プレゼント交換と星に願いを
二人でベンチを目指して歩き出す。派手に転んだせいで俺のお尻は痛むし、すっかり濡れてしまっていて、夜風が吹き抜けるたびになお一層冷たく感じられた。
空からの雪はすでに小降りになっていたけれど、深夜の容赦ない冷気のせいで、地面の雪が解ける気配は微塵もない。辺り一面の真っ白な景色は、何も変わらないままだった。
俺たちがどんなに足跡を付けても、上から静かに降ってくる雪のせいで、数分もすればまた何もない真っ白なキャンバスへと戻っていく。
いつものベンチにも、もちろん容赦なく雪が積もっていた。こんもりと真っ白に覆われたそれは、見慣れたベンチとは完全に別物に見えた。
さすがに雪の上にそのまま座るわけにはいかないので、冷たいのは覚悟の上で、二人で座る位置の雪だけを手で払いのけた。
だけど、雪を除けた後の木の手すりも座面も、水分を吸って酷く濡れている。結局、そこに座ることは断念せざるを得なくて、俺たちは橙色の街灯の真下、ベンチのない場所へと移動した。
街灯の光に照らされながら、他愛のない言葉を少しだけ交わした後、ミケが服のポケットをガサゴソと探り、小さな箱を俺の前に差し出してきた。
「はい、これ。クリスマスプレゼント。
……もう、とっくに零時を過ぎて、クリスマスじゃないかもしれないけど」
「ありがとう」
そう言って受け取る瞬間に、またお互いの指と指が触れ合った。けれど、やっぱりミケの指先は、さっきと変わらず氷のように冷たかった。
「俺も……これ、あるんだ」
と言いながら、俺も自分の上着のポケットへと手を滑り込ませる。ポケットの暗闇の中で、さりげなく小箱が壊れていないか指先で確認した。さっき激しく転んだせいで、箱の角が少しだけヘコんでいるような気がしたけれど、もうこれくらいは仕方のないことだ。中身が無事なら、ないよりはマシだろう。
俺は守り抜いた小箱を、ミケの小さな手のひらの上にそっと乗せた。
ミケは「ありがとう」と、嬉しそうにふんわりと微笑みながらそれを受け取った。
そして、愛おしそうに箱を見つめながら「開けていい?」と俺の顔を覗き込んでくる。
「うん。……俺も、これ開けていい?」
頷きながらそう聞き返した。心の中がわくわくし過ぎて、抑えようとしても手が小さく震えてしまう。
その不格好な動揺を彼女に悟られないよう、俺は手早く箱にかかったリボンに指先をかけた。すると、ミケも全く同じようなタイミングでリボンを引き抜き、丁寧に包装紙を外していった。
俺が外した箱の中から目の前に現れたのは、綺麗な『月』のモチーフがあしらわれたネックレスだった。橙色の光を反射して静かに輝くその美しさに、思わず目を奪われ、食い入るように見つめてしまう。
俺のその様子に気付いたミケが、慈しむような優しい声で語りかけてきた。
「ほら、私たちっていつも、こうやって夜しか会わないでしょ?
だからなのかな、私の中で巧のイメージって、ずっと『月』だったんだよね。それにね、月ってこの広い世界に、たった一つしか存在しないでしょ?
だから、私にとって特別な巧に、ピッタリだと思ったの」
――しまった!
ミケの言葉を聞いた瞬間、俺は激しい後悔に襲われた。
俺も『月』のモチーフにすれば良かった。俺の考えなんて、ただ「夜にばかり会うから星のイメージ」という、ただそれだけの安直な理由でしかなかったからだ。
ミケのように「世界にたった一つだけだから」なんて、そんな素敵な意味は思いつきもしなかった。
自分のネーミングセンスのなさに続き、ロマンチックの欠片もない思考回路が、酷く恥ずかしく思えてしまう。
だが、そんな俺の焦りなど露ほども知らず、ミケは箱から取り出したネックレスを愛おしそうに自分の手のひらに乗せていた。橙色の光を反射してきらきらと輝く星を見つめながら、「綺麗……」と愛おしそうに呟いて眺めている。
「俺もさ……夜にばかり会うから、ミケは『星』のイメージだったんだよね……」
何かもっと気の利いた、上手いことの一言でも言えれば良かったのだけど。今の俺には、そんな不器用な理由をそのまま口にするのが精一杯だった。
すると、ミケがフッと、夜風に白い息を混ぜて優しく笑った。
「実はね、私、今日巧に会った瞬間、プレゼント失敗しちゃったかもって思ったんだ。こんなに寒いのに、巧、いつも手袋してこないでしょ? だから、お洒落なネックレスなんかより、手袋にしてあげれば良かったって……」
「ううん、そんなことない。これ、本当に嬉しいよ。ありがとう……」
自分の不器用さを見透かされたような気がして、少し照れくささに顔を火頭らせながら、俺は静かにそう答えた。
そして、自分と同じ考えでいてくれたことに嬉しさが込み上げてくる。
――このプレゼントを見た瞬間に、胸の奥へじわじわと広がった心の温かさは、どんな高級な防寒着だって絶対に敵わない。
本当なら、そんな風に格好よく言ってみたかった。
だけど、あまりにもキザで、ドラマの台詞みたいに格好つけ過ぎている気がして、どうしても口には出せなかった。
「私も、これ、一生大切にするね!! 本当にありがとう、巧」
そう言って俺を見上げたミケの、寒さで少し赤くなった頬に乗せられた笑顔が、たまらなく愛おしくて、胸が締め付けられるほどに可愛かった。
――こんな愛おしい関係が、この先も、一生、ずっと続けばいいのに。
俺は、彼女の手のひらで静かに煌めくネックレスの一番星に向かって、祈るように強く、強く願わずにはいられなかった。




