試食者を逃すのは、私の野望でもある「前世の家庭料理の再現」の為に必要な食材探しの手掛かりを逃すかもしんないわね~。


「う~ん。いっそのこと、村営商会『タングステン村・主婦の会』に、正式業務としてお弁当の仕出しをお願いしようかしら。月に4~5回位の間隔で訪問販売の契約なら出来そうな気するのよね~。」


 もしくは事前予約制で日時指定の日替り弁当宅の配便。これなら事前準備も可能だし、試作ですってサービスの名目で新作のおかずをお披露目も可能。日替わりなのでメニュー内容の変更も可能だし、うまくいけば子供達もお仕事として現金収入可能。


 王都宅配担当は未娘達に出来れば時間限定で依頼して、王都の生きた情報を収集出来るわよ~と、お誘いすればどうかしら。その時間帯に国軍の皆様にも巡回をお願いして、スムーズに進行できるようフォロー。村周辺はお嬢を始めとしたタルーク種の皆様に巡回を依頼か、三姉妹に依頼。場合によっては風ちゃん雷ちゃんにお手伝いを依頼。


 ただ、これ収拾付かなくなった場合の手段が思いつかないのよね~。う~ん。お弁当作りに熱が入って、家庭菜園がおろそかになりかねないわね。未娘達との気まぐれなおしゃべりも、趣味の陶芸も両立させたいし、新たな食材探しだって私の野望には必要なのよ。


「ま、とりあえず現業維持で様子見かしらね」

「よかった~」

「あ、あとアト村のモールスご一家から食材と手紙を預かっています」

「うや、お返しかしら」


 モールスおいちゃんたちご家族皆様は元気だったと、荷物も凄く喜んでいたと教えてもらったわ。おいちゃんからの代筆手紙と様々なお魚各種に小魚と干しエビやらの入った箱を持ってきた若い軍人さん達のつやっつや笑顔が、興奮状態と相まって突き刺さるわ~。


 箱の中のお魚の鮮度は正直です。おいちゃんの渾身の血抜きと内蔵処理がいい仕事しております。みてみて、このお魚のプリプリ感が、澄んだキラキラお目目が「採れたてでっせ」と証明しております。


「因みに通過してきた王都には立派なクロムンブがそれぞれ届けられてる」

「なんと!」

「ここにもあるぞ」


 ステアさんが指示した箱には見たこともない大きさのお魚が。…あれ?


「これがクロムンブ?」

「ああ」


 大きさはともかく、形状はおよそ(カツオ)。何せ前世でも実物を見たことなんて無いし、テレビや本でしか知らないのでおそらく。但しクロムンブ、胸鰭が身体と同じ位長くてめっちゃ硬い。尾鰭もかなり大振りで硬いぃ。


「ちび竜さんが見た事無いだろうって、モールス氏が持たせたんだ。夫人からどんな食べ方したか教えてくれって伝言付きでな」


 おいちゃん、素敵な贈り物をありがとうございます。おばちゃん、レシピ付きで必ずや報告させて頂きます。今夜は鰹三昧よぉ! カルパッチョよ、刺身よ、ステーキよ! 漬鮪に竜田揚げ、ハンバーグだって兜焼だって頑張るわ。 勿論たたきだってやるわよ、マミちゃんにお願いして状態維持の魔法を食材に片っ端からかけてもらうんだから。


 惜しむらくは白いご飯が無いって事よ。く~っ!


「国軍の人たちも勿論食べってくれるわよね、ねっ!」

「いいのか?」

「クロムンブを捌くから手伝って。私じゃ無理だもの。そしたら腕によりをかけて作るわよ、村中にすぐ知らせて食材と道具と人手の確保! そこの子羊ちゃん、風ちゃんたちに今夜は生クロムンブでご飯よって伝えてくれる? お魚は鮮度が命なんだから速攻で行くわよ~、ああ。誰かマミちゃんに速攻来て状態維持の魔法かけてもらうよう連絡してぇ~!」




       *******




 問答無用で国軍の皆様を巻き込んでの鰹料理祭りはじっくり二日堪能しました。けふ。


「状態維持もせいぜい一月ぐらいにしといた方がいいですよ」とのマミちゃんの忠告により、頭を除いた半身を小分けにして状態維持してあります。


 クロムンブの赤身は、ほぼお肉。血抜きが良かったのか新鮮なせいか、生臭さはほぼ皆無。そしてその味は前世で食べた鰹よりも美味しかったと証言します。身に乗った脂も甘みが強い上物なので、速攻刺身。炙り身のステーキは単純に塩コショウのみ。なのにめっちゃおいしいのよ。


 薄くそぎ切りにして葉物野菜の上に乗せ、エルルーの果汁とリオ油、漬けておいた梅の実のペーストを合わせて食べても美味しかったし、背骨近くの身は綺麗にこそげ落として剥き身ハンバーグ。


 うまさがとにかく半端ないクロムンブに、大人も子供も夢中になって食べました。未たちは流石に食べなかったけど、ルムック兄弟の食いっぷりがとにかく凄かったわ。通常の二倍の量を飢えた様に食べるの。


『なんかこれ食うと力が湧く感じなんだよな』

『うんうん、体の中からむわ~って感じがね、じわじわ~って広がってね、ポカポカするの』


 クロムンブは魔獣だから、雑食のルムックには何らかの影響があるかもしれません。一応マミちゃんに見てもらったところ、良質な魔力を直接体内に取り込んだ為に、体内で魔力が循環しているそうです。通常の私の食事では魔力を含んだ食材は殆ど使わないので、余計感じやすくなっているんでしょう。ですって。


 まあ、ルムックも魔獣だから大丈夫なのかしら。

うう、漸く話が少し進みました。


本編の夏はこれからなのに、現実の夏は盛りを過ぎてしまいました。



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