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「あなた、もうすぐ死にますよ」と彼女は微笑む  作者: VANRI


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世界が滅亡するのなら。

 視線を感じてミケの方に目をやった。

 口をへの字に曲げて、不満げにこちらを睨みつけている。あまりお目にかかれないこの怒った表情も、何気に可愛いと思ってしまう。


「ごめん、ごめんって……。ちゃんと聞いてるからさ」


 俺が思わず愛おしそうに笑みを浮かべてしまったのを見て、ミケは呆れたような顔をして小さく溜め息をついた。


「もういいや……。本当に世界がどうなっても知らないからね……」


 橙色の街灯の光に照らされる、不機嫌そうなその横顔を見つめながら、俺は優しく目を細めてしまう。


 長い睫毛、小ぶりの鼻、大きな瞳……。


 毎晩のように見慣れているはずの顔なのに、最近はそこに、ふとあの圭介の面影が残酷に重なる瞬間がある。


 ――本当は、俺はこの子の本当の父親と母親を、あの血の地獄の真相をすべて知っているんだ。

 決してそれをミケに明かしはしないと誓った。だけど、世界で一番大切なこの子に対して、あまりにも巨大な隠し事をし続けていることに、胸の奥がチクリと痛むような強い後ろめたさだけは、どうしても消し去ることができなかった。


「わかったよ。ちゃんと考えるから。……ほら、はい」


 俺はこれ以上の追及をかわすようにそう言うと、上着のポケットから使い捨てカイロを差し出した。


 いつもの夜のお決まりの儀式。カイロを二人の手のひらで挟んで、指を絡めて手を繋ぐ。 


 ミケはまだ不機嫌さを隠しきれないまま、少し乱暴な動作で俺の手をギュッと握ってきた。いつもよりちょっと強い指の力と、じんわりと広がるカイロの温かさだけで、俺の心まで優しく温められていくのが分かった。


「……じゃあ、ちょっと調べてみるよ」


 俺はもう片方の手でスマートフォンを取り出し、画面の検索バーにいくつかの文字を打ち込み始めた。


『地球接近 隕石 2026』『人類絶滅 可能性 タイムリミット』


 ――そんな無機質で物騒なワードをいくつか入れて検索ボタンをタップする。


 人類がいっぺんに絶滅する可能性がすぐにありそうな原因なんて、やっぱり隕石の衝突くらいしか思い浮かばなかったからだ。


 液晶の淡い光が流れる画面をスクロールして調べてみるが、今現在、地球に接近していたり、衝突の危険があるような巨大な隕石のニュースはどこにも見当たらなかった。

 だけど、小さな隕石だったとしても、地球の大気圏に近付くと物凄いスピードで加速して落ちてきて、とんでもない大打撃を起こす……なんて話を、昔どこかで聞いて気がした。


 いや、そもそも今の科学技術なら、もし本当に危険な隕石が迫っているなら誰かが事前に気付きそうなものだけれど……でも、仮にだ。


 もしも、もう人類には何も抗うことができないような『手遅れの終末』が確定していたとしたら、その大発見をした国の偉い人たちは、世界中で暴動やパニックが起きるのを回避するために、敢えて誰にも真実を伝えないまま、ある日一瞬で世界を滅ぼす道を選ぶ……なんて事もあり得るのだろうか。 


 これだけ情報化社会だと言われていても、実際に自分の目や耳で確かめることができる現実なんてほんの一部で、俺たちが信じているのはネットやメディアから一方的に入ってくる膨大な情報だけだ。


 それらの情報が、もしも最初からすべて真っ赤な「嘘」だったとしても、俺たちにはそれを確かめる術なんて、どこにもないのだから。


「巧……?」


 すぐ横からのミケの静かな声にハッとして、自分が深く物思いにふけってしまっていたことに気づかされた。


 青白いスマートフォンのバックライトが、俺の手元で、ミケの不思議そうな愛おしい顔を冷たく、だけど鮮明に照らし出している。


「あ、あぁ……ごめん。やっぱり、隕石が降ってくるような不穏なニュースは、どこにもなさそうだね」


 俺がそう言って画面を消そうとした、まさにその瞬間だった。ミケはこれまでの不機嫌な仮面をかなぐり捨てて、まるで花がパッと咲いたようなまばゆい笑顔を見せながら、弾んだ声を響かせたんだ。


「じゃあさ、明日、二人でデートしよう!!」

「……え?」


 今までの世界の終わりを恐れていた必死なトーンと、あまりにも対照的な明るい反応に、俺の頭の処理が全く追いつかない。戸惑う俺の手を握る、ミケの指の力が、ぐっと壊れそうなくらいに強くなる。


「い、いいけど……。本当に突然どうしたんだよ、急にデートなんて……」

「だってさ!  もし本当に世界中のみんながもうすぐ死んじゃうんだとしたら、今のうちに楽しいこと、巧といーっぱいして死にたいじゃん!!」



 

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