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30秒後にまた殺されるので、女友達と婚約することにした  作者: 品川太朗
第2章

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第2章 第2話:30秒間の沖縄と、二度目の朝


――ズゥゥゥゥゥゥン!!!!


耳元で、王宮のシャンデリアが派手に砕け散る音と、貴族たちの絶叫が遠ざかっていく。

次の瞬間、私の全身を包んだのは、冷たい王宮の床ではなく、まとわりつくような不快な熱気と、潮風の匂いだった。


「…………」


色彩が極端に鮮やかすぎる、いつもの沖縄の空間。

すべての時間がピタリと静止した、爆発の三十秒前。


数分前まで、きらびやかな夜会で「公爵令嬢アリシア」と「第一王子レオンハルト」として、シャンデリアの直撃を喰らって死んだはずの私たちが。

今、ここではお互いに見慣れた制服姿の、普通の女子高生として向かい合っていた。


「……お前、本当に王子か?」

「……あんたこそ、本当にアリシア……だよな? マジかよ、お前……っ」


数秒の呆然とした沈黙。

けれど、次の瞬間には感動の涙なんて一滴も湧いてこなかった。私は一歩前に踏み出すと、Bのセーラー服の肩をバンバンと容赦なく引っ叩いた。


「痛えっ!? なにするんだよあんた!」

「生存確認だよバカ! あーあ、やっぱりこいつだわ。この絶妙に性格の悪そうな顔! 紛れもなくうちの親友だわ!」


痛そうに肩を押さえるあいつを見て、私は呆れ果てたような、同時に心の底から脱力するような深い安堵に包まれていた。



「っていうか、なんであんたが第一王子なわけ!? 恋愛経験ゼロで二次元にしか興味のないオタクに、一番向かない役職のトップオブトップじゃん!」


「うるせぇぇぇ! 好きで王子になったわけじゃねえよ! そっちだって公爵令嬢とかいう、歩く暗殺フラグ製造機になってんじゃねえか! てかさっきのネタバレ、マジで死ぬほど恥ずかしかったんだからな!?」


周囲の時間が静止した死の直前という異常事態だというのに、私たちの会話は完全に放課後の部室のそれだった。


「恥ずかしいって何よ、事実でしょ! あんたがあんまりにも完璧な王子スマイル作ってるから、脳に直接バグを流し込んでやるしかなかったの!」

「あれは防衛本能だろ! こっちは毎日のように毒を盛られて、一歩外に出ればクーデターを起こされ、夜会に出れば吹き矢が飛んでくる超ハードモードなんだぞ!?」

「あ、やっぱりあんたも死にまくってたんだ」

「あったり前だろ! 予知能力でもあるのかって噂されてるけど、ただの死に覚えだよ! あんたはどんな感じなんだよ!」

「うちは初手でお茶に毒を盛られて五分で即死。二周目はベランダから転落死。三周目は庭園で殺し屋に喉を掻き切られて終わり。うちの白髪の執事、有能すぎて逆に怖いレベルよ」

「暗殺ルート多すぎだろグランベル公爵家! どんな修羅場に放り込まれてんだよ!」


あいつがどれだけ異世界でイケメン王子として格好つけていようとも、中身は相変わらずのバカなオタクのままだ。その事実に、私は言葉にできないほどの奇妙な安らぎを覚えていた。



ふわり、と止まっていた潮風が動き出す。

足元の赤土から、じわじわと致死量の白光が溢れ出し、世界のカウントダウンが始まった。爆発の予兆を感じて、私たちは同時に空を見上げる。


「……チッ、もう時間切れかよ。とりあえず、次からは二人でガッツリ連携しようぜ」

「おう。俺たちが死ぬたびにここに引き戻されるってことは、この不発弾の爆発がセーブポイントの更新なんだろ」


不思議だった。あれほど恐ろしかったはずの死への恐怖が、今は霧のように薄らいでいる。

たった一人、この地獄のルールを共有できる理解者がいるだけで、理不尽に焼き尽くされる世界の色が、ここまでガラリと変わるなんて。


「次はうちが何が何でも王宮に乗り込むから、ちゃんと警備に話通しておきなさいよ」

「ああ、よろしく。……あと、さっきから俺の制服姿を見てニヤニヤすんのやめろ」

「だってあんた、中身は王子のくせに、今はスカート履いた女子高生なんだもん。ウケる」

「肉体的なバグなんだよ! ほら、もう来るぞ!」



ズゥゥゥゥゥゥン!!!!


鼓膜を震わせる圧倒的な轟音。世界が白い炎に包まれ、私たちの身体が爆風に呑まれていく。


「また明日ね、レオン――!」

「おう、次は絶対に死なねえぞ、アリシア――!」


互いに向けて、まるで放課後に「また明日」と手を振るような軽さで言葉を交わした。

死をただの「明日へのリセットボタン」程度に扱う、完全なる異常性の獲得。でも、それが今の私たちの、最強の武器だ。


熱光の中で意識が強引に引き裂かれ、世界が暗転する。


――そして。


「ひゅっ、……はぁ、はぁっ!」


再び、見慣れた公爵家の天蓋付きベッドの上。

窓からは、何事もなかったかのように穏やかな朝の光が差し込んでいる。


私はベッドの上に座ったまま、大きく息を吸い込んだ。

昨日までとは、世界が違う。私はもう一人じゃない。この世界のどこかに、最強の相棒が同じ理不尽を戦いながら、私を待っている。


(さあて、今日はどんな暗殺が待ってるのかな……。二人でまとめて攻略してやるわよ!)



キィ、と重厚なドアが静かに開いた。


「お目覚めですね、アリシア様。本日はご機嫌麗しゅうございますか?」


完璧な所作で銀のトレイを運び、慇懃に一礼する老執事――アルフォンス。

昨日までの私は、この老人の笑顔に怯え、味方なのか敵なのかと疑心暗鬼に駆られていた。けれど、今のアリシアの瞳には、一切の迷いも恐怖もない。


私はベッドから優雅に降りると、獲物を狙う狩人のような不敵な笑みを、完璧な執事の顔へと向けた。


「アルフォンス。その紅茶、今日はお預けよ」

「……はて、お嬢様? お体に障るものでも?」


怪訝そうに眉をひそめるアルフォンスを遮るように、私は扇子をパチンと鳴らす。


「ちょっと、王宮の第一王子殿下に会いに行く準備をしなきゃいけないから。大至急、一番上等なドレスと馬車を用意してちょうだい」

「なっ……、王宮、でございますか!?」


あの完璧な執事の仮面が、微かに驚愕で剥がれ落ちる。

その小気味よい反応を目の当たりにしながら、私は高らかに笑った。


地獄の死にゲー異世界ループ攻略。

さあ、いざ開幕よ。

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