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「あなた、もうすぐ死にますよ」と彼女は微笑む  作者: VANRI


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6/8

疑問と質問と

 女はもう逃げようとしなかった。堂々たる態度に変わったので、自然と手を離してしまう。


 「形勢逆転」という言葉が浮かぶ。見上げられている筈なのに、どこか見下されているような感じがする。



「あの人、やっぱ死んだの?」


 目を見つめたまま、白い息と共に言葉が近付いてくる。


「え……うん」


 冷や汗が背を伝っていくのを感じる。先程まで堰き止められていた恐怖が一気に溢れ出す。


 女はニンマリと笑う。


「心臓発作でしょ」

「何でそれを……」


 俺も死因を正式に聞いたわけじゃない、葬儀場で男たちが話していたのを聞いていたに過ぎない。

 なのになぜ、この女は……


 今度は女が俺の方へ近付いてくる。面白そうに口角を上げながら。

 つい後ずさりしてしまう。

その反応さえ弄ぶかのように、距離を詰められ、不気味な笑顔を浮かべる女の顔が目の前に来る。

 その瞳に街灯の明かりが反射している。

この間見た時と同じ、薄い唇、小さめの鼻、なのに瞳だけは自己主張するかのように爛々と輝いている。


 唾をゴクリと飲み込んだ。

 


「わかるから」



 女の柔らかい吐息と共に発せられた言葉。

あまりに距離が近過ぎて温度すら感じれそうだ。

 そして、知りたい答えではない答え。


「まさかお前が殺し……」


 女は身体を遠ざけながら、声を上げハハッと軽く笑う。途端に距離が離れた。

 俺に捕まって怯えた顔をしていた女は、もうそこにいなかった。いるのは、余裕で不敵に微笑む女だけ。



「どうかしら」




 そう言い残すと足取り軽く、舞うように駆けていった。もう追いかける気力もなく、その背が見えなくなるまで目を離さなかった。


 どっと疲れが出て来たので、重い身体を引きずりながら帰路に着いた。



――――――



 翌日、バイトに行くと平野と一緒に髭の店長に呼ばれた。店長の横には、金髪の上から緑に染めた髪色、ピアスを数カ所、指にはゴツい指輪をした若者が立っていた。


「新しく入った、川田君。今日から夜の時間に入るから色々教えてやって」


 店長はニッと白い歯を見せながら、爽やかに笑う。


 ああ、名前に「山」が付くと思ったけど、そうじゃなく「川」だったのか……


「うぃ〜っす」


 その若者も笑みを浮かべ、堂々と声を出す。


 は? 今、「うぃ〜っす」って言った?

うぃ〜っすって何? 何語? どんな意味?

そりゃね、書いてあるよ、求人に。髪型、アクセサリー不問って。

 だけど、これあんまりじゃない??


 まず髪色さ、俺あんまりそういうの厳しくない方なんだけどさ、緑って何? 流行ってんの?

 この地上にない色の髪色にしてて、お年寄りとかが見て、宇宙人? とか思わないのかな?


 平野に目をやると、相変わらず表情には出さないが、雰囲気から苛ついているのが伝わってくる。

 俺はとりあえず愛想笑いを作り挨拶をした。

店長はさっさと裏へ入っていってしまう。


 簡単な作業から教えることにした。


「賞味期限が切れる前に、こうやって引いていくんだよ」

 言いながら、しゃがんでカゴに賞味期限間近の弁当を入れていく。


「お菓子とかは滅多に期限切れにならないんだけど、総菜系は毎日賞味期限があるから……」


「あ〜い……」


気のない返事が返ってくる。

川田は同じようにしゃがみ込んで、サッとスマホを出しゴツい指輪の指で画面を触っている。


「でもですよ〜」


 川田が、スマホをズボンのポケットにしまいながら口を開く。

 手を止めて川田に目をやる。

川田は、廃棄予定の総菜をカゴに入れながら続ける。


「これ、犯罪にならないんですか?」

「……は?」


 突然の言葉に思考回路が停止する。

犯罪って何だ? 何が? 

 俺の頭にはわかりやすく、クエスチョンマークが沢山浮かんでいるだろうと思った。


 川田はこちらを向く様子もなく、作業をテキパキとこなしている。


「だって、もったいなくないです?

 こんなに食べ物捨てて。悪い気しかしないんスけど。悪いことって犯罪じゃないですか」


「まあ、もったいないけど……」


 何か手があるのだろうか。これを廃棄にしないでいい方法が?


「何か有効活用する方法があるってこと?」

思わず聞いてしまう。


「知らないですよ、そんなの」

あっさり冷たく切り捨てられる。


「あ……そう……」


 この子はこんな見た目だけど、純粋なんだろうか。

確か18歳って言ってたよな。フリーターであちこちバイトをしているらしいけど、どこに行ってもこんな感じで疑問を持つのだろうか。


「じゃあ、捨てる前に食ってもいいっスよね!」


「あ、うん、それはいいって店長が……

 昔は持って帰ったりしてたらしいけど、今は厳しくて持ち出しは駄目って言ってたよ」


 川田は「ラッキー」と言い、鼻唄を歌いながら、自分が食べたい物を選り分けている。




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