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「あなた、もうすぐ死にますよ」と彼女は微笑む  作者: VANRI


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望んだ未来

 すると、達樹に手を引かれていた二人の小さな子供たちが、俺の腕を掴んだままの達樹を見上げて、無邪気な声で楽しそうに話しかけてきた。


 ……確か、上が四歳で、下が二歳だった。



「ねぇパパ、この人だあれ?」


 大きい方の四歳の子が、不思議そうに俺の顔を丸い瞳で見つめて尋ねてきた。


 俺は達樹の左手の薬指で鈍く光る指輪を横目に、冷たい地面に両膝を折った。


 小さな子供たちと同じ目線に合わせ、お面のような完璧な笑顔を作って、優しく話しかける。


「……パパのお友だちの、立花です」

「たちばな……?」


 子供が小さな首を傾げた、まさにその時。

 俺のすぐ頭の上から、すべてを包み込むような、あの達樹の愛おしそうな声が降ってきた。


「――たくみだよ」

「ああ!  たくみね!」


 名前を聞いた瞬間、その子の顔が、まるで花が咲いたようにパッと明るく笑った。


「パパがね、お家でいつもたくみ、たくみって、いーっぱいお話ししてるんだよ!  だからたくみなら、おれ知ってる!  ……かわいいね、たくみ!」


 その子は興奮した様子で小さな頬を林檎のように赤らめながら、真冬の冷たい空気の中に白い息を一生懸命に吐き出して、必死に俺に話しかけてきた。

 その隣では、まだ上手く喋れない二歳の子も、お兄ちゃんの言葉に合わせて、同じようにうんうんと小さく頷いている。


「……そっか。俺もね、パパに君たちの写真を見せてもらって、すっごくかわいいなって、いつも言ってたんだよ。

 ……今日、こうやって会えて、本当にうれしいな」 


 健気で、あまりにも無垢なその愛らしさに触れているうちに、俺の強張っていた作り笑顔は、いつしか自分でも気づかないくらい、心からの本当の温かい笑顔へとほころんでしまっていた。


 ――ピィィーーッ!!!


 その時、乾いたグラウンドの向こうから、練習の再開を告げる鋭いホイッスルの音が響き渡り、達樹がハッとしてそちらを振り返った。


「あ、行こうか。また練習が始まるみたいだ」


 達樹の声に、二人の子供たちは声を揃えて「はーい!」と元気よく返事をすると、俺に手を振り返しながら、青いユニフォームを揺らして、小鳥のように足早にグラウンドへと駆けていった。


「じゃあな、巧。また後で」


 達樹はそう言って、優しく俺の頭を大きく頼もしい手でぽんぽんと撫でると、我が子たちの後を追うようにして、ゆっくりと冬の風の中へ歩いていった。


 それを見て高橋がベンチから立ち上がり、呟く。


「凄いよな、あいつ。28だっけ……?

一回社会に出てまた大学受験するなんてな」


 成瀬も立ち上がりそれに続ける。


「な、しかも奥さんが働いて家計養ってるんだろ? 

勉強に集中出来るようにって……」


「ああ、ほんと凄いよな……」


 二人が同調するように言っているのを聞きながら、自分の選んだ未来が正しかったんだ、と心の中で自分に何度も言い聞かせた。



 そして、俺は上着のポケットの奥深くで、あの家政婦の梅さんから渡された小さな紙切れを、誰にも見つからないように指先で静かに握りしめていた――。



 

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