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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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五話目 冬と人が去る、春がくる。④

※2018年10月20日 一部変更。

 そして結婚式の前日、試食会に参加した村のおばちゃんメンバーは、王宮の第二調理室をお借りして朝から天ぷら製作&盛り付けに追われました。試食会に参加した調理師さんもお豆腐つくり、鶏肉、イカ、海老の下処理、パン粉製作、天つゆの仕込みを手伝って下さり、多めの400人前の天ぷらが仕上がりました。手際よく皆様作業して下さるのでお昼までには修了。

 そして400人前のお団子も同じく完了。私のメイン作業は殆どこちらで、盛り付けは調理師さんたちがセンス良く綺麗にしてくださいました。今回は白一色では寂しいので、お野菜から色素を頂いてほんのり黄色とほんのり紅色の三色団子を小鉢に入れて、みたらしと粉抹茶を別皿に用意。小さなフォークを添えて完成。食後に頂くのでそんなに数は入ってません。おめかしした女性がかぶりつくのはよろしくないかと思ってこの形を選びました。


出来上がったものは状態維持の魔法をかけて、保管庫へと運ばれました。披露宴用の料理は前日に大体作成して、状態維持の魔法をかけておくそうです。当日は客先での対応や状況に応じてアレンジしたりするそうで、現場的にはそれだけでも大変なんですって。はぁ~疲れた。


 大量のおからは一寸アレンジして、餡子入りのドーナッツにしてぜ~んぶ使い切りました。これは当日の裏方スタッフさん達への差し入れにしてくださいとお願いしてあります。それ以外の海老の殻もイカのワタと下足も料理人さんが料理に使うからと全部引き取っていきました。材料の残りがないのはいい事よ~、むふん。


 お昼は用意しておいたお弁当をおばちゃんたちと王宮の第二調理室できゃっきゃ言いながら仲良く頂きました。食べながら城下のお店で見かけた布地の話とか、華やかに飾り付けられた街中とか、さっきの料理のアレンジとか、ほんと色んな話題がぽんぽん出てきます。


「帰りにお店覗いていきたいのよ。娘に洒落たケープを頼まれてね~」

「そうねぇ、村にはない華やかさがある布地は欲しいわよね。ああ、折角だから村の皆で揃いの上着を新調したらいいんじゃないかしらねえ」

「三年前に自警団が揃いの上着作ったからいらないよ。それよか姫さんの絵姿が入った記念品とかあったら土産に買っていきたいんだよ」

「王都に来た記念にかい? そりゃいい、あたしも買っていこうかね」


 おばちゃん三人寄れば姦しいとはよく言ったもの。ことおしゃべりのネタは尽きることなくお昼は終了。私も折角王都まで出てきたのであちこち見てまわりたいです。


 明日の結婚式は、ハルト国の王宮からパレードしながら会場となる祭事用広場にて招待客を含めた臣下の前で行う人前式。他国からの立会人が見守る中での挙式がハルト国のやり方なんだそう。神様の前でするのは事前報告で、その後臣下の前で宣言、挙式という流れなんだって。因みにカーバイト国も人前式ではあるけれど、場所は王宮内の祭事神殿なんだとか。こちらは神様の前で宣言する自己申告方式だとか。衣装に伝統とかはどちらもないので、当人たちの好みとかがバッチリ反映されます。


 現在のカーバイト国の国王の結婚式は、前代未聞の雄々しい花嫁が花婿を姫抱っこしてバージンロードを歩いたという逸話がある。因みに王妃様って元近衛の人なもんで、衣装が祭典用の華美な制服姿。王様はロング丈の上着だったのに、色が白銀を使っていたためにドレスに見え、当時の参列者の混乱を煽ったそうよ。


 それを見た吟遊詩人が見事に歌い上げ、あちこちで広めちゃったものだから国で雄々しい花嫁様は大流行。挙句の果てには王都じゃ有名な舞台[雄々しき騎士と庇護羊]というお芝居にまでなって、国内外で広く知られるようにまでなったのよ。


 二人の子供ってことで、お兄ちゃん殿下は国内外から結構注目を集めているけど、ひめちゃんやレン君は未成年者扱いなので、あまり公の場には出ていないの。明日は流石に目立つ上にハードスケジュールが待ってるだろうから、直接会っておめでとうは言えないわよね。

お手紙は苦手だし、字が汚いから却下。後日改めて伝えられればいいかしら。


 明日の結婚式当日は、一目幸せな二人をみれればいいなあ~。んでハルト国の城下町で美味しい海鮮料理を堪能してお土産にお魚とか持って帰れたらいいなあ。って思っていたのよ。


「ちび竜ちゃん、一緒に城下町にいってみるかい?」

「うや~、市場に寄るならついていきたいわ」

「なら決定ね」


 うや? 手渡された真っ赤な幅広のリボン。お子様sizeと思しき飾り白シャツと変則サーモンピンクジャケット。しかもジャストフィットな私size。そしてちょっと派手なバッチ。


「これ、今回の主役からのお礼ですって」

「主役ってひめちゃんとセス君? 何のお礼かしら」

「これ着て城下でお買い物すると、お支払いはお城がしますよっていうお礼ですって」


 は?


「んで、美味しいものをまた作ってね。だって」

「はぁー?」

「これ、王族の皆様からのお願いみたいよ」

「あら、王宮の調理室なら勝手に使っていいみたいよ」

「遠回りなおねだりかしらね~」

「ちび竜ちゃん、モテモテね~」


 これって一日とかで出来る針仕事と違う気がするわ、それに私のsizeぴったりなのに、採寸した覚えがないのよ。ご飯の為に用意したとしたら、どんだけ食い意地はってんの? こわっ!




       *******



 気軽な気持ちでちょっとだけ散策していこうって話を聞いたお城の調理師さんが、荷物持ち兼護衛を付けましょうって三人ばかり人を寄越してくれたの。


 私は例のピンクジャケットを着て、コーディーちゃんの頭上に捕まらせてもらっている状態。なにせ人が多いので下手に下を歩くと踏みつぶされかねない。だからといって一人でフラフラしようものなら迷子&人さらいのいい的になる上に、村の子供達に怒られる。「いかのおすし」は墓穴だったかしらね。


 こんな中で騒ぎが起きようものならば、ケガ人だって出しかねないものね。それで明日の結婚式にケチ着いたら、今日までの村の皆の協力も水の泡。今日作ったご飯も無駄になるもの。そんな勿体ないことはできません。


 取り敢えず、市場に行ってみたいという私の願いを叶えてくれるらしく、田舎おばちゃんの王都散策は始まりました。


 城下町はこれで二度目だけど、今日は特に人通りが多いみたい。結婚式前日っていうのもあるけれど、お店によっては記念品とか、限定商品とか、結構色々目玉にしているみたい。


 ご飯食べてきてよかったわ。美味しそうな匂いが結構漂っているし、地理に詳しくないから迷子になりそうな雰囲気(フラグ)があちこちにある。


 田舎おばちゃん達に付いていけば、とあるお店の店頭に置かれた商品が目に入った。それは春らしい淡い色のショールだったの。うや?


「この肩掛けはちょっとないわね」

「そうねえ、なんだかゴワゴワしてるし織りがそろってないわ」

「これで銀貨大一枚なんてぼったくりじゃない?」

「シパターギ使ってるって書いてあるけど一部でしょ。ちょっと、これ。ケファじゃない,トローならこんな重くならないよ」

「ほんと。こんな重くちゃ余計汗かいて暑くて堪ったもんじゃないね。それになんだいこの固さは。鎧みたいじゃないか」

「あらま、夏のショールがケファなんて王都は変わっているねぇ」


 第一次産業農家だもんね、タングステン村って。素材に関しちゃ玄人の村だもの。納得いかないものに対して容赦ないのは、自身が一番商品に対して厳しい目で見てるから。


 植物繊維のシパターギは麻のような素材で、本来痩せた土地に自生するの。ただし、繊維を採れる程に育てるのはコツがいるわ。コツを使って育てた株から採れる花は薬効があるから、せんせーがお取り置きをお願いしているの。野生ならそこそこ見かけるけど、村でも栽培しているから余計粗が見えるのね。


 因みに村で採れるシパターギで同じようなショールを作ったら、材料費だけでせいぜい銀貨小3枚。日本円なら約三千円くらいかしら。銀貨大一枚なら大体一万円くらい。何処から仕入れたかは知らないけど、ぼったくりって言えば言えなくもないかしら。


 ぱっと見で手にしたショールを戻して、そのまま売り場を離れてゆくおばちゃん。ぺちゃくちゃ話をしながらも周囲へ関心を払うのを辞めないのは、主婦としての技能なのかしら。私、まだまだ未熟ね。


 あ、そうそう。さっきおばちゃんが云ったケファっていうのは野生種に近い綿の種類よ。一寸短毛なので、道具として使われるの。それを改良したのがトロー。長毛種の綿で、繊維もやや細目。衣料に使われるのは主にこちらなんだけど、栽培する以外で入手はほぼ無理なんだとか。


 わっかりやすく言えば、ケファはたんぽぽの綿毛、トローは綿花。そのくらいの差があるわ。まあ、どんな植物なのか私も詳しくは知らないんだけどね。


「うん、糸継ぎも織りも有り得ないほどなってない。あんなのが世にも流通してるのかと思うと正直萎えるわ」

「コーディーちゃん、逆に滾られても困るからね」

「大体、鎧のようなショールって何。ありゃ魔法使い専門の防具かなんかかい」

「防具にしちゃぁ、脆過ぎて使えないだろねぇ。それにあの肌触り、あたしゃぞわぞわしたよ」


 たかが店頭にあったショール一枚でこれだけおしゃべりできるんだから、もしも村のコメンテーターが来てたらなんていうのかしら。スタスタ歩きながらもあれいいわね、これ使えないかしらと評価を下しつつ、市場がある通りに来たみたい。匂いがね、生臭いっていうか、青臭いって感じに混じって甘そうな「食材」って主張したのが辺りに漂っているのよ。うん、一気に生活臭が強くなってきた。


「あら、あれってちびちゃんが美味しいって食べてた海藻?」

「なんですと!」

「あらまあ、結構あるねぇ」


 言われて振り向いた店先にあるのは、長くて黒い干からびた皮のような物を束ねた山がどどんとありました。他にも小分けされた黒いもさもさ、木切れのような塊、多分乾物らしき海産物が!


「干し貝柱がある~」

「あ、間違いなさそう」


 つい、目に入った海産物に気を取られて一直線に向かってしまいました。近づけばほのかに磯の匂いが。この生臭い塩の匂い、魚もありそう。


「いらっしゃ~い」 


 川エビよりも赤みが強い小エビ、アサリと思しき干し貝、小鰯を干した煮干し。海苔とおぼしき赤黒い海藻、薄っすら緑がかった茶色の海藻はおそらくワカメ。生の魚や貝、甲殻類と思しき食材もあります。物量を減らして運搬しやすくする為、わざと乾物を混ぜたんでしょう。ハルト国からカーバイトに通常運搬した場合、10日から15日はかかるから。でもこのまま店頭に並べたって、見慣れない食材を簡単に買う人は流石に少ないようで、ここの店頭で立ち止まる人は居なかった。


 しかし私にとってはお宝、正に家庭の味の再現食材。あら、干したアワビやふかひれまであるじゃない。


「おや、火吹き竜じゃねぇか。こんなちっこいのは珍しいやねぇ」

「あらまあ、ホントだよ。何か欲しいのかい?」


 店を開いていたのはこの初老の夫婦だったようで、私を見てニコニコしている。まあ、普通の火吹き竜なら『珍しい』で済まされるでしょうが、更に小さな個体となれば結構目立つわよね。おばちゃん達も私を追いかけてきてくれたみたいだし、交渉を開始しましょうか。


「乾物を一通りと味見がしたいのだけど、いいかしら?」

「あらまあ、お話出来るのかい。いいよ、どれからして見るんだい」

「そこの干した貝と、その黒い皮みたいな海藻。あと木切れみたいな燻製のお魚をお願いします」


 お店のおばちゃん、驚いたみたいでぱちくりっと瞬いて、ほわっと顔が緩んだ。おじさんは二ヤッって笑うと小刀を取出し、皮の一部を切り取り、木切れを少し削り取って、少量の干し貝と一緒にくれたわ。


「おまいさん、これが魚だってよく分かったな。」

「私が求める食材によく似ているの。これ、赤身の魚を煮てから、骨や内蔵を取り覗いてから煙で燻して、天日に干して作るの? 半年位掛かるって聞いたんだけど」

「随分詳しぃやな。その通りだよ」

「使っている魚は?」

「クロムンブと呼ばれる魔物だ。最近増えてきてどうにかならんかと、息子夫婦が試行錯誤してやっと出来たのがこれよ。んだけどなんだ、まあこの見た目だもんで、だぁれも足を止めてくれないがよ」


 じゃこれ、あんまり市場に出回っていないんだ。うわ~、ちょっとドキドキするわ。


「こんないい匂いなのに誰も気が付かないの?」

「薪と勘違いはされたかねぇ」


 うや、燻製されているせいで匂いがわかんないのかしらね。ものすごく濃厚なお魚の匂いなのに。取り敢えず黒革のような昆布さんをいただきま~す。むぐむぐむぐ。


「どうだい?」

「…とっても上品で芳醇なうまみと濃厚な風味がする。噛めば噛むほどうまみと粘りが出てきて、お水が欲しいわ。うん、これとっても欲しいわ」

「火吹き竜って黒布草がすきなのかい?」

「くろぬのそう?」

「おまいさんが食べたそれの名前だよ。おいちゃんの故郷じゃそう呼ばれているんだ」


 故郷の食べ物ですとな、これは是非とも食べ方を教えてもらって試して見ないと。


「私、生臭くない美味しいものは好きだけど、火吹き竜がそうかは知らないの。おいちゃん、この貝なんて名前?」

「そうなのかい。こりゃ、ぶち貝だよ。今時期が一番旨いんだ」


 口に入れるとアサリの濃縮されたうまみがむぎゅ~っと口いっぱいに広がる。うわあ、お味噌汁にしたい~。


「これもすっごくおいしい。これも絶対いただくわ~」

「ありがとね。お水いるかい?」

「ありがと~、おいちゃんのお店は美味しいものがたくさんね」

「見た目はしょぼいが、おいちゃんの息子夫婦が一から作った自信の品よ。味ならおいちゃんが保証するぞ~」

「おいちゃん、何処からきたの?」

「ん~、となりのハルト国の南にあるアトの村よ。知っとるか?」

「うや、ハルト国の南ってフェブレの町までしか行ったことない」

「その先にあるのがそうよ。はいどうぞ」


 おばちゃんがお水を持ってきてくれたわ~、ぷは~。


「おばちゃん、ありがとね。フェブレの貝料理はおいしかったの覚えてるわ、あちこち行ったけど鮮度とうまさじゃあそこが一番おいしかったわ」

「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。」

「あそこからここまで持ってくるの大変だったでしょ」

「まぁなぁ、だから乾燥した食材を中心にしたんだが、そうすっとこの通り色気のない品ぞろえになっちまうんよ。イキのいい活きた魚とかホントは持ってきたかったんだがな」

「流石に時間が持たなくてねぇ。もっと美味しいものだって沢山あるんだよ」

「それにおいちゃんと母ちゃんの二人じゃ、沢山は運べなくてなぁ」


 この流通さえ通るなら、美味しいものがもっと増える。うん、お兄ちゃん殿下とセス君を巻き込んで運搬専門の業者を立ち上げるのは、野望に入れちゃおうかしら。

 この昆布ものっすごい良い品なのよね。海のお魚が手に入るなら、昆布巻きだって松前漬けだって作れるじゃない。タコやイカもきっとあるわよね、ならタコ焼き作って王妃様を説得すれば確実に口説ける自信あるわ。鰹節と青海苔がそろえば、お好み焼きだって完成に近づくわ。


 うん、おいちゃんたち。私の野望達成の為、巻き込んじゃいましょう。そうしましょう。

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