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「あなた、もうすぐ死にますよ」と彼女は微笑む  作者: VANRI


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9/15

朝帰り

 左を下にして横向きに寝ていた。軽く頭が痛むが昨日ほどではない。眩しくて目を開けると、すぐ上のカーテンから日が差し込んでいた。

 ベッドは壁に付けられており、手を伸ばせばすぐ壁に当たる。白い壁はひんやりしていて気持ちいい。




 ……だが。どこだ、ここは。


 焦りながら周りを見渡す。優しい香りがする。見慣れない家具、初めて見るぬいぐるみ。

 右には背を向けて寝ている、裸の女。

鼓動を速くさせながら、そうっと布団の中を見る。


 ……事後じゃねえか!


 下着すら付けていない。


 昨日確か……


 こういう時、ドラマや漫画のように都合よく忘れていればいいのだが、思い出せば思い出すだけ、昨日のことがきちんとカラーでしかも音声付きで蘇る。


 寒いって言ったら、この子が家に招き入れてくれて、手際よく浴槽に湯を張ってくれていた。


 風呂に浸かった時に、涙が出そうなほど温かく、言葉で表せないほど気持ち良かった。その時に触れたこの子の身体は俺と同じ位冷たかった。その身体も時が経つにつれ、湯と同じ温度になっていった。その温度の移り変わりまでちゃんと覚えている。

 この子の滑りのよい肌も、味も簡単に思い出せる。


 身体を起き上がらせようと体重を移動させると、ギシッとベッドが軋んだ。


 ……ああ、そうだ。このスプリングの軋む音も嫌というほど聞いた。それはまだ耳の奥に居座ったまま離れてくれない。


 女の子を起こさないよう、そっと布団から抜け出す。無防備な寝顔にかかる、邪魔な髪をそっと指で避けてやる。それでもまだ起きる気配はない。


 部屋のあちこちに散らばっている服を、一枚一枚拾い上げ、拾っては着て拾っては着てを繰り返す。

 あと一つ、靴下の片方を探していると、背後から声がする。


「巧……」

「ほのか……、ごめん、起こした?」


 一晩で呼び慣れてしまった名前をお互い口にした。

 ほのかは顔だけ浮かせ、笑顔で首を横に振る。

「ううん、自然に起きただけ……」


 ほのかは、髪を掻き上げながら一つ大きなあくびをし、身体を起こし始めている。胸を布団で隠し、笑顔でもう片方の腕を伸ばす。


「あたしの服も取って」


 手早くほのかの服も部屋中から掻き集め、布団の上に乗せてやる。だが、俺の片方の靴下だけどうしても見つからない。


 部屋を見回していると、不意にほのかに腕を引っ張られ唇にキスをされる。


 女はヤる前は、しおらしく大人しくしているのに、ヤッた後は大胆に、そして堂々とした姿に変貌を変える。その行為前の固い守りを見て、暴きたくなる衝動に駆られるのはどうしようもない。


 その時、どこからともなく俺のスマホが鳴り出した。その音を追って行き、ベッドの下にそれを見つける。画面の『達樹』の文字を見て、また昨日のことが思い出される。


 ――そうだ、連絡する約束をしていた。


 靴下のことは諦め、ほのかに軽く別れを告げて、着信を鳴らしたまま足早に部屋を出る。直射日光が容赦なく突き刺してくるが、冬の寒さにはそれはちょうどよく感じた。


 歩きながら、切れてしまった着信からかけ直す。

靴下を履いていない片足に違和感があり、歩きづらく感じる。

 こちらが言葉を発する前に音が飛んできた。


『お前大丈夫か!?』

「うん、大丈夫……」

『昨日、帰ったら連絡しろって言ったよな!?』


 電話越しでも達樹が怒っているのがわかる。いや、電話の方が視覚に頼ることが出来ない分、相手を想像することに集中出来るからわかるのかもしれない。

 申し訳なくて、自然と足早になる。


「ごめん……」

『……別にいいけど……、体調は? 大丈夫?』


 謝罪を聞いた途端、達樹の声がガラリと優しくなった。やはりいつも達樹は優しい。


「うん……」

『そっか。じゃあゆっくり休めよ』


 電話を切り時計の表示を見ると10時過ぎ。着信履歴の画面は達樹で埋め尽くされている。こんなにもあったのに、昨日はそれに気付くことも、それを気付いても気にすることもなかったのか……

 申し訳なさと頭の痛さをズルズルと引き連れて家に帰ることにした。



―――――



 月曜、講義前に圭介がニヤニヤしなから横に座ってきた。普通の声で、普通の笑顔で、普通に聞かれる。


「お前、ヤッた?」

「はぁっ!?」


 思わず声を上げ、身体と顔を近づけ声を潜める。


「なんなんだよ、いきなり!」

「何って、ただ聞いただけじゃねえか」


 圭介は少し声を落としたが、身体を離しながら、また元の声に戻す。


「居酒屋の後、お前と別れた後に、ほのかちゃんがお前のこと心配だって、すぐに追いかけて行ったんだよ。それでどうなったかなと思って」


「ああ、それで……。

 それよりお前はどうだったんだよ」


 居酒屋で女の腰に手を回していたことを思い出す。


「あー……まあ、ヤッたけど」

「けど? 何?」


 圭介は頭を雑に掻きながらボソッとこぼす。

「薄々思ってたけど、何か違ったんだよな〜……」


 今度は俺を向きながら頬杖をつきダルそうに、でもしっかり声を落として話し出す。


「だってよ? ホテルだぜ? 入ってしまったのに、『やっぱ違うから帰って』なんて言って帰す訳にいかねえだろ?」




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