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第一章 午前二時十三分
山間にある小さな町、月影町。
人口は三千人ほど。
コンビニは一軒。
信号機は三つ。
そして警察官が一人だけ常駐する駐在所が、町の入り口にあった。
その駐在所に勤務する佐伯巡査部長は、午前二時を過ぎた頃、いつものように机に座っていた。
「今日も平和だな……」
時計を見る。
午前二時十二分。
コーヒーを飲む。
午前二時十三分。
カチッ。
その瞬間だった。
駐在所の窓の外に、人が立っていた。
黒いコートを着た男。
こんな時間に?
佐伯は窓を開けた。
「どうしました?」
男は答えなかった。
ただ、佐伯の顔を見ている。
「道に迷いましたか?」
すると男は、震える声で言った。
「……ここ、まだ駐在所ですよね?」
「はい」
男は安堵したように笑った。
「よかった……」
「何かあったんですか?」
男は駐在所の奥を指差した。
「……あの女の人は、まだいるんですか?」
佐伯は振り返った。
誰もいない。
「女の人?」
「そこにいますよ」
「いませんけど……」
男の顔から血の気が引いた。
「そうですか……」
男は走って去っていった。
佐伯は首を傾げた。
その夜は、それだけだった。
そのはずだった。




