予言が的中する時
その日も、コンビニのバイトにいつも通りに行った。
更衣室に入ると、後ろから足早についてきた平野に慌てた様子で話しかけられる。
平野は一つ下の女の子、何があってもあまり動じることがないので、最初は年上だと思っていたくらいだ。
「三上さんが亡くなったって聞きました!?」
「え……? 三上って、裕太?」
あまりの衝撃に当たり前のことを聞き返してしまう。
「そうですよ! 他にいないじゃないですか!」
平野は涙目で眉間に皺を寄せる。
「え? 昨日大学で会ったけど……?」
「昨日の夕方に亡くなったって!!」
「なんで……あんな元気そうだったのに……」
平野が手で涙を拭きながら答える。
「なんか、わからない……けど、突然って……」
「そんな……」
何をどうしたらいいかわからない。
「じゃあ病院に……」
「しっかりしてくださいよ!!
もう亡くなってるんですよ!!
病院に行っても、もういないん……です……」
平野が俺の腕を荒く掴みながら、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
あまりのことに実感が持てず、涙が出て来ない。
だが、平野の涙を見て、もう何も出来ないのだと、ゆっくり闇に堕ちていく感覚になる。全部堕ちてしまった時に実感が湧くのだろうか。
「明日、一緒にお葬式に行ってもらえませんか?」
「あ、うん……大丈夫」
店長に話し、明日休みをもらうことにした。
裕太がいなくなり、俺たち二人が休むとなると厳しいかと思ったが、逆に感謝された。
50代半ばの無精髭の店長は、涙目で、自分の代わりに持って行ってくれ、と香典を預けてきた。
周りの反応で徐々に実感が湧いてくる。
――――――
裕太の実家は県外だったので、早めに出ることになった。平野とは近くのコンビニで待ち合わせの約束をして俺の車で向かうことにした。
着慣れない、黒のスーツを着る。
これを着るのは、大学の入学式以来だ。鏡の前に立ち、自分を改めて見てまた実感が湧く。
湧くというより、溜まっていく感じがする。
鏡の横に置いていた紙袋の中身を見る。
これはあの日、最後に飲みに行った日に裕太に借りた服だ。
あの女に出逢わなければ、裕太の家に泊まることはなかっただろう。
あの女……?
いたよな? 夢じゃないよな?
酔っ払って見た幻覚じゃない……よな?
それを確認する友はもういない。
自分の右手を広げ、それを見ながら、あの時の女の冷たい手の感覚を思い出す。
触れたから幽霊……ではないよな。
あの時、触れられたのが自分だったら、死んだのは俺だったんだろうか。
あの時、正直、自分ではなくて少しホッとしたところはあった。ただ、それを認めてしまうと罪悪感で潰れてしまいそうになる。
渡せるかわからなかったが、念のため服を入れた紙袋は車に積んだ。
待ち合わせ場所に行くと、平野が同じように黒い服を着て立っていた。見たことがない服装だし、雰囲気も違うので、最初は本人だとわからなかった。
声をかけると会釈しながら助手席に乗ってきた。
あの日のあの女と同じような黒い服だが、なぜか全然違う。雰囲気の重さが違うのか、なぜそう思うのかわからない。
平野は明るめの茶色の髪を後ろに一つに結んでいた。助手席に座ると、小さな黒いバッグを膝の上に乗せた。
県外と言っても隣の県なので、一時間もかからない。今まで平野と二人きりになったことはないし、バイト先で会うぐらいでそれ以外では会ったことはない。
そう考えると妙に緊張してきた。
そのせいか、何を話したらいいのかわからなくなり、天気やバイトの話など、すぐに終わる話をポツリポツリ話した。
道のりが残り半分位になった時、平野が少しずつ鼻をすすり始めた。最初は軽かったそれが、どんどん大きくなり涙声で話しだした。
「私、まだ実感湧かなくて……。バイトに行けばまたいつものように会える気がして……」
「うん……いきなりだったもんな……」
前を見たままそう答えた。国道から細い道に入ったせいか、暗かった風景が数段暗くなった気がした。
次第に嗚咽混じりの泣き方に変わっていった。
ちょっと思った。
なんか、泣き過ぎじゃない?
バイト先のみの知り合いにしては。
たとえ仲が良かったとしても。
涙もろかったとしても。感情豊かだとしても。
息苦しくなるような重い雰囲気の中、無理矢理に声を出した。
「もしかして、付き合ってた……?」
それまで声を出して泣いていた平野が、ピタッと泣くのを止めた気がした。横目でしか見れないので、察するしかない。




