新たな予知
「あははは……!!」
女の笑い声が静かな公園内に響き渡る。
痛む右手を抱えながら、まだ笑いが止まらないといった様子で女は話し出す。
「面白かったね! ほんと助かったよ、
お兄ちゃん!!」
「お前……」
さっきまでの緊張が一気に解け、急に「お兄ちゃん」と呼ばれ気恥ずかしさが込み上げる。俺は少し照れながら、苦笑いを浮かべた。
女は、上機嫌でベンチに座り直す。ようやく笑いが止まりそうになった時、「あっ!」と小さく声を上げた。
「え? 何?」
同じように座りながら、問いかけながら女に目をやった俺は、その場で硬直した。
たった今まで咲き誇っていた満面の笑顔が、嘘のように消え失せている。女は心底ガッカリした様子で、肩を落として大きな溜め息をついた。
「あーあ。あなたが色々言うもんだから、つい、言いそびれちゃったじゃない」
「え? 何を?」
彼女は目を細め俺を見据える。
「『あなた、もうすぐ死にますよ』って」
一瞬、時が止まる。呼吸の仕方はおろか、自分の心臓の動かし方さえ忘れてしまったかのような気がした。
だがすぐ我に返り、弾けたように言葉を発した。
「だ……誰にだよ!?」
「さっきのお巡りさん。先にライトを当てて話しかけて来た方の男の人」
まだ笑顔を崩さずにいることに不気味さを覚える。
警察官の顔なんて見やしなかった。どう記憶を探っても、どちらがどちらかも思い出すことすら出来ない。
「それって……」
俺がそこまで口にした、まさにその瞬間だった。
キーーーーーッ!!!!
遠くから夜の闇を切り裂くように、激しいタイヤの摩擦音が響く。直後、ドォォォン!!! と激しい金属の破壊音と、何かが激突した凄まじい衝撃音が、地響きとともに遅れて伝わってくる。
「ほらね」
少女の冷徹な呟きを最後まで聞き届ける前に、俺の身体は走り出していた。なりふり構わず公園の出口へと向かう。住宅街の通りの、遥か先。曲がり角の向こう側で、何かが起きたことだけは分かった。だが、距離がある上に遮蔽物が多く、詳しい状況までは確認できない。
まさか、本当に……
嫌な汗が全身から噴き出す。俺はすがるような思いで、公園内のベンチを振り返った。
だが、街灯に照らされたベンチの上には、もう誰もいなかった。彼女はまるで最初からそこに存在していなかったかのように、冷え切った闇の中に消え去っていた。
――――――
数日後、いつも通りバイトに行き仕事をしていると、髭の店長に裏に来るよう言われた。
店長が珍しく無表情だったのが気になる。こういう時は、だいたい悪い報告を受ける。
裏に行くと、川田が座っていた。肩を落とし、俺が入ってくると、チラと見上げてまた何もないテーブルに目を戻した。
店長が大きな溜め息をつきながら低い声で言った。
「川田君には今日で辞めてもらう」
「え……?」
突然の発表に頭が追いつかず、川田に視線を向ける。だが、店長の言葉を聞いても無反応で、さっきと同じところを見ているままだった。
「どうして……」
そう言いながら思い出した。バイト終わりに煙草を吸っているのを見つけたことを。あの時注意したというに、またやってしまい、それを店長に見つかったのだろうか。
「お金を盗んだからだよ」
店長の言葉にまた驚きを隠せず、店長と川田の間で目を泳がせてしまう。
「お金……レジのですか……」
レジ付近には防犯のためのカメラが数カ所にある。それを当然知っているだろうに敢えて?
それともそれを考える余裕もない程、金に困っていたのか……
店長が重い口を開いた。
「君のだよ……」
「は!?」
店長は、俺の驚いた顔を予想していたのだろう、大して反応することなく、顔を確かめるように見てまた続ける。
「だから、君に来てもらったんだ。君が財布の中にいくら入れていて、いくら取られたか教えてほしくて」
「俺だけですか?? 平野は? 店長は?」
「平野君や俺はちゃんとロッカーに鍵を掛けてんだけど、その……、立花君は掛けてなかっただろ?」
店長は申し訳なさそうにそう言った。それを言うと、俺にも非があると言っているようなものになる。だからなるだけ言いたくなかったのだろうと理解した。
「そうですか……」
「じゃあ、ちょっと話してて。ちょっとお客さん来たみたいだから表に出てくる」
そう言い残して店長は部屋を後にした。




