五話目 冬と人が去る、春がくる。⑤
お待たせしております。
※2018年12月20日 一部内容訂正。
「ちびちゃんがいると、ホント退屈しないわね~」
「美味しいもの絡みなら外れがないのよ。これでまた村の名物が生まれるんじゃないの?」
「ま、なんにしても損は無いでしょ」
おばちゃん達の視線の先は、市場に出ていた乾物らしき品がが並ぶ人気のないお店。その前でテンション高い着飾った小さな火吹き竜がアレコレ店主らしき老夫婦に質問している姿。
「あら~、ちびちゃんの本領発揮かしら」
「ってことは相当旨いってことね。次は何になるのかしらねぇ」
「あんな木切れが美味しいなんて、見た目じゃわかんないねぇ」
「ちょいと護衛の兄さん。悪いけどお城まで行って、台車となんか書くもの借りてきてくんない」
「あ、もう商談開始ですか?」
「ああなったら、間違いないわ。例え毒でも確かめるまでとことん口にするわよ」
「分かりました。引換証書ならこちらを使って下さい」
「あら助かるわ。用意していたのね。」
「あ~、これ多分店ごと買い占めるわね」
「そんなにですか。なら関係書類も用意しておきます」
「悪いわね~、お城を通した方が流通がいいもんだから」
「いえ、財務会計からも通達が来てますから。気にしないで下さい」
私の後方でこんな会話と手続きが取られていたなんて、私はぜ~んぜん知らなかったの。私を街中で泳がせていればきっと旨いものを探してくる。だからちょっとだけ目立つようにして、城下の商業協会に今朝方通達していたんですって。
“『簡易商業権証』を身に付けた火吹き竜の子供が買い求める品の代金は国が支払うので、発券される引換証を必ず持参のこと。なお、火吹き竜の子供は此度の王族の友人で平民でもある。扱いはくれぐれも気を付けるべし。”
これ、レン君の直筆サインで通達されて、連名でセス君とおにーちゃん殿下があったそうよ。んで、おーさまの認可が出る前に財務会計長が承認して、おーさまのところに行ったのが今朝方。そのまま城下の商業協会に通達って、どんだけ重要案件扱いなわけ?
*******
干しエビやら煮干しの試食までさせてもらった私は速攻大人買いをしました。手持ちの銀貨大8枚全部出して、おっちゃんに有り金全部出すから黒布草とクロムンブ買えるだけ売ってぇ~! と、泣きつきました。
そしたら後ろにいた村のおばちゃんたちが乱入。
「あ~、ちびちゃんちょっと待って」
「うや、おばちゃんちょっとだけお金貸して。村に帰ったら必ず返すから。そしたら干し貝と小魚も一寸だけど追加してぇ~」
「大丈夫だからおちついて。代金なら心配ないから」
「うや?」
「あ~、こほん。今朝方商業協会に緊急通達がありまして“『簡易商業権証』を身に付けた火吹き竜の子供が買い求める品の代金は国が支払うので、発券される引換証を必ず持参のこと”という内容をカーバイト国の弟殿下が発令したんですよ。カーバイト国の王太子殿下とハルト国王太子殿下も連名されまして、商業協会からも認可が出てます。なので、支払いはこちらでお願いしますよ」
「こちら?」
「あれ、ホントだったんかい」
「ええ。ちびちゃんが付けてる『簡易商業権証』はおいそれと複写出来ない代物よ。それを持っている火吹き竜はそれだけで証明されちゃうわ」
「簡易商業権証って、これ?」
胸元のちょっと派手なバッチ。詳しく言うと黒いベースに赤銅色の文様が描かれている十円玉サイズの丸バッチ。よくわからない崩し文字が入っているけど、意味は分かんないわ。
「これってとんでもないものなのね」
「ええ、なんでもちびちゃん専門の品なんですって」
「…誰の差し金?」
「弟殿下(レン君)自ら指示して作られました」
「ちびちゃん、慕われてるわね~」
「ね~」
レン君、なんつうもんをおばちゃんに寄越すのかしら。お兄ちゃん殿下、セス君とレン君の暴走はキチンと止めなきゃだめじゃないですか。まさかおーさまとおーひさままで便乗してませんよね?
カーバイト国、美味しいものがあったら簡単に乗っ取れるんじゃないかしら?
「してちび竜さん、如何程求められますか?」
「護衛のにーちゃん。我儘言っていいなら、今回おいちゃんたちが持って来た商品全部買いたいです。あと、今後どんな商品があるか知りたいですし、クロムンブと干し貝とも黒布草は定期的に購入したいです。場合によっては追加もあり得ますし」
「全部って、本気でか⁉」
「あれ、たまげたわ」
「うや。おばちゃんの地元ではどうやって食べてるのか教えてほしいわ。美味しいものは私大好きなの」
「あいよ、田舎料理でいいのかい?」
「私もタングステン村から来てる田舎者だもの。むしろありがたくて助かっちゃうわ」
「あれまぁ、タングステン村って、スポジュメンチーズのタングステン村かい?」
「うや~。そうよおばちゃん詳しいのね」
おいちゃんと村のおばちゃんと護衛のにーちゃんが商品を計算して金額を出しながら、店の商品を運び出している間。お店のおばちゃんに色々教えてもらいました。おばちゃんはクロムンブを粉にして使っているとの事。無駄なく使えるスープの素なんだって。
ただ粉っぽさが残るので具の少ないスープは向かないとか、貝と一緒だといまいち物足りなくなるとか。これはグレイちゃんに頼んで削り節用の削り器を製作しなきゃね。出来上がったらおばちゃんにも渡して、クロムンブ(かつお)節の伝道師になってもらお~っと。
おばちゃんの粉っぽさの無くす為、商品の中から干し貝とクロムンブと黒布草を出して、お店の中をちょっとだけお借りして試食のための調理開始。
濡れ布巾を固く絞って黒布草をサッと拭いて、小鍋に入る大きさに黒布草をカット。お水を張ってそのままポン。その間にクロムンブをなるだけ薄~く削ります。これ、おばちゃん上手。削り節用の削り器いらないかしら。
で、小鍋一杯くらいになったらいったんストップ。黒布草の入ったお鍋を火にかけて、くつくついう直前を見定めて黒布草を取り出して、削ったクロムンブを投入。火を消してこしたら、金色のお出汁完成。
香りも味も完璧なお出汁。文句ありません、うや。ちょいと取り分けて、手持ちのお味噌をちょいちょいっと足して、お味噌汁完成。出し殻のクロムンブを別のお鍋に入れて、火にかけて水分を飛ばしたら、ちょっとのシュナ糖、醤油を足してちゃっちゃっと混ぜ合わせ火からおろして余熱でそのまま。取り分けたお出汁に出し殻の黒布草を細く刻んで干し貝も入れて、お醤油をちょびっと足して、火にかけてかる~く煮込んで。ほいあがり。調味料は携帯用マイボトルにして持ち歩いてるわ。味の確認に絶対必要だもの。
「具なしのお味噌汁、おかかふりかけ、昆布のうま煮完成。うや、味見しない?」
「どれどれ?」
「ん、美味~!」
「あらあら、まあまあまあ」
おばちゃん、目がキラキラしてるわ~。おいちゃん達も試食だからね~と、ちょびっとだけ食べてもらったわ。明日からこのお出汁が我が家のスタンダートね~。これで作るだし巻き卵がたのしみだわ~。
「ちょっと、ちびちゃんこれ」
「やだ、こんなの初めて。何したの」
「うや~、黒布草は乾燥させてあるからいいお出汁になったのよ。お味噌とお醤油は自家製だし、クロムンブの燻製がまたいい仕事してくれるんだもの。お出汁を取った後もちょっと手を加えただけでこの味よ。こんないい食材を放置なんて、どうして出来るのよ。他にもこんなに沢山の乾物があるのよ、試したい事がまだまだ有るわ~」
「あ、いつもの病気に入ったわね」
「病気、ですか」
「ほおって置けばそのうち戻るから」
「護衛さんもほら味見どうぞ、作業もすすめちゃいましょ」
「は、はぁ。分かりました」
*******
お店のおばちゃんとおいちゃんは、モールス夫妻と云うそうです。一緒にお城まで戻って、商品の売買代金を支払ってもらいました。おいちゃんことポルさん曰く、クロムンブの定期的な購入は造っている息子さん夫婦と相談してみないことには何とも言えないとのことでした。
元々モールスさん一家の住むアト村はハルト国南端の漁村で、隣国カンデラ国との国境に近い場所。入り組んだ湾になっているので、海藻や貝といった食材が取りやすく、外海からの魔物はそうそう入ってこれない地形なのだそう。
ところが五年前の大嵐で、湾の中に魔物のクロムンブ達が入り込ンじゃったので、冒険者に駆除を定期的に依頼していたんだけど、最近所属組合が冒険者を寄越さなくなって、その数が増えてきちゃって困っているらしいの。
クロムンブは約1.2M位の魔物。胸鰭と尾鰭が鋭くて、とんでもない速さで切り付けて来るので、小型船にとって危険極まりないんだとか。
「じゃあ、クロムンブの駆除を国に頼んだらいいじゃない」
「一応領主さまを通して出しちゃあいるんよ、そいじゃなくてもクロムンブの駆除って冒険者には不人気なんよ。中級者向けなんだか、労力の割には報酬が少ないってなぁ。さらにいつも来る冒険者が別の任務を受けちまって現在不在。所属組合も依頼がこなせる人材が居らんのだと言われてなぁ」
「アト村で駆除できる若手はうちの息子を含めて三人しかおらんのよ。一応頑張ってるけど、ああ数が多くちゃかえって危険なのよ」
う~ん、切実な問題ね。聞けば村民数は15人もいないんですって。少人数だけど自然豊かな静かな環境が売りの村なので、夏にはバケーションに訪れる人が多いとか。少人数の若者が頑張っているなんて、高齢者の村って、他人事には思えない親近感があるわ~。
う~ん、冒険初心者向けの期間限定イベントとかにして、各組合とかに協力要請できないかな? 集団で戦うコツとかを、クロムンブを相手に上級者に指導を貰いながら体験してみませんか~みたいな。
もしくは軍事訓練の一環として、海上訓練を兼ねてクロムンブ狩りを提案してみるとか。
一般人を引き込んだイベントにしてもいいけど、お子様が単体で乗り込んでいったら大変だしねぇ。
「う~ん」
「んなわけで次回分は用意できるけど、その次はいつになるかわかんないのよ。火吹き竜、ごめんな」
「用意出来たら村あてに手紙だすから、そしたら買ってくれる?」
次回分はお城を通して納品してくれる売買契約を交わしたから、入手は確実。だけど次を逃したら、入手は困難。―――そんな理由で黄金のお出汁を私が諦める? 否!―――
「おいちゃん、おばちゃん。アト村ってちょーっと旅人が来たら泊まれるようなお宿ある?」
「ん? ああ、あるよ」
「20人くらいなら全然大丈夫よ」
「いきなり予約しなくても大丈夫かしら?」
「なんだい、火吹き竜は来たいのかい?」
「まあ、先に連絡くれれば大概は大丈夫だけど。海以外なあんにもない田舎よ?」
海なしの土地に居る人間にとって、海しかない田舎なんてサイコーの景色じゃありませんか。ええ、前世の私は海を見て育ったので、今の山暮らしがとんでもなく新鮮なんですよ。
お城の人たちもおいちゃん達から買った商品を興味深く見てますもんね。これはちょっと試してみる価値あります事よ。幸い宣伝材料はこれだけありますし、今夜は企画書を作成して、野望プロジェクトの一歩を進めようじゃないですか。フフフ、まっとれクロムンブ。容赦なく間引いて上級鰹節にしてやらぁ!!
「なぁんか、また妄想してるわね」
「食が絡むと、竜としての本能がうずくんじゃないかしら」
「例え毒でもひるまないからね。このちび竜ちゃんは」
おばちゃん達が安心したようにぼやいているのを聞いて、ぎょっとしているのはお城の人とモールス夫婦。うや、和の極みともいえる良質のお出汁を目の前にして、暴走しないわけないでしょ。だいじょうぶ、ひめちゃんとセス君のお祝いをきっちしこなして、のろける二人をヒューヒュー冷やかして、その様子を見て村のマスコミ関係者に報告してから始めるわ。ほら、鉄は熱いうちに打てって。
めっちゃくちゃいい買い物したし、あとはグラの卵と果物がちょっと欲しいかしら。ちょ~っとだけ家族と村の皆へのお土産買ってきていいかしら?
「全部お城で用意しておきます」
「うや、また口にしちゃったかしら?」
「しちゃいましたね」
「家族のお土産って、卵なの?」
護衛のにーちゃん達、そんな微笑ましそうにみないでぇ。今回の結婚式の山菜収穫に村総出で対応したけど、うちの子たちもホントに頑張ってくれたのよぅ。雪の中長時間労働に付き合ってくれたんだもの、ごほーびにお菓子とか果物とか、みんなで食べれるものがあっていいと思うのよ。
「羊娘達にまた突っ込まれるわね」
「ぅやぁ~、噂話、仕入れておかなきゃ~」
「どんな話が必要?」
「多種多様ですが、基本的には恋愛がらみの悲喜こもごもが特に受けます。何故か他国の話もよく知ってるんですよね~。あ、舞台[雄々しき騎士と庇護羊]の本ってどこで手に入ります?」
「ロニー=ブライアン著書でしたら、こちらで用意できますよ」
「え、ロニー=ブライアンって舞台作家の?」
「吟遊詩人の話から始まった舞台は、大概彼が脚本を書き起こしていますからね。因みに舞台版[雄々しき騎士と庇護羊]には王妃様の監修が入ってます」
「噂の当人自ら監修って、当時相当話題になったでしょうね」
「はい。現在でも人気の演目の一つです」
二十年前から続くロングランって、とんでもないヒット作よね。劇団〇季の公演みたいな感じかしら。機会があったら羊娘達と見たいかも。
お城でモールス夫婦とお別れして、お買い物はそこで終了。お城で払ったお金は怖くて聞いてませんが、護衛のにーちゃん曰く、良心的な値段だったそう。とりあえず今後の規格の為、メモ書きはしておかなきゃね。あと
「レン君とおにーちゃん殿下に逢えます?」
「すいません、明日の式が終わるまでお時間は難しいかと」
「では確認とお願い事がありますので、お時間のある時にお会いしたいと伝言お願いします」




