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「あなた、もうすぐ死にますよ」と彼女は微笑む  作者: VANRI


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真実とクリスマス

「お前は知らなかったかもしれないけど、あいつらは地元にいた頃から、素行が悪くて有名だったんだ。

 特に、女に関してはな。

 俺、同じ高校の同級生だったから嫌でも情報入ってきてたんよ」


 高木は吐き出す煙の向こうで、冷徹に目を細めた。


「どっちが先に落とすか、どっちが多くヤッたか、そんなくだらない勝負を平気でやってるような奴らだった。だから、まともな奴らはみんな引いて見てた。

 ただ、周りにはそれを面白がる最悪な連中も少なからずいてさ、二人を煽ったり、ターゲットの女をセッティングしたりしてた。

 ……まあ、今思えば、周りで囃し立ててたそいつらだって同罪だし、共犯だよな」


「そんな……。まさか、達樹が、そんなことを……?」


 圭介だけなら、まだどこか割り切れたかもしれない。だが、俺が信頼し、親しくしていた達樹までが、そんな非道なゲームに興じていたというのか。

 裏切られた衝撃と嫌悪感で、胃の奥から酸っぱいものが込み上げてくる。本当に吐きそうだった。


 すると、高木は眉をひそめ、怪訝そうな顔で俺を見た。


「タツキ? 誰だそら。圭介と……


 『裕太』だ。


 あいつらクズコンビって裏で呼ばれてて、自分たちでは裕太と圭介でユーケイコンビって言ってた」


「ユーケイ……?」


 頭を激しく殴られたような衝撃に、視界がぐにゃりと歪んだ。ミケが言っていたU.Kは、誰かのイニシャルではなかったのだ。



 その日は、バイトの帰り道にいつもの公園へ寄ることができなかった。


 高木から「U.K」の最悪な真実を聞かされたばかりの俺には、ミケの顔をまともに見る自信なんてこれっぽっちもなかった。

 あいつらの正体を知ってしまった今、彼女の前で一体どんな顔をすればいいのか、どんな言葉をかければいいのか、見当すらつかなかった。


 だが、事前にクリスマスには会う約束をしていた。

 いつもの公園、いつもの時間。

 これまでは、会えるかどうかも分からないまま一方的に通っていただけだった。


 それは、俺たちにとって、初めて交わした「待ち合わせ」の約束だった。


 上着のポケットの中には、小さな箱が入っている。

『クリスマスに会えるなら渡そう』、と買ったクリスマスプレゼントだ。

 夜の闇の中でしか会わないせいだろうか、俺にとってのミケは、いつも静かに輝く星のイメージだった。

 だから、迷わずに星のモチーフがついたネックレスを選んだ。


 本当なら、いつでも俺が彼女の傍にいて、彼女を傷つけるすべての理不尽から守ってやりたい。

 だけどそれが叶わないなら、せめて俺の代わりに、この星を彼女の胸元にいさせたかった。



 クリスマス当日。

 胸を焦がすような複雑な想いと、鉛のように重い足取りを引きずりながら、俺は大学の正門を通り抜けた。


 学内は冬休みのこともあり、人がまばらだった。やる気なさそうに歩く学生がぽつぽつといるだけ。


 だからそれはひどく目についた。


 門を入った瞬間、視界に飛び込んできたのは、絶対に目にしたくない、あってはならない光景だった。


 遠目からでもはっきりと分かる。


 キャンパスの開けた場所で、ミケと圭介が一対一で向かい合って話しているのだ。

 ミケは、いつもの黒いワンピースに黒い靴を身にまとっている。彼女の姿をまばゆい昼間の光の中で見るのは初めてだった。


 一瞬、別の誰かの見間違いであってくれと、この最悪な光景そのものが俺の都合のいい幻覚であってくれと、心の底から神に祈った。


 だが、目を離せずに立ち尽くす俺の目の前で、突然、圭介が手を叩いてゲラゲラと爆笑した。ミケの背中は微動だにせず、その表情までは読み取れない。


 信じがたい現実に脳が唖然としながらも、気づけば俺の足は動き出していた。

 早足になり、焦燥感に急かされるまま、意図せず全力で駆け出していた。ほんの数秒の距離だったはずなのに、その時間が永遠のように長く、息苦しく感じられた。


「ミケ……っ!!  何やってんだよ、お前!!」


 息を激しく荒らげながら、キャンパス中に響き渡るような大声を上げて、二人の間に割って入る。


 ミケはいつも通り、嵐の渦中にいるとは思えないほどケロッとした涼しい顔をしていた。代わりに、俺の登場に気づいた圭介が、いかにも楽しそうに口を開く。


「え!?  巧、お前の知り合いだったの!?  こんな可愛い子隠し持ってたなら、早く紹介しろよな〜!

  ミケちゃんって名前も可愛いじゃん、なんか猫っぽいし!」


 圭介の気安くて反吐が出るような声なんて、一切耳に入らなかった。目線すら向けられない。

 俺の目は、ただミケの姿だけを狂ったように凝視していた。


 圭介に何か嫌なことをされなかったか、触られなかったか、酷い言葉を投げつけられなかったか――

 心配と恐怖で、胸が張り裂けそうだった。


 これほど俺が取り乱し、激しく動揺していることなんて、ミケには一目で分かっているはずだ。

 それなのに、彼女はいつもの何もかもを見透かしたような澄ました表情で、ただ俺をじっと見つめ返してくる。


「なぁ巧、聞いてよ。このミケちゃん、マジで面白くてさ。いきなり俺の前にトコトコ歩いて来たかと思ったら、なんて言ったと思う?」


 圭介は、信じられないアトラクションでも楽しむかのように、ヘラヘラと笑いながら俺の肩を叩いた。


『あなた、もうすぐ死にますよ』


「……とか、真顔で言ってくるんだぜ〜!?  クソ可愛くない??  俺、新しい逆ナンかと思っちゃったわ〜。こんな可愛い女の子に刺されて死ぬなら、俺は大歓迎だけどねぇ!」


 ――ドクン。 背筋を猛烈な悪寒が駆け抜けた。


 ここで初めて、俺の視線がゆっくりと圭介へと向く。あいつは相変わらず、目の前の悲劇の予兆に何一つ気づかないままヘラヘラと笑い、値踏みするような、獲物を狙うクズそのものの目でミケを見つめている。


 だが、そんな男の顔なんてどうでもよかった。俺は弾かれたように、再びミケへと視線を突き戻す。


「お前……なんて、言ったんだ……?」


 ミケは、唇の端をごく微かに持ち上げてふんわりと微笑んだが、何も答えない。沈黙する彼女の代わりに、またしても圭介が割り込んでくる。


「だからさ、あなた、もうす――」

「ミケ……っ!!!」


 圭介の声を力任せに怒鳴り散らして遮り、俺はミケの細い両肩をガシッと掴んだ。爆発しそうな感情の行き場がなくて、言葉が震える。

 彼女の肩を掴む俺の両手まで、ガタガタと情けなく震えていた。


「お前、圭介に何て言ったんだよ……っ!!」


 自分の人生を狂わせた張本人を前にして、何も知らないので仕方ないのだが、あまりにも無防備に、いつも通りの澄ました態度で佇んでいるミケに対して、焦燥と、それと裏腹の怒りに似た激しい感情が込み上げてくる。


「おい巧!  そんな酷い言い方したら、ミケちゃんが可哀想だろ!」


 横から圭介が割り込んでくるが、そんなのは、もはやどうでもよかった。




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