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第三章 その4

怪鳥は大空を悠然と駆け抜けて、導かれるようにベルタ街の外れへ降り立った。オフィーリアがキラを降ろすまもなく、少女がキラに飛びついた。

「キラ!」

「お嬢様……!」

その会話だけで、少女がクリスティーナだとわかった。クリスティーナはキラにしがみつき、キラは力の入らない手で必死に抱きしめかえしている。暫く抱擁を交わし合っていたが、アイシアのわざとらしい咳払いとヴァイオレットの到着によりそれは終わった。

「どうかしら、クリスティーナさん。こちらは約束を果たしたわ」

ヴァイオレットは堂々と胸を張り、一歩前に出る。追い越しざまに、オフィーリアは背中に手を添えられた。褒められたのだと気がつく。クリスティーナはキラを支えながら、その瞳を鋭く尖らせた。

「ええ。助けてくれたこと、感謝いたします。約束通り、貴方がたに協力いたしましょう」

クリスティーナの鈴のような声が、ヴァイオレットと重なり合った。二人の約束の声が雪景色を満たす。

「さあ、ヴァイオレット様。今日はもう冷えますわ、戻りましょう」

ミヨに促され、ヴァイオレットたちはトワイライト邸へと帰るため踵を返した。





「まったく、貴方という人は」

清潔な寝台に寝かされたキラのそばで、クリスティーナは小言を漏らす。キラは苦虫を噛み潰したような表情で答えた。

「申し訳ありません、お嬢様。……あの時、俺が隠し通路の存在に気がついていれば」

「……隠し通路なんてものがあったの?」

「はい。地下の大牢屋の奥に、水路がありました。それが東階段に繋がっていて……」

「ああ、もういいわ、キラ。……こうして無事に会えたのよ、もう過ぎたこと」

クリスティーナは立ち上がり、窓を開ける。冷たい空気が流れ込んでくるとともに、雪が降り積もっていた。

「ねえキラ、貴方はあの地下で何を考えていたの」

「……お嬢様のこと、でしょうか」

「あら、奇遇ね。あたくしも貴方が捕まっている間、ずっとあなたのことを考えていたわ」

クリスティーナは窓を閉め、寝台に腰掛ける。雲隠れのための侍女用の部屋は狭いが使い心地がよく、クリスティーナは一晩で気に入った。

「キラ。あたくし、指輪を捨てたの」

「……えっ?」

キラはクリスティーナの左手を見る。その薬指に嵌まっていた銀の指輪は影も形もない。キラは思わず体を起こして。

「お嬢様、あれはスタラミーの家宝では」

「いいの。お父様……ジェッタ・スタラミーと敵対して、スタラミーの娘に戻れると思わない」

「お嬢様……」

クリスティーナは窓の外を眺める。雪は音もなく降り積もって、世界を白に染めていく。

「氷の張った湖に捨てたの。誰も来ないような外れの。春が来て氷が解ければ、水に沈むでしょう。だから、キラ」

クリスティーナに名前を囁かれ、キラは居住まいを正す。

「戦いの終わる頃、このあいた薬指を埋める指輪をちょうだいね」

「………かしこまり、ました」

キラの言葉にクリスティーナは満足げに笑うと、立ち上がる。部屋を出る直前、クリスティーナは振り返った。

「春には我らがクラウン殿下とヴァイオレット様の王政が出来上がるでしょう。……その時は、この国で暮らせるように、ね」

「はい、お嬢様」


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