飲み会の余韻
達樹に目をやると、圭介と違い女の子とベタベタすることなく、健全に二人の女の子と距離をとり話している。
時々話を振られるので、それには営業スマイルで返すようにした。飲み会の雰囲気が壊れないような、その場に合わせた対応ぐらい出来る。
だが、やはり心から楽しむことは出来ない。
もう飲もう。とりあえず飲んでしまおう。
大して話さないのだから、喋る為ではなく飲む為に口を開こう。
そう言えば、この二人には裕太の話は全くしてなかった。バイト先の知り合いが亡くなった、ということすら言ってない。だから「何故か」元気がないと思ったのだろう。
バイトの新人とはあれから普通に接してはいるが、所々気になる部分がある。昔の人の言い方をすれば、「いけ好かないやつ」だ。
あの謎の女だって、触ることが出来る人間ということしかわからなかった。なぜ死期を予知出来たのかという、重要な部分はわからないままだ。
でも、人間だとわかったことは、俺にとって大きな一歩だった。本当はもっと話をして……
…………。
「巧〜お前飲み過ぎなんじゃねえの〜?」
圭介が離れた所から、余裕綽々で話しかけてくる。それに続き、女の子の大して心配していない「大丈夫?」が聞こえる。
目がよく見えなくなってきた。頭もちょっと痛い。会計すると言うので、財布を達樹に託して払ってもらう。指が上手に動かせない。
でも、身体がポカポカで、頭もぼんやりして気持ちいい。けど身体は重い。
「ほら、二次会行くぞ」
圭介はまだ女の腰から手を離しておらず、もう片方の手で俺の腕をぐいと引っ張り上げる。無理矢理立たされ、仕方なく皆の後をゆっくり辿る。
居酒屋を出ると、二次会の場所へぞろぞろとみんな動き出した。俺が立ちすくんでいることに気付いた達樹が近寄ってくる。
「あ、ごめん。財布返すの忘れてた」
そう言いながら俺の上着に財布を入れてくれる。
「どうした? 行くだろ?」
不思議そうに顔を覗き込まれる。達樹の背後にネオンの灯りがチカチカ光るので目を細める。離れた所に圭介や女の子たちが見える。
別に財布を返してほしくて立ち止まっていた訳じゃない。
「やめとく……。もう具合悪い……」
本当に頭がガンガンしてきて、今にも口からリバースしそうだ。顔から血の気が引いているのが自分でもわかる。いつもはよだれを垂らすほど大好きな焼き鳥の匂いが漂ってきて、吐き気を助長させる。
「え? やっぱ飲み過ぎた?
ペース速いと思ったんだよな……」
達樹は一旦後ろを振り返り、また俺に目を戻す。
「家まで送ってこうか? あいつらには後で合流すればいいし……」
「いや、大丈夫……みんなに悪いし」
達樹の奥に見える圭介や女の子たちがこっちの様子が気になるようで、ゆっくり近付いてくるのが見えた。
「もういいから、早く行けよ」
怒っていると思われるような低い声を出した。でも本当に具合が悪いのだ。どこでもいいから、吐いても人の迷惑にならなさそうな所へ早く行きたい。
達樹の背を押して、無理矢理向こうへ行かせようとする。
「わかっ…わかったよ、その代わり家に着いたらちゃんと連絡しろよ、心配だから」
押している背が手から離れる瞬間、達樹は顔だけ軽く振り返って聞き逃しそうな細い声を出す。
「気分転換させてやりたかったけど……ごめんな」
振り返った顔が悲しく笑っていて、大きな手で頭を撫でられ胸が苦しくなった。「楽しめなかったのは達樹のせいじゃない」、そう言えば良かった。
皆が遠くから手を振るので振り返す。ネオンが眩しくて皆の表情はよく見えない。達樹がそこに合流すると、一つの塊になって動き出した。
歩こう……。乗り物に乗ると、揺れですぐにでも吐きそうだ。歩けば多少は酒も抜けるだろう。
12月に入ってぐんと寒くなった。歩いている周りの人たちも厚手のコートやマフラーで身を固めている。
圭介がクリスマスまでに彼女作りたいって言ってたのを思い出した。寒くなると人肌恋しくなるってのは本当だった。
居酒屋のある通りから細い道に入ると、街灯も少なくなり住宅街になる。週末というのにしんと静まり返っており、孤独を感じずにはいられない。
空を見上げれば無数の星が目に留まる。冬の空は澄んでいて空と宇宙の境目がなくなる。
流れ星見れたらいいな。見たことないんだよな。
どのくらい歩いたろう。またあの公園に来てしまった。
身体が重た過ぎて、やはりベンチに腰を下ろす。酒で火照った身体に冷たい風と冷え切ったベンチはちょうど良かった。
「……巧さん、巧さん……」
女の声に気付き目をぼんやり開ける。
この子は確か、さっき達樹の横にいた……
「私、さっきまで一緒に飲んでいた、ほのかです。
大丈夫ですか?」
うっすら目を開けるが、街灯が眩しくてまた目を閉じる。
目を細く開けつつ、確かめるように声を出す。
「ほのか……ちゃん……?」
なんかそういう名前だったような……
上から見下ろされ、茶色でカールがかかった長い髪が俺の顔に触れそうになり、優柔不断に動いている。街灯の光で茶色の髪がオレンジに見えて幻想的だ。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。こんな寒空の下で放置されていたら本当に死んでいたかもしれない。
「ん……寒い……」
一眠りしたせいか、身体が芯から冷えておりガタガタと震えだした。
「巧さん! 巧さ…………」
女の子の声がどんどん遠くに消えていった。




